2026年5月17日日曜日

5月17月 能狂言「日出処の天子」

初演時と大筋は変わっていないが、細かな変更がいくつかあったよう。

2幕の冒頭、橋がかりに穴穂部間人媛(大槻文蔵)と共に来目王子(観世淳夫)が現れる。間人媛は来目に「厩戸と遊んではならない。石が降るから」「あまり勉強しすぎてはいけない」と諭すやり取りが加わる。来目王子は勉強しなくていいと喜んでスキップし、ほのぼの笑えるシーンになっているが、厩戸との違いを描き、厩戸との母子関係の歪さがより鮮明になった。 野村萬斎の厩戸王子は神秘的な雰囲気が役にあっているが、やはり美少年ではない。毛人と出会う池のシーンは10歳という設定だと知り、よりそう思った。福王和幸の毛人とのやりとり、初演時のような気恥ずかしさが薄まったのは慣れたせいだろうか。舞人に混じった厩戸に毛人が惹かれ、王子と知って「初めて惹かれた女人なのに」と嘆くなど、毛人も厩戸に惹かれていたことがはっきり描かれた(和幸の芝居はちょっとくさかったが)。厩戸が現代劇のような言い回しなのに対し、毛人は能のような発声でチグハグに聞こえたが、2人の立場の違いやすれ違う心情を描く狙いだろうか。 大槻祐一の刀自古、鵜澤光の布都姫と子という、厩戸と関係する女性たちが哀れ。刀自古は2幕のみの登場だが、長めの舞で毛人への激しい思いを描くなど、印象は強かった。 通常地謡が並ぶ後ろ(今公演では囃子方が並ぶ)にモニターが設置され、舞台装置に映す映像のいくつかが投影された。脇正面席からは見えにくい映像を補うためだと思うが、ちょっと無粋な感じがした。 第1幕60分、休憩20分、第2幕60分とあったけど、15時半開演で終わったのは18時過ぎだった。

5月16日 文楽公演第3部

「伊勢音頭恋寝刃」 古市油屋を錣・宗助。 ちょっとウエットな語りが、万野の意地悪ぶりにはあっているかも。 奥庭十人切りは芳穂・錦糸。 演奏は申し分ないのだが、改めて聞くと陰惨な話で、沈んだ気持ちで劇場を後にした。貢はたまたま万野を切ってしまうのは仕方ないにしても、その後の虐殺に理由がないのが救われない。小女郎なんか何も悪ことしてないのに、足を切られてしまうし。それで最後は、名刀と折紙を手にしてメデタシって、酷い話としか思えない。 人形は一輔のお紺がしっとりと美しい。貢は玉男で、色男ぶりがよき。(が私の好きな一輔・玉男ペアだったことに今気づいた…)万野は玉也で珍しい女方。

5月16日 文楽公演第2部

引き続き「小写朝顔話」の半通し。 薬売りの段は希・清馗。 希は変な力みがなく、最近聞いた中では悪くなかった。 浜松小屋の前は織・燕三。 織はビブラートを効かせ歌い上げるような語り。燕三の三味線が豊かな音色で場面を鮮やかに描く。 後は小住・清丈。 真葛が原とは打って変わったシリアスな場面で、どっしりとした語りが頼もしい。 嶋田宿笑い薬の中は碩・寛太郎。 キレのいい語り、三味線で、気持ちよく聞けた。 次は千歳・富助。 千歳のチャリはどうかと思ったが、緩急のある語りでしっかり笑わせた。 宿屋の段は若・清介に清方の琴。 暗がりの中慎重に足を進めるような語り。清方の琴は慣れていない感じがした。 大井川は睦・勝平。 前半は悪くなかったが、後半声の掠れが気になった。 人形は勘十郎の祐仙が、笑い薬の段で大いに活躍。今回の半通しは深雪を軸にという触れ込みだが、祐仙を見せるためではと思えるほど。

5月16日 文楽公演 第1部

「二人禿」 南都、咲寿、津国、織栄、文字栄に団七、団吾、清允、清方、藤之亮。人形は紋秀、紋吉。 床の不協和音に重ねて、人形も振りが合ってなくてびっくり。シンの南都からしてどうしちゃったの?というくらい調子が外れていて、団七を筆頭に三味線もチグハグ。人形は紋秀はキッチリしてたが、紋吉の所作が甘い感じがした。 「生写朝顔話」 宇治川蛍狩の口は聖・燕二郎。 燕二郎は本公演での盆回しは初めてと言っていたが、聖もかな。若手らしい、楷書の芸で好感がもてる。 奥は三輪・清友。 三輪は痩せたのか、精彩を欠いた感じ。 真葛が原茶店は小住・友之助。 コミカルな場面で客席の笑いも多かった。小住はふざけた感じは全くなく、どちらかというと骨太な語りだが、笑いのツボは押さえている。元服して白塗りに月代姿になった祐仙に「映画国宝の吉沢悠みたい」。友之助は涼しげな顔で弾いてた。 岡崎隠れ家の中は亘・清公。 亘はガチャガチャした声がいただけない。チャリ場ならばともかく、どこか調子に乗ったような語り口は、特に深雪のような娘にはふさわしくない。 奥は藤・藤蔵。 あんまり合っていないような。今気づいたが、藤藤コンビだ。 明石裏船別れは呂勢・清治に清允の琴。 ようやく義太夫らしい語りが聞けた安堵。ただ清治はいつもの精彩がなく、心配。 弓之助邸の口は薫・錦吾。 薫はいつもの調子だが、視線をキョロキョロするのが気になった。錦吾は落ち着いた様子。 奥は靖・清志郎。 今日はいい靖。 人形は簑二郎の深雪に華がなく、勘彌の浅香と逆だったらと思ったら、ダブルキャストで後半はチェンジするのか。 和生の阿曽次郎が清々しい美青年ぶり。祐仙は勘十郎。真葛が原と弓之助屋敷があると、深雪への執心ぶりがよくわかる。左、足遣いも含めて、コミカルな仕草が達者で客を沸かせた。

2026年5月14日木曜日

5月14日 「メアリー・ステュアート」

宮沢りえのメアリーと若村麻由美のエリザベスという、この上ない2人の共演。宮沢のセリフがいいのは期待通り。よく通る声で、悲劇の女王の悲哀と周りを惹きつける魅力を表す。言われない罪を被された被害者なのだが、安易な同情を許さない狡猾さもあり、一筋縄では行かない感じ。対する若村は低く重々しい声で、エリザベスの抱える重圧や孤独を描出。絶対君主でありながら、周囲の跡形にに裏切られたり、利用されたりする様も見え隠れする。心から信頼できる者がなく、最後はひとりぼっちのような。タイトルロールはメアリーだが、この芝居の主役はエリザベスだと感じた。 レスター(橋本淳)の日和見ぶりを筆頭に、男たちが2人の女王をどこかで軽んじているというか、男尊女卑なところが透けて見えてしんどかった。

舞台装置はシンプルで、幽閉されているメアリーの場面は薄暗い中に一筋の光、表舞台のエリザベスは全体的に眩いほどと、照明で変化を出していたのが興味深かった。

2026年5月9日土曜日

5月9日 御名残五月大歌舞伎 夜の部

「盛綱陣屋」 仁左衛門の至芸を堪能。初め出てきた時は少ししんどそう?と心配したが、芝居が進むにつれ杞憂に。何より、首実験が見もので、セリフなしで心情の移り変わりを詳細に描出するのは他では観られない。小四郎の種太郎は歌昇をそのまま小さくしたよう。芝居もよくこなしていたが、比べるのは酷だがこの前に観たのが丑之助だったので物足りなく感じてしまう。小三郎の秀乃介は幼さが残り可愛らしい。 愛之助が和田兵衛秀盛で、久しぶりの仁左衛門との共演が嬉しい。歌六の北条時政が舞台を締める。魁春の微妙は秀太郎を思い出させた。孝太郎の篝火、壱太郎の早瀬。 「心中月夜星野屋」 おたかを演じる七之助のコメディエンヌぶりが魅力。扇雀の星野屋は何か嫌みっぽくて、面白さが損なわれる。虎之助の和泉屋藤助もなんかなあ。母お熊の鴈治郎はいい風情。 「當繋藝招西姿繪」 仁左衛門監修の舞踊。紋付き袴姿ながら、上方の芝居のハイライトが嬉しい、吉田屋はは孝太郎の夕霧に愛之助の伊左衛門。孝太郎の夕霧が初役ではないかと思うが思いのほか良い。封印切は孝太郎に梅川に扇雀の忠兵衛。車引は虎之助の梅王丸に壱太郎の桜丸、進之介の杉王に鴈治郎の松王。櫓のお七で壱太郎が人形振り。雁のたよりは鴈治郎と壱太郎?引窓は愛之助と扇雀。 冒頭、進之介が愛之助に向かって「久しぶり」というのはネタなの? ラスト、出演者そう並びで、孝太郎より進之介の方が真ん中に近くて、色々思うなど。

2026年5月6日水曜日

5月6日 團菊祭五月大歌舞伎 昼の部

「南総里見八犬伝」 巳之助の犬飼権八、右近の犬塚信乃など。芳流園と利根川の上演だが、何度か観た八犬伝ってあまり面白いと思ったことがないと気づいた。誰もが物語やキャラクターを知っている時代ならいざ知らず、今の観客(含む私)には背景や人物の説明なしの見取りでは楽しめないのでは。立ち回りは見応えあった。 「六歌仙容彩」 八代目菊五郎が5役を踊り分ける趣向で、僧正遍照、文屋康秀、有原業平、喜撰法師、大伴黒主と姿を変えるが、1時間40分の舞踊はキツい。時蔵の小野小町が品があり美しい。所化が9人並ぶ中、鷹之資の体幹のよさが際立つ。 「寿曽我対面」 新辰之助の五郎は血気あふれる若武者の意気が清々しい。姿勢が良いので、力一杯のポーズが美しい。後見の松緑は自身は顔もはっきりとは見せず、後見に徹する姿勢に息子の襲名を全力で支える思いが見えて胸熱。八代目菊五郎の十郎が柔らかみのある姿で、五郎と好対照。七代目菊五郎舞台が工藤祐経を務め、舞台の格を上げる。 一通り芝居が終わった後に劇中口上で、2人の菊五郎のほか、團十郎、雀右衛門、萬寿が並ぶ。松緑は「先輩方と同輩」と述べ、平成の三之助は戦友ではないのねと思うなど。團十郎は「歳は離れているけど、令和の三之助としてよろしく」と息子をアピール。