2026年9月5日土曜日

9月5日 マルコス浄瑠璃「金閣寺」

三島由紀夫の「金閣寺」がモチーフだが、物語をなぞるのではなく、抽象化したイメージのような、後日談のような構成。焼け落ちた金閣寺の灰?を敷き詰めた舞台に、白いローブのようなドレスを纏ったダンサーが灰を巻き上げながら踊る様はカルト宗教の祭礼のよう。寝台に横たえられた眞秀は神の化身か。ダンサーたちのなすがまま、人形のように抱き上げられ、運ばれる。7人のコンテンポラリーダンサーは身体能力が高く、自在に四肢を操り観客を飽きさせない。 「浄瑠璃」とタイトルがついているものの、マリア・アルナルの歌が6〜7割を占め、義太夫節が主で物語を引っ張ると言う感じではない。マリアの歌声は北欧民謡のような、聖歌のような、神秘的で澄んだ響き。歌舞伎竹本の浄瑠璃はポエティッな詞章で、唸るような語りぶりといい、義太夫節と言うより浪曲や演歌のようでもある。 玉助の遣う人形は、マリアと揃いの衣装で、スタイリッシュ。物言わぬ存在ながら、狂言まわしのような位置付けか。ダンサーとシンクロする動きなどもあったが、意外と出番は少なく、要所要所で進行するような感じ。 壱太郎と眞秀は同じ白塗り、髪型で、1人の人物を2人で演じているよう。壱太郎は身体能力の高いコンテのダンサーに混じっても引けを取らない、日本舞踊家としての足腰の強さを感じたが、人形振りのような振り付けはあまりなく、人形との共演もよく分からない。眞秀は自ら踊る場面では体幹が弱く、見劣りした。 アイドルの末永光はコロスの一員としてダンサーに加わったり、ひとり積み木を重ねたり。コンテンポラリーダンサーにうまく溶け込んでいたが、なぜアイドルが配役されたのか。彼ならではの個性や必然性は感じられず、やはり客寄せなのかと思った。

9月5日 BALLET cross READING SWAN

漫画原作は未見だが、2時間あまりで収めるにはストーリーが散漫な印象。北海道の田舎で十分な指導を受けず育った、けれど才能のある主人公が、見出され、上り詰めていくストーリーは少女マンガの王道だけど、ラストがボリショイでの白鳥の湖の主役に選ばれるところで終わるのは物足りない。 踊りのみならず演技でも魅せたのは京極小夜子役の米沢唯。アキレス腱を断裂し、足を引き摺る踊りも素晴らしかったし、ダンサー生命が危ぶまれる絶望感や焦燥がひしひしと伝わった。リーディングキャストの村川絵梨も落ち着いた演技でよかった。 一方、主役の聖真澄役はパッとしたところがなく、ダンサーの飯島望未の魅力が生かされていないのでは。井桁弘恵も、素朴でピュアな役作りかもしれないが、キンキンしたセリフ回しがしんどかった。 倉永美沙のマヤ・プリセツカヤは踊りの場面は圧巻。ただ踊っていない素の芝居では大プリマの貫禄とまではいかなかったかも。お目当ての「瀕死の白鳥」も期待ほどではなかった。 役者陣ではセルゲイエフ役の福士政治に説得力があり、舞台を締めた。 バレエと朗読の組み合わせというのは、バレエダンサーを描く物語としてはいい試みだと思うが、ダンスシーンが細切れなので、踊りを見る上では物足りない。オーディションなど対決場面が多いのだが、同じ曲をり2回するのではなく、メドレー式に踊り手を変えていくのはいい工夫だと思った。 最後、振付の福田圭吾らしいというか、矢上惠子を思わせる一幕が出色。速いテンポで踊るダンサーに俳優が混ざり、グッと気持ちが上がった。正直、これだけで見た甲斐あった。白鳥の湖の曲をユーロビート風にリミックスした音楽に、近未来的な背景や衣装も良かった。 開演前、「プリセツカヤとセルゲイエフの白鳥の湖を上演します」とアナウンスがあり、劇中劇(舞台中舞台?)に導入したり、終演後は「新国立劇場な白鳥の湖2026」としてフィナーレに繋がる流れが洒落ていた。初めのは「えっほんと!?」とざわついている観客もいたけど、んなわけないだろうって。

2026年8月23日日曜日

8月23日 第36回 上方歌舞伎会

「菅原伝授手習鏡」加茂堤から佐太村賀の祝まで 2場を通じて、吉太朗の八重が素晴らしい。加茂堤での若妻の初々しさ、可愛らしさから、佐太村では迸る感情が客席に満ちるよう。花道の登場時から立ち姿が美しく、上方古典の風情をしっかりと体現した。夫桜丸役の翫政もよく、加茂堤では八重と仲の良い夫婦ぶりが微笑ましい。苅屋姫と斉世親王に当てられていちゃいちゃするところ、キスシーンまであってびっくり。 もう一人の功労者は白太夫の千次郎。40代半ばで白太夫を演じるのは無理があるので、身のこなしに若さが見え隠れしてしまう難はあるのは仕方ない。けれど、それを上回るほど、終盤の嘆きには若くして命を散らす息子への慈愛が感じられ、涙を誘われた。 松十郎の松王丸、愛治郎の梅王丸は親子ほど年齢が離れているのに、子どものように我を張り合って喧嘩するのが、役そのもの。千代の千寿、春の折乃助も好演。女房3人の衣装が青系やグレー系の地味な色味なのは上方風? 苅屋姫の千太郎は、斉世親王の愛三郎より頭一つ大きく、バランスが悪い。千太郎は女方志向らしいが、身体的なハンディを覆すには相当の努力と工夫が要ると思った。 「乗合船恵方万歳」 登場人物を9人に増やして、華やかな一幕。 松十郎の大工とりき彌の芸者の美男美女ぶりが眼福。 太夫の佑次郎、才蔵の松四郎は珍しく主役級の役を勤めたが、訳者不足が否めない。 千寿の女船頭は安定感。當史弥の白酒売、愛三郎の子守娘、鴈大の田舎侍。千太郎の通人は姫よりも似合っているかも。

8月22日 三谷文楽「人形ぎらい」

初演から1年を経て京都劇場での再演。 前回よりもぐっと面白くなったと感じたのは、語りや芝居のテンポ、間がよくなったからか。 楽屋に立て掛けられた人形たちが会話するところは、話しているはずの人形がほとんど動かないので誰のセリフか分かりにくいと思っていたが、そうしたモヤモヤは今回は少なかった。近松に指摘されて陀羅助が人形遣いの存在を知るところの人形と人形遣いのアイコンタクト(?)がはっきりしたし、走り疲れた源太の人形に自分を置いて行くよう言われた人形遣いが名残を惜しむところ(3歩歩いて3人一緒に振り返る)といった、人形遣い自身の芝居もこなれて、ぎこちなさがなくなった。客席の反応もよく、特に大阪の街を疾走するところは大いに受けていた。 床は千歳・清介→睦・清公→呂勢・清志郎→靖・清公、清方と続き、最後は両床(?)で上手は千歳、睦に清介、下手は呂勢、靖に清志郎。太夫は呂勢を筆頭に、靖や睦も間の良いコミカルな語りがよかった。(千歳の語りは私にはちょっと合わなかった。「槍の権三」みたいな世話物より時代ものの方が好みなので)三味線は清介が病から復帰。少し痩せたようだが元気そうで何より。パンフレットには出演のない清丈、清允のプロフィールも載っていたのはなぜだろう。

2026年8月11日火曜日

8月11日 LCバレエ「ジゼル」

セットや衣装は簡素だが、奥村康祐のアルブレヒトを間近で見られる幸せ。悪気なく、初心な村娘をたぶらかす大人の男という風情がたまらない。とはいえ、バチルドに正体を明かされそうになると、背後のジゼルを気遣ってシーっと口に手を当てるなど、気遣いも見せる。2幕は一転、深い後悔が滲み、懸命に許しを乞う姿が哀れを誘う。ジゼル役の冨岡玲美は初役だそうで、華奢で、瑞々しい感じが役に合っている。奥村アルブレヒトと並ぶと、経験の差というか、初々しい感じとのギャップで、アルブレヒトの狡さが顕になるというか、ウィリーになってからは、浮遊感がもっと欲しかったが、一心にアルブレヒトを思う感じが現れた。ミルタの望月美利は冷静だが、健康的な体つきなので人ならぬものの感じは薄い。 発表会なので、群舞は素人らしく、村娘がやたら多かったり、子どもが加わっていたり。ウィリーにバレエシューズの子が混じっていたのはびっくりしたが、破綻なく踊っていたのは立派。 客席は6割ほどの入りと、空席が目立ったのは勿体無い。

2026年8月9日日曜日

8月9日 八月納涼歌舞伎 第一部

通し狂言「怪談牡丹燈籠」 辰之助のお露が可憐で、世間知らずな箱入り娘の一途さで、恋煩いで死んでしまうのも不自然ではない。死んでからは湿度を増して、美しさの中に薄寒さを漂わせる。緑の乳母が好演で、お嬢様大事の忠義さと、幽霊になってからはじっとりと不気味。染五郎の新三郎は色男だが案存在感が薄い。 巳之助の伴蔵がチャキチャキした江戸弁で気風のよさ。お峰を殺すところは、騙して連れ出したのに何の呵責もない感じで、冷酷さを感じた。本水を使っての立ち回りののち、最後は川に落としたはずのお峰に引き摺り込まれ、何とも殺伐とした幕引きだった。お峰の右近は達者で、立板に水のセリフでは拍手が起こったほど。だが、玉三郎の方がよかったと感じてしまう。ポスターで誰よりも狡そうな顔をしているのだが、むしろ一番悪意がないのではと思う。 新悟のお国、橋之助の源次郎ペアの悪巧みがかなりしっかり描かれ、最後は平左衛門の亡霊?に操られた源次郎が自らの腹を刺し、その刀にお国も刺されて事切れる。 伴蔵宅で、お六(菊三呂)が新三郎が亡くなった経緯を語るのはリアルか狂言か。 満員御礼ながら、アップグレード幕見はガラガラ。

2026年8月1日土曜日

8月1日 貞松・浜田バレエ団「バレエ・ドラゴンクエスト」

ゲーム原作と軽く見ていたが、ストーリーも、振付も、バレエ作品としてとてもよくできていた。中世ヨーロッパ風のファンタジー世界とバレエの相性はいいのだろう。音楽も、オーケストラで奏でられるメインテーマは盛り上がりるし、ほかも木琴を使った軽やかな曲やフルートを効果的に使うなど、バラエティにとんだシンフォニー。一部、戦隊モノみたいな劇伴音楽もあり、いい感じでゲームとのコラボだった。 白の勇者の後藤俊星が主役だが、踊りの見せ場は黒の勇者の小森慶介により多く、高い跳躍、回転の速さなど、テクニックを遺憾無く発揮。王女の宮本萌は可憐なだけでなく、敵に立ち向かう強さも魅せた。何より、賢者役の山本隆之は立っているだけで存在感があり、物語に説得力を加えた。重いローブを纏っているので、動きは大きくないのだが、手を挙げたり回ったりするだけでも、際立つ美しさ。魔王役の法村圭緒は禍々しい感じだがラスボス感が薄く、最初出てきた時は黒の勇者のお付きみたいに見えた。 2幕で出てくる聖母(竹中優花)は重要な役どころながら、王女(正木志保)と衣装が似ていて、同一人物かと混乱した。(カーテンコールで並ぶと王女は金、聖母は銀だと分かるのだが、別々に出てくると見分けがつかない。せめて王冠の形はもっとはっきり違いを出す方がいいと思う) 伝説の勇者(水城卓哉)は案外弱い。ラスト、黒の勇者が魔王を道連れに死ぬところは、魔王が理由なく後ろの方へ移動するのに段取り感があって残念。黒の勇者と揉み合いながら動くなど、もっと自然な形だとなおよかった。