2023年2月9日木曜日

2月9日 二月大歌舞伎 第三部

「霊験亀山鉾」

仁左衛門の悪の華が咲き誇る。卑怯な手を使って敵討を返り討ちにする残忍さがゾクっとする格好よさ。過去公演ではトータル4時間ほどだったのを、休憩込みで3時間15分ほど(初日より10分ほど巻いているらしい)に圧縮しているので、展開が唐突に感じるところもままあったけど、仁左衛門の格好良さを堪能する芝居だから。物語の深みはないので、むしろこれでいいとすら思える。
唐突、というか、分かりにくくいと思ったのは、例えば曲輪の場面で、おつまを巡って弥助(実は源之丞)と(鴈治郎)が鞘当てをするところ。おりき(吉弥)が出てきて弥助は私のいい人と言い含めて煙に巻くのだが、後に水右衛門を匿っていると明かすので混乱する。また八郎兵衛の登場も水右衛門に与する人物と知らされないままそっくりさんとして出てきて、おつまに言い寄るので、水右衛門宛の手紙と20両を横領したように見えてしまい、おつまが騙されようとしているのが分からなかったり(その後、八郎兵衛の立場が明かされて整合性が取れるのだが)。伴介(仁三郎)が水右衛門宛の偽手紙を八郎兵衛に渡すところも、水右衛門の顔を知らなくて、そっくりな八郎兵衛に渡す体なのも、後から考えると整合性が取れない。お松(孝太郎)のところに反物を買いに来る商人、才兵衛(松之助)が高値で勝っていたのは源之丞の母貞林(東蔵)の計らいと明かして引っ込んだ直後に源之丞の位牌と共に貞林を連れてくるところも、待ち構えていたように唐突で、松之助が石井家の別の家臣と二役(才兵衛と入れ替わり)なのかと筋書きを確認してしまったよ。

源之丞と袖介の二役を演じた芝翫は演じ分けがくっきりして良かったが、源之丞ってよく分からん。敵討を志していながらおつまとの間に子まで作ってしまうってどうよ。親に認められていないとはいえ、お松との世帯を持って源次郎という子までいるというのに。ただの浮気でなく、愛想尽かしされた怒りから殺しにくるし。とはいえ、久しぶりに家に戻った源之丞がお松(孝太郎)といちゃいちゃするところ、とても色気があった。仁左衛門仕込み?
 
雀右衛門のおつまは幸薄げで綺麗だし、吉弥の丹波屋おりきは悪女ぶりが格好いい。適材適所の配役がハマっていて見応えあった。源次郎役に歌昇の息子、種太郎。可愛らしい子役で、立ち回りも楽しげに演じているのが微笑ましい。おでこが広く見えるので、かつらを工夫した方がいいと思うなど。
松之助はちょっとセリフが怪しく心配。


以前も見たことあるはずなのに、あまり記憶にないのはなぜなのだろう…。18日に再見したが、ストーリーのアラにより気づいてしまった。これは、細かいことにこだわらず、どんでん返しにえっと思い、仁左衛門の悪の華を愛でるのが正解なのだろう。 

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