2023年6月14日水曜日

6月14日 六月大歌舞伎 夜の部

「義経千本桜」

木の実からすし屋まで。仁左衛門の権太は何度も見ているしいいかなと思ったのだけど、やはり観てよかった。木の実で小せん、倅善太郎との家族愛が描かれるから、その後の悲劇がより深まる。子どもにせがまれて渋々家に帰ることにし、遊んでやったり、おぶってやったりする権太の子煩悩ぶりがほのぼの。吉弥の小せんもいい女房ぶり。子どもの笛の袋を権太が帯に挟むところでなぜか手間取ると(「今日に限ってうまくいかない」とぼやきあり)、自然に手伝ってあげて、息のあった様子。花道を引っ込むところの「瑞々しいなあ」のやり取りもいい。善太郎は歌昇次男の秀乃助。小柄でとても可愛く、サイコロを振るのを2回続けて失敗してしまうのも愛らしかった。
おかげで、すし屋で妻子を身代わりに引き連れてきてからの権太の表情から目が離せない。後ろを向いて涙を拭ったり、煙が目に染みたふりをしたり、何より最後の別れは言葉がないのに視線がとても雄弁。寄る年波で足取りがしんどそうに感じるところもあったけど、こんなに充実した舞台を見せてくれる人は他にない。

小金吾の千之助は、2回目のはずだが今ひとつ。若武者らしく見えないのは何故だろうと考え、緊張感が薄いからではないかと思った。

お里の壱太郎は、おとくと打って変わって若々しく華やいだ娘ぶり。セリフもいつものクセが薄く、可愛らしいお里だった。維盛は錦之助。おっとりとした優男ぶりがよく似合うが、弥助からの切り替えはそれほどでもなかった。弥左衛門の歌六はさすが。婆の梅花は上方の役者に比べるとあっさりめ。

川連法眼館は松緑の忠信。初めの真の忠信はいい感じで力が抜けてよかったが、狐忠信はいろいろと物足りない。動きが重たいし、セリフも地声(=高くない)でゆっくり話すので、狐らしい軽快さがないのだ。
義経は時蔵。気品あるいい義経だが、静が入って来るところで一瞥だにしないのなぜ⁇ 静は魁春で、なぜか秀太郎を思い出した。

最後はなぜか荒法師が3人だけで、ちょっと寂しい。



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