仁左衛門の俊寛は登場した時から違う。痩せた顔に漂う寂寥感が、離島に流されたもののリアリティを生んでいる。セリフの一つ一つ、動作の一つ一つが胸に迫り、赦免状に自分の名がないかと紙の裏表ばかりか、重なっていないかまで確認する様子など、これまで俊寛を観たときには気にしていなかったところもしっかり印象づける。そして、仁左衛門のオリジナルという、花道に設けた海に踏み込んでいく場面。花道横の席だったので、必死の表情が迫り来るよう。崖を登ってからの最後の場面は、諦観のようなものもあり、短い時間で感情が入り乱れる様がありありと伝わった。
瀬尾の弥十郎か憎たらしい敵役を好演。だが、客席から笑いが起こったのはなぜ? 菊之助演じる丹左衛門が、瀬尾との争いを傍観する時宣言したところでも笑いが起きていたなぁ。
千鳥の千之助は、小柄で可憐な容姿はいいが、立ち居振る舞いやセリフがあざといというか、商売女のよう。田舎娘の素朴さ、健気さがほしい。 (19日に再見し、ますます下手になっていたように見えたのに戦慄した…。孝太郎に習ったとのことだが、言われてみれば所作やそれっぽいかもと思うも、孝太郎の千鳥は可愛かったのに。何が違うのだろう)
「吉原狐」
米吉がいい。気風のよさ、江戸っ子らしい語り口、おっちょこちょいでトラブルメーカーだけれど憎めない。こういうキュートな芸者って、どこかにいそうな感じ。
染五郎は廓で遊興に耽る若殿様はよかったが、後半の落ちぶれてからは板につかない。経験値が足りないのだろう。
千寿の花魁がおっとりと美しい。
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