2023年12月24日日曜日

12月24日 貞松浜田バレエ団「くるみ割り人形と秘密の花園」

昨年初演の新制作。
同タイトルの映画があるが、全くの別物らしい。

幼い頃に両親を亡くし、殻に閉じこもっているマリ。1幕は舞台装置や衣装が全てグレーの濃淡で造形され、マリの目に映る色彩のない世界を表す。色彩を持って現れるのは、ドロッセルマイヤーの役どころとなる叔母のドロシーの髪と、幻の両親だけ。
パーティーが終わり、1人残されたマリを黒い鳥が襲い、守護霊との攻防になるのだが、守護霊は全身ベージュのタイツにフリルで覆われたマスクをつけ、全身に血管のような赤い模様が施されていて、不穏な感じ。人間の大きさになったくるみ割り人形がクララを助ける展開はとてもわかりやすい。雪の精は雷鳥に。群舞の人数は少なめだったが、照明が凝っていてガラス細工のような繊細な空間に見応えがあった。(貞松浜田の名物とも言える雪の踊りが見られないのは残念だが)

従来のくるみよりも物語の筋がしっかりしているのがいいと思っていたのだが、2幕になるとスペインやら中国やらの踊りなど、通常のくるみみたいなデヴェルィスマンが始まるのが唐突というか、脈絡なく感じる。 グランパドゥが両親と言うのも不思議な感じだった。

2023年12月22日金曜日

12月22日 能遊び 能劇「天鼓」

「能劇」と題した上演形態は直面、紋付袴のシテ、ワキ、アイに地謡がついた形で、袴能から囃子方を外したもの。弘道館の廊下を端がかりに見立てる演出で、すぐ横で素顔の能楽師が謡い、舞うのをみられるという贅沢さ。宗一郎は緊張のためか詞章が飛んでプロンプつけてもらってたのまで分かってしまった。鞨鼓台の造り物を舞台奥に向けて置き(奥に帝がいる体で)、シテが見物に背中を見せて演じるのも珍しい。

ワキは有松遼一、アイは茂山逸平、地謡は田茂井廣道、松野浩行、河村浩太郎。


2023年12月16日土曜日

12月16日 noism×鼓童「鬼」

「お菊の結婚」

お菊役の井関佐和子の身体表現力が素晴らしい。人形振りがマリオネットのようで手足が無機物のようにカクカクと、だが踊りとしての優美さを保つ。途中、本物の人形と入れ替わるのだが、違和感がないというか、井関の人形らしさがより印象付けられる。(文楽人形のようと評している人があったが、文楽人形はもっと滑らか。むしろ、悲しみの表現でシオルような手振りをするなど、能楽のエッセンスを感じた)
着物風の白いドレスに角隠しは、同時上演の「鬼」と通じる。遊女たちの黒と小紋柄を組み合わせた袖なしのドレスも、着物の雰囲気がありながら踊りやすそうで、飜る裾にニュアンスがある。
お菊や遊女たちが三つ編みなのは、ストラヴィンスキーの「結婚」の歌詞にあるのだが、白無垢に三つ編みは幼さを感じさせて「結婚」がより惨たらしく見える。
ピエールは仲間たちに殺され、お菊自身も自害するラスト。衝撃的な展開だが、後味が悪い。

「鬼」

鼓童の生演奏との共演は、客席にも振動が伝わって没入勘に飲み込まれ、40分が短く感じた。ダンサーと演奏者の間の緊張感や一体感があるからだろう。舞台上手と下手から現れた清音尼(井関)と役行者(山田勇気)がすれ違うところで、カーンと乾いた大鼓のような音が響き、客席に衝撃が走る。その後は緊張感、躍動感に包まれて一気に駆け抜けたよう。
井関は清音尼実は鬼という役どころで、黒衣の尼僧の姿から、全身レオタードで身体のラインを見せつける鬼に変わってからの怪しさ、恐ろしさ。手指や腕、足を不自然な形に捻じ曲げ、表情も野生的な迫力があり、獣らしいというか妖怪らしいというか、言葉が通じない相手という感じ。修行者らが鬼を取り囲み、5人がかりでリフトするところは、それぞれが均等に力を入れなければバランスを崩してしまいそう。
遊女たちの衣装は「お菊」の遊女のものに透ける赤い袖を付けた? 袖が翻る様が美しく、赤色が鬼の恐ろしさを象徴するようで、視覚的にも印象的だった。
役行者以外は皆、着物を脱ぎ、鬼の正体を表すというラスト。

2023年12月10日日曜日

12月10日 文楽鑑賞教室 Bプロ

「団子売」

南都、聖、織栄に友之助、清公、清方。
なんだかすごく楽しい団子売だった。リズムよく、ウキウキした感じで、ノれる。三味線のリズム感がいいのか、太夫の手慣れた感じいいのか。こういうくだけた曲は色々経験値が必要なのかも。
人形は紋秀のお臼と文哉の杵造。

解説は簑太郎。カシラの説明に始まり、女方の三人違いを実演するのはいつも通りだが、いつもよりウケが悪かったような。泣く時は首を震わせるという割にあまり震えて見えないのはこの人のくせなのか。

「傾城恋飛脚」

口は薫・燕二郎。薫は今日が初日だったが、存外落ち着いていてまずまず。  

前は睦・清馗。

後は藤・燕三。
このコンビは珍しいのでは。語りは今ひとつだったが、三味線の一撥が沁みた。 

玉佳の孫右衛門は抑えた動きに情が滲む。梅川との会話から連れ合いが忠兵衛と気づくくだりではことさら動くことなくそっと目元を拭うなど。箕紫郎の忠兵衛、勘彌の梅川も派手ではないけど、じんとくる。 

12月10日 文楽公演

「源平布引滝」

竹生島遊覧の段は小住・団吾。
団吾の三味線はロックのギタリストのように顔を歪めて弾くのはいつも通りだが、今日はどこか窮屈に感じた。音を外に開くのではなく、内に込めるようというか。小住の広がりのある語りと合わなかったせいかも。

九郎助住家の段の中は亘・清丈。 

次は希・勝平。
汗いっぱいかいて、渾身の語りだろうに、客席との間にフィルターが挟まっているかのように、声がくぐもって聞こえる。勝平の三味線のおおらかさが心地よく、つい意識が…。 

前は織・藤蔵。
揚々と自信に満ちた語りだが、久郎助の嘆きがボリュームオーバーというか、それだけで聞いたらそれなりなとのだろうけど、それまでとの落差が大きすぎて唐突な感じがする。

芳穂・錦糸。
声量もあって迫力ある語り。 錦糸の三味線が引き締めていて、聞いて充実感があった。

人形は玉彦の太郎吉がやんちゃな感じで可愛い。清五郎の小まん、玉助の瀬尾。玉志の実盛は体幹が斜めになってる感じで、映らないと思う。

12月10日 文楽鑑賞教室 Aプロ

「団子売」

咲寿、薫、織栄に寛太郎、錦吾、藤之亮。
若い顔ぶれの中で光る寛太郎の安定感。織栄や藤之亮もソロで演奏するパートをもらっていたが、まだぎこちなさが残る。咲寿は楽しそうに声を張り上げ、薫は上の方を伺うように視線を彷徨わせていたのが気になった。フシを思い出そうとしているのか知らんが、床本なり、正面なりを見据えるのがいいのでは。

人形は蓑一郎のお臼に勘市の杵造というベテランコンビ。

解説は亘と清公。裏門の段の一節を使って、若い町娘や姫、若侍、老人などの語り分けを披露。初めての客が多いのか、ウケが良く、いちいち感心していた。亘の語り分けが上手くなったのもあるのか。ただ、姫と傾城を一緒にしたり、梅川を傾城というのは違うと思う。

「傾城恋飛脚 新口村の段」

碩・清允は御簾内。女房の声がはもう少し低いほうが、田舎の人らしいと思う。

靖・清志郎。 忠三女房がちょうどいい感じ。

呂勢・宗助。
流石の安定感。この段は孫右衛門の物語なのだとしみじみ。 

人形は玉勢の忠兵衛がフレッシュな感じ。簑二郎の梅川。
一輔の孫右衛門は珍しい老人の立役。丁寧な動きはいいのだけれど、梅川との会話からつれあいが忠兵衛だと気づくところのはっとする動きはちょっと余計かも。


2023年12月9日土曜日

12月9日 十二月大歌舞伎 第三部

「猩々」

松緑と勘九郎の猩々。2人とも踊り巧者だが、並ぶと勘九郎のほうが滑らかに感じた。 松緑はきっちりと楷書な感じ。酒売りの種之助は陽気でいい。

「天守物語」

七之助の富姫は姫路の平成中村座以来の再演。玉三郎仕込みの台詞回し、所作で泉鏡花の耽美な世界観を描出。玉三郎の亀姫はご馳走だが、ちゃんと妹分に見えるのがすごい。2人が姉妹のように戯れあう姿はうっとりする美しさ、怪しさ。
吉弥の薄、舌長姥の勘九郎が場を引き締める。
残念なのは虎之介の図書之助で、セリフをもっと歌ったらよかったのか。孤高の姫が一目惚れする魅力が今ひとつ感じられない。 

12月9日 新作歌舞伎「流白波燦星」

ルパン3世の歌舞伎化って…と思いの外面白かった。舞台を石川五右衛門の安土桃山期に移し、真柴久吉を絡めて物語を展開。
愛之助のルパンは登場時の「ルパ〜ンさ〜んせ〜い」とアニメさながらの台詞回しで客を掴み、ふーじこちゃーんやら、とっつぁんやらお馴染みのセリフを散りばめて、歌舞伎版のルパンを上手いこと造形。驚きは次元の笑三郎で、拵えといい、低い声といい男くさい次元そのもの。普段の女方とのギャップ、芸域の広さがすごい。峰不二子の笑也は美しいのは想像通りだが、シャープな化粧が役にはまり、花魁道中も魅せる。五右衛門の松也は初め楼門の拵えだったので誰か分からなかったが、着流しになってからはアニメそのもの。ポスター時より髪が短くなり、少しウエーブがかったビジュアルもよき。「つまらんものを切ってしまった」の決め台詞も。 

三人吉三さながらの喧嘩の場面や籠釣瓶の見初め、だんまりの幕切れや本水の立ち回りなど、歌舞伎らしい見せ場がふんだんに盛り込まれ、最後は白浪五人男ばりの名乗りで幕というてんこ盛り。本水に必然性がないとか、ツッコミどころはあるものの、総じて面白かった。音楽も、尺八や横笛、琴など邦楽器で奏でるお馴染みのテーマ曲で盛り上がる。

2023年12月4日月曜日

12月4日 吉例顔見世興行 夜の部

「仮名手本忠臣蔵 祇園一力茶屋の場」

仁左衛門の由良之助は酔ったふりのときはあんなに愛嬌たっぷりなのに、素にもどったとたんキリッと凛々しくなるギャップが鮮やか。タコを食べさせられた時に一瞬悔しさを滲ませることで、最後に九太夫見せる怒りが唐突にならない。
力弥の莟玉は緊張感を絶やさず、本来の力弥はこうあるべしと感じた。敵に見つかるかもしれない緊迫感ある場面なわけで。
孝太郎のお軽はセリフも言い方に何故か玉三郎を感じるところが時々あった。色気のあるいいお軽。平右衛門の芝翫とのやりとりは、にざ玉とは違って、仲のいい兄妹の風情。
赤垣源蔵の進之介、富森助右衛門の隼人、矢間重太郎の染五郎の並びに、年齢差の不思議を感じる。進之介は相変わらず。染五郎は声の調子が悪そう。
松之助の伴内が出てくるとなんかほっこり。仲居に竹之助やら上片の役者たちが多数出ていて、胸熱。

口上は前列に仁左衛門、梅玉に挟まれる形で団十郎、新之助がならび、後ろ2列になって市川家一門20人ほどが並ぶ。仁左衛門は先代12代目の思い出を述べつつ、当代を「勉強熱心」と。色々新しいことをしたり、歌舞伎十八番の復活に取り組んだりはしているが。梅玉も、先代と同い年、娘と当代も同い年で幼い頃から知っていると。昨年11月の歌舞伎座での襲名披露以来、巡業や博多座など全てに付き合っているのだそうな。
最後に睨みで幕なのだが、舞台の前に緋毛氈を敷いたり、刀や三宝を持ってきたりやと何だか大仰。

「助六由縁江戸桜」

壱太郎の揚巻の前に、並び傾城で廣松、玉太郎とともに吉太郎、芝のぶが舞台を彩っているのが嬉しい。吉太郎はツンとした感じに品格があり、芝のぶと並んでも見劣りしないのが立派。吉太郎の道中で肩を貸す男衆が佑次郎だったのも胸熱。
壱太郎の揚巻は美しく、大役を立派に果たしていたが、セリフまわしは白玉の児太郎の方がしっくりきた。揚巻付きの振袖新造に千次郎が珍しい。
団十郎之助六は、肩の力が抜けた様子がいいのか悪いのか。顔立ちやセリフが12代目に時々重なったのはいいのか?隈取のラインを細くしていて、顔も痩せた感じだったので、優男みたい。 

2023年11月19日日曜日

11月19日 文楽公演第3部

 「冥土の飛脚」

淡路町は織・燕三。

忠兵衛ってしょうもない男だなあとしみじみ。

封印切は千歳・富助。

切り語りの風格だが、世話物はもっと柔らかくてもいいのかもと思ったり。歌舞伎と色々設定が違うので、梅川の「嬉しかったはたった半刻」のセリフはなく、封印を切った忠兵衛に金をちゃんと届けるよう懇願したりしていて、忠兵衛の嘘に納得したとは思い難いのだが。

道行相合かごは三輪の梅川、芳穂の忠兵衛、碩、聖に団七、団吾、清公、清允、藤之亮。

黒羽二重でなく、普段着のような着物の梅川忠兵衛。

人形は勘十郎の忠兵衛に勘彌の梅川。禿の簑悠が三味線を弾く動きを繊細に表現。

2023年11月18日土曜日

11月18日 レイディマクベス

天海祐希とアダム・クーバーの共演に期待大だったが、やっぱり日本語のセリフには難あり。無口な設定だけど、途中、英語で独白するところは感情とセリフが一致してよく伝わった。(娘が日本語で大意を繰り返していたようだが、逐語訳というわけではなかったので、意図がよく分からなかった )
アダムは身体表現がよく、度重なる戦闘で疲弊していく様が痛々しい。天海のレイディと見つめ合って手を重ねあうダンスのような場面が美しい。
天海のレイディは凛とした、強い女性像が際立つ。こういう女性(というか天海)が惚れるのは、アダムでないとダメだったのかなと想像した。

レイディや娘の吉川愛、鈴木保奈美のマクダフ、レノックスの宮下今日子と女性の口から色々なことを語らせるのは、時代性の表現か。女性の生きづらさみたいなものを感じた。バンクォーは要潤。

レイディが貧困層の出身だったり、バンクォー王を殺すのではないなど、原作と違う設定が多く、シェイクスピアのマクベスの外伝と思ってみると少し戸惑う。時代設定も違うし。


11月18日 文楽公演 第1部

「双蝶々曲輪日記」

堀江相撲場の段は長五郎の睦、長吉の希に清馗。 
濡髪と放駒のやり取りが単調なのか冗長に感じられ、退屈。

難波裏喧嘩の段は長五郎の津国、郷左衛門の南都、有右衛門の文字栄、吾妻の咲寿、与五郎の亘、長吉の碩に寛太郎。
津国がシンというのは珍しいのでは。味のある声は嫌いではないが、フシの抑揚が小さく、棒読みのように感じてしまった。 

八幡里引窓の段は小住・勝平の中から呂・清介の切へ。
小住は婆の言葉に味があり、濡髪の骨太さもよい。おはやにもうちょっと色気があれば申し分なし。
そして切の呂。若太夫になる人の語りだからいいところがあるはずと頑張って聞いたのだが、意識が飛んでしまったのは言葉が入ってこないから。やはり、ある程度の音量というのは必要なのだと思う。三味線にかき消されるようでは心許ない。

人形は一輔のおはやにしっとりした色気があり、玉男の十次兵衛は情のある男ぶり。玉志の濡髪は少し印象が薄いかも。  

「面売り」

呂勢、靖、亘、薫、織栄に藤蔵、友之助、錦吾、燕二郎、清方。
織栄が一節一人で語るところをもらっていて、のびのびとした素直な語り。

人形は玉佳の案山子に勘彌の面売り。
面売りが次々に面を変えて踊る。最後は案山子も天狗の面をつけて。


2023年11月17日金曜日

11月17日 OSK日本歌劇団 REVUE in Kyoto 午後の部

一幕だけの70分のショー。京都ということで加えられた和物?のシーンは正直よく分からなかったが、洋になってからは申し分なし。全体的にテンポが早く、群舞がよく揃っていたし、チアリーダーの衣装でのロケットなんか涙が出た。このところスピード感が足りないように思っていたが、これぞOSKという勢いがあった。タンゴやフラメンコなど、様々なジャンルの踊りを見せる趣向で、ヒップホップもちゃんとダウンのリズムになっていてちゃんと乗れる。白燕尾のステッキ、黒燕尾のデュエットダンスなど、レビューならではの踊りも充実。惜しむらくは音楽が打ち込みで安っぽいことか。 迷っていたけれど、観に行って良かった。

和物のシーンは、光源氏やら義経やら弁慶やら幸村やらが現れるのが脈絡ない感じで、足元がブーツというのもなんちゃって感が…。坂本龍馬?らしき楊琳が大立ち回りの末、なぜか刀を鞘に収めてから討たれるのとか、展開も?が多い。 

ブギウギ効果で客席の入りがとてもよく、演者も乗っているのがよくわかる。カーテンコールの挨拶で楊琳が「OSKだけでなく歌劇を応援して」と言っていたのは、パワハラ問題で揺れる宝塚を意識してのことなのだろうな。

2023年11月12日日曜日

11月12日 吉例顔見世大歌舞伎 昼の部

「マハーバーラタ戦記」 

金色の煌びやかな神々の場面。那羅延天の菊五郎が声も佇まいも神々しい。紅一点のラクシュミー、芝のぶも眩い美しさで、美声を響かせる。

全編を通して、芝のぶの活躍に胸熱。鶴妖朶王女は初演時に七之助が演じた役なので、大抜擢とは思っていたが、ここまで出ずっぱりだったかしら。大詰めの甲冑姿はちょっと似合わないと思ったが(おっとりした雰囲気が勇ましい形に合わないと思われる)、時に凛々しく、時に妖艶に様々な表情を見せ、無念の死を遂げる最期まで大活躍。
菊之助の迦楼奈は主人公なのに悪の側に肩入れするなど共感しにくい人物だが、大詰めの花道で決意を示すところに痺れた。
納倉王子の鷹之資、沙羽出葉王子の吉太郎は同世代感があって仲の良い兄弟の雰囲気。吉太郎葉戦闘場面での身のこなしがキッパリして目を惹かれた。
我斗風鬼写とガネーシャの二役を演じた丑之助は大人にも引けを取らないくらい堂々として頼もしい。セリフをいう時に顎を引き気味の姿勢はクセなのか気になった。


2023年11月11日土曜日

11月11日 吉例顔見世大歌舞伎 夜の部

「松浦の太鼓」と「鎌倉三代記」のみを幕見で。

仁左衛門の松浦侯のかわいさに尽きる。「バカバカバカ」は3回くらい言っていたか。側で見ているにはチャーミングだが、本当にこんな上司だったら嫌だ。五人衆に猿弥、隼人、鷹之資ら。終始真面目な猿弥というのも珍しいような。隼人は今回も落馬するお殿様を抱き止める役。

鎌倉三代記は梅枝の時姫の古風で可憐なこと。首を傾げる角度や指先まで神経が行き届いていて、これぞお姫様。三浦之助の時蔵は本当はこちらをやりたいのではと思う。けど、三浦之助の仕打ちって酷くないか?散々試した挙句、父を殺せとか、人の所業とも思えん。

佐々木高綱を芝翫。藤三郎に化けていた時は今ひとつだったが、高綱の正体を表してからは堂々とした武人ぶりが板についてる。 

2023年11月6日月曜日

11月6日 文楽公演第2部

 「奥州安達原」

朱雀堤の段は藤・清志郎。なんかあまり盛り上がらない場面だと思うなど。清志郎はじっと前を見つめ、気迫のこもった演奏。

敷妙使者の段は希・清丈。

矢の根の段は芳穂・錦糸。芳穂の語りに的確さというか、確らしさが増しているような。錦糸の導きか。

袖萩祭文は呂勢・清治。とても聞き応えがあったが、袖萩の夫が阿部貞任だと分かって傔仗が奥へ引っ込むところで切と交代。お君の「あんまりお前が寒かろうと思うて」の件が聞けなかったのは残念。なぜ? 清治は後半、じっと下を向いて弾いていて、タブレットを見てる?

貞任物語は錣・宗介。いきなりのクライマックスみたいな語りにもかかわらず、エモーショナルな語りで泣かせる。このコンビは安定感があるなあ。

2023年11月5日日曜日

11月5日 太陽劇団「金夢島」

日本へのオマージュに溢れた約3時間。ごった煮のような舞台で、いろいろ凄いのだか消化し切れない感じもする。幻想や誤解も色々あるし、 日本人役の俳優がベージュのマスクのようなのをしたのも違和感があり、遠目にはアジア人の平坦な顔のように見えるのだが、表情がなくスケキヨのマスクみたいで不気味。 能の謡や仕舞はよく稽古したのだなあという感じだが、摺り足ではなく、真似っこに留まるし、カタコトの日本語のセリフは拙い。歌舞伎の女方のように女装した俳優は、なぜか帯を胸の辺りで締めていて小梅太夫のよう。

日本だけでなく、アラブやブラジル、香港など、さまざまな国の役が入り乱れ、描かれる異文化にへえと思うところもあったり、唐突に挿入される神風特攻隊の件など盛りだくさんな内容なのだが、舞台転換が多く、打つ切れにされてしまう。車の付いた所作台のようなものを縦横無尽に動かして、時に能舞台のように、時に細長い道に、時に銭湯にと舞台転換するのだが、転換が多いので退屈に感じた。

政治風刺が多く、カジノ誘致派に環境のチェルノブイリと批判したり、香港の椅子、民主化運動が弾圧される様子などが織り込まれる。イスラエル人の妻とパレスチナ人の夫の劇団が常に言い争いをしていて、動きが遅いのを「中東和平より遅い」と批判するのは、作品が完成した2021年当時ならともかく、イスラエルによるパレスチナへの攻撃が深刻化している今の状況では笑えない。 

参加が危ぶまれていた人形劇団が、上演時間が長いと敬遠されるのは文楽が置かれている状況そのものだが、それに対する解はなかった。 あと、舞台の後ろの方に大きな炊飯器が置かれていたのだが、芝居に絡むことはなく何だったのだろう。

1970年代のアングラの雰囲気を色濃く残していて、すごいものを見たという感じはあるが、好きか嫌いかで言ったらあまり好きではないのかも。

2023年11月4日土曜日

11月4日 木ノ下歌舞伎「勧進帳」

2015年も観たはずだが、より深く観られて印象が変わったように思う。弁慶と富樫が主役と思っていたが、番卒・四天王の4人が物語の進行を担う部分が大きいと気づいた。勧進帳の読み上げや山伏問答の緊迫感の高い駆け引きはもちろん弁慶と富樫の見せ場なのだが、義経と弁慶の間のボーダーを歌うラップや延年の舞?のダンスなど、彼らが活躍する場面が案外多い印象。

富樫役の坂口涼太郎に存在感がある。個性的なルックスが効いているだけでなく、摺り足での移動や弁慶に詰め寄るところなどで踊りのような動きを見せ身体表現の力も高い。楽しそうな弁慶一行を羨む富樫が、最後に舞台には取り残され、孤独や様々な感情が入り混じった表情が印象的だった。

ボーダーは関所だけでなく、主従の間にも。打擲を詫びる弁慶に顔を上げるよう促す義経の手を弁慶が掴むことはない。味方であるはずの義経と弁慶の間のボーダーとは?と考えた。

2023年11月3日金曜日

11月3日 エイチエムピー・シアターカンパニー「ハムレット 例外と禁忌」

 前半は原作通りのハムレットだが、中盤から大幅に手が加えられている。一番の違いはガートルードで、森に住む種族だったが王妃に迎えられ、戦争で森が破壊されていくのに耐えられず先王を殺害。同じ血を引くハムレットと心を通わせるなど、母としての姿が色濃く、水谷有希が気品ある姿で母の苦悩や王という男に従わざるを得ない女の弱さややるせなさを好演。

高安美帆のハムレットは抑えめの演技。「生きるべきか」や「尼寺へ行け」も淡々としていた。ラストは死なず、けれど王子としての立場を捨て「私はハムレットだった」とハムレットマシーンのセリフに繋がる。

オフィーリアの阿部洋花はセリフがよく、前半の可憐さと後半の狂気の変わりよう、どちらも良かった。旅の一座の座長など複数役を務めた河上由佳が狂言まわしのような役どころで、印象的だった。斬円だったのはクローディアスの延命聡子で、宝塚の老け男役にありがちの役の大きさに体が合っていないような感じで、特に前半が辛かった。

正方形の舞台の後ろに壁があり、2階部分があるシンプルなセットで、時に映像で城壁など背景を写す。衣装は黒のシャツパンツorドレスに織り柄のスカーフを組み合わせ、役ごとにテーマカラーがある感じでキャラクターがわかりやすかった。

2023年10月27日金曜日

10月27日 kyoto de petit 能

お囃子ユニットの解説が新鮮。笛は唯一のメロディ楽器なので打楽器に負けないように力強く、大鼓はただただ強く、太鼓方は両手を使今華やかに、小鼓は多彩な音色と特徴が簡潔に分かりやすい。前半座っているだけという太鼓に、小鼓や大鼓からツッコミが入るのも面白い。

「紅葉狩」
林宗一郎のシテ。
4人のワキを引き連れて華やか。ワキ2人づつが舞った後、シテが舞うのだが、優雅な調子から途中から曲調が急変して激しい舞に。長袴をバッサバッサと捌いて立ち回る。
鬼の正体を表して立ち回りになるのだが、がっぷり四つ?に組み合うのに驚く。最後はトドメを刺されてがっぱと伏せるのだが、直後にすっくと立ち上がってワキと共に退場するのがシュールだ。

2023年10月22日日曜日

10月22日 東京バレエ団「かぐや姫」

金森穣振付の新作バレエがついに全幕上演。2年前の1幕だけの時より、衣装や舞台装置が洗練された感じ。

キャラクターごとにテーマカラーがあり、かぐや姫は白(パール)とマリンブルー、農村の人々は茶系、帝は金と黒、大臣は燻銀、影姫は赤と黒といった感じで、色彩が鮮やか。白を基調とした舞台装置にも映える。
かぐや姫や影姫らはレース調の幾何学模様の入ったボディスーツで、振袖のローブを纏うのが動きにつれてはためくのが美しい。男性キャラは裾窄みのパンツで、ポケットの辺りにドレープがあり、回転すると羽のように広がる。

かぐや姫の秋山瑛は小柄で華奢なのでいたいけな子供のよう。難易度の高いリフトに軽々と振り回される様はこの世ならざる者の感じも。沖香菜子演じる影姫はかぐや姫と対になるキャラクターだが、パンフレットにあった「妖艶な」という形容詞はどうなのだろう。誰かを誘惑するわけではなく、高貴で孤高な女性というふうに見えた。
男性は道児の柄本弾がシンプルな衣装に体格の良さが映える一方、帝役の大塚卓は柄本より頭半分くらい背が低い上に細身なので、威厳が足りない気がした。冠くらい付けた方が説得力があるのでは。

ドビュッシーの音楽に乗せたパドドゥはうっとりするし、大人数の群舞には迫力があり、踊りの見応えは十分。 かぐや姫が宮廷に召される経緯が不明だったり(どこかで見初められた?)、帝の元にいながら大臣たちに求婚されたりと、ストーリー上しっくりこないところもあったが、全体として儚く美しい作品だった。

2023年10月21日土曜日

10月21日 歌舞伎公演「妹背山婦女庭訓 第二部」

布留の社頭の場 道行恋緒環

梅枝演じる求女のクズっぷりが秀逸。浮世離れしていて、恋の鞘当てを繰り広げる女たちには冷たく、他所ごとのよう。両側から引っ張られ、ウンザリした表情すら見せる。米吉の橘姫は可憐で健気な赤姫を好演。おっとりとしていながら、お三輪とのバトルでは一歩も引かない強さも見せる。対して菊之助のお三輪は期待外れだった。妙に老けて見え、健気さや一途さが薄いので、ヒロインを応援する気持ちになれず。緒環が切れたところもあっさりしていて、思い入れが弱いと感じた。 

浄瑠璃は葵太夫以下4枚4挺の豪華版。


三笠山御殿の場

入鹿を取り巻く官女に芝のぶやりき弥、折乃助、いびりやくの方の官女には千次郎の姿も。

お三輪は相変わらずで、田舎娘が御殿に迷い込んだ心細さや恋しい男を希求する様子が薄く、官女たちにいびられてもあまり可哀想でない。時蔵の豆腐買いはご馳走?なのか。普通の女中のような拵えで、おかしみはあまりなかった。文楽だとお福の首だから、はっきり笑いの場面なのだが。芝翫の鱶七は、豪放な感じが役柄に合うが、セリフが少し聞きづらい。


大詰めの三笠山奥殿の場、入鹿誅伐の場

藤原鎌足をはじめ、藤原方が勢揃いして入鹿を伐つ。大団円の華やかさ。装束を改めた梅枝が凛々しい貴公子振り。菊之助は采女の局での登場だが、こちらも年増な感じがした。鎌足は休演の菊五郎に変わって時蔵。髭をたたえた立役姿は珍しい。 最後は役者が一列に並び、国立劇場に別れを告げるセリフも。

2023年10月14日土曜日

10月14日 清流劇場「台所のエレクトラ」

 エウリピデスの「エレクトラ」を翻案。舞台は貧しいアパートの食卓。普段着のような衣装、大阪弁で演じることで、松竹新喜劇のような雰囲気に。エレクトラ役の中迎由貴子は喜劇女優のような親しみやすさ。偽装結婚している人足の上海太郎、近所のおかみさんの峯素子らとのやりとりもほのぼのしており、オレステス(勝又諒平)、ピュラデス(福永樹)の登場もコメディっぽいのだが、王妃クリュタイメストラを呼び出したところから急に様相が変わる。王妃役の八田麻住は光り物をふんだんにあしらった衣装が大阪のおばちゃんみたいで、ベタな大阪弁で強弁を振るう王妃とエレクトラとの母娘対決に緊迫感が高まる。違いに相手に毒を盛ろうとしていると思わせておいて、実は毒を盛っていたのは娘だけだったという結末。エレクトラが偽装結婚していた人足とが本当の夫婦になる未来を匂わせて幕。

原作との改変点は、人足には別に昔から付き合っている恋人がいるとしたことや、エレクトラがピュラデスと結ばれて貴族社会に戻るのではなく、人足と貧民窟に残るなど。アフタートークは田中孝弥の司会で演出家の西沢栄治と大阪市立大名誉教授の丹下和彦。丹下はエレクトラが母殺しをするところに飛躍があるので、ここを変えて欲しかったと。

2023年10月13日金曜日

10月13日 中之島文楽2023

ガブを使った2演目を現代美術家の後藤靖香によるプロジェクションマッピング、旭堂南海の講談と。

第一部は「日高川入相花王」 渡し場の段

旭堂南海が物語の前段を語り、文楽へ。プロジェクションマッピングが紙芝居のようで、登場人物が分かりやすい。ただ、映像を使うと会場が暗くなるのは歓迎しない。清姫は京見物のおりに見初めた桜木親王に熊野で再会して恋心が再燃したところへ、父親から許嫁だと聞かされてすっかりその気に。ところが、親王には別に許嫁・おだ巻姫がおり、ともに道成寺へ逃げてしまう。嫉妬に駆られた清姫は…というところで文楽の渡し場の段につながるのだが、なんで父親は誤解を解いてやらないのかと思う。

床は織、碩、織栄に燕三、友之助、燕二郎。
清姫の第一声で、なんか違うと思ってしまう。好みじゃないのだろうが、可憐でない。一目惚れした男を思い続ける一途さに共感できないと、ただのストーカーだよなぁ。本公演以外は初めてという織栄はソロパートをしっかり。三味線隊は派手な手が耳に楽しい。

人形は紋臣の清姫。黒地の振袖は柄が小さめで、舞台映えしない。蛇体になってからは振り回すのに精一杯という感じ。玉佳の船頭は安定感。 
プロジェクションマッピングの背景は、太い線で描いた波がダイナミック。だが、映像を使うと人形に影ができてしまうので、人形が霞んでしまうと思うのだが。

第二部は「増補大江山」戻り橋の段

織の若菜、碩の渡辺綱に燕三、団吾、友之助、燕二郎。友之助、燕二郎は八雲も。

人形は一輔の若菜が前半、しっとりと美しく。扇を使った舞も優美。一方、鬼の正体を表してからの綱の玉男との立ち回りは迫力があった。
カーテンコールで、若菜の左に紋臣が入っていたのがわかりびっくり。大活躍だ。
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2023年10月7日土曜日

10月7日 ミュージカル「スリル・ミー」

 尾上松也×廣瀬友祐ペアを観劇。

松也の私は粘着質というか、オタクっぽいのが私には合わず。歌うときのブレス音も気になった。彼の廣瀬は長身で体格がよく、登場時には場を制圧するような存在感に息を呑んだ。乾いた感じの歌声も悪くない。…のだが、松也との組み合わせかあまり魅力が持続せず。全体として、不完全燃焼感が残った。

2023年9月30日土曜日

9月30日 語り×浄瑠璃「琵琶法師耳無譚」

 耳無し芳一をベースにした書き下ろし。語りは芳穂と金子あいが、代わる代わる、時にユニゾンで表現。現代語の語りと義太夫節のパートが交錯し、自然と物語に引き込まれた。驚いたのは三味線で、琵琶駒を使って琵琶のビョンビョン(芳穂はニョインニョインと言っていた)とした音色を表現したり、クラシックギターのハーモニクスやフラメンコギターの12拍子といった技法を応用したりと、多彩な表現で情景を描写。映画の効果音のように場面を盛り上げた。約1時間の作品ながら、聞き応えあり。小泉八雲の物語にはない玉虫という女官を取り入れたことで、人物の語りわけに幅ができたように思った。

2023年9月29日金曜日

9月29日 春風亭一之輔×桂二葉 二人会

開口一番は桂源太の「子ほめ」
元気よく、知名度がないのを適度に笑いにして嫌味がない。

一之輔「加賀の千代」
やる気ないのかってくらい力の抜けた話ぶりながら、甚兵衛の愛されキャラ、ご隠居夫婦の可愛がりぶりがじわじわおかしい。

二葉「金明竹」
阿呆な丁稚がニンに合う。使いの者の口上を噛まずにすらすら3回繰り返すところなど、巧さもみせた。

二葉「幽霊の辻」
茶屋の婆さんが上手い。チャキチャキ元気なだけじゃない。

一之輔「笠碁」
これまで聞いたのとは違ってて、笠碁…なんだよね?と思いつつ聞いた。間が長いのに焦れてしまう。

アフタートークは噛み合っているような、ないような。来年も二人会を催すそうで、それまでの目標は「もっと上手くなりたい」という二葉は、「お兄さんは伸び代がない」と。こんなこと嫌味なく言えるのは、二葉のキャラゆえ。二人会をするくらい親しいのかと思ったら、園芸写真家の橘蓮二のプロデュース。満員御礼で来年の開催も決まったとか。

2023年9月28日木曜日

9月28日 フェニーチェ文楽

 花岡京子氏を聞き手に大道具の解説の後、ワカテ鼎談は靖、寛太郎、簑紫郎。 
せっかく若手に聞く企画なのに、聞き手のせいか面白くない。新口村のしどころ、難しさなど聞いても真面目な答えばかり。こういう機会なのだからもっと砕けた話でもいいと思う。
靖は、新口の奥は地味だが、梅川のクドキなど華やかななところもあり、対比をしっかり語りたいと。息を引くところが大事で、次に語るところを考えて準備するよう、師匠から言われたとか。孫右衛門の心境の変化をどう表現するか。緩急をつけるためには、「捨てる」ことも必要。 寛太郎は、時代ものと違って、若手が頑張って弾いているではカタチにならない世話物の難しさ。弾いていないところをどう表現するか。 簑紫郎は、人形もじっとしているところが難しい。梅川は少し斜にかまえるなど工夫している。 最近は若手公演でも主役を後輩に譲って老け役に回ることが多く、今日も孫右衛門。老け役はやってみると面白いのだそう。

「傾城恋飛脚」 新口村の段

前を碩・燕二郎。
客席から声が掛かるも、半テンポ遅い。少しやりにくいかと思ったが表情は変わってなかった。碩は素直な発声が耳によく、燕二郎は難しい手に懸命にくらいついている感じで、珍しく厳しい表情。

奥は靖・寛太郎。
語りの世界に没入するには至らないものの、新口村の世界観をしっかり描出。靖の持ち味のせいか、流麗というよりは少し無骨な感じがした。

人形は、勘次郎の忠兵衛、簑悠の梅川。簑悠は大分背伸びした役ながら、精一杯の演技。梅川の嫋やかさや憂いが表現されていて、教えられたことをきちんと再現しているのだなと感じた。人形の構え方のせいか、首が胴体に埋もれたように見えてしまったのが惜しい。

勘昇の忠三女房、簑紫郎の孫右衛門。


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2023年9月26日火曜日

ま9月26日 文楽夢想継承伝

「二人三番叟」

小住、亘、聖、靖に清公、清志郎、清方、友之助。

人形は玉峻、玉男。玉峻は自信がないのか、終始玉男の方を伺っているので、動きがちょっと遅れがち。稽古時間が足りなくて動きを覚えてなかったのか?

能楽堂なので足も良く見え、三番叟は足踏みも多いので観察してしまう。玉男の足を遣った簑悠がリズム良く、また音もはっきり。2人の三番叟で役割分担してるのか、もう1人のほうは控えめだった。

場合転換の間、勘十郎が出てきておしゃべり。昨日まで公演していた国立劇場は入門した頃にでき育ててもらったと。人形高いが足りないなか、通し狂言をしたので、色々やらされた(できなくてもやらされた)。朝10時半ごろから若手勉強のためと大序で人形を遣わせてもらい、夜は10時くらいまでぶっ通し。楽屋に戻るヒマもなかったとか。

「知盛幽霊」は錣・清允。脇正面席だったので人形の陰に隠れてよく見えなかったよ。 
人形は玉翔。知盛のような大きな立役を豪快に遣った。

若手座談会は聖、清允、玉峻。聖は呂勢のすすめで研修生になったそう。清允は大先輩の錣を弾いて気を遣いすぎて頭がぼーっとしていると。玉峻は師匠の方ばかり見てしまったと反省の弁。自分でも気づいていたのね。


「釣女」

靖の太郎冠者、おかしみがあって良き。大名の亘は声が枯れ気味。美女の聖はフシはまだ不安定だが、嫌味のない発声がよい。醜女の錣は安定感。

人形は、急遽代役で勘昇の大名。後半、美女の勘十郎と並んでも、落ち着いた様子。勘介の醜女は、意外に嫋やかな動きで可愛らしい。 玉路の大名は一輔が左に入っていた。玉佳や玉翔も左に入っていた李するので、色々と注目してしまう。

終盤、左違いに呼ばれた介錯が急いで舞台裏へ行ったので、何事かと思ったら、醜女の扇がなくて取りに行ったらしい。ファインプレーの様子がしっかり見えたのも能楽堂ならでは。

2023年9月25日月曜日

9月25日 文楽祭

「菅原伝授手習鑑」

車曳の段をオールスターキャストで。太夫は呂の松王、錣の梅王、藤の桜丸、呂勢の杉王、織の時平に清介の三味線。呂は声を上げながら袖から登場し、本公演より力入ってる?という語り。織は時平の大笑いを豪快に(いつもより長かった?)演じて会場の拍手をさらったが、声が若々しく、松王の呂と入れ替わった方がよかったのではと思うなど。

人形は玉男の梅王、和生の桜丸、勘壽の杉王、玉也の時平、勘十郎の松王という豪華版で全体として本公演より一回り大きい舞台と感じた。和生の桜丸のポーズが美しい。勘十郎の松王は登場時に槍?に右足をかけて極まるのが格好いい。 


座談会は山川静夫を司会に、咲、清治、団七、和生、勘十郎、玉男が国立劇場の思い出を語る。車椅子で登場した咲は「車曳の後だから」と冗談。天ぷら屋で滑って油地獄、11時間手術したのだそう。にこやかに話していたけれど、坐位を保つのが辛いのかずっと肘掛けを握りしめていた。清治は山川に声をかけられてトチッたとか。忠臣蔵の通しをかけた時、12月14日に泉岳寺にお参りに行くのをサボったらそのまま寝過ごして、⑧綱太夫にこっぴどく叱られた。団七は清治と同期で昭和29年デビュー。当時は松竹傘下で新橋演舞場?で公演していたが、国立劇場という立派な劇場ができた。大阪の朝日座は音が悪かったのに比べ、音がいい。④津太夫の三味線を弾いた時、一撥目で皮を破ってしまったが、「一の糸が切れた」と書かれたのに憤慨。皮が破れるのは構わないが、糸が切れる、ましてや一の糸というのは三味線弾きにとって恥。最後は、玉男が主、勘十郎が左、和生が足を使ってお園の後ろ振りを披露。

天地会は寺子屋の段。口上に出てきた清方は拍子木の打ち方が覚束なく、人形の左に入っていた勘介が指導するという、幕開きから何だかおかしい。

三味線に入った勘十郎のオクリから始まるのだが、途切れ途切れ。横でニコニコしている玉佳はいるだけでおかしい。一撥だけで引っ込んでしまう人もいた中で、玉彦がまあまあ弾けていた(なぜか最初の登場では、指擦りを持ってこさせただけで引っ込んでしまう不審な動きをしていたが)のと、後半をほとんど一人で弾いていた呂勢。いろはオクリの前には、糸を繰って駒を替えるまでやっていたのはさすがで、語りに入った団七から「うまい!」の声も。(よほど大変だったのか、終演後は立てなかったみたい)

太夫は勝平や宗介、清介、燕三がしっかりと引き締め、ほかは一言だけ語る者や棒読みの者など。藤蔵は三味線が遅れた時に催促するように左手を見たり、自分で「テーン」とか言ったり、見台を叩いて拍子を取ったと笑いを取っていた。お面白かったのは棒読みながら結構長い間語っていた文司、手振りを入れたり、「楽屋に帰ってプレミアムモルツ」と言ったり自由な玉也、「えぇ〜」の間がなんとも言えない一輔など。いろはオクリは団七と清志郎で、団七は歌うよう。後半を語った清志郎は大きな声で団七をびっくりさせてた。

人形は菅秀才とよだれくり遣った燕二郎の健闘が光った。ツメ人形は皆自由に動かしていて、手習子を遣った富助がニコニコしていたのが印象的。文字栄の千代が目を瞑ったままだったり、上を向いたり俯いたりしている人形があって、左に入った本職の人形遣いが懸命にフォローしていたり、とハラハラドキドキ。左、足の人形遣いも皆頭巾なしだったので、必死の表情が見えて、それもまたおかしかった。

初めから終わりまで笑いっぱなしで、昨日泣いた寺子屋でこんなに笑えるとは。

開演前や休憩時間に技芸員らがロビーでファンサービス。「文楽名鑑」にサインしたり、写真撮影に応じたり。錣と友之助に長い行列ができていた。

2023年9月24日日曜日

9月24日 文楽公演 第2部

「寿式三番叟」

休演の咲に代わって呂の翁、以下、錣の千歳、三番叟は千歳と織。ツレに咲寿、聖、文字栄が入り、三味線は燕三、藤蔵、勝平、清志郎、錦吾、燕二郎、清方という7挺7枚の大編成。床から舞台後方に向かって並んでいて、下手側を向いて語っていたせいか、全体的に声が小さかったように感じた(7挺もの三味線が大きすぎるのか)。
三番叟に入って、シンの燕三は抑制された運びなのだが、御簾内の鳴物が走ってガチャガチャしたところも。客席の一部は手拍子するし。
人形は紋臣の千歳、勘十郎の翁、玉勢と簑紫郎の三番叟。能の写しとはいえ、人形が面をかける意味が分からん。

「菅原伝授手習鑑」

北嵯峨は希・団吾。
八重がんばれ! という気持ちに。

9月24日 文楽公演 第1部

「菅原伝授手習鑑」

車曳の段

小住の梅王丸に碩の桜丸が血気にはやる若者らしく、好演。碩の桜丸はおっとりというにはかちゃかちゃしていたが。松王丸の藤が舞台袖から声掛けしながら登場する文楽には珍しい演出。時平の津国は大笑いで手が入った。豪快といには枯れた感じだったが、悪い感じは十分。ずいぶん長かったような。三味線は宗介が1人で5人に対峙。

茶筅酒は三輪・団七。言葉が明快で語り分けもきっちり。団七はいつになく難しそうな顔。

喧嘩の談は咲寿・清馗。
いつもより落ち着いた語りは好印象。

訴訟の段は芳穂・錦糸。
前段と打って変わって厳粛な雰囲気。ここまで重々しかったか。錦糸が弾いていない時、目をキョロキョロしていたのは何だったのか。気になった。

桜丸切腹は千歳・富助。待ってましたの声が掛かる。
抑制された緊張感のなか、穏やかに語りが進む。八重の悲嘆、白太夫の「泣くないやい」の件もとても良かったが、なぜか拍手がなかった。雰囲気を壊したくない遠慮からか。前段できちんと場の空気ができていたからいっそう、胸に迫ったのかと思った。

天拝山は藤・清友。
きっぱりした激しい三味線。
菅丞相が怒り心頭で火を吹くのは覚えていたが、その前に髪を振り乱して大暴れするのに驚く道明寺とキャラ変わりすぎ。

人形は車曳で、玉佳の梅王、勘弥の桜丸、玉助の松王が力漲る熱演。一輔の八重がさまざま表情を見せてよき。勘十郎の白太夫は役が軽すぎるかと思ったが、天拝山で一人舞うなどしどころが多くて納得。おかしみのあるまろやかな動きが素朴な爺さんらしい。


2023年9月23日土曜日

9月23日 文楽公演 第3部

「曾根崎心中」

生玉の段を靖・勝平。
靖はいい顔になってきたのは、プレッシャーがなくなったからか。ただ、語り口が硬く、世話物の語りはまだまだと感じた。勝平の三味線はゆったりと大らか。安心感がある。

豊島屋の段は錣・藤蔵。
言葉がしっかりしているので、字幕を見なくても聞き取れるのだなあと。死の決意を確かめ合うところて、珍しくきゅんとした。(そもそもこの話が好きではないので、いつもは淡々と見てしまう)藤蔵は乗ってくると唸り声が耳につく。

天神森は織、睦、薫、織栄に清志郎、清丈、清公、清允、藤之亮。
織栄が2節ほど1人で語っていたのだが、真っ直ぐ前を見据えて語る様が浪曲みたいに見えた。師匠の影響? 顔立ちが京山幸太に似てるからか。

人形は和生のお初に玉男の徳兵衛。最近この組み合わせが多いのはなぜだろう。
田舎の客は休演の簑之に代わって簑悠。生魂でお初を連れ去るところ、初が徳兵衛に気を取られているさまがよかった。

国立劇場さよなら公演だけあって、満員御礼(いくつか空席はあったが)。終演後の拍手もいつもより大きかったよう。 

9月23日 「妹背山婦女庭訓」

春日野小松原から吉野川まで。両花道を使った華やかな舞台。

梅枝の雛鳥が可憐で。小松原で久我助を見初めるところで恥じらう初々しさ。それでいて、あざとはなく、良家の娘らしい品を保っている。

時蔵の貞高も素晴らしく、凛とした気品のなかに母の情愛を滲ませる。文楽と違って、雛鳥を打つところでは幾度も逡巡し、いざ手にかけると激しく慟哭する。心を大きく揺さぶられ、涙を誘われる。

一方の大判事家は、萬太郎の久我の助は背の低さが仇になって子どものようなのが惜しい。大判事の松緑は年齢的に難しい役とはいえ、くりっとした目鼻立ちがアニメキャラのよう(化粧のせいもあり?)周囲に比べて不釣り合いなくらい声が大きかったのも、そぐわない感じがした。セリフを通すのと大声は違うと思う。 そしてやはり、「覚悟の切腹、急くでない」の頓珍漢さにどうしても笑ってしまう。

というわけで、全体的に妹山の方に軍配をあげてしまう次第。

そういえば、床も両床なのだが、前半と後半で入れ替わる形。前半の妹山側は若い太夫で、声もよく検討していたけど、音楽的な情緒は文楽の方があると思った。三味線がね、なんか音が硬いのだ。
「抱き合い」のところは、(妹山)い〜、(背山)だ〜、(合わせて)きあいとなり、少しあっさり。

9月23日 文楽公演 第2部

「菅原伝授手習鑑」の四段目から拝見。

北嵯峨の段は希・団吾。

寺入りは亘・ 友之助。
子供の声が全体的によくないと思った。

寺子屋の切は呂・清介。
いつも通りの慎重な語り。いまいち盛り上がらないと感じるのは、起伏の幅が小さいからなのだろう。メリハリがないというか。玄蕃ですら、迫力がないのだもの。

後は呂勢・清治。打って変わって、色彩が豊かになった感。字幕を見なくても大丈夫なのは、滑舌がよく、言葉が聞き取れるから。登場人物の一人一人が何をして、何を感じているかが明確で、物語をより深く味わえた。小太郎が潔く死んだと聞いた松王丸の泣き笑いでほろり。ここで大笑いの泣き笑いバージョンだと初めて気づいたよ。清治の三味線の鮮やかさは言わずもがな。いろは送りも音楽的で聞き惚れた。(いろは送りの前で予備の三味線が差し入れられたけど、結局使わず。万一の備え?)

人形は玉也の源蔵、勘壽の千代は珍しい配役では。
よだれくりは勘介で、お笑い担当なので少々のおふざけはいいとして、寺子屋にの冒頭で太夫が深刻そうに語る横で笑いを取るのはいかがなものが。寺子屋の冒頭で子供たちが横一列に座っているの、初めて見た気がする。
松王は玉助。

五段目の大内天変の段は小住・寛太郎。約50年ぶりの上演。前回の音源があるものの、聞き取れないところも多く、ほぼ復曲だったそう。落雷を三味線で表現する寛太郎の力演。小住も力の入った語り。

最後、菅丞相の仇と言って、橘姫と菅秀才が小刀で時平を刺すのだが、菅秀才はともかく、橘姫の勇ましさに驚く。

2023年9月22日金曜日

9月22日 永楽館歌舞伎 夜の部

「車引」

上方演出の上演は永楽館ならでは。愛之助の梅王丸が花道、莟玉の桜丸が上手側の通路を両花道のようにして登場する華やかな幕開き。愛之助の梅王は手慣れたものだが、発声が江戸っぽいというか荒事?という感じ。莟玉の桜丸は隈取はないのだが、目元がキリッとしていて、柔らかみのなかにも凛々しさがある。
先払いで通路から登場した愛三郎が堂々として、どこの御曹司?と思ったほど。晴の会メンバーは今回出ないのかと思っていたら、杉王が千次郎で嬉しい驚き(昼の部と夜の部の間の時間に街中を歩いているのを目撃したので、てっきり出ていないものと思ってしまった)
梅王が上半身を脱いで緋色の襦袢さがたになるところで感嘆の声が漏れるなど、歌舞伎慣れしていない観客の反応に、昔の芝居小屋の雰囲気を感じる。
松王丸は九團次、時平は男女蔵。悪くはないが、ちょっと大きさが足りないか。

恒例の口上の前に、過去公演を映像で振り返る一幕。昼の部は第一回から六回だったそうだが、夜は七回から十二回。全部見ているはずなのに、どんな話だったか思い出せないもの多数…。新作ばっかりだからねぇ。

口上は愛之助、男寅、男女蔵、九團次、莟玉。5人並んだうちの3人が市川家の柿色の裃にとんがり髷なのが変な感じ。博多座之襲名披露の流れで来たから?
初お目見えの男寅は、名前と「世界遺産検定一級」だけでも覚えて、と若手落語家のようなことを。同じく初お目見えの莟玉は、自己紹介で「莟玉」の名前の由来はありがたいけど、なかなか読んでもらえないもどかしさを吐露。(苔玉とかのりたまとか呼ばれるらしい)パンダ好きと歌舞伎好きを繋げたいという野望も。
莟玉の前に九團次が、九團次としては初出演で、前回は前名の坂東薪車だったが、諸事情あって名前が変わったと。なぜか莟玉は受けていて、俯きながらかたを震わせていた。

「釣女」

愛之助の太郎冠者、男寅の大名。男寅は初役だそうで、発声や所作が松羽目物の寸法になっていない感じがした。莟玉の上臈は期待通り。男女蔵の醜女が面白く、被衣を被って登場するところから体の大きさは隠せないし、化粧はやりすぎないのに十分面白い顔といい、愛之助とのアドリブ混じりのやり取りといい、嫌味なくおかしい。
太郎冠者が釣り糸を垂れるところで客席に向けていたの、初めて見た。ファンサービスは嬉しかろうが、万一取ってしまったらどうするのだろう(誰か取ってくれ!)



2023年9月17日日曜日

9月17日 九月花形歌舞伎「新・水滸伝」

花形というには澤瀉屋の面々は手練れすぎる気もするが、隼人を中心に、團子や壱太郎らが活躍したのでいいのか。
幕開きに登場した彭玘役の團子はスラリとした立ち姿が若くて真っ直ぐなキャラに合う。滑舌が今ひとつなのは今後に期待したい。
林冲の隼人は酔っ払う様に色気があり、後半の覚醒してからは、長い手足をいかしたシャープな立ち回りが文句なしに格好いい。宙乗りも、余裕のある様子で客席を見渡し、横顔も絵になる。 (飛龍が飛び立つところで「林冲の夢見る力と共に天翔けよ」というセリフが気に掛かったのだが、ツイッタによると元々「林冲の心と共に」と言っていたのを猿翁の訃報を受けて変えたらしい)
壱太郎はお侠なお夜叉を好演。猿弥演じる王英との絡みはアドリブも交えて面白く(今日は「剣術の稽古」というところ「ケイジユツ(?)」と言い間違ってグダグダになりかけた)、ポーズをとって決まるところは美しく。
笑三郎の姫虎も格好いい姉御という感じで舞台を締め、成駒屋の福之助が梁山泊の李逵、歌之助が朝廷側の張進と敵味方に分かれていたのも頼もしい(歌之助は配役を確認するまで誰か分からなかった)。…などなど、個々の役者はそれぞれ良いのだが、全体として今ひとつ盛り上がらないのは、場面転換が多くて慌ただしいのと、敵役である高俅の浅野和之の悪っぷりが物足りなかったからだろう。 

個人的にツボったのは、王英・猿弥と青華・笑也のラブシーンで、なんか可愛くてほのぼの。気持ちが通じ合うまでの様子が複数の場面にわたってしっかり描かれるのがいい。 

2023年9月10日日曜日

9月10日 K⭐︎バレエスタジオ 37th コンサート

パート1の生徒らの発表は置いておいて、長谷川梨央と福田圭吾の「コッペリア」グランパドドゥ。福田のパドドゥはあまり見る機会がないので新鮮。リフトがとても優しく、パートナーを次の動きへ丁寧に送り出す感じ。ジャンプや回転はさすがの切れ味だが、二枚目で踊るのも新鮮だった。 

続いてスターダンサーズ・バレエ団の渡辺恭子と福岡雄大の「ジゼル」。暗転板付きから始まるのはドラマチックで効果的。

「FROZEN EYES」
矢上恵子の振付で、ジャクソンで金を受賞した徳彩也子と佐々木嶺のペアが凱旋披露。 

シャープな動きが印象的。中央に置いたパイプ椅子に、女性ダンサーが度々打ち捨てられた人形のように座り込む。2人とも身体能力が高く、難しい動きをブレなくこなす。女性は最後、椅子を踏み越えてパートナーの元へ。

パート2は矢上久留美振り付けの「レ・パティヌール(スケートをする人々)」
生徒ら総出演という感じで、小さい子がちょこちょこ踊っていると客席が微笑みに包まれる。3歳くらいの子もいたようだが、長い曲の間ちゃんと舞台にいられるだけでも大したもの。山本隆之が出演していたのも嬉しい。

パート3は恵子振り付けの「toi toi」

かっこいい。強いビートでテンポが速く、ジャズっぽい振りなのだが、これはバレエダンサーの踊りだ。体幹の強さや手足ののびやかさ違うのだろうな。 

冒頭、石川真理子とペアで踊った福岡雄大がとにかくカッコいい。精悍な感じで、力強く、シャープで素早いムーブメントに圧倒される。

男性ダンサーは、福田圭吾、ゲストの恵谷彰、佐々木嶺が力強い、圧巻の踊り。特に佐々木がいいと思った。優しげな雰囲気なのに、難しい振りをさらりとこなす。全幕ものでも見てみたい。

群舞では佐々木美智子バレエ団、京都バレエ団からの応援者も参加。藤川雅子のコンテンポラリーってはじめて見たけれど、やはり雰囲気のあるダンサーだと思う。 

カーテンコールは主宰の矢上久留美も加わって。福岡と福田が亡き香織、恵子の写真を手に登場すると拍手が鳴り止まず、何度も幕が開いた。

9月10日 京の会 舞踊公演

トップバッターの井上八千代目当てで、はじめの4曲だけ観覧。

八千代の「松の翁」は貫禄のある舞姿。井上流の舞って能を思わせる、控えめな振りが多いので、舞台で見せるのはハードルが高いと思うなど。

藤間寿由の「茶音頭」、藤間麗喜(?)の「廓八景」はベテランのお姉さん方。

続いて、井上葉子、安寿子の「新曲浦島」。左右の花道?から登場する華やかな演出。少し背の高い葉子と、丸顔の安寿子は姉妹のよう。

鳴物に笛の藤舎名生が出演するなど、50回記念ならではの豪華さ。桟敷席には普段着の芸舞妓もいて、賑やかだった。

2023年9月9日土曜日

9月9日 有馬能楽堂 能公演「俊寛」

大槻文蔵の俊寛が見たくてはるばる三田まで。屋外の能舞台は風情があるが、ツクツクボウシの音はそぐわないと思うなど。橋掛が吹き抜け?のため音が届かないのか、マイクが仕込んであって、声が後ろのスピーカーから聞こえるのは興醒め。舞台に上がると、鏡板の効果かちゃんと聞こえるのだが。

シテの文蔵の他は、大槻裕一の平判官康頼、上野雄介の丹波少将成経、ワキは福王茂十郎、アイは善竹隆平。
文蔵の俊寛は1人取り残される絶望が深い。声なく泣く姿から、寂寥感が溢れ、目が離せない。会場のせいか、謡もよく聞こえた。前にも思ったが、船の舫を切り離される音になんとも言えない断絶感があって、胸を突かれる。

三田屋本店は料理屋だからそこそこ期待していたのだが、全くがっかり。1人客への提供が早かったのはよかったが、メニューも調理も値段に不相応。多分2度と行かない。 

2023年9月3日日曜日

9月3日 TTR能プロジェクト「和魂Ⅸ」

 観世流と金剛流の流儀競演。

舞囃子、観世流は大槻裕一のシテで「鏑木」、金剛流は豊嶋晃嗣の「天鼓」。

今回の出演者で最年少と最年長だそう。演目が違うから一概に比較はできないが、金剛の方が手数多いというか、たくさん動いているものの、動き自体は大らか。一方、観世は手数は少なくてもキリッとシャープな動きが印象に残る。

独吟は2曲、弱吟と強吟を聴き比べ。「井筒」のキリは観世流の齊藤信輔、金剛流の宇高徳成、「起請文」は観世流の大江信行、金剛流の宇高竜成。

金剛流の謡がのびやかなのは発見だった。全体的に抑制の効いた観世流に比べて、詞章が聞き取りやすい気がする。比べて聞くと違いがよくわかる。

仕舞は「鉄輪」キリの競演で、観世流の笠田祐樹、金剛流の山田伊純。

実験企画は「乱」を同時に、観世流の大江信行と金剛流の宇高竜成が舞う。同じ曲でもここまで違うかという驚き。金剛流は足で青海波を描くそうで、グッと屈んでから舞い始める。爪先立って舞台上を左右に動き回る金剛流に対し、観世流は移動が少ない。アフタートークによると、ぶつからないよう、大江は少し譲ったのだとか。

最後は「船弁慶」の舞囃子。観世流は「重キ前後之替」の小書が付いて、浦田保親のシテ、金剛流は「白波之伝」の小書で金剛龍謹のシテ。

観世流は扇を預けて最後まで薙刀を持って舞うのに対し、金剛流は後半に薙刀を捨てて扇で舞う違いが。

2023年8月27日日曜日

8月27日 はじめてたのしむ文楽 その参

@北とぴあ

高木秀樹の案内で、作品と三業の解説を1時間余り。呂勢は金殿の段のお三輪や鱶七のセリフで語り分け、藤蔵と共に竹に雀の一節を披露するなど、耳に贅沢。若い娘は声色を使うのではなく、音(オン)を遣う、歌うように語るテクニックでおっさんの声でも可愛く聞こえると。
人形は玉助が中心に話をして、一輔が左に回る贅沢。足は玉延。若手会で鱶七を遣った時、文雀に「お祖父さんが泣くで」とダメ出しされたエピを話すと、呂勢が「玉助が偉いのはちゃんと反省していた。逆恨みする人も多いのに」とフォロー。一輔は金殿のお三輪の勉強のため箕助のビデオを研究したが、太夫によって同じ動きでも全然違ったと。

「金殿の段」は呂勢・藤蔵。
解説で聞きどころを話していたので、客席の集中力も高かったよう。お三輪が可憐で哀れで。一輔の人形も健気な風情でよかった。

2023年8月26日土曜日

8月26日 上片歌舞伎会

「仮名手本忠臣蔵」

五、六段目を松嶋屋の型で。
勘平は松十郎、少し痩せたのか顔がほっそりして、仁左衛門に似てた、セリフの言い方など、仁左衛門を思わせるところがあるものの、様にするのは難しいのねーと思っていたが、最後の独白かとても良くて泣かされた。
女形では當史弥のおかやがいい。老け役にはまだ若いので板についてないところもあるが、勘平をなじるところなど、情がある。途中まで六段目の主役はこの人ではと思ったほど。
佑次郎が定九郎。二枚目?は珍しく、シュッとして格好いいが、定九郎ってやることたくさんあるから手順に余裕がないかも。
千寿の一文字屋お才は黙って心持ち顔を上にしている風情に秀太郎を思い出した。
三味線に乗るのって難しいのだなあと。三味線の拍に合わせすぎて滑らかさがないように思った。

「釣女」

愛治郎の太郎冠者は愛嬌があっていい。なんだか楽しそう。
千次郎の大名、口跡がよく、間がいい。
上臈は千太郎、醜女は松四郎。無理に醜くしてなくて、丸顔で額の上に離して描いた眉がむしろかわいい。

終演後の挨拶で、久しぶりに表舞台の我當。不自由ながら結構長く挨拶してくれ、最後には「武士の情けだ…」以下の勘平のセリフに拍手が鳴り止まず。
一人一人、自己紹介で勤めた役名を述べたのだが、愛治郎が「太郎冠者と猟師…」と言うと、仁左衛門が「もう一つ!」とツッコミ。五段目のイノシシもやったそう。
愛三郎の背が伸びて、顔立ちも落ち着いてきた。今回見なかった上臈、見たかったかも。

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2023年8月21日月曜日

8月20日 内子座文楽 午後の部

呂勢の解説から。
普通は若手のイケメンが解説するのにこんなおじさんが出てきて…という自虐に始まり、父が宇和島出身なので、DNAに愛媛が入ってると。作品については、団子売りは清元からの移し、曽根崎は明治期に復曲する際に詞章がカットされてるなどで学者センセイの評価は低いが、お客様の要望なのだからいいでしょと(←学者の言うこと気にしすぎ)。松之輔のいい曲がついているので人気になったし、楽しんでと。あらすじは、単純なストーリーなので解説いらないと笑いをとっていた。これまでより早口でなくなった気がした。 

「団子売」
芳穂の杵造、小住のお臼に清馗、寛太郎、燕二郎。
小住は調子が悪いのか、声が出ていない。三味線はシンがぼんやりしている感じがした。
人形は玉勢と簑紫郎。杵造の腕が、肘が衣装から出てしまっていて、不自然に見えた。

「曽根崎心中」

生玉は希・清丈。声は悪くないのだが、単調な語り。盛り上がりに欠ける。

天満屋は呂勢・燕三。語りも三味線も申し分ないのに。音楽的なのに、なぜか集中できない。人形は玉男の徳兵衛に和生のお初と、望むべくベスト配役なのに。やっぱり私はこの話自体が好きじゃないのだな。

天神森は芳穂のお初、小住の徳兵衛に、亘のツレ、三味線は清馗、寛太郎、燕二郎。

左の桟敷席だったので少し高く、よく見えたのだが、床と目線が同じで、多分あちらからもバッチリ見えていた。 

4年ぶりの内子座文楽はボランティアも親切でいい雰囲気。来年から耐震工事でしばらく休館になるのだそう。

2023年8月20日日曜日

8月19日 文楽素浄瑠璃の会

「源平布引滝」
久郎助住家の段を織・清志郎。
とても気合の入った語りなのだが、内容が頭に入ってこないのは何故だろうとずっと考えていた。一本調子で緩急に欠けるとか、力が入るあまりがなり立てるようになってるとか、自分に酔ってるとか、気持ちが入っていないとか。色々思い当たるのだが、どれも十分に説明できない気がする。上手ぶってるってこういうことだろうかと思うなど。あれだけの熱演なのに、途中で拍手が入らないのはそういうことなのだろう。
清志郎の三味線はシャープでクリア。ただ、太夫の押しが強すぎるので、意識しないと耳に残らないのは困ったことである。


「ひらかな盛衰記」
松右衛門内より逆櫓の段を錣・藤蔵。
エモーショナルな2人で、義太夫らしくてほっとする。
錣はいつもに増して汁気の多い語り。「ヤッシッシ」の音が高いのはちょっと違和感があった。
三味線は派手な手が多く、弾き甲斐がありそう。藤蔵も乗ってよく唸ってた。


「卅三間堂棟由来」
平太郎住家より木遣り音頭の段を千歳・富助。
格調高い演奏。素浄瑠璃の会でトリということは、現役で一番と認められていることなのだろうか。


2023年8月14日月曜日

8月14日 蝠聚会

「寺入りの段」を清方・清允。
清方は素直な語り。菅秀才がかわいい。千代など女性の詞は間が持たないのか急ぎ気味で、声の調子まで上滑ってる感じ。

「寺子屋の段」の前を清介・清公。淡々とした語りに、力強い三味線。こんなに渾身の撥捌きをする清公は見たことがない。

後は宗助・寛太郎。泣けた。千代のクドキ、源蔵との立ち回りのあと、千代が正体を明かすところのクドキが秀逸で拍手もあった。高音のフシもきれい。一方、松王丸などはちょっと物足りないか。三味線は柔らかい音色。イロハ送りが泣かせる。

「傾城阿波の鳴門」巡礼歌の段は燕三・燕二郎。はじめは淡々としていたが、おつるが可哀想で涙。

着用していた裃から見るに、清介は織、宗助と燕三は呂勢が指導役か。

2023年8月13日日曜日

8月13日 坂東玉三郎特別公演「怪談 牡丹灯籠」

玉三郎のお峰に愛之助の伴蔵。会話のテンポは悪くないが、玉三郎はセリフが所々つかえ気味だったのは調子が悪かったのか。年上女房風ながら、伴蔵とのやり取りが楽しそう。愛之助は仁左衛門と比べるとせせこましいのだが、この小物ぶりが落語の登場人物らしいのかも。

新三郎に喜多村緑郎、お国に河合雪之丞と新派の役者も活躍。お露の件はあっさりめだったが、緑郎は相変わらずの二枚目。雪之丞はパッと場が華やぐ。

お六とお峰にお米とお露が取り憑いいたのを小刀で刺し殺した伴蔵が、牡丹灯籠に導かれるように花道を去っていく幕切れ。幽霊の恨みを買ったのか、良心の呵責から見た幻か。余韻が残る。

2023年8月12日土曜日

8月12日 KASANE PROJECT Vol.1 素浄瑠璃 色彩間苅豆

清元の「かさね」初演から200年を記念して、清元の素演奏と義太夫節の複曲の聴き比べ。清元の原曲を義太夫節に移したものなので、詞章は同じで、演奏方法が違うだけなので、ジャンルの違いが明確に表れて興味深かった。

清元は栄寿太夫(右近)が初役で立浄瑠璃を勤め、三味線は兄の斎寿をシンに。
栄寿太夫の清元は初役のせいか、音程や音色を探り探り語っているように感じた。清元の節が身体に入り切っていないような。与右衛門役の志寿子太夫やツレの瓢太夫、一太夫も、息をするように自然に語って(唄って)いたのに、栄寿太夫だけは視線をキョロキョロ、口元も落ち着かなげにもごもごしてて。音程もちょっと自信なさげに揺らいでたところがあったり(一箇所は明らかに詞章を間違えかけたような)視線をあちこち巡らせるのも、落ち着かなく見えた。(他の人はほぼ、一点を見据えているので余計に)セリフのところは、歌舞伎で演じたことがあるだけあって女方の綺麗なセリフだったけれど。

対して義太夫節は、呂勢、織という手だれなので、安心して聞けた。三味線は団七のシンに友之助、清公。サクサク進むなあと思ったら、時間も短くて、清元の45分に対し30分余。義太夫節ってゆったりしている印象だったけど、清元の方が時間がかかっていたとは。泥臭いというけれど、聞き慣れているせいかこちらの方が好みかな。

アフタートークで、粋で情感に溢れる清元に対して、泥臭い、野暮ったい義太夫節と団七。かさねと与右衛門の立ち回りの場面は重造師の朱にはメリヤスとしか書いてなく、メリヤス集からこれだと思うものをいつくか繋げて作ったら、後日、別の三味線弾き之朱が見つかって、そこに書かれていたものと一致したのだそう。 すごい。

呂勢は、芝居ベースなので、「アレェ」みたいな普段の義太夫節では言わないようなセリフがあって照れくさかったのだそう。重造師の作曲は、清元の手を取り入れつつ、義太夫節らしい曲になっているのが上手いと。師の曲が復曲できて嬉しそう。それと、団七の隣にいるせいか、いつもの皮肉屋が鳴りを潜めて、にこやかに見えた。団七は「自慢じゃあないけど」と言いつつ、復曲の手柄を話したり、義太夫節をやぼったいと自虐したりと、チャーミング。

「夜や更けて〜」のくだり、清元では立て=かさね役の太夫が語るのだが、義太夫節では与右衛門役のパート。初演した伊達太夫の床本にそう書いてあったのだそう。呂勢「織太夫は本当は美声だが、今は声を酷使する役を語っているので…」と言い訳。栄寿は「この場面にかさねは出てこないので、与右衛門役が語るのは理に叶っているが、聞かせどころなので立てが務めている」と。

栄寿は義太夫節でのテンポ感に憧れ。清元は緩急があるのが魅力だが、もどかしく感じることもあるそう。 歌舞伎は動きながらセリフを話すので、身体的に制約があり、やはり義太夫節のようなテンポにはならないのだとか。


8月11日 夏休み文楽特別公演 第1部 親子劇場

 「かみなり太鼓」

希のトロ吉、靖のおかあちゃん、小住のおとうちゃん、碩の寅ちゃんに清馗、清丈、清允、清方。

希のトロ吉はちょっと迫力不足。靖のおかあちゃんが大阪のおかんらしく、碩の寅ちゃんが可愛い。三味線も大幅に世代交代した感じ。希以外の太夫は自分の出番がないところで席を外していたのだが、せいぜい10分ほどでわざわざ床を離れるのはなぜだろう。そのまま退場ならまだしも、戻ってくるのだし。

人形は玉佳のトロ吉、勘次郎の寅ちゃん、簑紫郎のおかあちゃん、勘市のお父ちゃん。

落語作家らしくくすぐりがところどころに入っていて、「よそで言うたらあきません」というオチまでついて、子ども向けだけれど、よくできた本だと思う。


解説 文楽ってなあに?は勘次郎。当初は子どもによる体験コーナーもあったそうだが、病欠者続出で休演があったため、体験はなしに(終演後のお見送りも)。代わりに写真撮影OKで、最後に質問コーナーができていた。この日は主に「かみなり太鼓」についてで、最後にトロ吉が乗った雲の下にあったピカピカ光るものは何?(→かみなり)とか、宙乗りになった時人形使いは1人だったのはなぜ?(→3人吊るすのは重量オーバーだから)とか。「上手い主遣いになるには何年かかる?」という質問には、足遣い、左遣いでそれぞれ10〜15年修行して、主遣いになるのは30年後くらいとは言っていたが、「上手な」には言及せず。ただ、足遣い、左遣いの間も端役の主遣いをすることはあると話して正直でよいと思った。


「西遊記」

西遊記には数パターンあるそうで、今回は閻魔王宮より釜煮の段。

三輪、津国、亘、聖、薫に団七、友之助、錦吾、燕二郎。

人形は簑二郎の孫悟空、文昇の閻魔大王、玉延の赤鬼、簑悠の青鬼、亀次の太宗皇帝、番人才覚延の文哉。

孫悟空の宙乗りは客席後方から出てきて、舞台前まで降りた後、再び後方に戻る。長い如意棒を振り回しているのが迫力。

2023年8月9日水曜日

8月9日 スターライト vol.2 ガラコンサート

1部はバレエ団の生徒たち。白鳥の湖の王子役の少年1人仁、何十人もの少女たちがアプローチするのがら何だかおかしくて笑ってしまう。少年は小柄なせいもあってか、回転の軸がしっかりしていてスピードもあった。 「パリの炎」のグラン・パ・ド・ドゥを踊った福山麗が好印象。

2部はゲストダンサー。「ドン・キホーテ」のグランパドドゥを寺田翠・寺田智羽。キトリは精彩を欠いたが、バジルはジャンプテクニックを見せつける感じ(でも軽々ではない)。途中でキトリの友人のバリエーションを挟む構成は珍しい。
アアルト・バレエ エッセンの岸本有希とイエゴ・ホルディエンコの「On the Nature of Daylight」。ドラマティックなパドドゥ。
「眠りの森の美女」3幕のグランパドドゥはチェコ国立バレエ団の藤井彩嘉と新国立劇場バレエ団の木下嘉人。木下の王子を見るのは珍しく、新鮮。
トリは菅井円香・二山治雄による「ラ・フィユ・マル・ガルデ」のパドドゥ。この2ニニを間近で観られる幸福よ。ジャンプのキレといい、回転のスピード感といい、高度なテクニックを何気なくみせる。小柄だと思っていた二山が菅井と並ぶとちょっと高かった(ポワントで立つと菅井の方が高いが)のが意外だった。 

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2023年8月6日日曜日

8月6日 愛知芸術劇場×DaBY ダンスプロジェクト「Rain」

 サマセット・モームの小説が原作だということを予習しないまま臨んでしまったので、ちょっと消化不良な感じ。

ダークグレーの糸を垂らしたカーテンのようなセットが天井から下がり、熱帯雨林の雨のような、森林のような雰囲気。セットは場面によって上下に動き、ダンサーたちの頭上を覆う暗雲のようにもなり、床面スレスレまで下げられると深い森林から何かが出てくるようにも見える。

ほとんどのダンサーは黒をベースにした衣装で、唯一白いドレスの米沢唯が異質な存在であることが際立つ。宣教師(中川賢)を挑発するような視線や仕草は、マクベス婦人にも通じるような。

音楽はノイズのような感じで、地吹雪のようだったり、風雨のようだったり。

2023年8月5日土曜日

8月5日 NBAバレエ団「ドラキュラ」

英国ロイヤルの平野亮一がタイトルロール。不気味な美しさのある作品だった。2年前の初演を観なかったのを後悔。チラシのビジュアルで損していると思う。

平野演じるドラキュラは、不自然に反り返った姿勢や、這いつくばるような動きで異形さを醸しつつも、ゆったりした優雅な所作に支配者の風格があり、場を圧倒する。複雑なパやアクロバティックなリフトが連発され、目が追いつかない。2幕、友人の血を吸いながらルーシー(勅使河原綾乃)と見つめ合うところで、すでに気持ちは通っていると思った。
3幕でルーシーのの寝室に忍び込み、胸元をはだけて血を吸わせるところは、鍛えられた胸筋にドキドキ。ルーシーと婚礼をあげようとしたところで邪魔が入り、灰と帰すのだが、残されたルーシーはどうなるのだろう。

NBAバレエ団のダンサーたちは、女性陣はルーシー役の勅使河原、ミーナ役の野久保奈央とも小柄で、おっとりした雰囲気がよく似ている。あの時代の良家の女性役には似合う。一方の男性陣が役に合っていないというか、若造が無理やり老け役をやってるみたい。口髭が似合わなすぎ。

カーテンコールは写真OKだったのだが、平野が役そのままの様子でゆっくりと登場するサービスっぷり。後ろを振り返る時にいちいちマントを翻すのが笑いを呼んでいたが様になってた。


8月5日 ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル

リピするつもりはなかったのだが、諸事情により別キャストを見比べることに。平原綾香のサティーン、甲斐翔真のクリスチャン。

平原は歌の表現が多彩。特に低音部の強い声に味があり、ミュージカル向きと思った。比べると望海風斗は綺麗すぎるのかも。かと思うと、公爵を誘惑するところでは高音の可愛らしい声もあり、声の表現が幅広い。歌のないセリフは今一つで、コミカルな場面の間などは望海に一日の長あり。

支配人は橋本さとし。セリフの間がよく、お笑いは流石のうまさ。


2023年8月4日金曜日

8月4日 あべの歌舞伎 晴の会「肥後駒下駄」

4年ぶりの再演…というものの、びっくりするくらい覚えてなくて、新鮮に楽しんだ。

冒頭は、出演者が次々と行き交い、登場人物を披露するあべの歌舞伎恒例の演出。客席から出てくる人もいて、暗転したら急に隣りに役者が隣にいて驚いたけれど、これも観客サービス与ね。

初日だけあって所々セリフの出だしが怪しいところがあったけど、キャラクター造形がしっかりしているのは頼もしい。
中心メンバーの3人はそれぞれ二役を演じて、敵役の八坂源次兵衛役の松十郎はゾクゾクする悪人ぶり。もう一役の中川縫之助は全くの別人。お縫と月岡刑部の女房梅野を演じた千寿も、若い娘と老け役を演じ分ける。特に老け役、白髪でもないのにちゃんと母親に見えた。千次郎は作者・亀谷東西役で講談師さながらに物語の導入や背景説明を担い、奴駒平(向井善九郎)役では二枚目を好演。
お縫の夫、松田新蔵役の翫政、月岡刑部の當十郎、その娘、お沢の當史弥、松枝のりき弥、中元只助の佑次郎は初演と同じ役。それぞれ進化していたように思った。お沢の當史弥は少し老けていて松枝の姉というより母のよう。好きだけど。
八坂の弟、源内は初役で愛治郎。兄の悪事の片棒を担ぐ小悪人をよく演じた。

芝居としては、通し狂言を3時間にまとめるにあたって、序幕は細切れのような背景説明になってしまうのは仕方ないのか。二幕で竹本が入ると俄然面白くなった。

8月4日 ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル

どセンターの良席が取れてしまったのはよかったのか。

客席に張り出すようにセットが組まれ、赤いライトに包まれた会場全体がムーラン・ルージュの世界。開演10分前から役者たちが舞台上に現れ、踊り子や客の紳士たちの駆け引きを垣間見せるのが、物語い世界観に誘う仕掛けとして効いている。

サティーン役の望海風斗はこれまで観た女性役のなかでは一番と思うが、期待しているのとは違ってモヤモヤ。歌声はともかく、話す声が話すもっと低いほうが大人の女らしいと思うのと、体つきや足捌きが少年のようで色気がそがれること。(体つきは望海に限らずで、キャバレーのダンサーのような露出の多い服が似合う日本人って少ない気がする。みんな痩せすぎだから)とはいえ、今際の際のソロはジンときたし、久しぶりに歌を堪能できたのは嬉しかった。

クリスチャン役の甲斐翔真は、若々しく、純朴な青年ぶりが好ましい。歌も変な癖がなく、誠実な感じでよき。ただ、2幕でピチピチのTシャツ姿に違和感。なんだかゲイ男性みたいで、サティーンに愛をささげる姿と合わなくて困った。

ユーミンが手掛けたという訳詩はどうだかなあ。「your song」の「I hope you don't mind」を「気にしないで」とか、言葉の音が音楽に合っていないと感じた。他にも、英語の歌詞で聞きたかったという歌唱が多かったのは残念なところ。

支配人シドラー役が松村雄基でびっくり。浅野和之あたりがやりそうな役と思ったら。公爵役の伊礼彼方は朝ドラに続いてイヤミな金持ちを好演。素肌にタキシードという衣装は、ナイトクラブに出入りするような人物という描写なのか。 

ニニ役の加賀楓は下手ではないのだが、サティーンのライバルというか、クラブの2番手というほどの華はないように思った。

作品としては、ヒット曲がてんこ盛り。サティーンとクリスチャンが恋に落ちる場面のデュエットなんかは、1フレーズしかないような歌もあって、何の歌が入っていたか把握しきれないほどお腹いっぱいな感じ。




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2023年7月23日日曜日

7月23日 夏休み文楽公演 第2部

「妹背山婦女庭訓 」

井戸替の段は小住・藤蔵。コミカルな場面で、床も手すりもほっこり。皆が踊り出すところの時唄が朗々として聴き良い。

杉酒屋は芳穂・錦糸。語り出しからなぜか鬱々として聞こえた。声の張りがなかったのかしら。

道行恋苧環は呂勢、織、靖、聖、織栄に清治、清志郎、清公、清允、清方、藤之亮。呂勢・清治がこれだけとは物足りないが、やはり精緻な音色に耳が惹かれる。清公が3枚目で求女の役というのはなかなかの抜擢? 初舞台の織栄、藤之亮は緊張した面持ちながら、大過なく務めた。

人形は勘十郎のお三輪は鉄板ながら、前半は可憐な姿にキュンとした。が、橘姫の存在を知って嫉妬に悶えるあたりからのオーバーアクションはちょっと辟易。人間にはできないほど背中を反らせたり、捻ったり、こういうのがウケるのだろうけど。一輔の橘姫は品があって、柔らかな抑えた所作が好ましい。求女は玉助。ニンじゃないのか、高貴な二枚目って難しい。

鱶七使者の口は碩・燕次郎が御簾内で。声がちょっと高めに感じたが、そんなものか。

奥は(切ではないの?)錣・宗介。いつも通りの熱演。

姫戻りは希・勝平。勝平が微妙な表情をしていたように見えたのは気のせいか。

金殿は呂・清介。三輪の言葉が初めっから囁き声というか、掠れた小声なのはどういう意図なのだろう。終盤の瀕死になってからならともかく、初めっからというのはよくわからん。地では普通に声が出ていたので、出せないわけではなかろうに。

入鹿誅伐は睦、南都、芳穂、咲寿、薫、文字栄に団吾。咲寿の橘姫がキンキンと耳に障る…。悪人がやっつけられてスッキリ。


8月11日に再見。道行はお三輪の出で清治の三味線が入ると途端に世界観が変わる。金殿は冒頭は声がよく出ていたが、終盤に行くにつれ息切れ感が…。

2023年7月22日土曜日

7月22日 夏休み文楽公演 第3部

 「夏祭浪花鑑」

住吉鳥居前の口は亘・錦吾。元気がよい。

奥は睦・清友。女性の声にやはり難あり。清友も微妙な表情をしていた。

釣船三婦内の切を千歳・富介。ちょっと間を詰めすぎというか、急ぎ気味に感じた。お辰はサラリと粋。

アトは織、藤に燕三。語りは抑え目に感じた。三味線が締める。

人形は玉男の団七が骨太な感じ。心なしか筋肉が厚いように感じた。殺しの型は決まりきらないところもあったが、上演を重ねてよくなりそう。和生の義平次は憎たらしい。一輔のお梶が粋ないい女。梅枝を思い出した。


10日に再見。口コミで客が増えるかと思ったが、入りは半分くらいか。遅れて入場する際の割引などもあったけど、あまり効果なかったみたい。

千歳・富介は前回感じた違和感がなくなり、安心して聞けた。織・藤の語りは2ヶ月続けたせいか何だか不思議なノリが発生していて、別の芸能になっているというか、義太夫ではないように感じてしまった。

7月22日 N響「夏」2023大阪公演

平成生まれの指揮者、熊倉優とピアニストの北村朋幹。久しぶりのフルオーケストラだったが、さすがN響という隙のない演奏。若手指揮者のせいか、瑞々しい感じがした。

ウェーバー 歌劇「魔弾の射手」序曲

モーツアルト ピアノ協奏曲 第24番 ハ長調

※アンコール シューマン 「森の情景」第7曲「予言の鳥」

シューマン 交響曲 第3番 変ホ短調 作品97「ライン」

※アンコール モーツアルト「フィガロの結婚」序曲

2023年7月14日金曜日

0714 OSK日本歌劇団「レビュー Road to 2025!」

 第一部は日舞レビュー「春・夏・秋・冬」、山村友五郎の演出・振付。

チョンパの幕開きで華やかな群舞。扇を多様した振付は山村流らしいが、ほぼ全ての場面が扇を使っていたのはマンネリ感も。春でカラス役の桐生麻耶とウグイス役の楊琳が梅を取り合う寸劇、夏は祭りと定番というか、子ども騙しというか…。秋は狩衣姿でちょっと目に新しかったけれど。ほぼ出ずっぱりだった楊には関心した。フィナーレで「コンニチワ」と連呼する歌がダッサイ歌詞と思っていたら、万博のテーマ曲だそうで…。


第二部は洋舞の「HEAT!!」、演出・振付は平澤智。

洋舞の方が楊にはあっているのだが、前半、ヒップホップやK-POP風の踊りは今ひとつ。ゴスペルやジャズは悪くないのだが。途中、ソロでバラードを歌うところがあり、音を外すことなく堂々と歌い切って、上手くなったなあと(←上から?)。三番手のポジションだった椿りょうは背が高く、打ち出しもよくて注目株。踊りもキリッとしてよし。


2023年7月9日日曜日

7月9日 七月大歌舞伎 昼の部

 「吉例寿曽我」

鶴ヶ丘石段は隼人の近江小藤太に虎之助の八幡三郎。若手による、清々しい一幕。隼人は線が太くなった感じで、錦之助に重なるところも。

がんどう返しで場面転換し、大磯曲輪外は弥十郎の工藤を中心に、千之助の十郎、染五郎の五郎。染五郎は将来も五郎を演じるのだろうなという感じ。茶道鎮才を吉之丞、秦野四郎を廣太郎。米吉の大磯の虎が美しい。朝比奈は亀鶴だったのだが、キャストを確認せずに観たので気づかず…


「京鹿子娘道成寺」

菊之助の花子の美しいこと。鐘への恨みは静かな情念といった感じで、派手さよりも、うちに秘めた感じ。

所化に松十郎、千寿、千次郎ら上方歌舞伎会出身の役者たち並んだのも嬉しい。


「沼津」

鴈治郎の平作、扇雀の十兵衛という兄弟共演。お米は孝太郎。

正直、しんどかった。1時間40分が長いこと!客席降りとか色々やってくれてはいるのだけれど…。 「足腰にいい薬飲んでんねん」と扇雀がCMに出ているグルコサミン?を匂わせる場面も。薬事法に引っかかるのではと余計な心配をしたり。

途中、体調不良で休演していた寿治郎が復帰していたので一安心。荷持安兵衛役だが、明らかに主人よりだいぶ歳をとっているのはいいのか。

2023年7月8日土曜日

7月8日 英国ロイヤルバレエ団 ロイヤル・バレエ・ガラ

「田園の出来事」

予習せずに初見したのだが、なんというメロドラマ!いろんな男女のバドドゥが観られるのは楽しいが、ちょっとあからさまというか。細かいパッセは恍惚感の表現?

この公演を最後に退団するというラウラ・モレーラがよろめく人妻を情感たっぷりに。全てを失って一人佇む終幕に情緒がある。 全ての女性にモテモテの家庭教師はムンタギロフによく似合う。息子役のアクリ瑠嘉は高いジャンプやきれのある回転を遺憾無く見せ、ボールを使ったトリッキーな振り付けも危なげなくこなした。

20分ほど経ったところで火災報知器が鳴り、一時中断。誤作動だったそうでやがて再開したが、水を差されたようで残念。

「ジュエルズ」よりダイヤモンドのパドドゥはサラ・ラムと平野亮一。神々しい。

「リーズの結婚」のパドドゥはメーガン・グレース・ヒンキスとアクリ瑠嘉。はずむような踊りが楽しい。

「ウィズイン・ザ・ゴールデン・アワー」パドドゥは高田茜とカルヴィン・リチャードソン。ベージュのピッタリした衣装なので、男性は一瞬裸に見えた。 

「白鳥の湖」2幕のパドドゥは佐々木万璃子とルーカス・B・ブレンツロッド。

「ディアナとアクテオン」のパドドゥはヴィオラ・パントゥーソと五十嵐大地。五十嵐の跳躍の高さに会場が息を呑んだ。調べたら、ロミオとジュリエットのマンドリン・ダンスも踊っていて、これからの活躍が期待できそう。

「ロミオとジュリエット」バルコニーのパドドゥはイザベラ・ガスパリーニとジョゼフ・シセンズ。シセンズの踊りはバネのようなしなやかさ。

「クオリア」レティシア・ディアスとカルヴィン・リチャードソン

「精霊の踊り」はウィリアム・プレイスウェル。マリアネラ・ヌニュスが休演で、急遽演目が変更に。

「シンデレラ」のパドドゥを金子扶生とムンタギロフ。

「眠れる森の美女」のパドドゥをサラ・ラムと平野。


盛りだくさんだったけど、それぞれが短く、もっと見たいと思ってしまった。

2023年7月5日水曜日

7月5日 英国ロイヤルバレエ団「ロミオとジュリエット」

金子扶生のジュリエットとワディム・ムンタギロフのロミオ。
ムンタギロフはスラリとした手足で優雅な踊り。ノーブルな王子のよう。優しい雰囲気のロミオに対して、金子のジュリエットはシャープな印象。顔だちのせいもあるが、上手いのだけれど踊りもどこか直線的というか、硬質に感じた。あまり好みではないと思っていたが、3幕の演技には引き込まれた。ロミオが去ってからベッドで佇む時間が結構長いのだが、表情に決意が浮かぶ、最後はなぜか寝台?の向こうへ行って胸を突くので、ロミオの方に近づこうと這い上がる動きが不思議。はじめから近くにいればいいのでは?。 

ティボルトの平野亮一がすごかった、髭もあって、見るからに危ない雰囲気。乱闘の場面には酒瓶を煽りながら現れ、やさぐれた様子ではっきりと殺意を持ってマキューシオを刺す。逆上したロミオとの対決は剣を激しく交え(大きな金属音がしてたから、かなりの力で打ち合っていたはず)、最期はのたうち回っての壮絶な最期。

2023年7月4日火曜日

7月4日 七月大歌舞伎 夜の部

「俊寛」

仁左衛門の俊寛は登場した時から違う。痩せた顔に漂う寂寥感が、離島に流されたもののリアリティを生んでいる。セリフの一つ一つ、動作の一つ一つが胸に迫り、赦免状に自分の名がないかと紙の裏表ばかりか、重なっていないかまで確認する様子など、これまで俊寛を観たときには気にしていなかったところもしっかり印象づける。そして、仁左衛門のオリジナルという、花道に設けた海に踏み込んでいく場面。花道横の席だったので、必死の表情が迫り来るよう。崖を登ってからの最後の場面は、諦観のようなものもあり、短い時間で感情が入り乱れる様がありありと伝わった。

瀬尾の弥十郎か憎たらしい敵役を好演。だが、客席から笑いが起こったのはなぜ? 菊之助演じる丹左衛門が、瀬尾との争いを傍観する時宣言したところでも笑いが起きていたなぁ。
千鳥の千之助は、小柄で可憐な容姿はいいが、立ち居振る舞いやセリフがあざといというか、商売女のよう。田舎娘の素朴さ、健気さがほしい。 (19日に再見し、ますます下手になっていたように見えたのに戦慄した…。孝太郎に習ったとのことだが、言われてみれば所作やそれっぽいかもと思うも、孝太郎の千鳥は可愛かったのに。何が違うのだろう)

「吉原狐」

米吉がいい。気風のよさ、江戸っ子らしい語り口、おっちょこちょいでトラブルメーカーだけれど憎めない。こういうキュートな芸者って、どこかにいそうな感じ。

染五郎は廓で遊興に耽る若殿様はよかったが、後半の落ちぶれてからは板につかない。経験値が足りないのだろう。

千寿の花魁がおっとりと美しい。

2023年7月1日土曜日

7月1日 木ノ下歌舞伎「糸井版 摂州合邦辻」

2度目の再演とあって、役者一人一人の深みが増し、芝居の濃度が上がった。特に、群舞が印象に残った。ダンスのレベルはそれぞれ違うだろうに、誰かが目立つということがなく、よく揃って見える。
圧巻だったのは、合邦が玉手を刺すところで、ヴァイオリン演奏と共に浄瑠璃の語りのような情景描写があり、奏者の気迫のこもった掛け声もあって、緊迫感があった。

玉手の俊徳丸への恋が本当かというのは、色々な解釈があるが、今回は行為の底に恋慕があるように見えた。というのは、回想シーンで、腰元時代の玉手が主人の子どもである俊徳丸と戯れるところで好意を抱いたようだったから。刺されてから、恋は偽りというセリフがあるが、本心ではないと聞こえた。

玉手の内田慈は妖艶さと清廉さが見え隠れして好演。声が良ければなお良かった。アニメを思わせる発生は、子どもの頃はともかく、大人の女としてはどうか。歌も、強めの地声で音程が不安定のが惜しかった。

鑑賞サポートが入って、歌詞の字幕があったのだが、良し悪しと思う。2つの歌詞を同時に歌うところや、聞き取りにくい言葉が明確になる一方、つい字幕を見て役者な目がいかないのはマイナス。

大千穐楽とあって、キャストもやり切った様子で涙ぐむところも。客席はスタンディングオベーション。 

アフタートークで木ノ下が3つのキーワードを解説。1つは音楽、糸井のミョージカル。2つめは太陽と月に象徴される天体。舞台となる高安と天王寺は山と海の象徴。3つ目は神話。弱法師の伝説は遡るとインドの仏教説話、クマラ王子の伝説に行き着く。今昔物語にも同様の話が。おしてるやは難波、さざなみは大津の枕詞。

2023年6月25日日曜日

6月25日 文楽若手会

「義経千本桜」

すしやの段の前を芳穂・友之助。開演時間を間違えて(痛恨!)5分ほどしか聴けなかった。維盛と御台、六君を落とすところまでで、最後は気合の入った演奏だった。

後は希・清丈。権太が登場するところからのスタートで、気迫のこもった語り。懸命に語っていたし、語り分けもできていたが、全体的に平板な感じがするのは何故だろう。清丈は安定感がある。

人形は、お里の簑太朗。身を震わせて泣くところで人形が小刻みに震えていないのだが、意図して?(鑑賞教室の時も思った)。権太は玉翔。身代わりの女房子どもを見送るところで、上を向いて瞼を閉じるところに工夫を感じる。瀕死のはずなのに、動きが大きくて元気そうなのはどうかと思うが。つい先日、仁左衛門の歌舞伎を観たばかりなので、違いが目につく。弥左衛門は簑紫郎で、若手の中にいると上手さが際立つ。

「新口村」

口は薫・清方。よく声が出ていてよいが、チャリっぽいところは少しふざけているよう。後半のフシは、調子外れで、客席から笑いが漏れて気の毒だった。

次は亘・清公。悪くなかったと思うが、あまり印象に残らず。

奥は靖・寛太郎。この日のメンツでは一番の聞き応え。靖は老人が上手く、孫右衛門がいい。梅川も健気だった。寛太郎は柔らかな音色。

人形は勘次郎の忠兵衛。端正な色男って感じ。「今じゃない」で笑いが起きるの、どうにかならないものか。梅川は紋吉、孫右衛門は玉勢。 

「釣女」

小住の太郎冠者、碩の大名、聖の美女、咲寿の醜女は好配役。薫は謡調のところに苦戦してた。

人形は勘介の太郎冠者、玉路の大名、美女の簑悠、醜女の和馬。 頑張ってた。



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2023年6月20日火曜日

6月20日 文楽鑑賞教室 Dプロ

「五条橋」

芳穂の義経は甲高い声にもう少し気品が欲しい。小住の弁慶はいい人そう。
清志郎の三味線は切先鋭いが、この場には柔らかみも欲しい気がする。

「仮名手本忠臣蔵」

刃傷の段は靖・清馗。
師直はもっと意地悪さが欲しいが、大笑いは立派。そこから上を下への騒動は、畳み掛けるような語りがテンポよく、聞き応えがあった。

判官切腹は睦・勝平。
出だしの一言から品がある語りで引き込まれた。最近では出色の出来では? 瀕死の切れ切れの声も良かったし、由良之助の実直な家老らしさも十分。石堂馬右氶は切腹の使者にはしては軽いのが気になった。勝平は、切腹の段取りでのテンの音が明るすぎるように感じた。もっと緊迫感のある、抑えた音がこの場面には合うと思う。

人形は一輔の判官に気品がある。玉佳の由良之助は、登場時の息急き切った様子がいい。

2023年6月19日月曜日

6月19日 文楽鑑賞教室 Cプロ

「五条橋」

咲寿の牛若丸、亘の弁慶、碩、薫に清丈、友之助、錦吾、清方。

咲寿がシンかぁ…と思いつつ、悪くはなかったが、義太夫らしさとはなど考える。亘は弁慶ならもう少し重厚感が欲しい。声の大きさだけでなく。

人形は玉誉の牛若丸に簑太朗の弁慶。

「仮名手本忠臣蔵」

刃傷の段は希・団吾。師直の意地悪さが足りないので面白さが半減。もっとねちっこく虐めないと。あまりの物足りなさに聞きながら自分でも語りそうになったのは初めてだ。大笑いは途中までは良かったが、息切れしてしまったよう。三味線は調弦が甘いのか、オクリの音が気持ち悪かった。

判官切腹は藤・宗介。こうやって聞くと上手いなぁ。薬師寺はねちっこくイヤミだったけど、もう少しカラリとする方がいいのでは。この人は権力を笠に着るタイプだ。宗介之は抜群の安定感。

城明渡しは聖・清允。朗々と響く声がよかった。

人形は玉勢の若狭之助がきっぱりとしてよい。師直は文司。視線でイヤミっぷりを現していて、語りが足りない分、人形の表情が補ったよう。力弥の和馬は若々しさがある。由良之助は玉助。ドヤ顔がなんかなぁ。

2023年6月18日日曜日

6月18日 新国立劇場バレエ団「白鳥の湖」

小野絢子・奥村康祐ペア。
いやもう、素晴らしい。前回より人物描写の深みが増したようで、物語に入り込めたし、テクニック面も文句なし。特に2幕が素晴らしく、王子とオデットが少しずつ心を通わせていく様が丁寧に描かれた。パドドゥはあまりの美しさにただただため息。
小野は指先、つま先まで行き届いた繊細さ。オデットはたおやかで柔らかく、オディールは強かで挑発的と、演じ分けも巧み。グランフェッテはシングルのみだったが綺麗にまとめた。
奥村は王子の心情の変化が手にとるようで、表情がくるくる変わるのがチャーミング。パートナーワークの安定感は相変わらずで、ソロのジャンプや回転も危なげなく決めた。
今日はオケも素晴らしく、踊りとの一体感があった。指揮のポール。マーフィーはメチャクチャ振っているよう(失礼!)に見え、ちょっと走り過ぎ?と思うようなところもピタリとまとめるので、とても高揚感があった。

2023年6月17日土曜日

6月17日 新国立劇場バレエ団「白鳥の湖」

米沢唯・速水渉悟ペア。
ロールデビューの速水は1幕で王子の気品が足りず困惑した少年のよう見え、演技がいま一つと感じたが、踊りのテクニックは十分。特に、3幕のパドドゥではジャンプの大技も決まり、キレのいい回転に思わず声が出た。

米沢は2幕はあれ、と言う感じだったが、3幕の黒鳥は圧巻。挑発的な眼差しがよく、テクニックも存分に見せつけた。グランフェッテではトリプルを連発。騙されたことを知った王子を嘲笑する様が小気味いい。

クルティザンヌは池田理沙子と飯野萌子。飯野は眼差しで王子を誘惑しているのがよかった。

オケがイマイチで、一部が走っているようなチグハグな感じ。そのせいか、踊りとも一体感が感じられなかったのは残念な限り。富田の指揮は躍動感があるのだが、今日はそれが悪い方向に晴れてしまったのか。3幕のファンファーレでトランペットが音を外してたし…。


2023年6月16日金曜日

6月16日 イキウメ「人魂を届けに」

森の奥で暮らす「母」と息子たちのもとに、処刑された男の「魂」が届けられる。絞首刑に処せられた男の体内から出てきたという「魂」はゲル状の黒い塊で、時折苦痛を訴える。遺族が引き取りを拒否したため、刑務官(安田順平)は男が「母さん」と呼んでいた人のもとへ届けにきたのだと言う。

母さんこと山鳥(篠井英介)と暮らす4人の「息子」たちは、本当の息子ではなく、それぞれ心や体に傷を負って森の家に辿り着き、山鳥に介抱されていることが明かされる。それぞれが森へ来た経緯がオーバーラップし、刑務官も中学受験に受かった直後に息子が失踪し、たまたまうまくいかなくなっていると告白して、森の家に居着いてしまう。山鳥が思想犯を街に送り込んでいるのではと疑う公安の男の追求で、山鳥の過去も明かされる。

それぞれの話が交錯し、どこまでが誰の話なのかが曖昧になる。山鳥は男たちをケアしているようだが、そこで暮らす男たちは逆に具合が悪くなっているようにも見える胡散臭さ。

篠井は、実は男であることを指摘された時、一瞬で男の顔になるのに驚いた。回想シーンで妻を演じた浜田信也は長めの髪もあってフェミニンな印象。新境地を見た。冒頭の、1万円で魂を「押し買い」(押し売りならぬ)するところは、いつもの浜田らしかったけど。

いつものイキウメのような、背筋がヒヤリとするような緊張感はなく、穏やかな感じで、つかみどころがないというか、得体の知れない感じだった。


2023年6月14日水曜日

6月14日 六月大歌舞伎 夜の部

「義経千本桜」

木の実からすし屋まで。仁左衛門の権太は何度も見ているしいいかなと思ったのだけど、やはり観てよかった。木の実で小せん、倅善太郎との家族愛が描かれるから、その後の悲劇がより深まる。子どもにせがまれて渋々家に帰ることにし、遊んでやったり、おぶってやったりする権太の子煩悩ぶりがほのぼの。吉弥の小せんもいい女房ぶり。子どもの笛の袋を権太が帯に挟むところでなぜか手間取ると(「今日に限ってうまくいかない」とぼやきあり)、自然に手伝ってあげて、息のあった様子。花道を引っ込むところの「瑞々しいなあ」のやり取りもいい。善太郎は歌昇次男の秀乃助。小柄でとても可愛く、サイコロを振るのを2回続けて失敗してしまうのも愛らしかった。
おかげで、すし屋で妻子を身代わりに引き連れてきてからの権太の表情から目が離せない。後ろを向いて涙を拭ったり、煙が目に染みたふりをしたり、何より最後の別れは言葉がないのに視線がとても雄弁。寄る年波で足取りがしんどそうに感じるところもあったけど、こんなに充実した舞台を見せてくれる人は他にない。

小金吾の千之助は、2回目のはずだが今ひとつ。若武者らしく見えないのは何故だろうと考え、緊張感が薄いからではないかと思った。

お里の壱太郎は、おとくと打って変わって若々しく華やいだ娘ぶり。セリフもいつものクセが薄く、可愛らしいお里だった。維盛は錦之助。おっとりとした優男ぶりがよく似合うが、弥助からの切り替えはそれほどでもなかった。弥左衛門の歌六はさすが。婆の梅花は上方の役者に比べるとあっさりめ。

川連法眼館は松緑の忠信。初めの真の忠信はいい感じで力が抜けてよかったが、狐忠信はいろいろと物足りない。動きが重たいし、セリフも地声(=高くない)でゆっくり話すので、狐らしい軽快さがないのだ。
義経は時蔵。気品あるいい義経だが、静が入って来るところで一瞥だにしないのなぜ⁇ 静は魁春で、なぜか秀太郎を思い出した。

最後はなぜか荒法師が3人だけで、ちょっと寂しい。



6月14日 六月大歌舞伎 昼の部(幕見)

「傾城反魂香」

評判なので幕見で。

中車の又平は正直まだまだ。セリフや所作は型をなぞっているようで、気持ちが入っていないように感じた。あまり表情に感情が出ておらず、どもりのもどかしさや、弟弟子に出世の先を越された悔しさが薄いというか、表面的な感じ。
一方、壱太郎之おとくはこってりと情に溢れ、夫をフォローする役さながら、義太夫狂言の世界を醸し出していた。こちの人のどもりと私の喋りで…のあたりで、猿之助のおとくを思い出した。習ったと言っていたけど、藤十郎から猿之助に教えたものだから、一つ飛んで成駒家の芸なんだよね。
団子の修理之介は颯爽とした好青年だが、セリフや所作はまだぎこちない。追い縋る又平を振り切るところは、峰打ちのようにダメージを与えないと。軽く当てただけでは無理でしょう。
歌六の将監に不足はないが、「片端のくせに」とか、指導者としてどうなの?と思う。将監女房でなく女中に寿猿。意外な配役だが、元気そうで嬉しい。 

虎退治のところで、修理之介と共に又平も名乗り出て、2人で競うのを将監が修理之介に任せたり、出世の先を越された又平のことを農民たちが噂したり、というのはこれまで観たのと違うような…。澤瀉屋の型なのだろうか。

後段の又平住家は初めて観た。大津絵が描かれた襖?から絵の人物が出てきて立ち回り。笑也や猿弥ら澤瀉屋の役者がたくさん出てきて嬉しい限り。大向こうの1人が下の名前で声かけていたので、誰だかすぐにわかった。澤瀉屋だと誰やら分からないものね。

最後は出演者がずらりと並んで、口上。何を言うかと思ったら、この後の演目をお楽しみにみたいな感じで拍子抜け。


2023年6月11日日曜日

6月11日 The ABC of BUNRAKU

 解説はフリーアナウンサーの八木早希と勘次郎ほか。流暢な英語でポイントを押さえた説明が分かりやすかった。会場から3人募って人形体験も。

「仮名手本忠臣蔵」

刃傷の段は芳穂・清志郎。小住と比べると意地悪さがあって、ちゃんと憎たらしい師直だった。清志郎は緊迫感のある演奏。

判官切腹は織・燕三。うーん。重々しい語りだが、何かが違う気がしてしまう。腹を切ってからも声が力強いのだな。燕三の三味線は的確。

城明け渡しは亘・錦吾。

人形は玉助の師直がオーバーアクション。大笑いの後半、口を開けていなかったのはなぜだろう。太夫は後半に向けて盛り上げているのに、合っていないのでは。判官は休演の清十郎に代わって勘彌。黒紋付を脱いで白装束になったところで、着物のしわを伸ばしているのがいいなと。しわくちゃだと緊張感がないと思う。

6月11日 大人のための文楽入門

 解説は亘、清公、簑太郎。亘は裏門の台詞を使って語り分けを実演して見せたのだが、客席の反応は今ひとつ。いきなり「勘平さん、話はすっかり聞きました」とか言われても何のことやら分からないだろうし、子ども→町娘→姫→婆→侍という順も悪かったと思う。地声に近い侍から始めて違いを見せる方がわかりやすいと思った。

「仮名手本忠臣蔵」

殿中刃傷の段は小住・錦糸。悪くはないのだが、師直はもっと意地悪でないと。ねちっこくいじめないと判官がキレる理由がわからなくなってしまう。刃傷に及んでからのドタバタももっと畳み掛けるようなスピード感が欲しかった。やはり若手には難しいのかな。錦糸の三味線はいつもの安定感だったけど、フォローしきれず。

判官切腹の段は呂勢・藤蔵。これこれ、浄瑠璃らしい浄瑠璃。判官が息も絶え絶えのところは、声をコントロールしきれないようなちょっと不規則な音が混じってリアリテイあった。藤蔵の三味線は、さすがに唸り声が控えめで、緊迫感のある場面を描出。ただ、静かな場面で糸を繰る音が少し耳に触った。

人形は玉佳の若狭之助が爽やか。簑二郎の判官はちょっと地味。由良助の玉也は短い出番ながら抜群の安定感で場を引き締めた。茶道珍才は休演の簑之に代わって簑悠。

城明け渡しは御簾内で碩・燕二郎。声がよくでていた。


2023年6月8日木曜日

6月8日 ジャンポール・ゴルチエ「ファッション・フリーク・ショー」

ミュージカルという宣伝をみた気がするが、物語性は薄く、歌や踊りで構成するショー。衣装は全てゴルチエだし、かつてのクラブシーンを思わせるような派手なセットや、映像を交えた華やかなエンターテインメントショーだった。幼少期のゴルチエがテディベアのナナにコーンブラをつけたり(ゴーンブラはマドンナのものではないのだそう!)、生涯のパートナーであるフランソワとの恋愛やエイズによる別れを盛り込んだりと、ゴルチエの人生が垣間見えたのは興味深かった。映像で、カトリーヌ・ドヌーブが参加する豪華さ。

印象に残ったゴルチエのセリフで「ファッションは表面的なものと思われがちだが、自分を表現するために利用すべきもの」「ファッションは消費財ではない」 フリークを肯定的に表現して、ポジティブさに溢れる休憩を挟む約2時間半はあっという間だった。

2023年6月3日土曜日

6月3日 六月博多座大歌舞伎 夜の部

「夏祭浪花鑑」

愛之助の団七はやはりいい。当代一と言ってもいいのでは(とはいえ、上方の団七をする人は他にあまりいないのだけれど)。
今回の注目は梅枝のお梶。期待以上のいい女っぷりで、粋でしっかり者の女房を好演。市松役の子役を抱き上げる様子が自然で、愛之助・団七との睦まじい夫婦らしさも。

徳兵衛は菊之助。スッキリとした男前で、上方らしさはあまり感じなかったが、違和感がないのが大事。 三婦は鴈治郎。ちょっと三の線入ってる感じだけど、上方のいいおっちゃんという風情。

雀右衛門のお辰もよい。「こちの人が…」はさらりとしつつも、懐の大きさが感じられた。吉太朗の琴浦はぼんじゃりとして可愛らしく、歌女之丞のおつぎもよく似合っていた。 

義平次は橘三郎。枯れた感じの憎らしいジジイ。泥場の立ち回りは少しあっさりした感じ。前の客席に泥水よけのビニールが配られたが、全く不要だった。団七の髷の捌きがうまくいかず、ゆるいポニーテールみたいなまま最後まで行ってしまった。殺しの型がいまいち締まらず残念。

翫政が下剃役で名題披露。


「羽根の禿」「浮かれ坊主」

菊之助が全く異なる二役を早変わりで。2列目センターという良席だったので、目が合うようでドキドキ、坊主姿のとき、薄手の羽織から褌のみの生尻が透けて見えて目のやり場に困った。

「三人吉三」

梅枝のお嬢は鳥屋口から数メートル出たところで立ち止まり、夜鷹に狙いを定めたことを示す演出。あまり客が見ていないところでも、細かく演じているのに感心した。女→男→女の変わり身も鮮やかで惚れ惚れ。お坊は萬太郎。口跡の良さはらしいけど、たっぱがもう少しあったらな。和尚の彦三郎はイケボで場をまとめた。 

2023年5月28日日曜日

5月28日 第13回ストラディバリウス サミット・コンサート

 ヴァイオリン7、ヴィオラ2、チェロ2、コントラバス1にチェンバロという構成で、うち11挺がストラディバリウスという。奏者は全てベルリン・フィルより。

モーツアルトの「ディベルティメント ニ長調」に始まり、バッハの「2つのヴァイオリンのための協奏曲 ニ短調」、ヴィヴァルディの「2つのチェロのための協奏曲 ト短調」、休憩を挟んでヴィヴァルディの「四季」。

フルオーケストラでなく、弦楽器のみのためか、全体的にテンポが速く、軽い感じで、ジャズのセッションのような雰囲気も。圧巻だったのはチェロ協奏曲で、掛け合いのようなスリリングな演奏がとてもセクシーと感じた。

ヴァイオリン協奏曲や四季では、ヴァイオリニストそれぞれがソロを担う見せ場があったのだが、ヴィオラは終始サポート役でちょっと不憫。

2023年5月26日金曜日

5月26日 能狂言「鬼滅の刃」

再演でなく追加公演なのだそう。
昨年の大阪公演が良かったのでもう一度観たいと思ったのだが、初見時の興奮はなく、随分あっさりした印象で時間も短く感じた。 よくまとまっているし、能狂言の面白さも分かるし、決して悪くはないのだが。度重なる再演で演者側の緊張感が緩んだのか、内容の薄さか。

開演前に裕一、裕基、太一郎のアナウンス。「花金にようこそ」みたいなコメントがあったので生だったのかな。


2023年5月21日日曜日

5月21日 文楽公演 第3部

「夏祭浪花鑑」

住吉鳥居前も口を碩・錦吾。
明るい声が端場の導入にはいい。錦吾は落ち着いた表情で、安定感が出てきた。
奥は三輪・団七。
三輪は泥場の義平次のイメージだったが、この場面でも出番はあるか。

内本町道具屋の口は咲寿・寛太郎。いつになく落ち着いた語りは三味線のリードゆえ?
切は錣・宗介。この場はあまり観たことがないが、磯之氶のダメっぷりがよくわかる。

人形は和生の義平次が意外にもよく、憎らしい舅。磯之氶は清五郎で、優男ぶりはいいのだが、人形を構える高さが変でないか? 屋内では床にめり込んでいるみたいで、団七との身長差から巨人のように見えるし、外に出ると宙に浮いているみたいだった。

釣船三婦内の切は呂・清介。せっかくの見せ場なのに、終始ぬるい。三婦とお辰のやり取りも緊迫感がなく、コレジャナイ感にいたたまれなくなった。若太夫襲名を発表したのだから、もっと奮起して、十代目のような魂の語りを聞かせて欲しい。襲名してからなんて出し惜しみせずに。
アトは亘・友之助。こちらは荒削りながら、緊迫感はあった。

長町裏は藤の義平次に織の団七、清友之三味線。
藤の義平次は悪くないのだが、織とは相性が悪いのか掛け合いがしっくりこない。織はかっこよすぎ。冒頭のカゴを呼び止める声は、追いついてからあの位置関係で話すにはボリュームが大きすぎないか?と思ったり、誤って切ってしまってから「毒食らわば」までの葛藤が感じられず(当然のことをしてるみたいな悪びれなさ)、最後の「悪い人でも〜」のセリフは自分に酔っているみたい
だった。
人形は勘十郎ほ団七は慣れたものだが、30両と偽る石を包むのが雑(義平次に丸見え)でないか?た思った。殺しの場面の型の美しさはさすが。和生の義兵次はやり過ぎない感じ。断末魔の死んだと思いきや再び起き上がるところ、以前見たのは人形の顔が変わる仕掛けがあったと思うのだが、そのままだった。

5月21日 文楽公演 第2部

「菅原伝授手習鑑」二段目

道行詞の甘替
桜丸の希、斎世の小住、苅谷姫の碩に聖、文字栄のツレ、三味線は清志郎、清丈、燕二郎、清允、清方。主要キャストの声のバランスがいい。特に苅谷姫の碩が姫らしい可憐さを描出。
人形は玉佳の桜丸、所作事の柔らかみのある動きが役に合っている 。簑紫郎の苅谷は滑らかで可憐さがあるのだが、どこかあざと可愛い感じがした。

安井汐待は睦・勝平。
高温の掠れがなければ。力の入ったいい語りなのに、掠れているせいで登場人物の語り分けがはっきりしない。特に女性に難あり。

杖折檻は芳穂・錦糸。
掛け合いでないのは初めて? 語りだしからいつもと違って、全体的に落ち着いたというか、不要な力みがなく、聞き良かった。

東天紅は小住・藤蔵。
珍しく出だしのバチが引っかかった? 小住は堂々として声量も十分あり、頼もしい。

宿も太郎詮議は呂勢・清治。
覚寿に品があり、三老女の風格。安心して聞ける。

菅丞相名残は千歳・富助。
前半は力が入りすぎて大仰に感じたが、後半は威厳に変わって、切語りの面目躍如。歌舞伎の静謐さとは違って、最後まで激しい。

人形は、和生の覚寿が素晴らしい。




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2023年5月20日土曜日

5月20日 文楽公演 第1部

「菅原伝授手習鑑」

大序は御簾内で聖、薫、碩、亘、小住のリレー。三味線は見えなかったけど、清方、清允、燕二郎、錦吾の順か。初めの組の声が苦しそうで、三味線の音が硬かったほかは、特筆すべきことはなし。碩の晴れやかさ、小住の安定感は声を聞いただけでわかる。
人形は前半、ほんと木偶の坊にじっとしたまま。大序って登場人物紹介みたいなものだから、語られてる当人物は小さくてもアクションがあるべきでは? 詞になってようやく動くのでなくて。また、時平が斎世親王の冠や衣服を剥ぎ取るところで微動だにしない菅丞相ってとつなの?慌てたり、助けようとしたりしないのはかえって不自然ではと思うなど。

加茂堤は希、津国、南都、咲寿の掛け合いに団吾の三味線。苅谷姫と八重を咲寿が語ったのだが、発声が苦しそうで姫らしい可愛さに欠ける。地のところは正面を見据えて語り、地に足のついた感じで悪くない。桜丸は希だが、兄弟のなかで一番優しいとはいえ、舎人とは思えない弱々しさ。松王の津国はしっくりだが、南都の梅王もあまり似合わず、配役に難ありとり思った。
人形は簑紫郎の苅谷姫が繊細な動きで可憐さを描出。桜丸の玉佳、八重の紋臣は若々しく仲のよい夫婦らしい。斎世親王は玉勢。牛車で登場するので最後まで誰だか分からないのだが、逃げっぷりがいい(笑)

筆法伝授の口は亘・清公。語り分けがしっかりして聞きやすくなった。
奥は織・燕三。深刻そうな顔、物々しい語りは相変わらず。ちょっと控えめだったものの、大仰な感じがして冷めてしまう。希世のチャリっぽい声も大袈裟で耳につく。ハッとしたのは三味線で、要所要所で場面を締めるような音があって、救われた。

築地は靖・清馗。のっけから緊迫感のある語りで、ても清々しく嫌な感じはしない。最近の頑張りが実りつつある気がする。三味線はいつもながら、ツボが甘いのか時折気が抜けたように聞こえて水を差された。 

2023年5月17日水曜日

5月17日 ROCK BALLET with QUEEN

2021年初演時に観て、また観たいと思っていたので日帰りで参戦。のっけから引き込まれて、大いに充実。強行軍だったけど悔いはない。

再演ということだが、だいぶ印象は変わった。音楽をフルに使っている感じだし、ダンサーたちがより音に乗っていて、作品としての密度が上がった感じ。
功績大だったのは、初参加の二山治雄。オープニングの紗幕前のソロに始まり、誰よりも動いているのでは?というくらい踊りっぱなし。高い跳躍やシャープな回転、柔軟な身体性など高度なテクニックを遺憾なく発揮した。ミリオネアワルツだったか、井澤駿とアラセゴン対決みたいな場面があって、回転数や軸の安定性が素晴らしくて曲の途中で拍手が起こった。彼が加わったおかげで、主旋律が1本加わって音楽が重厚になった感じがした。男性陣の中では小柄で、少年っぽい雰囲気が妖精のよう。物語を進める狂言回し的な役割にも見えた。

紅一点の米沢唯は、よりダンスの見せ場が増えた感じ。男性陣を手玉に取る小悪魔っぷりがチャーミングで、二山とは姉弟のようでもあり、イタズラを仕掛ける共犯者みたいな雰囲気も。2人で踊るところはリフトは少ないのだけれど、技術を見せつけ合うような高度な振り付けを軽々とこなす。 

音楽の繋ぎも洗練され、We Will Rock Youでは、男性4人が足踏みとクラップでリズムを刻んでから曲に繋げたり、ピアノの編曲を交えたり。 1時間あまりの舞台があっという間だった。

振付の福田圭吾は、バーテン役で登場。ポーズをとっているだけで笑いが起き、絶妙な間は大阪人のセンスなのか。

会場には福田の師、矢上久留美の姿も。立ち上がって拍手をされていたので、師匠の目から見ても満足の出来だったのでは。

5月7日 霜乃会本公演 霜華咲源平物語

源平をテーマに。タイトルは碩の案だとか。

茶道のお手前から始まり、源平にちなんだ道具の紹介。背後の生花もちなんで、紅白の芍薬や弟切草など。

浪曲は幸太の「弁慶」。かたりや啖呵が少なく、フシで物語を進める感じだつたのだが、旋律が単調に感じた。息が長いのは感心。

能は仕舞「巴」を林本大。衣擦れの音が聞こえるほどの至近距離。

碩と燕二郎は素浄瑠璃で「一谷嫩軍記 須磨浦の段」。懸命な演奏に好感が持てる 。

最後は南龍の講談で「那須余一」。笑いを取り混ぜつつ、飄々とした語り。



2023年5月14日日曜日

5月14日 歌舞伎鑑賞教室

南座の鑑賞教室。今年の解説は南龍。講談師らしく滔々と歌舞伎や南座の歴史を紹介するのだが、出雲阿国のかぶき踊りが四条河原だったことが抜けてたのは惜しい。いつものように微妙にウソを混ぜての笑いをとるも、客受は微妙だった。
當志哉を交えて黒衣の役割、千太郎を交えて、歌舞伎の効果音や見栄などを解説。眼目は忠臣蔵の一場面を語る講談に合わせて、祐次郎、愛治郎が立ち回り。


「妹背山婦女庭訓 願絲縁苧環」

吉太郎のお三輪、りき彌の橘姫、千次郎の求女。 
吉太郎の初々しさ、健気さと、りき彌のクールビューティーぶりが好対照。千次郎は珍しい白塗りの二枚目ぶりで、薄情な求女を好演。
花道の引っ込みで、苧環の糸が切れたことを知ったお三輪の失望、それでも求女を追いかける必死さが痛々しいほど。上方歌舞伎会の時も良かったけれど、さらに表現力が増したよう。

2023年5月6日土曜日

5月6日 KYOTOPHONIE KOKI NAKANO &MINOSHIRO YOSHIDA

現代音楽の中野公輝と簑紫郎のコラボ。「関寺小町」を題材に、新たに作曲したピアノ曲に合わせて人形が舞う。
ピアノはサンプリングした音源やピアノの中に手を入れて直接ピアノ線を弾いたり、押さえてミュートしたりする(内部奏法とか言ったか)手法が現代的なのか。初めの曲はピアノソロだったが、人形が出てきてからはこちらに気を取られてあまり印象に残ってないのだが、どの辺が関寺なのかピンと来なかった。現代音楽に造詣の深い人なら違う感想なのかも。
簑紫郎の関寺は仕草が普段以上に細かく動いていて引き込まれた。通常、1手で動くところ、3〜4手使っているような印象。関寺がひとくさり終わった後、若い娘の人形が傘を持って舞うので、若かりし日の小町かと思ったら、鷺娘なのだそう。なんで? アフタートークで転生後のようなことを言っていたが、しっくりこなかった。

2023年5月5日金曜日

5月5日 新国立劇場バレエ団「シェイクスピア・ダブルビル」

小野絢子・奥村康祐ペアを再見。体調を整えて臨んだので、十分に楽しめた。とても濃密な1時間だった。

奥村のマクベスは線の細さが武将らしくはないのだが、繊細で、夫人の言うがままに動かされてしまう弱さがあった。ダンカン王殺害に逡巡し、夫人に焚き付けられて事に及ぶまでの心理描写がくっきり。バンクォー乃亡霊に怯える様、夫人の亡骸を抱き抱えて嘆くパドドゥ、最後の闘いに向かう悲壮感。どれも濃密で、息を呑むほど。

小野のマクベス夫人は妖艶。振り切った演技でマクベスをリードする欲望の強さを描いた。夢遊病の場面が唐突に思えたが、アフタートークによると、その前の寝室の場面で、マクベスを叱咤激励しつつも、一人のときには弱さを垣間見せたと聞いて納得。死んだあとのパドドゥはぐったりとしていながら、美しさを保っているのが圧巻だった。

衣装もとても素晴らしいのだが、男性ダンサーの靴が黒のバレエシューズだったのが気になった。コスチュームのなかでそこだけ普段のレッスンみたいで。

《アフタートーク》

奥村 やっと終わったという開放感と寂しさ。1つの感情だけでなく、複雑に絡み合う。野心だじゃない、たくさんの感情がミックスして、普段生きている時のような感情。人間らしい役でやりがいがあった。生きていればでてくる感情を全て使うというか、とてもエネルギーのいる役で1回終わるとぐったりしてしまった。

小野 どの役も新たな挑戦。血に興奮する役は初めてだが、特別ではない。自分とかけ離れた役は逆にやりやすい。楽しかった。

奥 タケットのイメージを見つけていく感じ。見本がないので、自分たちが出したものがそのまま振り付けになる。緊張感があり、これでいいのかという不安も。













2023年5月4日木曜日

5月4日 新国立劇場バレエ団「シェイクスピア・ダブルビル」

「マクベス」
米沢唯・福岡雄大ペア。
福岡のマクベスは体格の良さが騎士らしく、よく知るマクベス。王位に関心はなかったが、妻に焚き付けられて王位への野心を抱くものの、元々関心はなかったので今一つ煮えきらないというのがよく分かる。米沢のマクベス夫人は、ちょっと冷酷な感じが身分の高い人らしく、これも役柄によくあう。 

「夏の夜の夢」
柴山沙穂・渡邊ペア。
柴山之ティターニアは女王の威厳や強さがあり、イメージに近い。
パックの山田悠貴は細身て軽快なのがいいが、少し知恵が足りない感じ。


2023年5月3日水曜日

5月3日 新国立劇場バレエ段「シェイクスピア・ダブルビル」

「マクベス」
小野絢子・奥村康祐ペア。演技派の2人なのでと期待が高すぎたのか、ちょっと期待外れに感じた。奥村は線は勇壮な軍人には線が細いし、小野の妖艶さは身の丈に合わない服を着ているようでしっくりこない。体調がすぐれないこともあり、途中少し意識が途切れた。

マクベス夫人が自殺してから、ぐったりしたままのパドドゥは身体性の高さに目を見張った。

カーンコールで子供たちが顔に血糊のついたままで、ニコニコ笑っているのがシュールだった。

「夏の夜の夢」

オーベロンの速水渉悟はこれまでみたことないほど、堂々とたくましく威厳がある風貌。ティターニアの池田理沙子は女王というには可愛らしい。小姓と並ぶのが似合う。
パックの石山蓮は体格が良すぎ? オーベロンよりがっしりしているのはちょっと違和感がある。 ボトムの福田圭吾は笑いのセンスがいい。大阪人気質?

軽いコメディのはずなのだが、最後、ティターニアが酷い目に遭わされたとも知らずに和解するラストの後味が悪かった。 


5月5日に再見。体調を整えて臨んだので、「マクベス」の世界観を十分に楽しめた。とても濃密な1時間だった。 

奥村のマクベスは線の細さが武将らしくはないのだが、繊細で、夫人の言うがままの弱さがよく表されていた。ダンカン王殺害に逡巡し、夫人に焚き付けられて事に及ぶまでの心理描写がくっきり。バンクォーの亡霊に怯える様、夫人の亡骸を抱き抱えて嘆くパドドゥ、最後の闘いに向かう悲壮感は濃密で、息を呑むほど。 

小野のマクベス夫人は妖艶。振り切った演技でマクベスをリードする欲望の強さを描いた。夢遊病の場面が唐突に思えたが、アフタートークによると、その前の寝室の場面で、マクベスを叱咤激励しつつも、一人のときには弱さを垣間見せたと聞いて納得。死んだあとのパドドゥはぐったりとしていながら、美しさを保っているのが圧巻だった。 

衣装もとても素晴らしいのだが、男性ダンサーの靴が黒のバレエシューズだったのが気になった。上衣はややシンプルながらもコスチュームらしいのに、足元だけ普段のレッスンみたいでそぐわない。

2023年4月30日日曜日

4月30日 文楽公演 第1部

「妹背山婦女庭訓」大序から二段目。

大序は御簾内で若手のリレー。太夫は亘→薫→碩→聖→小住、三味線は燕二郎→清方→清允→錦吾。太夫は皆よく声が出ていたが、やはり小住と碩に安定感がある。三味線は燕二郎の音が少し尖って聞こえたのだが、大序だから?

小松原は靖の久我之助、咲寿の雛鳥、南都の小菊、文字栄の桔梗、津国の玄葉に団吾。靖は清々しい好青年ぶりがいいが、咲寿は上擦ったような声がひねた感じがして可愛らしくない。終始上目遣いで語っていたのも気になった。人形は一輔の雛鳥と玉佳の久我之助の初々しい恋模様が微笑ましい。

蝦夷子館之口は亘・清公。清公の三味線は丁寧でいい。藤・清志郎。藤は声がいいし、情景描写も的確。清志郎は盆が回った時から目つき鋭く、三味線の音色もシャープで目が覚めるよう。

二段目の猿沢池は希・寛太郎。寛太郎がリードして声はよく出ていたけれど、緩急がなくのっぺり聞こえる。

鹿殺しは御簾内で碩・錦吾。三作が利発そうで可愛い。

掛乞は靖・清馗。ちょっとほっこりする場面で、お梶と米屋のやり取りの間が良く、笑えた。米屋の簑紫郎も浮かれた感じの登場から好演。

万歳は織・燕三、燕二郎のツレ。織はのっけから思い詰めたような真剣な表情で、重々しく語るのだが、ここってそんな場面なの?前回寝落ちしてしまった万歳踊りは、三作の玉彦が好演。踊りの手が滑らかで、達者だった。

芝六忠義は千歳・富助。改めて、山場が盛りだくさんで、千歳の熱演に圧倒される。三作の自己犠牲を嘆くお梶、忠義のためと我が子に手をかける芝六、重なる悲しみに襲われるお梶、と思ったら、三作は奇跡的に助かって出世を遂げる…と感情の上げ下げが激しく翻弄される。三味線も途中、琵琶のような音があるなど色々な音、旋律でききごたえがあった。


2023年4月23日日曜日

4月22日 四月大歌舞伎 夜の部

「与話情浮名横櫛」

22日は3階席から、23日はとちり席で仁左衛門・玉三郎の黄金コンビを堪能。月初めに体調不良で休演した仁左衛門は復帰後は恙無く舞台を勤めているようだが、心なしか顔が痩せたような。ただ、口跡のよいセリフは変わらずで、前半の坊ちゃんらしい頼りない風情から、たかりに変貌したやさぐれた様子も鮮やか。そして、お富との絡みの色香がすごい。見つめ合う目と目、触れ合う手と手、惹かれ合う男女の吸引力に当てられっぱなしだ。源治店での再会後、再びの別れを惜しんで見つめ合う視線から思いが溢れるよう。玉三郎は粋な江戸の女で、ちょつともっちゃりしたセリフに風情がある。
それにしても、終わり方が唐突というか、与三郎がお富を抱き寄せて「生涯離さない」というハッピーエンドはいいとして、あれだけ怒っていた与三郎の急変ぶりに戸惑う。
多左衛門は初日から休演していた左團次に代わって権十郎。左團次だったら、と思わずにいられなかった。 藤八の松之助のおかしみ、蝙蝠安の市蔵の小悪党ぶりなど、ワキも充実していて、大歌舞伎をみたという充実感があった。
22日は大向こうが2人ほどいたが、ちょっと過多だった。与三郎の名台詞「しがねえ恋の〜」の前に「待ってました」は不要だし(しかも、五月雨で2度かかった)、連獅子ではやたらと「紀尾井町!」の声かけ。

「連獅子」

尾上松緑・左近の親子共演。踊りの家だけあって、左近は体幹がしっかりしていて、危なげない。楷書のような、端正な動きが子獅子の役にも合っている。百回りは数回転のみで、やりすぎないところがいい。
後半の獅子の精になってからは、子獅子が花道を後ろずさって戻るところは3階席からだと全く見えず。毛振りははじめ下向きに揺り動かすだけの場面が多く、物足りなく思っていたが、最後は長く、そしてハイスピードで回しまくるのに思わず涙が出た。連獅子で泣いたの初めてかも。


2023年4月21日金曜日

4月21日 林宗一郎の能遊び

有斐閣弘道館で素謡の「熊野」。
能楽師5人の生声を間近で聞く贅沢。 

シテの宗一郎は途中、地謡からシテの謡に移るところで一瞬詰まり、隣の味方團が出だしを教える場面も。アフタートークで、普段の演能ではシテのところだけ謡えばいいが、素謡だと地謡もあるので咄嗟に頭が回らないのだとか。

2023年4月17日月曜日

4月16日 文楽公演 第2部

 「妹背山婦女庭訓」三段目

太宰館の段は睦・勝平。このコンビで定着しつつあるのかな。睦は声の掠れが厳しい。

妹山背山の段は呂・清介の大判事、織・藤蔵の久我之助、錣・宗介の定高、呂勢・清治の雛鳥。妹山がとてもよく、泣かされた。呂勢は前回の定高をもう一度と思っていたが、可憐な雛鳥もよく似合う。というか、雛鳥がよくないと泣けないと思った。語りだしはそれほどでもなかったが、割り台詞など音楽的なところが耳に心地よく、雛鳥の可憐さが胸に迫る。後半、定高と声を合わせての語りも心震えた。錣の定高は武家の女主人にしてはウエットすぎる気もするが、情感に溢れるのは悪くない。

一方の背山は…。織の久我之助はちょっと武張すぎるのか、もったいぶったように感じてしまう。呂の慎重な語りは大判事に合っているのかも、と思いつつも、どうにも共感しにいキャラクターだ。久我之助が腹を刺してから「覚悟の切腹急くことはない」とか言われると、どうしても笑ってしまう。

人形は、一輔の雛鳥、玉佳の久我之助がどちらもやりすぎないながら、情が感じられてとてもよい。和生の定高、玉男の大判事h言わずもがな。

2023年4月15日土曜日

4月15日 文楽公演 第1部

「妹背山婦女庭訓」

大序はパスして、小松原の段から。靖の久我之助、咲寿の雛鳥・采女、南都の小菊、文字栄の桔梗、津国の玄蕃に団吾。中では靖之語りに安定感がある。爽やかな好青年といった風情。咲寿の雛鳥は何だか年増が若作りしてるみたいで、可愛くないのは何でだろう。文字栄の女役はあまり聞き覚えがないので、新鮮だった。

人形は出遣いではなかったのだが、一輔の雛鳥の可愛らしいこと!結構グイグイ久我之助に迫るのだが、可憐さがあるので厚かましく見えないのがいい。

蝦夷館の口は亘・清公、奥は藤・清志郎。

二段目の猿沢池は希・寛太郎。

鹿殺しは御簾内で碩・錦吾。杉松が健気で可愛い。

掛乞は靖・清馗。

万歳は咲の病気休演で織・燕三。なぜか後半の記憶が…。体調がすぐれなかったこともあるけど。

芝六忠義は千歳・富助。風格を感じさせる、切語りらしい語り。それにしても芝六、どうして幼い子に手をかけるのよーと思う。

2023年4月9日日曜日

4月9日 文楽公演第3部

 「曽根崎心中」

生玉社前の段を三輪・団七。なんだか、耳に馴染まない感じで、三輪ってこんなだっけ?と戸惑って終わった。なんというか、あまり音楽性を感じられなかった。

天満屋の段は呂勢・清友。珍しい組み合わせだと思うのだが、正しい曽根崎心中を聞いた気分。こういうのが聴きたかったというような。お初はのっけから悲しみに沈んで思い詰めているし、徳兵衛は八方塞がりでもう行き場がない。どうしようもない状況がこれでもかと描かれるのは正直うんざりなのだが、美声に酔わされてしまう。

天神森の段は芳穂のお初に希の徳兵衛、ツレに小住、聖。三味線は錦糸、清丈、友之助、清公演、清方。錦糸の三味線に期待していたのだが、お初より徳兵衛を軸に物語が進むので、錦糸の三味線を堪能…というわけには行かなかった。また、今回の演出か小住の語りが意外と多かった。

人形は勘十郎のお初に玉助の忠兵衛。勘十郎は慣れたもので、天満屋では後毛が数本顔にかかって、哀れな中にも色気があった。玉助は…、気負いがあるのか、いつも以上に顔で芝居をしていて、生玉社で袋叩きにされるところなどは、本人の体がフラフラになって人形より目立っていたのはどうかと思った。



4月8日 林追善能

仕舞「胡蝶」 は林彩八子。

「安宅」
田茂井廣道のしてに、ツレの同山が9人に子方の田茂井律朗。ワキは福王知登にワキツレに河村大、曽和鼓堂。太刀持に茂山千之丞、強力にあきら。
田茂井廣道は詞章が聴きやすく、細かいところまで物語が鮮明に分かった。子方が可愛らしかった。弁慶が杖で打つところは、軽くだけど肩や笠に当たっていて、結構大きな音が出てびっくりした。(歌舞伎で寸止めするのに慣れていたので)
弁慶以下、10人の従者が並ぶと迫力がある。正体がバレたかと従者たちが立ち向かおうとするのを弁慶が押し留めるところは、止めるというより少しずつ押し出されいるよう。

「魚説教」
茂山七五三の出家、宗彦の檀家。
七五三の出家は嫌味のないとぼけた様子がしみじみ可笑しい。宗彦は念仏の代わりに魚の名前を並べ立てるのにあきれるところで、なんとも悲しそうな顔をするのが堪らなかった。


「求塚」 
林宗一郎のシテ、ツレは井上裕之真、杉浦悠一郎。ワキは福王茂十郎、ワキツレに中村宣成、喜多雅人。
演劇性の高い曲だ。シテの宗一郎は声がよく、面を掛けていても詞章がはっきりと伝わる。菟名日少女に起こったことや、心情が鮮明に感じられた。求婚者が塚の前で差し違えるところなど、つまづいたように一歩踏み出すのにハッとさせられたし、後シテの理不尽な罰に恨みを吐露するくだりや、劫火に焼かれるところは痛みが伝わるようだった。全く救いのないラストに打ちひしがれる思い。
でもまあ、何とも理不尽な話だ。美しく生まれたことが罪だと?2人の求婚者に非はないのか。
地頭に観世宗家、ワキに福王茂十郎、小鼓に大倉源次郎という錚々たる顔ぶれ。杉市和の笛が息も絶え絶えといった音色だったのは、調子が悪かったのか、そういう演奏なのか。

「海士」 
松野浩之のシテ、子方に林小梅、原大のワキ、ワキツレに有松遼一、岡充、原陸。
求塚でエネルギーを使い果たしたのか、あまり執着できず。あまり印象に残っていない…。





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2023年3月30日木曜日

3月29日 ロイヤル・バレエ「赤い薔薇ソースの伝説」

映画にもなった小説が原作で、とても濃密なストーリー。メキシコが舞台だからか、主役の2人はフランチェスカ・ヘイワードとマルセリーノ・サンベは浅黒い肌でラテンアメリカの人らしい。官能的なパドドゥが美しく、際どいのだけれどギリギリ下品にならない。ラスト、2人が炎に包まれる(プロジェクションマッピング?)のはちょっと笑ってしまった。
あらすじを予習して行ったので、展開についていけないことはなかったけれど、とても物語性の強い作品なので、予備知識なしだったらチンプンカンプンだったかも。
ママ・エレナのラウラ・モレーラは、死後、髪を逆立てた姿で出てくるのが、ちょっとやりすぎというくらいに怖い。家族のしきたりでペドロとの関係を許されないティタも可哀想だが、ティタの代わりにペドロと結婚する長女のロザウラ(マヤラ・マグリ)はもっと哀れ。よそ者である革命騎士と駆け落ちしてしきたりから逃れる次女が一番うまくやった感じ。
舞台後方に一列に並んだ、花嫁姿(後ろ姿は髑髏)の人たちが無言で編み物をするのは何の暗示だろうか。 



2023年3月26日日曜日

3月26日 新作歌舞伎 FINAL FANTASY X

話題のFFX歌舞伎。好評判を聞き過ぎて期待値が高過ぎたのか、前編はそこまででも…という気分だった。ルールーの梅枝は格好いいし、ルウナの米吉はかわいいし、(ゲーム原作を知らないけど)キャラの再現度は高そう。ただ菊之助のリュックは(オリジナルに寄せているのだろうけど)「ッス」ってセリフにどうしても馴染めないし、ユウナやリュックが「君は…だよ」というような、「(男性が好む)女性アニメキャラ」みたいな口調が苦手だ。映像の活用も、ゲームの世界観なのだろうけど、アールのかかったスクリーンが動くのでクラクラするし、同時に客席が動くから余計につらい。6 列目の席は 役者の表情が見えていいけど、スクリーンも含めて舞台全体を見るには近すぎた。あと、ステージが低いので、前の方で芝居すると足元が見えなず、梅枝の立ち回りで、せっかくの海老反りが見えんかった(涙)。 

…と思っていたのだが、後編は良かった!何より、芝のぶ演じるユウナレスカの存在感たるや! 凄みがあって、ラスボス感があった。何より声の使い方がすごい。前編ではティーダの母やら、ブリッツボールのファンやら、色々や役をやってなお、というのがまたすごいなぁ。丑之助の祈り子も、重要な役を説得力を持って演じて舌を巻いた。 教え諭すような声で語るのが、誰か大人がアフレコしているのでは⁉︎と思うほど。子ティーダとは別人のようだった。カーテンコールは写真撮影OKで、客席降りもあって盛り上がった。終演時間が押すのではという懸念も、サクっっと切り上げてくれて、ちゃんと最終の新幹線に間に合って安心。





3月25日 霜乃会plus 番外編

会場の山村能舞台のある尼崎にちなんで、太閤記を講談と文楽で。

新作という、導入のような話を南龍が10分あまりしたのち、碩と燕二郎の素浄瑠璃で「絵本太功記」の夕顔棚。なんとなく、尼崎の場面を想定してしまったのだが、夕顔棚はその前段だったと聞いていて気付いた。碩は花粉症で調子が悪いとのことだが、よく通る声で、さつきや久吉、十次郎らの語り分けも明瞭。燕二郎は輪郭のはっきりした音で、清々しい感じがした。

南龍の「太閤記 尼崎一騎駆け」は、いろんな登場人物が入れ替わり立ち替わり出てきて、話の筋は把握し切れなかったのだが、口跡のよさで引き込まれた。話のテンポが良く、3万の軍勢をあえて小声で表現するなど、緩急の効いた語り。 

冒頭と最後に、進行役の朝原を交えてトーク。大汗かいて語る義太夫節に対し、講談や落語は汗をかいてはダメなのだとか。碩は、義太夫節は音曲の司だから音楽的要素が強いと思っていたが、この会でら他の芸能を知るなかで、語り物であることを意識するようになったそう。

2023年3月25日土曜日

3月24日 詁傅の会

「国姓爺合戦」獅子が城の段は睦・勝平。
いずみホールの音響が良過ぎて、残響が耳に障った。三味線の叩き撥や太夫の声が空間に広がって残るので、言葉がボヤけて頭に入らず、集中できなかった。掠れ声が気にならなかったのも残響のせいかも。1時間あまり、息切れせずによく語ったが、とても長く感じてしまった。もっと邦楽に適したところで聞き直したい。

「冥途の飛脚」封印切の段は千歳・富助。
こちらは前の2人よりは音響が気にならなかったが、やはりいつもよりは響いた。先週、京都公演で聞いたばかりだけど、語りに集中した分、梅川の切なさが迫った。語りのせいか、八右衛門がとてもいい男に感じ、忠兵衛のしょうもなさが際立った。


2023年3月22日水曜日

3月21日 三月花形歌舞伎 Aプロ

壱太郎の勘平。山城屋の勘平は見たことないと思うのだが、セリフの端々が似ていると感じた。純粋な上方の勘平は初めてかも。一番の違いは、部屋の片隅で後ろを向いて、知らぬまに腹を切っている。 
千之助のおかるは受け身の女という感じで、ちょっとキャラが違う。
千次郎のおかやが哀れ。本業に近く、おかやが主役の場面と思った。

鷹之資の定九郎は目張りのキリッとして格好いい。客席の正面を見据えるようなところは、ちょっと役と違う気がした。


「忠臣いろは絵姿」
Bプロと同じなのだが、八、九段目の場面の変わり目で、右近がボソリと何か言って、千次郎の顔色が変わったのが気になった。何言われたのだろう。

2023年3月19日日曜日

0319 老木も若みどり

 若手による浄瑠璃と能。

小住・寛太郎の「妹背山婦女庭訓」花渡しの段。定高の気品、大判事の無骨さ。懸命に語る小住を寛太郎の三味線が支えていたように感じた。

能「高砂」は山本麗晃のシテ、笠田祐樹のツレ、ワキに福王知登、ワキツレに福王和幸、喜多雅人、アイに野村太一郎。麗晃は成長途上というか、謡の調子や舞に不安定さが残る(アフタートークで話す様子がそのまま舞台にある感じだった)。


3月19日 三月花形歌舞伎 Bプロ

解説は壱太郎。テンション高く、早口なので、忠臣蔵を知らない人にはどれくらい伝わったろう。史実の赤穂事件と、時代を変えてあることの説明はあったが、名前を変えてあることの説明はなし。そもそも観客は赤穂事件を知らない前提なのか。

五段目、六段目は右近の勘平で江戸の型。キリッとした二枚目で、終始格好いい。間抜けなことをする時も、人倫にもとる行為をする時も、腹切りでさえも美しく見せる。今まで見た右近で一番格好いいと思ったが、二枚目過ぎて、あまり哀れは感じないかも。
莟玉のおかるは、吊り目気味の化粧のせいか少し冷たそうに見えた。
定九郎と数右衛門に吉之丞。吉右衛門門下だけあって、拵えがよく似ていた。
二つ玉からでなく、山崎街道からするのは、勘平が金を必要としていることがはっきりと分かるので、初心者には親切。

「忠臣いろは絵姿」

七段目から十一段目を舞踊仕立てでというのだが、初見の人には何が何やら分からないのでは? 芸者春虹の壱太郎、幇間栄寿の右近、茶屋娘おせんの千之助が、忠臣蔵の名場面を演じる。春虹が由良助、栄寿がお軽、おせんが平右衛門と、役の性別と逆を演じるのもわかりにくいし、千之助はガニ股になるなど所作が全く男になってしまっていた。八段目、九段目もあらすじの説明にはなっていないし、十段目は5つの面を使って右近が大奮闘だが、話の筋は分からないと思う。雪の討ち入りの場面をつけておけば、とりあえず客は納得ということなのだろうか。  


3月18日 文楽京都公演 Bプロ

「団子売」

遅刻したので最後の5分ほどだけ。靖の顎が上がっていたのが気になった。

「菅原伝授手習鑑」

寺入りを睦・団吾。声は掠れていたけど、だいぶマシと思った。 

寺子屋の前を藤・団七。芝居っぽい語り。三味線は音のズレが多かったような。
後は織・燕三。交代するなりテンションが高い。ガラリと場面が変わったようで、ちょっとボリューム大き過ぎかも。身代わりがうまくいったと喜ぶところ、手放しで喜び過ぎでないか?仮にも、寺子を殺めているのだから、その重みを忘れてはいかんと思う。

一輔の戸波が落ち着いた風情で舞台を引き締めた。文司の源蔵、玉助の松王丸、簑二郎の千代。 

3月18日 文楽京都公演 Aプロ

 「花競四季寿」より万歳・鷺娘

芳穂、咲寿、碩に錦糸、勝平、燕二郎。錦糸がシンだと音が際立って聞こえる。

人形は玉翔、玉勢の万歳。鷺娘の紋臣は引き抜きもうまく行って拍手。


「冥途の飛脚」

羽織落としを織・清丈。 「いてのきょうか」とうろうろするところ、なんだかコントみたい。

封印切を千歳・富助。八右衛門の好意をまったく理解しない忠兵衛。意地だけ張ってるどう仕様もない感じがひしひし。梅川は巻き込まれちゃったように見えた。

人形は玉男の忠兵衛、和生の梅川。

2023年3月16日木曜日

3月16日 COOL文楽SHOW

観音巡りと天神森を文楽、生玉と天満屋を講談で、短時間で曽根崎の全編を上演する趣向。現代アート後藤靖香のイラストがプロジェクションマッピングで、背景や人物を描く。

観音巡りは清介の作曲で、以前清治が作ったものとは違うよう。太夫は小住、ツレに清公、清允。会場のせいかマイクを使ったせいか音がとても耳に障り、集中できず…。観音巡りの良さが分からなかった。舞台は勘十郎の遣うお初。背景のイラストがアニメのように動いて、寺社を巡る。スクリーンに映し出された人形に蝶々が戯れるのは目に面白かった。

講談は玉秀斎。びっくりするくらいつまらなかった。曽根崎という物語が講談に合わないのと、セリフのやり取りが中心で芝居にし過ぎたのが敗因か。

天神森は呂勢、希、亘に藤蔵、清志郎、寛太郎。藤蔵の唸りが気にはなったが、浄瑠璃を楽しめた。希の徳兵衛が異次元に行っていたかはともかくも。手摺は、徳兵衛の清十郎が不慣れなのか、最期に帯を体に巻き付けるところがもたつき、解けてしまっていた。


2023年3月12日日曜日

3月12日 三月大歌舞伎 第三部

 「髑髏尼」

ノートルダムの鐘にヒントを得た作品だそうだが、色々モヤモヤ。源氏方に息子を殺され、出家した美しい尼を玉三郎。その尼に懸想する醜い鐘楼七兵衛を中村福之助。お堂に忍び込んだ七兵衛は髑髏尼に自分と一緒に逃げてくれ、と懇願するのだが、どうして願いを聞き入れてもらえるなどと思うのだろうか。偶然見かけた髑髏尼が自分に笑いかけてくれたとか、優しくしてくれたとかいうならまだしも。そして、断られたからといって逆上し、縊り殺してしまうのも分からない。

平重衡の亡霊に愛之助。背後には平家の武士らが透けるようにならび、幻想的な場面だが、この人もなんのために出てきたのか分からなかった。


「吉田屋」

浅草歌舞伎の時よりはだいぶマシではあったけれど、もっと上方の柔らかみが欲しい。登場シーンなどは、男前すぎない発声が写実なのかなとも思ったけれど、通して見てみると何か物足りない。

吉弥のおきさも、ちょっと違うと思ってしまった。脳内に秀太郎のおきさがはっきり残っているせいもあるけれど、吉弥のは廓の女房にしては現役感があるというか。阿波の大尽、松之助はピッタリ。

3月12日 シアターコクーン「アンナ・カレーニナ」

休憩20分を挟んで3時間45分の芝居は、懸念していたほど冗長には感じなかったが、やはり長かった。飽きさせなかったのは、場面転換がほとんどなく、連続的に芝居が続いたことと、複数の話を並行して進める脚本の巧みさ。例えば、夫(小日向文世)と愛人ヴロンスキー(渡辺圭祐)とそれぞれとアンナ(宮沢りえ)が語る場面は、テーブルを挟んで2人の間を行き来しながらセリフが進行する。
色々なキャストがセリフの途中で、客席に向かって本音を吐露するのも面白かった。

2幕野終盤、ヴロンスキーの愛を試すアンナのわがままがエスカレートしていくところ。だんだん嫌な女になっていくのは全く同情できないのに、胸が締め付けられるような思いがしたのは、宮沢の芝居に悲壮感があったからか。ヴロンスキーはよく耐えていたよなあ。

ピアノとバイオリン、コントラバスの音楽や照明の使い方も効果的。

キティ(土井志央梨)とリョービン(浅香航大)カップルの微笑ましさが救い。 


3月11日 ハンブルク・バレエ団「シルヴィア」

菅井円加のシルヴィア。1幕のアマゾネス集団の先頭に立って狩りに勤しむ様は少女というより少年のような勇ましさ。時折奇声を発したりして、乱暴な仕草やぶっきらぼうな感じ。アミンタ(アレクサンドル・トルーシュ)にアプローチされるもの拒むのは、男まさりな女の子が照れてるような。ディアナ(アンナ・ラウデール)に咎められて、許しを乞うも、すぐに次のお気に入りに取って代わられてしまう。
1幕のアマゾネスたちの踊りはそんな感じであまり好みではなかったのだが、ディアナとエンディミオン(ヤコポ・べルーシ)のパドドゥが素晴らしい。とても官能的で、互いの頭を寄せ合うように横たわって手を組むところなど、直裁的ではない情緒にうっとりした。

2幕は黒燕尾(一部タキシードや上半身裸)の群舞。宝塚以外でこんな踊りが見られるとは! その中に一人、赤いベルベットのドレスのシルヴィアの戸惑いや高揚感が際立つ。黒燕尾の男たちに混じって、男装のディアナ。
3幕は時が経って、再開するシルヴィアとアミンタ。共に白髪混じりで、過ぎた日々を取り返すことはできない悲しみ。
アミンタが「森を守ろう」と書いたプラカードを持っているのはなぜ?とか、アムール(クリストファー・エヴァンズ)の白いパンツ(しかも、右は一分丈、左は三分のアシンメトリー)がふざけているように見えるとか、不思議なところもあったけど、全体としてはいい作品だった。
カーテンコールでノイマイヤーが出てくると、客席は総立ち。


3月11日 三月大歌舞伎 第一部

「花の御所始末」

シェイクスピアの「リチャード三世」を翻案した新歌舞伎。40年ぶりの上演だそう。初演は白鴎(当時染五郎)に当てて書かれたそうだが、いかにも高麗屋がらしい芝居だ。

物語は、将軍の座に就くために、足利義満の次男、義教(幸四郎)が邪魔な兄(亀蔵)を罠に嵌め、障害となる人を次々に殺していく。権力のためなら何でもするが、何のために権力につくか分からない、非常な人物が当代幸四郎によく似合う。今までに見た彼の芝居で一番かも。最期は、殺した人たちの亡霊に脅かされ、百姓らの一揆に攻められて自害する。テンポよく飽きさせない構成ではあった。
愛之助が、後に一揆の首謀者役となる安積行秀で活躍。冒頭で暴君義教の怒りにふれ、片眼を傷つけられたまま出てこなくなったので、ちょい役かと思ったがさにあらず。ただ、件ののち追放されて、主君に使える人生から転換したと言いながら、腹を切った義教の首を切ることはせずに、そのまま死ぬに任せたのはなぜだろう?やはり旧主は切れないということなのか、「介錯せよ」という命令に従いたくなかったのか。

千壽が、義満の妾で後に義教の愛妾となる北野の方役で、なかなかいい役のようだが、人物の深みは全くない。ただ、トロフィーのように権力者の寵をうけるだけ。もっと陰謀術数に絡んでほしかった。最後、一条の局役のりき彌と二人並んだのは胸熱。

妹役の雀右衛門。幸四郎を「ちいにいさま」と呼ぶのはともかく、染五郎演じる左馬之助と恋仲になるの、歌舞伎らしい萌えポイント。大丈夫、親子には見えなかった。


2023年3月5日日曜日

3月4日 瑠璃の会 第7回

「加賀見山旧錦絵 草履打の段」
呂秀、呂響、呂萬に駒清。
先輩2人は大分落ち着いてきた感じ。呂秀は岩藤にしては可愛らしい声で、首に合わないのではと思った。もっと低い声で憎々し気なのがいい。尾上の呂響と逆の方が合うのでは。呂萬は初めて聞いたが、役のせいもあってか、落語家のような話ぶり。詞中心で掛け合いの場面なので、義太夫節と朗読劇の違いは何なのだろうと考えた。あまり役に没入しすぎないのが義太夫なのか。

「由良湊千軒長者」
住年・住静。
拐かされた姉弟の悲劇。哀れな境遇が涙を誘う。住年の語りはぐっと義太夫らしい。

「艶容女舞衣 酒屋の段」
住蝶・住輔。
住蝶はドラマのあるいい語り。声が華やかだし、上手い。こういうのが女義の魅力なのではと思うなど。お園のクドキより、父の述懐のほうに拍手があった。やっぱりお園には同情しにくいのか。

「本朝廿四孝 十種香の段」
土佐絵・駒清。
この段は三味線の手が派手なので、駒清の為の選曲か。土佐絵は淡々と語る風だったので、今一つ盛り上がりに欠けた。


2023年3月4日土曜日

3月3日 若手素浄瑠璃の会

「妙心寺の段」

薫・清志郎。
5日前の京都の会より、ぐっとよくなった。薫の語りは言葉が明瞭で、聞きやすい。女性の詞にたると掠れるのが気になった。
清志郎はいつもながらの気合の入った演奏。後半、詞のみで演奏がないところでも息を詰めて、太夫と息を合わせていた。

「袖萩祭文」

芳穂・清馗。
よく声が出ていて、袖萩の詞などしっとりと美しかった。ちょっと綺麗すぎでどこぞのお姫様?という感じだが。お君が賢し気で可愛くなかった。
三味線はなんか気が抜けたようで…。芳穂が盛り上げて語っても、三味線の音で水をかけられるような。

2023年2月28日火曜日

2月28日 ミュージカル「ドリームガールズ」

 福原みほのエフィで再見。ソウルシンガーで歌唱力抜群というので、リベンジのつもりで行ったのだが、正直期待ハズレ。上手だし、声量もあるのだが、周囲を圧倒するほどではないと感じた。他の女性陣にも感じたことだが、歌声が綺麗すぎるというか、音響のせいか高音部がキンキンしてた。ソウルはもっと骨太というか、迫力のある声が欲しい。

ただ、福原の踊りはソウルっぽいと思った。それほどダンスが得意というわけではなさそうだが、リズムの取り方に違和感がないというか。逆に望海らは、棒切れを振り回しているような手のふり、ぴょんぴょん跳ねるようなステップが子どもっぽく、がっかりした。前半はティーンエイジの設定だから、あえてそうしているのかもしれないが、アメリカ人の女性はティーンでもあんな仕草はしないだろうし、今時日本人でもあんなぶりっ子しないのでは。

2023年2月26日日曜日

2月26日 素浄瑠璃の会

 京都府立文化芸術会館という立派なホールで、靖を筆頭に若手太夫、三味線弾き5組が大奮闘。トータル4時間という長丁場だが、不思議と飽きずにしっかり聞くことができ、健闘を頼もしく感じた。

トップバッターは聖・清志郎の「妙心寺の段」。大阪マラソンのおかげで電車に乗り遅れ、後半しか聞けなかったが、地に足のついた落ち着いた語りぶりに好感が持てる。終盤は声が掠れるなど、まだまだなところは多いのだが、義太夫らしさが感じられる。

「熊谷桜の段」は薫・寛太郎。声のコントロールが不安定ではあるのだが、だいぶ様になってきたように感じた。「入来たる梶原平次景時」は声量もしっかり。

「金殿の段」は碩・清公。ことばが明瞭でとても聞きやすく、物語がすっと頭に入る。竹に雀の見台を選んだとパンフレットにあったので、耳がそこへいってしまった。

「車曳の段」は小住・清方。清方が一人で引くのは初めて聞くかも。ところどころあれ?というところがあり、小住がフォローしてあげているように感じた。太夫としても、普段は掛け合いで語る段なので、一人での語り分けは珍しい。

「寺子屋の段」は靖・清允。気合の入った様子で、のっけから着物の襟にシミをつけるほど。寺子屋は何度も聞いているけれど、特に心に沁みた。清允は実直な演奏というか。この並びでは一番の先輩太夫なので、さすが途中で拍手が起こっていた。





2023年2月25日土曜日

2月25日 ミュージカル「ドリームガールズ」

 望海風斗のディーナ、村川絵梨のエフィ、saraのローレルという顔ぶれ。望海が主役だと思っていたのだが、正直、歌の主役はエフィではと思った。ディーナはグループのリードではあるのだが、ソロは少なく、エフィの方がソロも多くて、物語上の盛り上がりもあった。

皆歌が上手く、踊りも悪くないのだが、なんだか違和感があるのは、ソウルのグルーヴがないのだ。だから、借り物のような似合わなさが終始漂う。のっけの場面からちょっと鳥肌が立つというか(←悪い意味で)、うわっと思ってしまったのが最後まで抜けなかった。

望海は正直、期待はずれ。歌は上手いがソウルフルという点では不足だし、細すぎる体つきが色っぽくない。というか、前半子どもっぽくないか? キャピキャピした感じの動きもいただけない。エフィの村上はソウルフルな歌唱という点では物足りなかったが、芝居は激しい感情表現に揺さぶられた。

男性陣では、カーティス役のspiがラガーマンのような立派な体格で堂々とした佇まいといい、歌唱力といい、日本のミュージカル界にはあまりないタイプ。ジェームズの岡田浩暉は低い声の歌唱が良かった。


2023年2月24日金曜日

2月23日 大槻能楽堂 能の名曲六選

 大槻文蔵と天野文雄の対談。題名の「玄象」は観世流のみで、他は絃上。後から観世流が変えたのだとか。劇中に玄象の言及は1回ほどしかなく、藤原師長が持参している琵琶が玄象なのだろうという指摘。だが、皇室一級の宝物をなぜ師長が持っているのかとも。後場で出てくる獅子丸は唐から渡来する際に海に沈んだとされる幻の名器。

小書きの替之型は琵琶の作り物を使用。早装束は間狂言なしでの早着替え、窕(くつろぎ)は舞の途中で橋掛かりへ行くこと。

能「玄象」

前シテの尉と後シテの村上天皇は観世清和、ツレは三郎太。前ツレの姥は坂口貴信、後ツレは大槻裕一。ワキは福王知登。

後場の舞が見応えあり。裕一の龍神が颯爽として現れ、目が覚めるよう。後シテの早舞も、品があって豊かな気持ちになった。

2023年2月19日日曜日

2月19日 文楽公演第三部

「女殺油地獄」

一輔のお吉を観たくて再見。いやー、よかった。徳庵堤から、しっとりとした趣があり、目を惹かれる。殺しの場面では、大きく動い
てはいるのだが、やり過ぎ感はない。簑二郎との違いは何なのだろう。
一方、太夫には不満が。
徳庵堤の薫、娘お清を表情をつけて滑稽に語ったが、ここは子どもの純真さが笑いになるところ。ウケを狙うと嫌らしくなる。
豊島屋の呂は気の抜けた炭酸のようというか、ぬるい風呂のようというか、起伏がなさすぎないか?手摺がいいだけに、物足りなさが募った。

2月19日 文楽公演第二部

「国性爺合戦」

公演の前半で観た時の感動がそれほどでもなかったので、おかわりするか迷ったのだが、してよかった!小住→呂勢と繋ぐ楼門が素晴らしかった。小住の進化が凄まじく、堂々とした語りぶりは聞き応え十分。呂勢も脂の乗ったかんじで、朗々とした声に聞き惚れた。心地良すぎてウトウトしてしまったくらい…。清治の三味線が輪郭をくっきりさせていた。前回もだが、代わりの三味線を脇に置いていたのは何故?

一方、紅流しの織・藤蔵は、大きな音出せばいいってもんじゃないんでは?というか、床の熱量に比して客席はクールだったように感じた。「こういうのが好きなんでしょ?」というのがあんまりあからさまだと、冷めるよ。少なくとも私は。

2月19日 二月大歌舞伎 第一部

「三人吉三巴白浪」

七之助のお嬢、愛之助のお坊、松緑の和尚の組み合わせ。大川端から大詰めまでのほぼ通しなので、見応えあった。何より、主役の3人が充実してバランスが良い。
七之助はこれまでより凛々しいお嬢で、あまり女っぽくしていないよう。アイラインの赤は控えめな感じで、火の見櫓に登るため腕まくりした腕は逞しい。が、キャラクターとしてはこれが正解という気もする。
お坊の愛之助は、キリリとしたハンサム。江戸弁のセリフのキレがもうちょっとよければなおよかったが、お嬢との渡り台詞は耳に心地よかった。
今回、一番感心したのが松緑の和尚。セリフの嫌なクセが抑えられていたし、なによりどっしりとして和尚としての重みがあった。おとせとと十三を殺さなければならなくなる件に滲ませる苦悩にグッときた。
壱太郎のおとせは手堅いが、籠ったような発声が耳に障る。十三の巳之助、出てきた時だれ?と思ってしまったのは、とても落ち着いていたから。いい役者さんになったなぁ。

2023年2月9日木曜日

2月9日 二月大歌舞伎 第三部

「霊験亀山鉾」

仁左衛門の悪の華が咲き誇る。卑怯な手を使って敵討を返り討ちにする残忍さがゾクっとする格好よさ。過去公演ではトータル4時間ほどだったのを、休憩込みで3時間15分ほど(初日より10分ほど巻いているらしい)に圧縮しているので、展開が唐突に感じるところもままあったけど、仁左衛門の格好良さを堪能する芝居だから。物語の深みはないので、むしろこれでいいとすら思える。
唐突、というか、分かりにくくいと思ったのは、例えば曲輪の場面で、おつまを巡って弥助(実は源之丞)と(鴈治郎)が鞘当てをするところ。おりき(吉弥)が出てきて弥助は私のいい人と言い含めて煙に巻くのだが、後に水右衛門を匿っていると明かすので混乱する。また八郎兵衛の登場も水右衛門に与する人物と知らされないままそっくりさんとして出てきて、おつまに言い寄るので、水右衛門宛の手紙と20両を横領したように見えてしまい、おつまが騙されようとしているのが分からなかったり(その後、八郎兵衛の立場が明かされて整合性が取れるのだが)。伴介(仁三郎)が水右衛門宛の偽手紙を八郎兵衛に渡すところも、水右衛門の顔を知らなくて、そっくりな八郎兵衛に渡す体なのも、後から考えると整合性が取れない。お松(孝太郎)のところに反物を買いに来る商人、才兵衛(松之助)が高値で勝っていたのは源之丞の母貞林(東蔵)の計らいと明かして引っ込んだ直後に源之丞の位牌と共に貞林を連れてくるところも、待ち構えていたように唐突で、松之助が石井家の別の家臣と二役(才兵衛と入れ替わり)なのかと筋書きを確認してしまったよ。

源之丞と袖介の二役を演じた芝翫は演じ分けがくっきりして良かったが、源之丞ってよく分からん。敵討を志していながらおつまとの間に子まで作ってしまうってどうよ。親に認められていないとはいえ、お松との世帯を持って源次郎という子までいるというのに。ただの浮気でなく、愛想尽かしされた怒りから殺しにくるし。とはいえ、久しぶりに家に戻った源之丞がお松(孝太郎)といちゃいちゃするところ、とても色気があった。仁左衛門仕込み?
 
雀右衛門のおつまは幸薄げで綺麗だし、吉弥の丹波屋おりきは悪女ぶりが格好いい。適材適所の配役がハマっていて見応えあった。源次郎役に歌昇の息子、種太郎。可愛らしい子役で、立ち回りも楽しげに演じているのが微笑ましい。おでこが広く見えるので、かつらを工夫した方がいいと思うなど。
松之助はちょっとセリフが怪しく心配。


以前も見たことあるはずなのに、あまり記憶にないのはなぜなのだろう…。18日に再見したが、ストーリーのアラにより気づいてしまった。これは、細かいことにこだわらず、どんでん返しにえっと思い、仁左衛門の悪の華を愛でるのが正解なのだろう。 

2023年2月6日月曜日

2月6日 文楽公演 第二部

「国性爺合戦」

千里が竹虎狩りの段の口は御簾内で碩・燕二郎。はっきりしてよい。
奥は三輪・清友にツレの錦吾、清方。錦吾が落ち着いてきた。
この段は三輪のおはこなの?虎との絡みはいつも三輪な気がする。

楼門の前は小住・清馗。小住は声にハリがあって義太夫らしい。
後は呂勢・清治。音楽としての義太夫節を堪能し、できるなら一段丸々聞きたいところ。

甘輝館は錣・宗介。宗介の三味線ってうまいなと改めて思った。一段語ってもらえると、切場の風格が感じられる。

紅流しより獅子が城は織・藤蔵。いつもの織のドヤ感が…。藤蔵の三味線が煽るからかな。甘輝の高笑いで拍手が起こっていたけれど、圧力に押されたような…。 

2月6日 文楽公演第一部

「心中天網島」

北新地河庄の段の中は睦・勝平。
睦ははじめ、また声が掠れていて辛いと思っていたが、小春の哀れさ健気さがよかった。太兵衛の口三味線は下手な感じがリアルというか。あまり自信満々にやらない方がこの場面には合っているのかも。
切は千歳・富介。孫右衛門がいいのはもちろん、太兵衛が意外に面白い。格子に括り付けられた治兵衛を笑うところの憎らしさが秀逸。

天満紙屋内の口は希・友之助。
奥は藤・団七。聞き心地がいいのだが、必ずと言っていいほど寝てしまう。

大和屋は病気休演の咲に変わって織・燕三。場面が場面だけになのが、抑制された語りがとても良いと思った。燕三の三味線が抑えていたのか。

道行名残の橋づくしは芳穂、小住、亘、聖に錦糸、寛太郎、清公、清允、清方。錦糸の三味線の鮮やかなこと。これぞ道行という感じ。寛太郎は二枚目のせいか、眉間に皺が寄っていた。

人形は玉男の治兵衛に清十郎の小春。似合いのカップルぶりだが、河庄の小春が常に上半身が右に傾いていたのが不自然に見えた。俯く姿を強調するなら上体をひねる方が効果的では?左側にいる人が嫌で逃げようとしている?和生のおさんのできた女房ぶり。

今回見ていて、やはり治兵衛のような未練がましい男は嫌いだと思いつつ、対極の、いわゆる男らしい人をよしとする気持ちが自分にもあるのではと思い至ってハッとした。よく考えてみたい。

2023年2月5日日曜日

2月5日 全国共同制作オペラ「田舎騎士道」「道化師」

上田久美子の演出に惹かれて観劇。マスカーニ作という両作は初めて知ったが、「田舎騎士道」の間奏曲は聞き覚えのあるものだし、曲自体は華やかでオペラらしい起伏に富み聞き応え十分。が、字幕で見る限り歌詞は退屈で、ストーリーは現代の感覚ではつまらない。そこを、歌手とダンサーが二人一役で演じることで、情報量を増やしたという。歌手はドレスやジャケットといった時代にあった衣装で原作の19世紀イタリアの世界を演じ、ダンサーは現代大阪に置き換えた世界を身体で表現する。オペラの歌詞の逐語訳と大阪弁に翻案したセリフが同時に表示されるのも面白く、大阪弁のセリフは俗っぽく生々しい。「文楽スタイル」ということで、歌とダンスで分業するのかと思ったら、歌手も演技するし、時にはダンサーと絡んだらもするので目を離せず、一度にあれもこれも見て情報処理しなければならないのは少し忙しなく感じた。

「田舎騎士道」はだんじり祭の準備が進む中、2組の男女の痴情のもつれから殺人がおこる。とても卑近な話なのに、オペラになるとどこか高尚な感じがして、歌詞も逐語訳ではぴんとこないところを、大阪弁に置き換えることで、登場人物の感情が露わになり、音楽の大仰さと釣り合うようになったと思う。
ダンサーの身体表現も秀逸で、特に聖子(三東瑠璃)の叫ぶような踊りが印象的だった。日野(アルフィオ)役の宮河愛一郎はカリスマ感があり、目を惹かれた。

「道化師」の方は、旅芸人の一座を大衆演劇の一座に置き換えたもの。すでに同じ手法を見ていたせいか、「田舎騎士道」ほとのインパクトを感じなかった。加美男(カニオ)役の三井聡に期待していたのだが、それほどでもなく、ヒロインの寧々(ネッダ)が蘭乃はな、富男(トニオ)役が芋洗坂係長だったりと、ダンサーというより演技だった。

両演目とも幕前から舞台に路上生活者が2人いて、劇中も舞台に絡んでくるのだが、これはどういう意図だったのだろう? 現代とつなぐ橋渡し的な役割? どちらも最後に殺しがあった後、彼らが舞台上で物を撒き散らかしておわるのだが、ワンパターンに感じた。

初日の数日前に、上演順を入れ替えるという知らせがあったのだが、なぜだったのだろう?「道化師」のほうの冒頭に、口上人形が二人一役や大阪弁の字幕のことなど、今回の上演について述べたのだが、これって初めに上演する前提のはず。そのまま残して順序を入れ替えたのが釈然としないというか。

2023年2月4日土曜日

2月4日 文楽公演第三部

「女殺油地獄」

徳庵堤は南都、亘、津国、文字栄、薫に清丈。清丈がノリノリで弾いてた。太夫陣はタガが外れたというか、自由というか。津国の七左衛門ほかが安定感あった。

河内屋内の前は咲寿・団吾。「ぎょーてーぎょーてー」からの語りは筒いっぱいの感じでよろし。
後は靖・清志郎。よかったのだけど、疲れていたのか、意識が飛んでしまい…。

豊島屋は呂・清介はいつも通り。殺しの場面で与兵衛の狂気がなく、真っ当なことを言ってるみたいな口ぶりなのはなぜ? 直前に伝統芸能情報館で、藤十郎監修の翫雀(現鴈治郎)の与兵衛を見たばかりだったので、余計に違和感を抱いたのかもしれない。

人形はお吉の一輔がコロナ休演で簑二郎の代役。箕助のを踏襲しているのだろうが、殺しの場面の動きは派手すぎるように感じた。あと、刺されてすぐくらいの時に、玄関の戸を開けて柱にもたれるのだが、なんでそのまま逃げないの?と思った。与兵衛に連れ戻されるのでなく、自分から戻っていたから。与兵衛の勘十郎は期待通り。今日は下手側の席だったので、豊島屋に両親が訪ねてきて、裏手に隠れるところなどもしっかり見られた。

2月4日 木ノ下歌舞伎「桜姫東文章」

岡田利規演出は合わないと認識を新たにする。桜姫の石橋静河も、清玄・権助の成河もハマり役だし、その他、悪太郎や長浦の役者も悪くなかったのだが、脚本・演出がなぁ…。一番よろしくないと思ったのは、場面の初めにあらすじを字幕で出したこと。役者の演技は字幕の内容をなぞったようになってしまい、話の展開への驚きが無くなってしまう。長くて複雑な物語を短時間でまとめるにあたって、観客の理解を助ける意図なのかもしれないが。それにしては、場面転換が唐突で、かったるく感じた。休憩を含んで3時間20分ほど。 

だるそうな話ぶり、棒読みのようなセリフは岡田演出の特徴だが、やはりイラッとする。
立ち回りなど歌舞伎の型を踏襲した場面が多く、完コピの影響を感じたが、だるそうに動かれると拙さが目立つ。石橋や成河はさすがの身体表現力で決まっていたが、気持ちが入っておらず、形だけなぞっているように見えるところもあった。 

ラストは桜姫が子どもと権助を殺したところで終わってしまったのもモヤモヤ。家の仇を打ったので、整合性がなくはないが、その後でお家再興まであってこその桜姫の不条理さだと思うのだが。その少し前の、借金のカタにお十が女郎屋に売られるところで殊更に「モノみたいに扱われて変」みたいなセリフがあるのだか、引っかかるのそこ!?というか、主人公周りでも変なところあるし、そこを突いたほうがいいのでは。 
桜姫が権助と再会して「近くへ」と誘うところや、墓掘り権助が桜姫を自分の妻と言って抱き寄せるところなどは、色気があってぞくっとした。

劇中劇の形で、出番のない役者が周りを囲んで見ている。大向こうをかけたりして。成河→イナゲヤ、石原→ベニヤなどの他、豆腐屋とか、ブルガリヤ、ポメラニアンなども。面白いけど由来が不明だ。
観終わって、不条理さは残った。それが狙いなら大成功。


2023年2月1日水曜日

1月31日 ミュージカル「エリザベート」

花總まりのラスト舞台をオンラインで視聴。初演時から27年、一つの役を深めてきた集大成と感慨深く観た。皇后の威厳や気品をこれだけ体現できる役者ってなかなかいない。少女期のあどけなさもまだまだ遜色ないし、晩年の悲哀は深みを増した。1幕のラストでフランツの謝罪を受け入れて見せた恍惚の表情、ハンガリーの戴冠式で「勝ったわ」と名言してみせた勝ち誇った顔はひれ伏すような美しさ。その後の「踊るなら」は「踊るときは」になり、ちょっと違和感があった。「私だけに」など歌唱は地声で押し切ったところがやや聞き辛かったが、感情表現としてはアリだと思った。
演出面で少し変化があったようで、フランツは求婚した時から、王族には自由がないと繰り返し話しているのに、エリザベートは夢見心地で、2人が初めからすれ違っている様子が明らか。終盤で、追加された父の亡霊と対話するシーンで「気の持ちよう」みたいなセリフもあり、エリザベートの孤独は独り勝手というか自業自得みたいで、突き放して描かれて同情しにくいように思った。

古川雄大のトートは、エリザベートへの憧憬という感じで、終始仰ぎ見る風情。最後のダンスでエリザベートの足元に滑り込んだところや、フェイクで歌い上げるところは思わず笑ってしまった(←褒めてる)拒絶されて捨てられた子犬のようになってしまうのは、万能の帝王としてはどうなの?と思ったが、それはそれできゅんとした。歌唱は思っていたよりはよかったが、得意のダンスをもっとみたかった。カメラワークが寄りばかりだったのが残念。 

田代万里生のフランツは、青年期は声が明るく、陽のイメージ。晩年は歌声も変わっていたが、老けメイクは少しやりすぎではと思った。(映像だからそう見えたので、舞台ならそうでもないのか)

黒羽真理央のルキーニは狂気が濃い。そういえば、古川とは「恋と弾丸」でも共演して快演を見せていたっけ。バートイシューで荷物運びをしたり、出番が増えた?
ゾフィーは剣幸。期待していたのだが、カーテンコールて本人が「人のいいおばさんみたいとダメ出しされた」と言っていた通り、厳しさや威厳が足りないように思った。歌もあれ?と思うレベルで、体調でも悪かったのかしら。


2023年1月27日金曜日

1月27日 文楽研修生発表会

30期生の修了と31期生の中間発表で大劇場で開催。

「二人三番叟」
床には30期生の太夫、田村啓暉と三味線の應武佳之が掛け合いの末席に並び、舞台上には人形遣いの31期生古谷諒が玉翔が主遣いを勤めるシテの方の足を勤める。足遣いは頭巾は被らず素顔の見える状態。足を高く上げすぎなところもあったけど、大きく足を前に出すのは元気が良くて好感が持てる。アドの動きが控えめに見えたほど(こちらの足は清之助)

床はシンが靖・清志郎で、研修生は4挺4枚の末席だったので、そんなに見せ場はなかったけど、三味線は2年でちゃんとついていっているのは立派。たまにミスはあったけど。

「熊谷桜の段」

太夫の田村に三味線は清丈。
高音も低音もキツそうだが、素直な語り。ちょっと落語家っぽく見えたのは、目の表情のせいかな。

「裏門」

三味線の應武に小住。
音はしっかりしていたけど、間が悪いのが気になった。走り気味だし、もうちょっとタメがあったらと思うところが所々あり、小住が語りにくそう。終盤、ツボを間違えて一瞬フリーズしたところも。すぐに持ち直して、最後まで勤め上げたけど、5分近く巻いていたような。藤蔵が指導担当だったそうで、ハラハラしながら見ていたらしく、終わってホッとした様子だった。

2023年1月15日日曜日

1月15日 壽初春大歌舞伎 第一部

「卯春歌舞伎草子」

正月らしい華やかな舞陽。七之助と猿之助のお国・山三を中心に、左源太・右源太の勘九郎・愛之助に、笑也、笑三郎、猿弥、青虎ら猿之助一門、千之助、鷹之資ら若手も居並び、色とりどりの衣装が賑やかで、どこを見ていいのやら困るほど。
踊り上手の勘九郎ほどの滑らかさはないものの、愛之助の踊りも見劣りはせず。女歌舞伎のなかでは、年長の壱太郎が際立ったが、千之助も悪くなかった。若手の染五郎、額が広いのか鬘が合っていないように見えた。

「弁天娘女男白浪」

まさか愛之助の弁天小僧を江戸で見られるとは! 3回目ともなれば手慣れたもので、花道の出で見せる横顔は今まででいちばん可憐に見えた。南郷の勘九郎とのコンビもいい。お約束の、お嬢さまの贔屓を当てるくだり、中村勘九郎の名前が出ると、「あのような真面目な役者は大嫌い」と。真面目って悪口になってないと思うのだが。
日本駄右衛門に芝翫、忠信=猿之助、赤星=七之助と中堅?世代か稲瀬川勢揃いで並ぶのを見て、これはこれで悪くないなぁと思った。 

2023年1月14日土曜日

1月14日 新国立劇場バレエ団「ニューイヤーバレエ」

「A Million Kisses to my Skin」

濃淡の異なるブルーの衣装はシンプルなレオタードで、体操選手のよう。舞台上が白い正方形?になっているのも、シンプルさか際立つ。薄いTシャツを纏っているのだが、透けるのでほとんど上半身裸に見えた。

手足を伸びやかに動かす振りが多く、キャンパスに自由に筆を走らせているような開放感がある。バロック音楽の端正な音楽が舞台上を漂っているよう。
メインの直塚美穂・奥村康祐ペアは何でもないように見せるけど、高いテクニック。結構早いテンポで慌ただしく見えるところもあったけど、ちゃんと曲に合っているのはさすが。奥村がパートナーを迎えるときの微笑みがいい。

「眠れる森の美女」 グラン・パ・ド・ドゥ

ヤスミン・ナグディとマシュー・ボールペア。ロイヤルの衣装は、飾りのビジューがキラキラ光って眩い。ダンサーのテクニックも華やかさも申し分ないのに、ガラだと2人しかいないから、せっかくの祝宴の舞がどうしても物足りなく見える。

「ドン・ジュアン」

アリーナ・コジョカルとアレクサンドル・トルーシュ。
ノイマイヤーの振り付けは神秘的でドラマチック。白衣の貴婦人は衣装のせいか、この世のものでないように見える。コーラス部分は録音を使っていたようで、残念。
 

「シンフォニー in C」

第2楽章の小野絢子の気品たるや。トッププリマの風格があった。
第3楽章の木下嘉人はアームスを柔らかく使っていたのが印象的だった。

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2023年1月7日土曜日

1月7日 西宮能楽堂五周年記念公演

 「石橋」

半能で上演されることが多いので、フルで見るのは初めて。前場のシテは樵翁でワキの寂昭法師に石橋の由来を語って去る。後シテは白獅子と赤獅子が激しく舞う。

大鼓の山本寿弥が若いせいか掛け声も鼓の音も激しくて、煩いくらいだった。小鼓の久田舜一郎も後場では競うように激しかった。太鼓は後場の初め、後シテが出てくるところで橋掛かりの方を向いて打つのはこの曲ならではの演出だそう。

事前にの解説で、石橋は幅1尺(30センチ)足らず、長さ3丈(10メートルくらい)、谷の深さは1000丈と知る。こんなところで獅子が暴れたら落ちるし、そもそも石橋が壊れそうだ。

2023年1月3日火曜日

1月3日 初春文楽公演 第3部

 この日は新口村はパスして、阿古屋のみ。初役の人たちを聞きたくて。

阿古屋の呂勢はなんか玉三郎を思い出した。声のよさはもちろん、傾城の心意気みたいなものが感じられた。岩永の靖、榛沢の小住もそれぞれ役にあった語りでバランスが良かったのだが、重忠の織は朗々とした語りはいいものの、一人だけ芝居が違う感じがした。

三味線は藤蔵、寛太郎に三曲の清公。清公は初役ながら、不足なく。ちょっと琴の音が小さいような気がしたが。むしろ2枚目の寛太郎が緊張からか終始怖い顔で、そっちばかり見てしまった。

人形は勘十郎の阿古屋はもう何回目? 左は簑紫郎、足は勘昇。簑紫郎の左手が繊細な動きで床とよく合っていた。玉佳の岩永が本領発揮で面白かった。

1月3日 初春文楽公演 第2部

 「義経千本桜」

椎の木の団七の口は咲寿・団吾。落ち着いた声でまずまず。

奥は病気休演の咲に代わった織と燕三。織は堂々とした語りはいいのだが、権太がなんか偉そう。権太って小悪党だし、もっと可愛げがあっていいのでは。そしてすまないのだが、後半意識が…。

小金吾討死は三輪、津国、南都、聖に清馗。太夫が入れ替わり立ち替わりで床が慌ただしい。


すしやの前は呂勢・清治。維盛の気品、お里の健気さ、権太のごんたくれと語りわけがくっきり。

切は呂・清介。

1月3日 初春文楽公演 第1部

「良弁杉由来」

志賀の里の段
シンの希、清友がコロナ陽性のため休演で、渚の方は睦が代演、三味線は二枚目の友之助がシンを勤める。友之助は朱を見ながらで硬い表情だったが、健闘したのでは。睦は掠れ声が渚の方の悲嘆と重なって泣かせた。
ほかは配役通りで小枝を咲寿、腰元を薫、文字栄。ツレと八雲を燕二郎。
人形は渚の方の和生が素晴らしい。この段はまだ老女方なので、夫を亡くした未亡人の健気さや若い母親の華やぎが映る。三味線と八雲に合わせての舞も美しかった。子どもを鷲に攫われてから、何か言っているように口を動かしていたのが珍しく気になった。初日だからちょっとしたトラブルでもあったのか。

桜宮物狂いは芳穂、小住、亘、碩に錦糸、清丈、清允、清方。2枚目の勝平は休演で、錦糸が代わりに弾いていたようだった(亘が語るところで清丈が弾いていたのであれ?と思ったのはそういうことかと)。錦糸がシンにいるとまとまりが良いように思う。人形はここで一気に老女に。

東大寺は睦・団七。雲弥坊、つっけんどんかと思いきや、親切ないい奴。

二月堂は千歳・富助。前にも演っているし、特筆するほどのことはなし。いい語りだったと思うし、泣いている客もいたけれど、私には今ひとつ響かないのは、母子の気持ちにピンとこないからかも。良弁僧正の玉男は、高僧の威厳があった。