2022年12月25日日曜日

12月24日 新国立劇場バレエ団「くるみ割り人形」

クリスマスシーズンの定番で、ロビーに飾ったクリスマスツリーなどが雰囲気を高める

 池田・奥村ペアのパドドゥはやはり幸福感が高くていいなあ。去年に比べるとアイコンタクトは控えめなように感じたのは、座席のせいかな。

子役の男の子で一際小さい子がいて、多分踊りは上手いから抜擢されたのだろうけど、周りの子たちとの身長差がありすぎて振り回され気味だったのが微笑ましかった。

2022年12月23日金曜日

12月23日 博多座文楽

「端模様夢門松」

幕前に勘十郎の解説。女中のツメ人形持参で、はじめ袖から少し顔を覗かせるなどして盛り上げる。

再演を重ねて碩の語りがより良くなった。門松は地で行ける感じだが、竹蔵ら同僚たちのキャラクターが明確になった。門松が「三人遣いになりたい」と嘆くところの大袈裟な泣きは義太夫らしくて良い。
三味線は清介、清公、清允の一門で(清方は休演)。楽しい手が多くて、息のあった演奏。
人形は全て頭巾だが、勘十郎の門松はもちろん、竹蔵の玉佳らも配役表現わ見なくても何となく分かった。
ただ、体調がすぐれなかったのもあるけど、途中で意識が…。客席を暗くするとどうしても瞼が落ちてしまうと思うのだが。

「曲輪文章」

はるばる遠征したのは錣&呂勢の曲輪文章が聞きたくて。呂勢の夕霧は期待通り。出の「わしゃ患うて…な」の声も間も素晴らしく、その後もフシやクドキがたくさんあって音楽的に聞き惚れた。
錣は伊左衛門にはウェットすぎかも。喜左衛門の靖は不足なく。聖が若い衆とおきさで、若手らしい溌剌とした語りは若衆にはいいぎ、女方はまだまだと感じた。けど、素直な発声なのでまっすぐ育って欲しい。

人形は玉男の伊左衛門。そういえば、端模様で門松が憧れる役。伊左衛門の出を見比べるという趣向が面白い。夕霧は勘十郎。派手な頭だけど、健気に見えた。

幕前に呂勢の解説。早口で、男女が痴話喧嘩してるだけであらすじはないとか、文楽には珍しいハッピーエンドでハンカチを用意してきた人は肩透かしとか、毒舌が笑いをとっていた。


2022年12月18日日曜日

12月18日 文楽公演

「本朝廿四孝」

信玄館は御簾内で薫・清允。通し上演だと若手がちゃんと端場を語れるのがいい。薫は思っていたより落ちついた語りだった。

村上義清上使の段は南都・団吾。こうやって聞くと南都ってベテランなんだと思う。人形はここまで頭巾。

勝頼切腹は織・燕三。
昼食を食べすぎたせいか、後半ほとんど寝てしまった…。三味線の音色がいいなぁと思っていたのは覚えてる。織の語りは…。やたら眉を動かす癖を何とかしたほうがいいと思う。

信玄物語は藤・宗介。
簑作と勝頼の関係がようやく分かった。板垣子息のほうは自身のことを知らなかったけど、実の勝頼のほうは信玄から本当のことを知らされていて、多分ちゃんと教育も受けている。奥方の常盤井にも知らせないというのかどうかと思うけど。

景勝上使は碩・友之助。碩は鑑賞教室のほうが良かった。

鉄砲渡しは咲寿・寛太郎。落ち着いて、悪くない。

十種香は呂勢・藤蔵。
いつもは途中で意識が飛んでしまうのだけど、最後まで集中して聞き入った。八重垣姫と濡衣を対比しつつ、どちらもいやらしくなく描かれてた。

奥庭は希・清志郎、燕次郎のツレ、清方の琴。
希は喉が締め付けられたような発声で声が出ていない。高音も出せるはずなのに。一息で語って欲しいところも、ブレスが多くてブツ切れな感じなのもマイナス。比べたら可哀想だけど、呂勢で聞きたかった。三味線はキレのある演奏。
アトを御簾内で聖・清方。若手らしく、声が前に出てた。

道三最後は亘・錦吾。
実は、とどんでん返しの結末。ちょっとバタバタして聞こえた。

人形は一輔の濡衣がとても良い。しっとりとして、しなやかな所作。勝頼への情も感じさせる。簑二郎の八重垣姫は可憐というより、ちょっと押しが強い感じがした。奥庭では狐の人形は持たないので、早替わりはなし。後半の三人出遣いは紋臣の左、勘昇の足。全体的にバタバタした印象。後ろを向いて足をバタつかせるところとか、人形の形が崩れていた。人形がターンするとき、左遣いが離れて主違いと足だけになるのは効率的でいいと思った。

12月18日 文楽鑑賞教室Bプロ

解説はパスして「絵本太功記」のみ鑑賞。

夕顔棚は碩・錦吾。
若手らしい、のびのびとした語りが気持ちいい。錦吾は音色に安定感が出て、顔つきも良くなったよう。
尼ヶ崎の前は小住・錦糸。
錦糸の三味線は一撥で雰囲気を変える。太夫の語りがぐっと引き立ち、小住も実力を十分出せた感じ。少し高音部が不安定だったけど、語り分けもしっかり。
後は芳穂・清丈。
声量がたっぷりしてるだけで良しとしたい。「現れ出でたる武智光秀」がしっかり迫力あった。最後、久吉と勝負は天王山へ持ち越すことで合意したところ、嬉しそうに笑って話すのがちょっと違和感。
人形は玉翔の十次郎が良かった。「爽やかなりしその骨柄」で決まる姿が颯爽として美しい。客席から拍手もあった。光秀は玉助。右肩が胴体に入り込んでいるみたいに見え、なんか違和感があった。

12月17日 大槻能楽堂

「阿漕」

友枝昭世のシテ。身体とのバランスがいいのか、能面が本当の顔のように見える不思議。キビキビとした舞で、前場は釣竿に糸(綱)を巻き付けるなど変わった動き。音を立てて竿を放ったかと思ったら、唐突に去ってしまう。
後場は痩せ男の面で、小さい網を携えて。網を操りながら、禁漁を犯したことにより修羅に堕ちた男の苦悩が描かれる。
なんかすごいものを見た、という感じで、これぞ人間国宝の至芸。少し時間は押していたのだが、短く感じた。
ワキは福王茂十郎。重厚感。 

事前の対談は大槻文蔵と村上湛。現在の伊勢信仰は明治維新後に作られたもので、室町〜江戸期は庶民は詣でたが、皇室は近寄らなかったとか。阿漕が陥る地獄もは仏教的なものでなく、他の作品とは様相が違う。最後に救いがないのも特徴。

能の前に狂言「金藤」
善竹隆平はちょっと頼りない盗賊がよく似合っている。長刀て脅して女の荷物を奪いながら、形勢逆転されて着ているものまで奪われてしまう。女の善竹忠亮は発声が独特。発話時に急にアクセントが来る感じが耳に触り、苦手に感じた。


2022年12月11日日曜日

12月11日 吉例顔見世興行第三部

「年増」

20分の短い舞踊。年増といっても20歳そこそこだそうだが、一人語りのように様々踊り分ける趣向。以前も思ったけど、時蔵は時折脚がガニ股のようになっておっさんぽく見えるのがいただけない。せっかく時蔵に来てもらうなら、関西の役者と絡む役で見たかった。


「女殺油地獄」

愛之助の与兵衛は格好つけて情けなく、浅慮で見栄っ張り…と与兵衛に求められる要素を余すこととなく体現(←褒めてる)。以前から、当代一の与兵衛と思っていたけれど、よりグレードアップした感じ。徳庵堤ではうかれて声のトーンが高く、より若々しく感じた。河内屋では悪態をつくのが甘えと裏表で、子どもが駄々をこねるよう。そして、豊島屋では改心したようすを見せながらも、すぐに調子よくなってお吉の好意に付け入ったり、泣き落としにかかったり。殺意を抱いてからは狂気の面持ちで、残酷ながら美しい。
孝太郎のお吉も過不足なく、与兵衛への好意からいろいろ世話を焼いていて、誤解されてしまうのだけど、その好意は男女の、ではないのだろうなという感じ。 
花車お杉の千寿に仲居おまさのりき弥、皆朱の善兵衛と刷毛の弥五郎は松十郎と千次郎など、上片歌舞伎の面々が出ていたのも嬉しい。
七左衛門は進之介。久しぶりに見たが、太川陽介に似てた。 

12月11日 吉例顔見世興行第二部

 「封印切」

鴈治郎の忠兵衛に扇雀の梅川。なんだかあまり哀れを感じないのだな。鴈治郎はどちらかというと三枚目が似合うし、扇雀は骨太の体つきなので、受け身の女というよりは、忠兵衛を尻にひいているみたいに見える。

愛之助の八右衛門は、ナチュラルに憎まれ役を好演。本人はモテるつもりなのに、総スカンを食ってしまう、こういう勘違い男っているよねと思わせる。

名題披露の翫政が太鼓持ち。


「松浦の太鼓」

仁左衛門の松浦公はワガママだけれどとてもチャーミング。「ばかっ、ばかばかばか」って3回くらい言っていて、ウフフという気持ちになる。左桟敷席だったのでお縫と其角を去らせたのを呼び止めたところ、花道に立つ2人越しにこちらを向いている仁左衛門がこちらを向いているように見えてドキドキした。舞台と同じ高さだから、目線が合うような気がするのだ。

其角の歌六は抜群の安定感。お縫の千之助は可憐だが、嘆き悲しむ仕草がちょっとクサイかも。二場で馬から落ちる松浦公を抱き止める近習の隼人が頼もしかった。

2022年12月10日土曜日

12月10日 能狂言「鬼滅の刃」

あまり期待していなかったのだが、想像を超えて面白かった! 鬼滅の刃の世界観を表現しつつ、ちゃんと能を観たという手応え。テンポよく、言葉が明瞭で聞き取りやすく、場面ごとのメリハリも効いて、グイグイ引き込まれた。五番立てと聞いて、何のことやらと思っていたが、この組み立てが絶妙。数多い登場人物をどう裁くのか懸念したが、それぞれの場面で異なる人をクローズアップすることで、メリハリが効いた。
 
特に良かったのは、雑能「君がため」。善逸(野村裕一)、伊之助(野村太一郎)、炭治郎(大槻裕一)がわちゃわちゃしてるのが、原作のギャグの雰囲気。狂言師らはコミカルなのだが、炭治郎は終始謡ががりのセリフで、ふざけすぎないのもいい。 

萬斎の無惨はハマり役。冒頭、脇正面席の後方から出てきたときは録音のセリフだったが、これはアニメの声優さん? 無惨が鬼になる経緯は、一人語り。パンフレット掲載の台本では切能の間狂言になっていたけれど、独立した場面になっていた様な。平安装束は陰陽師を意識してのものらしいが、よく似合っているし、冒頭とラストの洋装と時代が違うのもわかりやすい。

大槻文蔵は切能「累」のシテ役。少女のような姿だが、そこ知れぬ恐ろしさを隠し持っているような不気味さがあった。切られた首が飛ぶところで、作り物の小屋に頭を隠していたのが!人間国宝がここまでやる?と驚いた。白に混じって赤い蜘蛛の糸が飛び交い、見応え十分。この後再び無惨が登場し、炭治郎への呪詛の言葉を残すのは、続編を期待させる。 

笑いの塩梅も良く、狂言その一「刀鍛冶」は鋼鐡塚(太一郎)がセリフの間で笑わせる。脇正面席だったので、地歌座に並ぶ囃子方と向かい合わせだったのだが、表情を引き締めて笑いを堪えている様子だった。

鎹鴉の面はセリフに合わせて嘴が動くのがよくできていたし、手鬼や人面蜘蛛の造形も巧みで、暗がりに蛍光赤のネイルが視覚に効いて面白かった。

12月10日 吉例顔見世興行 第一部

「すし屋」

獅童のいがみの権太はなんか違う感じがするのは江戸前だからか。ごんたくれだけど憎めないという風でなく、ちょっと突っ張っている兄ちゃん。嘘泣きでは舌を出さず、小せんと倅を見送りもせずだったのも、あれ、と思ったところ。
壱太郎のお里は可愛らしい。目元のピンクが濃くて、ほろ酔いメイクのよう。
維盛は隼人。空桶を重そうに持ちすぎだし、維盛の高貴さも今ひとつ。権太のモドリを聞いているところなど、何もしない芝居にもう少し深みがほしい。
吉太朗の若葉の内侍は2度目だけあって、落ち着いていて、10月の時より年嵩に見えた。


「龍虎」

扇雀の龍に虎之助の虎。20分の短い舞踊ながら早替わりとぶっ返りで3態を見せ、楽しませる。はじめは白い能装束のような姿で、舞台裏に引っ込むと隈取りに獅子の毛、最後は白塗りに戻って袴姿。虎之助はぶっ返りが上手くいかなかったらしく、3階席からだとうつ伏せの姿勢でワタワタしているのが丸見えだった。踊りとしては特筆するものはなし。



2022年11月27日日曜日

11月27日 新国立劇場バレエ団「春の祭典」

「半獣神の午後」
平山素子振付の新作は総勢15人の男性ダンサーで、福田圭吾のソロ、奥村康祐と中島瑞生のデュオ、群舞のパートで構成。はじめは群舞のなかに福田が混ざり、福田が起点となって全体に波紋を起こすような踊り。アラブ風のパンツに上半身は裸でボディペイントを施した衣装がダンサーの肉体を引き立てる。これだけ踊れるダンサーが飛んだり跳ねたり回ったりすると迫力がある。
デュオは赤いレオタード?の奥村に紫のタイツの中島が、光と影、陽と陰のようであり、主客が入れ替わったり、対峙したり。リフトしたりされたりと絡みが多く、女性ダンサーとのパドドゥとは違って拮抗した感じ。普段はリフトする側の男性ダンサーは持ち上げられるとどんな気分なんだろうと思うなど。

「春の祭典」
こちらは一転して、2台のピアノによる生演奏に、米川唯と福岡雄大のデュエット。ストラヴィンスキーの複雑な音楽といい、もがくような振付といい、祭典というタイトルながら祝祭感はない。2人とも身体能力も表現力も素晴らしいのだが、米沢の華奢な身体でこういう振りを踊ると痛々しく感じる。
ラストは舞台に敷かれていた布?が後方に巻き込まれ、米沢、次いで福岡が黒い幕の向こうに呑まれていく。

11月26日 大槻能楽堂

「清経」
大槻文蔵と天野文雄の対談を聞いた後なので、細部まで目を配って見られた。笛の音に合わせて、清経が少しずつ姿を現し、妻のもとへ近づいてるのは、やはりこのテンポだからいいのであって、早送りしたら台無しだよなと思ったり。
シテの上野雄三、ツレの長山耕三ともに声が聞き取りやすく、詞章がよくわかった。清経の面は時に絶望したり、時に泣き笑いに見えたりした。
恋之音取の小書き付きで、笛方が舞台の方に出てきて演奏していた。  
隣の席の男性が大方寝ていてかすかにイビキをかいているのが耳に障り、集中を削がれたのが残念。 

11月26日 劇団☆新感線「薔薇とサムライ2」

ライブビューイングで千秋楽を観劇。
今まで観た新感線のなかでは一番面白かった。天海祐希演じるアンヌ女王の気高く凛とした美しさと格好良さか何より。ストーリーもしっかりしていて、フランス革命ものを彷彿とさせる筋立てに見応えがあった。天海は2部の冒頭で、怪盗紳士としてトート閣下ばりに「最後のタンス」を歌い踊ったり、短髪の男装で黒燕尾を披露したりのサービスも嬉しい。まあ、彼女は陽性の人なので、トートそのものは仁でないとも思ったが。

後継者となる新田ニコルは初めて観たが、歌、芝居共によく、好演。古田新太や生瀬勝久、高田聖子らの安定感。早乙女友貴の殺陣が目に鮮やか。

ただ、休憩挟んで3時間半は長く、後半はダレた。同じようなギャグや殺陣の繰り返しはちょっとうんざりした。

2022年11月24日木曜日

11月23日 文楽公演第二部

「一谷嫩軍記」

弥陀六内は睦・団吾。
この場面を見るのは初めてかも。睦はいつもの高音の掠れがあまり出ず、敦盛と小雪の恋模様が瑞々しい。とはいえ、青葉の笛のような大事なものをあげてしまうほど、小雪のことを思っているのだろうか。人形は清五郎の敦盛に簑紫郎の小雪が可憐。弥陀六は玉助。爺さんかと思っていたが、颯爽として格好良く見えた。 

脇ヶ浜宝引きの段は休演の咲に代わった織と燕三。6人ばかりいる村人を語り分けたのは立派だが、滑稽な場面なのにいまいち笑いが起こらず。盤が回ったところから気合の入った表情で、大熱演はいいのだが、こういう場面は眦を決して語るようなものではないのではと思う。

熊谷さくらは希・清丈。 

熊谷陣屋は前後に分けて、前半を錣・宗介。聞き応えのある熱演だったが、声質が向いてないように感じて今ひとつ入り込めず。
後半は呂・清介。感想はいつもと同じで、三味線ばかりが力強い。

人形は玉志の熊谷。世代交代なのだろうが、動きがこじんまりしてる気がした。

2022年11月13日日曜日

11月13日 「波濤を超えて」

能、歌舞伎、現代劇のコラボだそうで、お目当ては壱太郎をはじめとする上方歌舞伎の面々と能楽師の林宗一郎。主演のジャニーズの若手は全く知らんかったが、さすがの人気で一階席はほぼ満席。やれやれ。

能楽師は3人キャスティングされているが、日替わり出演。聞いてないよーと思ったが、運良く宗一郎の回に当たった。
冒頭、蘇った知盛の亡霊として船弁慶のような装束で一差し舞ったのと、天狗の親玉、大天狗として吉弥の天逆毎姫(といって老女だが)を従えて登場。大天狗てはセリフもあって、低く響く声に人ならぬものの凄みがあった。他の出演者との絡みはあまりなく、能の要素を象徴的に取り入れた感じ。現代劇だから直面を期待したのだが、役の時はどちらも面を着けていてがっかり。カーテンコールでは素顔を見せてくれ、遠慮がちに手を振るのが微笑ましい。

源義経を関西ジャニーズJr.の嶋崎斗亜、平知盛をジャニーズJr.の影山拓也。2人とも若くて芝居はまだまだ、というか、義経と知盛のコスプレみたいに見えた。義経と頼朝の対面や、知盛の入水など印象的な場面をピックアップして、間を達者な歌舞伎役者らが繋いでなんとか芝居の形にしている感じ。物語はブツ切れだし、頼朝に追われた義経が落命するところなんかは説明てすませちゃったりして、芝居を見たというには物足りない。せっかくの知盛の入水は、岩の上に登って薙刀(碇ではない)を掲げるものの、仰向けに倒れ込むのではなく、くるっと回転して脚から飛び込んだのが肩透かし。
梅天狗の千寿、太郎天狗の千次郎らがうまい。三郎天狗と駿河次郎の二役をこなした吉太郎も活躍。歌舞伎や能役者が出るところは見られたが、ジャニーズ主体のところはしんどかった。
壱太郎の演じた静はいいとして、物語の鍵となる祇王がなあ…。恨みの根源になってからはいいとして、清盛の命令で知盛に殺されたのがきっかけとして薄いというか、あっさりしすぎで、平家はともかく、源氏やその他を巻き込むほどの深い怨念を抱くには弱いのでは。まあ、そこが見せ場ではないので、尺をとっていられないのだろうが。

11月13日 文楽公演第一部

「心中宵庚申」

改めて好きな話ではないと思ったが、演者は充実してたので聞き応え、見応えあり。
呂勢・清治の八百屋の段が特によく、半兵衛が心中を持ちかけるところで思わずホロリとした。全然共感できない話なのに。呂勢の意地悪婆は安定の面白さ。

上田村は千歳・富助。最近聞いた中では悪くない。というか、引っ掛かりなく曲に委ねて聞いていられた。人形もよく、勘十郎の千代が控えめな風情で、玉男の半兵衛の煮え切らないいい人ぶりと相まって、いいカップル。玉也の父平右衛門も抑制の効いた芝居で、千歳の「灰になっても帰るな」のセリフが痛切に響いた。

幕開き、糸繰りする下女を遣う簑悠がいい。仕草が丁寧で、ちょい役なのに目を惹かれた。隣りで似たような役の玉延は途中、クスクス笑っていて、頭巾を被っている足遣いも体を震わせて笑っているのが分かるほど。何かアクシデントがあったのかもしれないけど、いただけないと思った。

道行思ひの短夜は錦糸がシン、二枚目が勝平で安定感があった。ほか友之助、燕二郎。太夫は芳穂のお千代、南都の半兵衛、咲寿、聖、薫。語りのせいなのかなんなのか、やっぱりこの2人が心中する理由が分からんとモヤモヤして終わった。だつて、義母を悪く言われないために半兵衛から去り状を出しても、直後に死んじゃったらやっぱり義母のせいってことにならないか?お腹の子が憐れとかいうなら尚更、死ぬ以外の選択肢をとれなかったかと思ってしまう。


2022年11月12日土曜日

11月12日 文楽公演第三部

「壷坂観音霊験記」

沢市内を藤・団七。
藤は気持ちよさそうに歌い上げて、聞き心地よい。あまり浄瑠璃を聴いているような感じはしなかったが。沢市のキャラが違う感じがしたのは、思い詰めたような深刻さが薄いからか。新しい演目で、元々好きな話でないというのもあるかもしれないが。

奥の山の段を三輪・清友に清允のツレ。三輪の声が濁声みたいで聞きづらかった。

人形は清十郎と簑二郎の沢市。


「勧進帳」

七挺七枚の大編成で迫力のある床。織の弁慶、靖の富樫は若さゆえか、息詰まる心理戦というよりはがちんこの殴り合いみたいな勢いながら、緊迫感はあった。小住の義経、亘と碩の番卒がらしくてよい。が、冒頭で冨樫に呼ばれて出てきたの番卒は1人なのに、セリフを割っていたので誰が喋ってるの?となった。
人形は弁慶が三人出遣いで玉助、玉佳、勘介。初役の玉助は汗かいて力演。左の玉佳が好サポート。勘介は動いている時はいいが、止まっている時に右足が左に流れがちなのが気になった。花道での引っ込みは、大の男3人が身を寄せての熱演。勢いあって客席は沸いたが、花道横で見ると後半は人形遣いの背中しか見えないのがなんだかなぁ。
松羽目なのだが、安宅の関柄移動したところで、青海波に老松の背景に。こんなだったっけ?

2022年11月6日日曜日

11月6日 江戸能 DO-YOU-NOH?

江戸時代の勧進能を模して、江戸時代の扮装など当時を再現するという趣旨と聞いていたのだが、ちょっと中途半端。受付スタッフらが丁髷や日本髪で、能奉行役の辰巳万次郎が丁髷に長袴の裃姿で登場し口上を述べたり、ワキが丁髷姿だったりしたが、他の出演者は普段通りの姿だったので、チグハグというか、一部の人がコスプレしているだけみたい。

「墨塗」
大蔵基誠の大名、榎本元の太郎冠者、吉田信海の女。
基誠は大柄なこともあって立派な大名。吉田は墨の塗り方が涙のようでなく、雑に見えた。
以前見たのとだいぶ印象が違ったのは何故なのだろう。確か茂山狂言会だったので、同じ大蔵流のはずなのだが…。

「隅田川」
宝生和英のシテ、渡守は森常好、旅人は舘田義博、梅若は出雲路啓。  
宝生和英は初役だそう。前半、笠を被っているときは小柄なせいか、母というより童女のよう。後半、船に乗って渡守から塚の由来を聞く段では、京から連れられた吉田何某の子と言われたところではっと顔を上げ、亡くなったことを知るとがっくりと音を立てて姿勢を崩すさまに母親の思いが溢れた。 終盤、塚から念仏を唱える子どもの声が聞こえ、実際に子方が姿を表す。母と子が互いに手を伸ばすのだが、触れられずにすれ違う。歌舞伎や舞踊では子役を使わないので、違いが興味深い。

2022年11月3日木曜日

11月3日 Kバレエカンパニー「クレオパトラ」

50歳の熊川哲也シーザー役で久しぶりに舞台出演するというので、それを目当てに行ったのだが正直期待はずれ。登場シーンでは一瞬熊川と分からず、会場の拍手で気づいたほど。往年のようなテクニックは望むべくもないが、年齢を重ねたからこその存在感やオーラを期待していたのだが。なんだか肩のあたりが丸く見え、冴えない普通のおっさんのよう。政治家として頂点に登っていこうという人物の力強さは感じられなかった。ダンスシーンは結構あり、跳躍なども見せたが特筆するほどではなく。女性ダンサーをリフトするところはちょっとしんどそうだった。

クレオパトラの日高世菜はバランスや回転、ジャンプの安定感があり、確かなテクニックで魅せる。シーザーを誘惑する場面では妖艶さがあるが、なんでか可愛らしい感じもあり、一国を統べる女王の大きさは足りないと思った。 蛇のように、床に寝そべって身体をくねらせる仕草はいただけないと思った(彼女のせいではなく、振り付けの問題だけれど)。

オクタヴィア役は古典的な振り付けが他と違って印象的。成田紗弥も良かった。

初演の時も思ったけど、作品としては今ひとつ。音楽が物語に合っておらず、ドラマに入り込めない。曲とマッチして盛り上がるのは冒頭とラストだけで、他はあまり印象に残らなかった。

2022年10月30日日曜日

10月30日 ヒューストンバレエ「白鳥の湖」

マチネとソワレを続けて鑑賞。従来版と色々変更点があって興味深い。1幕の冒頭から王子たちは森へ狩りに来ている。そこへ花嫁候補たちがやって来てアピールするのは不自然だが、オデットとの出会いの場面がそのまま繋がるのはスムース。オデットははじめ、人間の姿で王子と出会うので、チュチュではなく白いドレス姿。ロットバルトが現れて白鳥の姿に変えられるところを王子は目の前で見ているので、白鳥=オデットと認識するのが明快ではあるのだが、通常マイムで経緯を説明する時の音楽で王子のサポートでピルエットを回ったりするのでちょっと戸惑う。永遠の愛を誓ったら呪いが解けると告げるのは別れ際で、これは自然な流れ。

特徴の一つは男性ダンサーが踊る場面が多いところで、1幕冒頭で王子と友人ら男性ダンサーの群舞に見応えあり。ボウガンを構えて隊列を組むところは、ちょっと宝塚を連想した。ただストーリー上の必要性はあまりないような。振付は全体的にオーソドックスで、白鳥の群舞や、4羽、2羽の白鳥の踊りなど物足りなく感じるほどだった。
もう一つの見どころは、人間→白鳥、オデット→オディールの早替わり。オデットがロットバルトと手下たちに捕らえられて白鳥に変えられるところは、短い時間でドレスからチュチュ姿に。影武者も使いながらだろうが、舞台裏は大変そう。白鳥はシニヨン、人間のときはおろし髪なのでカツラを使っているのかな。
2幕が宮廷の場面で、各国の姫を迎え入れるところで同じワルツの曲でそれぞれと王子がデュエットするのだが、振付混乱しないのだろうか。曲のさわりだけ使って強引にまとめる編曲はあまり好みではなかった。オディールははじめ黒地ラメのドレスで登場し、王子と別室?に引っ込んで再度出てきた時は黒のチュチュに着替えている不思議。王子とのパドドゥになると他の人たちが全て引き払ってしまうのも意図が分からん。
王子のソロは音楽がかなりゆっくりだったのだが、マチネの吉山シャールルイ・アンドレは高いジャンプや大きな回転で音をたっぷり使っていたのが好印象。
3幕は白鳥たちが人間の姿で、皆ドレス姿での群舞。別の作品を見ているような感じだったが、ロットバルトが現れて1人2人とチュチュ=白鳥に変わっていくところは面白かった。湖のほとりに横たわっている竜は何? 最後はそこからオデット、王子が続けて湖に身を投げる。音楽として最高に盛り上がるところで、オデットがロットバルトに向かって飛び込んでリフトされるのも何で?と思う。オデットはロットバルトとの絡みが多く、一列に並んだ白鳥たちの向こうをリフトされて横切るのは飛んでいるようで視覚的には美しかった。2人が身を投げた後はなぜかロットバルトが苦しみながら退場し、残った白鳥たちが逆三角形に隊列を組んで群舞で幕を閉じる。死後の2人のシルエットがないのも少し物足く感じた。 
マチネのオデット/オディール役サラ・レインは体つきが結構かっちりしていて、あまり好みではなかった。

夜の部は加冶屋百合子のオデット/オディールが抜群にいい。オデットは繊細で、リフトの軽やかさは浮いているよう。回転の軸がぶれないのも凄い。オディールでは打って変わって挑発的。グランフェッテでバランスを崩してたのが惜かった。王子のコナー・ウォルシュは誠実そうな雰囲気が王子らしいが、踊りは特筆するほどではなく、ソロでは音を使いきれていない感じがした。 

2022年10月29日土曜日

10月29日 菊地まどかの会

「二人三番叟」
床は靖・清丈。舞台後方に置いた緋毛氈の台の上で演奏し、人形はその前で演じる趣向。一挺一枚の三番叟って初めて聞いたけど、なんとも寂しい。鳴り物もないから余計に。舞をサボって笑いを取るところも、心なしか盛り上がらなかった。
人形は簑悠と勘昇。勘昇はとても緊張した様子で、人形の扱いもぎこちない。簑悠は比較的落ち着いて、安心してみていられた。手すりがないので、主遣いが足を動かしている様子が見られたのが興味深かった。

「温かい手」 
まどかは7ヶ月の身重で、お腹の子と一緒に語ると冒頭で。
新作の浪曲だそうだが、このご時世にひもじくてパンを盗む子どもって…と思う。DV夫から逃げてきた母親が、居所が知れるのを恐れて病院に行けないという設定は今っぽいけど、だったらその辺りをもう少し掘り下げてもいいのでは? 成人して医師になった子どもが世話になった八百屋夫婦の医療費を肩代わりして、借りを返すというオチが、もう使い古された感じで。ただ、パン屋のおっちゃん、八百屋の夫婦の語り分けは見事。子どもがちょっとわざとらしく感じた。

「火の見櫓」
床は引き続き靖・清丈。人形は簑之。 
簑之のお七ははしごを登る所作ももたつき、手慣れない感じ。若手に機会を与える主旨なのだろうか。

「梅川忠兵衛」
まどかが舞台中央で語る浪曲のみで始まり、半ば、舞台が暗転してテーブルが舞台上手側に移動。道行の場面から下手側に手すりを設けて人形が登場した。
まどかの語りはイキイキとして、よい。梅川が可憐で、生娘みたいだった。忠兵衛は結構あっさり封印を切ってしまい、梅川に打ち明けるのは追手を逃れる2人が潜む宿の場面で。文楽や歌舞伎にない場面もあり、ポイントの置き所が違うのが興味深い。淡路町をアワジチョウと読んでいた。 
人形は玉翔の梅川、玉路の忠兵衛、玉佳の孫右衛門。梅川と忠兵衛、梅川と孫右衛門と人形が2体ずつしか舞台におらず、梅川が孫右衛門の下駄の鼻緒を直してあげるくだりで忠兵衛が出てこないのが不思議と思っていたら、人が足りないかららしい。


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2022年10月27日木曜日

10月27日 若手素浄瑠璃の会

「苅萱桑問筑紫轢 高野山の段」は碩・燕二郎。
珍しい演目だが、三味線の手が混んでいるので、燕二郎の選曲かな。登場人物が子どもと成人男性たけだから、語り分けも大変ではなさそう。

「信州川中島合戦 輝虎配膳の段」は靖・清公に清方の琴。
靖の語りが迷走してないか? フシの音程が不安定だし、顎を上げて語るようなところなど、師匠のクセを悪い形で真似してるように感じた。対面で稽古していると移ってしまうのだろうか。
清公の後頭部が乱れていて、位置的によく見えてしまって気になってしかたなかった。

2022年10月23日日曜日

10月23日 新国立劇場バレエ団「ジゼル」

米沢唯・渡邊峻郁ペア。
米沢のジゼルは、1幕では朗らかさが好ましい。病弱ではあるのだけれど、躍る喜びや恋心の高揚といった陽の雰囲気がある。小野絢子はいつもどこか哀しみの影が透けて、それがジゼルに合ってもいるのだが、米沢は本当にどこかの村にいそうな純朴さ。
渡邊のアルブレヒトは、現代的なイケメン。深く考えずに、たまたま見かけた美少女にちょっかいを出したら大ごとになっちゃった感じ。1幕の終わりでジゼルが狂ったところなど、俺知らねーといった無責任な様子だった。

R列だったのでオケピの様子がよく見えたのだが、指揮のアレクセイ・バクランは飛び跳ねるように動いたり、終演後はパートごとに称賛の拍手を送ったりと情熱的。見ている方も煽られてしまう。 

2022年10月22日土曜日

10月22日 新国立劇場バレエ団「ジゼル」

柴山紗帆・井澤駿ペア。技巧派の2人だが、感情表現では初日ペアに譲るか。柴山のジゼルは普通の女の子で、ハンサムに言い寄られて夢中になってる。狂乱は我を忘れてはいるけれど、狂うまでは行っていない感じがした。2幕は生身の感じがあって、それはそれで新人ウィリーらしいのかもと思った。
井澤アルブレヒトは、自覚的なハンサムで、悪いと思ってなさそう。
ペザントは奥田花純と代役の山田悠貴。技術的には初日ペアが優るが、見応えあり。
ミルタはロールデビューの根岸祐衣。初々しさがあるというか、ちょっと微笑むところもあり、冷酷な怖さは少し薄い。踊りの面でも、まだ柔らかさがあるように感じた。 

2022年10月21日金曜日

10月21日 新国立劇場バレエ団「ジゼル」

吉田都芸術監督による新制作ということで、期待の舞台。小野絢子のジゼルに奥村康祐のアルブレヒトは、8月の地主薫バレエ団での共演が素晴らしかったので期待していたのだが…。
アルブレヒトは初めから遊びのつもりがありありで、どこか冷めている感じ。ジゼルとのイチャコラも駆け引きを楽しんでいる風。バチルダが婚約者であることを明かすところで、シーっとする仕草もなかったし、全く別のキャラだった。同じ役でこれほど違う人物を描出できるとは、ある意味すごい。ジゼルもアルブレヒトのことは好きだけれど夢中というほどでもなく。こんな2人なので2幕でどうしてジゼルが赦すのかが釈然としなかった。踊りのレベルは高く、そういう意味ではとても見応えがあった。
小野のジゼルは可憐なおぼこ娘。ステップの軽やかさは圧巻。狂乱が少し長く感じたのは、さまざまな感情の変化が克明だったからか。剣を振り回すところで、刃を持ったら怪我するんじゃないの?と思う。
バチルダは大富豪の娘という設定で、ネックレスを重ねたケバケバしい衣装が成金みたいで、周囲から浮いている。ジゼルへの対応がいじわるっぽい。 
ヒラリオンは福田圭吾。ワイルドな感じで、無骨なところがジゼルには嫌われちゃったのかなと思った。アルブレヒトの正体を知って、してやったりとするところ。そういうところが、少女には受け入れられないのよ! 
ペザントはネックレスのお礼に身体が弱くて踊れないジゼルの代わりに躍る、という流れで、村人たちを率いて踊るところもあり、話の流れとしてとても自然。池田理沙子と速水渉悟は共にテクニックが素晴らしく、特に速水のジャンプのキレが素晴らしかった。

2幕は冒頭、寺田亜抄子のミルタが秀逸。滑るような登場から、人ならぬものの無機質な感じがよい。ウィリーの群舞はあれ?という感じ。チュチュの丈が短い上、レースが薄いので脚がバッチリ見えているし、足音が思いの外響く。フォーメーションは複雑で綺麗だった。
小野ジゼルは体重を感じさせない軽やかさが圧巻。何でアルブレヒトを庇うのかという思いは拭えず、すれ違う切なさも薄かった。
奥村は一幕と打って変わって、後悔の念が深く、ジゼルやミルタに赦しを乞う。踊り疲れて倒れ込む姿に悲壮感があるが、3回くらい倒れたのは多すぎる気もした。これに対して、ヒラリオンのくだりはあっさりめで重ねて気の毒。
終演後は満場のスタンディングオベーション。はじめ表情が硬かった奥村も、振付家らが舞台に上がった頃からは笑顔を見せていた。

2022年10月16日日曜日

10月16日 坂東玉三郎特別公演「本朝廿四孝」

玉三郎の八重垣姫が観たくて御園座へ遠征。口上によると24年ぶりだそう。上演記録を調べたら、十種香だけは時々かかっているけど、奥庭まで続けての上演は2008年に玉三郎が演じて以来。

玉三郎の八重垣姫は終始可憐で、一瞬一瞬が絵になる美しさ。橋之助の勝頼と並んでも全く違和感がない。奥庭の引き抜きは、兜で体を隠すようにして、変化を鮮やかに見せていた。ラストは2匹の白狐と兜に誘われて、花道を駆けていく。以前、国立劇場の通しで見た時蔵は、兜に引っ張られるような演出だったのと比べると、自律的な感じ。狐を使う役者が出遣いなのも違った。
とても素晴らしい舞台だったのに、残念だったのは客席の笑い。「翼が欲しい、羽が欲しい〜」の名台詞で笑うってどんなセンスなの⁉︎ おまけに、ラストで黒衣が操る狐が3匹増えた時も笑っていた。どういう話か分かってないのかな?
橋之助の勝頼は、玉三郎相手に遜色ない立派な貴公子ぶり。濡衣の雪之丞は、声がちょっと世話っぽく聞こえたが、所作が美しい。緑郎の謙信は敵役にしてはシュッとして、格好いい。



2022年10月15日土曜日

1015 金剛謹之輔百年祭 金剛永謹古希祝 祝賀能

「鷺」 
永謹のシテ。鷺というには体がガッチリと大きいので、少しイメージと違うのだが、全身白い装束での舞には荘厳さがあった。橋掛かりで、ワキの福王茂十郎に捕まえられるところは、緊張感漲る駆け引きの様相。ワキ正面席で近くて見られたので余計にそう感じた。
龍謹長男の謹一朗が帝。一生懸命覚えた詞章を忘れないようにか、だんだん早口になっていく。ちっちゃい子が頑張っていて微笑ましい。

仕舞「猩猩」
龍謹の次男、宣之輔の初舞台。3歳くらい?と幼いので、足の運びがスタスタ歩く感じで、動きも早い。 

半能「石橋」
龍謹のシテ。舞金剛の本領発揮で、登場から勇壮で躍動感がある。舞台前方に所作台をる2つ並べていたのだが、飛び乗ると台が客席の方へ動くのでハラハラした。 

10月14日 中之島文楽

「道行恋苧環」 
織のお三輪、靖の橘姫、碩の求女、三味線は燕三、清丈、燕二郎。年功では靖が二番手なのだろうが、橘姫はちょっとしんどそう。三味線が華やか。
人形は一輔のお三輪、紋臣の橘姫、玉佳の求女と適材適所。一輔のお三輪がいい。

幕間トーク、ミミヨリな「道行」のお話は、藤川貴央アナの司会で、ゲストの大島真須寿美、織、燕三。時代物と世話物の道行を聞き比べるという主旨なのに、織は「天神森は道行ではない」と。演じる時の心構え、教えなのだろうけど、会の趣旨をぶち壊すような発言。藤川アナはそのままスルーしていたけど、「天神森は道行ではないけど、形式としては道行に似てる」とか何とか一言フォローがあってもよかったと思う。

「天神森の段」
織のお初に靖の徳兵衛、碩のツレ。こちらの方がそれぞれの役にあっていたし、まとまりもよいとおもった。
人形は一輔のお初に玉男の徳兵衛。珍しい組み合わせだけど、意外に似合っていると思った。キャラの温度差が近い感じというか。一輔のお初はしっとりと落ち着いていい。 

2022年10月12日水曜日

10月11日 日本怪談歌舞伎 時超輪廻古井戸

Jホラー歌舞伎と銘打って、「貞子」と「播州皿屋敷」を掛け合わせ。思っていたほど酷くはなかったが、良くもない。貞子が這い出てくる井戸と皿屋敷でお菊が投げ込まれる井戸が時空を超えて繋がっているという設定で、現代と室町時代が交錯する。

愛之助の鉄山に壱太郎のお菊での皿屋敷はほぼ古典通り。千寿が珍しい立役の悪役、香川番内で、千次郎演じる岩淵忠太と共にお菊をなぶり殺す。一つ不満は、井戸の上に吊るさないこと。吊り下げられた美しい女が嬲られる姿が美しくも憐れなのであって、地べたに転がされて打たれたり、「水雑炊を食らわせい」とか言って桶に貯めた水に顔を漬ける(←本水)とか、水を浴びせ掛けられたりするのはちょっと違う。

愛之助、壱太郎、莟玉の三人はそれぞれ二役で、早替わりも見どころ。莟玉は現代パートの高松から古典の船瀬に替わるとき、白塗りの化粧込みで5分くらいで出てきたのは驚いた。 現代パートで茶髪のチャラい学生を演じ、若者ことばで「マジムリ」とか曰うのが新鮮だった。 
莟玉になってから松竹座へは初御目見だそうで、陰陽師役の松十郎に「うーめまるから莟玉」とか「パンダ好き」とか「本名は」とかいじられていた。

現代パートが総じて薄っぺらく、肝心なところを言葉で説明してしまうのでホラーの怖さはない。歌舞伎パートとの落差が大きく、チグハグな印象だった。

今井翼演じる室戸は謎解きを担い、陰陽師で超神霊学者という設定。室町時代へタイムスリップして貞子の呪いを解くために九字を唱えながらフラメンコを踊り出すのは、お約束とはいえ違和感しかない。 

2022年10月10日月曜日

10月10日 義経千本桜 Aプロ

伏見稲荷鳥居前から。話の流れからするとCプロにつながるのだろうが、原作通りの順番にしたのは、拵えの手間や、早見藤太と被るからか。
忠信も弁慶もこの先とはキャラが全く違うのが面白い。忠信が出てきた時、一瞬菊之助とは認識できなかった。今回は同じ役者が演じるのでまだしも、別の役者だったは別人にしか見えないと思う。
静は米吉。可憐で調緒で縛られる様は雪姫のようだが、静はもう少し強さがあってもいいのかとも思った。

渡海屋から大物浦は期待通り。特に梅枝がいい。お柳はちょっと顔が白すぎて冷たく見えたが、お安に対する時は母らしさの中に帝への敬意が垣間見える。装束を改め内侍の局に戻ると気品に溢れ、場の雰囲気が一変。格調があがって見えた。自害したあとは消し幕ではなく、義経の家来たちに抱えられて退場。
安徳帝は丑之助。安徳帝にしては年嵩なので、芝居がしっかりしていて、セリフのないところも役になっている。重いせいか義経方に引き取られてからは輿にのって運ばれていた。知盛と別れたのちは弁慶だけが残ると記憶していたが、義経共々下手側で入水の様子を見届けていた。幼い子にはトラウマになるのではと余計な心配をしてしまう。


10月9日 義経千本桜 Cプロ

菊之助の狐忠信は、三役の中で一番ニンに合っている。猿之助の忠信とは違った魅力的で、獣みというか、ピョンピョン跳ねるような躍動感は薄く、地に足がついた感じ。正体を明かして狐の装束に早替わりするところ、姿を消してからやや時間がかかると思ったら、下手の庭先ではなく、静の上手後ろの壁から飛び出してきた。
川連法眼館の本物の忠信も、キリッとした武者ぶりが役によく似合う。

義経の菊五郎は初役だそう。気品はあるがちょっとバカ殿みたいと思ってしまった。 

10月9日 義経千本桜 Bプロ

菊之助が初役でいがみの権太。悪くないのになんとなく違和感があるのは江戸風だからか。口は悪いし、ちゃんとごんたくれなんだけど、どこがすきっと格好いい。これまでみてきた上方の役者はどこがもちゃっとしてるのだ。

台本上も違いがあって、椎の木で小金五を強請る最中に小せんが戻ってきて、葦簀の陰から様子を見ていたり、まんまと20両をせしめて喜ぶ権太をたしなめると、「俺がこうなったのはお前のせいだ」となじったり。最後の花道を去るところも、悪態をついたままで、夫婦や父子の睦まじさを素直に感じられない。後半、内侍母子の身代わりに差し出すところで権太は悲しみを堪えるような表情を見せるのが、ちょっと唐突で同情しづらかった。また、権太はすり替えた葛籠にあった絵姿で維盛と知るのだが、小金吾は中身を改めたときになくなっていることに気付かなかったのだろうか。
 
小金五討死は立ち回りをたっぷり。打ち手を引き連れた猪熊大之進(菊市朗)との一騎打ちになり、小金五がいったん死んだと見せかけて、とどめを刺しにきたところで返り討ちにする。


よかったのは、梅枝の維盛。弥助としての頼りない様子から、お里らがいないところで弥左衛門と主従の立場に戻るところで、一瞬で高貴な風情に変わる。寿司桶を担いで登場するところで、力のなさをやりすぎないのもいい。桶の中身入ってないんだから、やりすぎるのはかえって不自然。一人男性客でやたら笑い声の大きな人がいて、ちょっと会場の雰囲気を壊していたのが惜しい。

小せんの吉弥、若葉の内侍に吉太郎と上方役者が存在感を示す。吉弥は文句なしにいい女房。女郎屋にいた小さんと恋仲になって子までできたのが悪いと権太に責められるところは、思わず同情してしまう。吉太郎はおっとりした話し方や仕草が高貴な人らしいが、若いので六代君と並ぶと母というより姉に見えた。


2022年10月9日日曜日

スカーレット・プリンセス

ルーマニア国立ラドゥ・スタンカ劇場による、桜姫東文章の翻案。想像していたより原作に忠実。役の名前はそのままだし、歌舞伎では観たことのない、印を盗まれるところも上演し、お家騒動の経緯は分かりやすかった。…と思ったら、2幕は人物関係が込み入ってくるのでちょっと分かりづらい。歌舞伎の桜姫を知っているから脳内で補っえたけれど、初見だったらどうだろう。

興味深いところは色々あったけれど、元の歌舞伎を超えるものになったいたかは微妙。桜姫の魅力は退廃美だと思うのだが、この作品には退廃は色濃いが、美しいとは思えなかった。白塗りが剥げてまだらになったり、キッチュなメイクや鬘がボサボサだったりは、私にはグロテスクに感じた。文化の違いなのか、時代性なのか。70年代くらいのアングラ芝居にも通じるような、あえて崩れたものを見せているのかも。

清玄と権助の二役を演じたオフィリア・ポピは、演じ分けが達者過ぎて全く別人に見えてしまい、せっかくの早替わりの驚きが薄いのが勿体ない。そもそも顔をよく知らないというのもあるが。小柄であるほかは、発声のしかたや身のこなしはしっかり男に見えた。 
清玄がグレーの長い髭でだいぶ年寄りに見える。プロローグは転生後かと思って戸惑ったほど。高僧になった清玄は金色の衣で、肩車。桜姫を見て白菊丸への思いが再燃したり、姦淫の罪を着せられたりしたところで肩車から降りるのは、堕落したという表現か。 何人もの稚児をたぶらかして…みたいなセリフがあったのだが、白菊丸だけでなかったの?
権助は小悪党という感じ。
白菊丸/桜姫はユスティニアン・トゥルク。白菊丸は全身白塗りの裸体(褌のような白いビキニパンツのみ)で、体を縮めていたのは赤子のイメージなのかな。
桜姫はセグウェイに乗って登場。滑るように動くのが、不思議な感じ。白塗りが剥げたり、メイクが依れたりするのは、私には醜く見えた。 

一幕の終わりに急に出てきたお十。だからか、「私はお十」と名乗って笑いを誘っていた。

所々、字幕が遅れてしまい、既に相手が話し出してから内容がわかったりしたので、話の筋にすんなり乗れない。公演を重ねたら改善するのだろうが。
コーラスで詩的な言葉も多く、字幕では味わいきれない。

2022年9月29日木曜日

9月27日 ワカテdeワカル フェニーチェ文楽

望月太明蔵社中によるお囃子の解説。文楽で演奏しているだんじり囃子は天神祭を真似ているのだそう。岸和田のとは違うそうだが、どの辺が違うかは不明。大太鼓で表す雪や水音は、上方はゆっくりだけれど、江戸ではテンポが早いのだとか。色々な笛を使って季節の生き物(鶯、千鳥、鈴虫など)の実演が楽しかった。 

トークの師匠に聴く!は千歳と燕三、勘十郎のパートに分かれて。燕三の入門のきっかけを初めて聞いたが、研修生の2年目に卒業生の発表会で妹背山婦女庭訓の連弾きに加わることになり、その指導教官が先代燕三。未習だった三下りを教えてもらい、必死で覚えて翌日演奏したところ、よく覚えたと涙を流すのを見て、この人にならついて行けると思ったのだそう。周囲からは「燕三師匠は厳しいからやめた方がいい」と言われたけれど、相性がいいのか、周りが次々と辞めるなか、最後まで残ったと。口癖だったという「分からへんのは解ろうとせんからや」という言葉に含蓄がある。
越路師匠は感覚の人、燕三師匠はじっと見ていてズバッと核心を突いてくるというのも興味深かった。ただ、せっかく「ワカテデワカル」企画なのだから、今の師弟の話ももう少し聞きたかった。演目についてなど。

「夏祭浪花鑑」

長町裏の段を、床は碩の団七×千歳の義平次、人形は簑太郎の団七×勘十郎の義平次という師弟共演で。碩の団七は力の入った語りがよいが、少し若いというか線が細い感じがした。人形も同様で、簑太郎は大きな人形を扱いきれていない感じで、大きく決まるところで腹にしわがよっていた(首を十分高く掲げられてないから?)のが気になった。千歳は憎たらしさがたっぷり。勘十郎の人形とも息が合っていた。
三味線は燕二郎が健闘。力強い叩きバチなど頑張っていたが、ちょっと音が小さきいのか周りの音に負けてしまうところも。立ち回りのメリヤスは燕三が入っていたのだそう。音の違いはよく分からなかったけれど、いつもより耳を傾けた。 

2022年9月25日日曜日

9月25日 第三回 みよしや一門会

 吉弥の挨拶に続いて、折之助の「汐汲」。素踊りで、汲桶や手拭い、扇、三階傘など次々に道具を変えて踊る。丁寧な踊りがよいが、海女にしてはちょっと上品すぎるように思った。

「静と知盛」は吉太郎。船弁慶の舞踊版で、元々は能の作品だから能舞台に合わせてのチョイスだろう。前半の静は暖色系の着物と袴で柔らかく、後半の知盛は黒紋付きに着物を変え、顔つきもガラリと変っていた。特に後半の知盛は薙刀を振り回しながらもキレのある動きで、ちょっと振り回されそうになりながらも堪えたのは若さゆえの体力かな。もうすっかり大人の役者なんだなぁと思った。

新作の「玉手御前」は摂州合邦辻のアレンジ。天王寺で乞食となった俊徳丸の元へ浅香姫、玉手が訪ねてきて、合邦庵でのようなやりとり。吉弥の玉手が情念の女をこってりと。過去にも勉強会で勤めたことがあるそうだが、古典の玉手とはだいぶ違う。冒頭のモノローグから俊徳丸への恋心や朝香姫への嫉妬が露わで、「邪魔しやったら蹴殺すぞ」は見せかけでなく本心といった感じ。吉太郎の浅香姫は可憐で、折之助の俊徳とのバランスもよかった。


最後に「大阪締め」でと言いながら、「祝うて三度」が出てこなかったのか「よよいのよい」と言う吉弥にずっこける吉太郎。仕切り直してお開きに。客席も暖かく、いい会だった。

2022年9月24日土曜日

9月24日 能楽を旅する 彦根城特別公演

 彦根城博物館の能舞台で、ご当地能の「巴」を上演するという趣向。江戸時代に城内にあったという能舞台は屋外に設置され、昔と同様に自然光の下での観能できるのがいい。

「寝音曲」

大倉彌太郎の太郎冠者、善竹隆司の主。彌太郎が意外にも(失礼)正統派の演技で、謡も聞き応えがあった。


「巴」

金剛龍謹のシテ。橋掛かりでの第一声から美声に聞き惚れた。屋外の方が声の通りが良いような気がする。前シテの里女はしっとりと美しく、後シテで薙刀を持っての勇壮な舞いに迫力があった。義仲の最期に同行できず悲嘆する様など、心の動きがよく伝わった。

ワキは福王和幸。倍音の下に響くような声がなく、あっさりした声に聞こえたのは屋外だからだろうか。アイは善竹隆平。

2022年9月23日金曜日

9月23日 烏丸ストロークロック「但東さいさい」

但東地域の岡橋、岡神社の地芝居舞台での上演。木製の簡素な舞台の背面に子どもたちが絵を描いた幕を吊るし、舞台の両脇には色とりどりの着物を掛けて、地芝居の雰囲気笑醸し出す。
但東を構成する3つの地域(高橋、合橋、資母)伝わる民話に取材したという芝居は、地元の小中学生が演じたのだが、基本セリフは棒読みで動きはぎこちなく、注意散漫でよそ見をする子もいて、お遊戯会のよう。それぞれの物語の後半に神楽を舞う三番叟、龍神、狐の変化はストロークロックの男優で、新たに創作したのだろうがとこかにありそうな感じ。看板女優(と思っていた)阪本麻紀が裏方に周り、子どもたちを引率する先生みたいになっていたのが何とも…。 
客席の半分くらいは地元の人たちのようで、知っている子の芝居を見たり、抽選会で盛り上がったりとお祭りのように楽しめるのだろう。ただ遠方から見に行く価値かあるかというと疑問(抽選で地元の喫茶店のドリンク券が当たっても困るし)。だからこそ無料の公演だったのだろうが、作演出の柳沼昭徳も言っていたようにこれからブラッシュアップしていくのだろう。

前座で阪本ら女優2人による鶏舞と題した神楽ふうの舞。腰を落としたすり足て舞う姿はそれらしいけれど、面のように顔の前に五色の簾もようなものをかけているのは何を意味するのだろう。どの辺が鶏なのかもよくわからなかった。

2022年9月22日木曜日

9月22日 岩下徹×梅津和時 即興セッション「みみをすます」

会場の但馬漁協竹野支所が宿泊していた宿の近くだったので、予定外で観覧。
谷川俊太郎の詩にインスパイアされたパフォーマンスで、これまでは無音の一人舞台として各地で上演してきたのだそうだが、今回はジャズミュージシャンの梅津を交えての即興セッション。…というのだが、ストーリーもなく、ただ気まぐれに体をくねらせたり、奇怪な音を奏でたりする45分は正直飽きる。(まあ、無料だから見に行ったのだけど)アフタートークで岩下も言っていたが、それほど動きのバリエーションがあるわけではないので、その場にある物や人に絡んだり、あちこち動き回ったりして間を持たせていた感じ。その点、会場が漁協の競り場だったので、大きな水槽やホースなどが使えたし、居合わせた大型犬が吠えたり、子どもが泣き出したりとハプニングには事欠かなかった。最後には、近くでパフォーマンスしていた「蛸みこし」がたまたまやってきて、一緒くたになってた。



2022年9月18日日曜日

9月1日 文楽公演 第二部

「寿柱立万歳」
三輪、希、薫、文字栄に団七、寛太郎、燕二郎、清方。
初代国立劇場さよなら公演にちなんで、劇中で50余年のご愛顧への感謝など。かなり際どい文句などあるのだが、希は淡々と語り過ぎでは。ちっとも笑いが8起きない。

人形は文哉の太夫に簑一郎の才三。

「碁太平記白石噺」

浅草雷門の段の口は亘・団吾。ガチャガチャした語りで聴きづらかった。奥は咲・燕三。力を抜いた語りだったけど、 チャリ場の面白さはさすが。

新吉原揚屋の段は呂・清介。口上が「ただいまの奥〜」言っていたのは気のせいか?低空飛行のような語りで、どこが盛り上がりなのかわからないから客も拍手できないのではと思った。

人形は和生の宮城野と一輔のおのぶが一幅の絵のよう。

9月18日 文楽公演 第一部

「碁太平記白石噺」

田植の段の口は咲寿・友之助。咲寿は発声が落ち着いて、聴きやすくなった。奥は藤・清友。これといった盛り上がりのない場面なので、特に感想もないのだが、清友の表情がいつもと違った。何か不満を抑えて遠くを見据えているような。気のせいならいいのだが。

逆井村の段の口は靖・勝平。丁寧に語っている印象だが、千秋楽近いのだしもう少しこなれていてもいいのではと思った。切は千歳・富助。先月の素浄瑠璃のときよりも声の表情が豊かで聴きやすいと思った。たた、おのぶの声が辛かった。
そして、人形が入ったことで物語がよく分かった。この段、登場人物が多い上に、急に出てくる人が多すぎ。前の段から聞いていたら、合七やその手下は分かるけど、初めて出てくる宇治兵部助なんぞは「誰?」って感じだ。あと、おさよは谷五郎が与茂作殺しの犯人だと簡単に断定しすぎ。別の殺しのあった日に現場にいたからって下手人とは限らんだろ…。

人形は田植では全員頭巾を被っていたので、誰が誰やら。逆井村は清十郎の谷五郎の右腕というか、肩が捻れた風に見えたのはどうしたわけ!?

2022年9月17日土曜日

9月17日 文楽公演 第三部

「奥州安達原」

朱雀堤の段は芳穂、津国、碩、南都に清志郎。傔仗の津国など太夫の配役がはまっていて、ストレスなく聞けた。

敷妙使者の段は小住・清丈。小住は声がよく出ていて、語り分けもしっかり。

矢の根の段は織・藤蔵。どちらも熱演。温度差がないので、いい組み合わせなのだろう。

袖萩祭文は呂勢・清治。期待以上の演奏で泣けた。袖萩の嘆きはもちらん、傔仗の突き放すような詞にも哀しさが滲んでいた。メロディアスな三味線が切なさを引き立てる。義太夫は音曲なのだから、やはり音で楽しみたいし、クライマックスにはそれなりの音量がないと。

後半は貞任物語の段と題して錣・宗介。錣は汗だくの熱演だったけど、ちょっとこの場面には合わないか。宗介の三味線は淡々と安定感がある。

道行戦略の岩田帯は睦、希、亘、碩、聖に錦糸、清馗、清公、錦吾、清允。シンの睦の声が掠れて出ておらず、つられたのか希も振るわない。道行なのにだいぶんしんどかった。

人形は勘十郎の袖萩は期待通り。勘次郎のお君がよく、袖萩に着物を着せてやることろで、寒さに震えていたのが哀れを誘った。
最後、貞任の玉男の大きさに比べ、玉助の宗任はちょっと見劣りした。

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2022年9月16日金曜日

9月16日 国立能楽堂 定期公演

「舎弟」
逸平の弟に宗彦の兄と、リアルな兄弟が兄弟役。ありそうな兄弟喧嘩におかしみがある。教え手のあきらが悪そうな顔。

「松虫」
宝生和英のシテ。前場は直面だが、傘をかぶって登場するのであまり表情は見えず。後シテで面をつけてからの方が、感情が露わなように感じた。後シテの舞は友と共に有る嬉しさが迸るような。 男同士の特別な友情ということだが、派手さはないのに、ちっとも飽きなかった。
ワキは福王知登。この美声を聞いていると、酒屋みたいな脇役ではなく、シテの友人として対峙してほしいと思ってしまった。 

小鼓の鵜澤洋太郎がいい声。

2022年9月15日木曜日

9月15日 秀山祭九月大歌舞伎 第三部

「仮名手本忠臣蔵」祇園一力茶屋の場 

仁左衛門の由良之助が期待通り素晴らしい。九太夫にタコを食わせられた時に覗かせる怒りや、お軽に見受けの話をするところでふと見せる憐れむ表情など、細かな心情描写が物語に深みを与える。雀右衛門のお軽もよく、華があり、身請けを素直に喜ぶいじらしさが胸を打つ。
これに比べて海老蔵の平右衛門がよろしくない。時代物野芝居の中で一人だけ世話物みたいな違和感。花道を出てきた時、顔が浅黒くて、小鼻のあたりの隈?が汚れみたいみ見えた。武士と言っても下級の足軽だし、身分の低さを表しているのかと思おうとしたけれど、なんか違う。セリフの軽さが町火消しみたい。目があらぬ方を見ているというか、視線に力がないのもマイナス。子供が不貞腐れているみたいだった。
力弥の千之助はナヨナヨしすぎではないか。柔らかみのある役だけど、由良之助に耳打ちする仕草など、シナを作っているみたいだった。最近女方が多かったからその名残り? すでに何度か勤めている役なので、所作が身について余裕が出てきたということなのかもしれないが。

「藤戸」 

菊之助が素晴らしい。花道を出てきたところから、ひとつ一つの所作、表情が丁寧で、母の悲しみをくっきり描くる。ちょっと老けた風情がより哀れで、子の死をしってがっくりと肩を落とすところなど胸をつかれた。後ジテの龍神は迫力。

間狂言で種之助の浜の男、米吉の浜の女、丑之助の浜の童。丑之助がきちんとした所作と愛嬌のある表情でしっかり役割を果たして立派だった。  

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2022年9月11日日曜日

9月11日 歌舞伎特別公演 第三部

「夏祭浪花鑑」

久しぶりに気持ちが高ぶった。愛之助の団七&お辰をはじめ、鴈治郎、壱太郎、吉弥ら上方の役者で固め、上方の匂いがコッテリ。これぞ上方歌舞伎という面白さだった。

愛之助の団七は当たり役だけあって不足なし。団七は以前より男ぶりが増した感じで、終始格好よく、心理描写も克明で、見ていてゾクゾクする。だけと、シュッとしすぎてなくて泥臭さがあるのが上方らしい。初役というお辰は、美しく色気があって、いいお辰。男女道成寺といい、元々女方として修行していただけあって、女方も違和感ない。ある意味、故勘三郎の二役より似合っていた。泥場は亀鶴の義兵次との立ち回りが絵面のような美しさ。抑えめの「しもた〜」も心情をよく表していた。

青虎の徳兵衛はニンではないのか、奴さんのよう。

亀鶴の義平次は顔が火傷したように赤いのが気になった。三婦内では笠を被って顔を見せず、長町裏になって顔を出したのだが、目の下の隈を強調した化粧が不気味さを醸し出していた。

鴈治郎の三婦、壱太郎のお梶、吉弥のおつぎが上方の風情たっぷり。千寿の磯之氶、りき弥の琴浦、役人の當吉郎、こっぱの権のひかる、なまこの八の愛次郎ら、上方の若手の活躍も嬉しい。市松役の子役さん、終始緊張した面持ちだったけれどかわいかった。 

千穐楽だったので、終演後にカーテンコール。花道をはけた団七・愛之助が、鬘と浴衣を着替えて登場。ざんばら髪に濡れた浴衣のままという訳にはいかないからね。大阪文化芸術創出事業なので、来場していたという吉村知事や大阪府市への感謝を述べるとともに、来月公演の宣伝も。貞子って!?と思っていたけれど、播州皿屋敷もたっぷりすると言っていたので悪くないかも。


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9月10日 歌舞伎特別公演 第二部

 「心霊矢口渡」

壱太郎のお船に鴈治郎の頓兵衛は数年前の国立劇場以来。壱太郎にはよく合っている役なのだが、昼食後だったためちょっと意識が飛んでしまった…。冒頭の、義峯に一目惚れした可愛さ、最後の太鼓を打つ場面、六蔵(亀鶴)との立ち回りなど見どころたっぷり。

義峯の鴈乃助、うてなの段之のカップルは訳あり感。船頭八助に竹之助。立役も違和感なかった。


「博奕十王」

猿之助の博奕打、青虎の閻魔大王。猿之助の踊りは軽快で表現力が豊か。踊りだけでも楽しい。

9月10日 歌舞伎特別公演 第一部

 「傾城反魂香」

鴈治郎の又平に猿之助のおとくは、鴈治郎襲名以来。前回がよかったので期待していたのだが、又平が吃りというよりものすごく滑舌の悪い人になっていて、「さしすせそ」が「シャシィシュシェショ」みたいな感じ。何を言っているのかほとんど聞き取れなかった。苗字を許されてからの愛嬌は鴈治郎の持ち味。猿之助は遠目のせいか、化粧のせいか、香川照之に似て見えた。ちょっと意地悪そうな顔にも見えたど、セリフがうまいので段々違和感はなくなった。

修理之介の翫政に胸熱。又平が修理之介の足に縋りつくところなど、どんな気持ちで演じているのだろうと思ったり。土佐将監の寿治郎も元気な姿が嬉しい。


「男女道成寺」

愛之助の白拍子桜子実は狂言師左近、壱太郎の花子。愛之助の女方はどうかと思っていたけれど、普通に美しかった。ちょっと千寿に似てた。踊りも、壱太郎と並んでも遜色ない感じ。シンクロしたふりが美しい。狂言師の正体を表してからの三つ面を使っての踊りわけは後半バタバタして見えたけど。

壱太郎は初役だそうだが、男女でない道成寺は経験があるだろうし。

剛力の不動坊に千太郎、普文坊に愛三郎。千太郎は白拍子に見惚れる仕草などにおかしみがあった。

2022年9月4日日曜日

9月4日 前進座「東海道四谷怪談」

南座の公演が浪宅だけで少々物足りなかったので、前後も含めての上演に期待していたのだが…。
國太郎はお岩、茶屋女おもん、小仏小平に小平女房お花の4役。だが、肝心のお岩様が今ひとつ。不調のためか声に精彩がなかったのと、化粧のせいか顔もなんだかやつれて見えた。それも、病み衰えてというより、疲れた感じ。武家の娘という品格も薄かった。伊右衛門の裏切りを知ってからは、怒りが強い感じ。小平との早替わりでは、舞台裏を走っている足音が聞こえて興醒め。
伊右衛門の芳三郎は色悪というより単なる悪党。悪いのは悪いのだけど、小悪党というか。低くない声も凄みに欠ける。
お袖の玉浦祐之介は声がよく、女優?と見まごうほど。
一番役にはまっていたのは、直助の矢之輔。年齢がいっているのは置いておいて、直助の軽さや小狡さが役に合っていて唯一と言っていいくらい芝居らしさが感じられた。 

脚本も前進座版なのか色々違うところがあって、伊右衛門のダメ押しの「離すなよ」のセリフがなかったり、髪梳きの後で絶命するところで刀に首が刺さる前に既に幽霊の手になっていたり。余り上演されない「三角屋敷」は興味深く観た。 

2022年8月28日日曜日

8月28日 坂東玉三郎特別公演「東海道四谷怪談」

愛之助の伊右衛門がよりクールに。あまり地声を使わず、かと言って超低音というほどでもなく、ほどほどの低さ。はじめはただ貧乏暮らしや赤子の鳴き声を疎ましく思っているのが、伊藤家へ赴き、岩に毒を盛られたと知るに及んで、裏切りの決意をするまでの心の動きを克明に描いた。
吉太郎のお梅は一見可憐なのに、思い詰めた目つきに恋の狂気が滲む。

千秋楽だったので、カーテンコールが2回。といって、何かを話すことはなく、2回目は皆で扇を振ってお別れ。華やかだった 。

2022年8月27日土曜日

8月27日 河東けい ひとり語り「母」のすべて

河原けいの最後の舞台と銘打った一人芝居。小林多喜二の母、セキの独白で多喜二の青年期から獄中死するまでを綴る。車椅子で登場死、声量は小さめだったけれど、ピッコロシアター中ホールでは十分に聞こえたし、声の張り、緩急、滑舌はしっかりしていて、もう2、3回はできるのではと思った。河東のセキは田舎の純朴な母親そのもの。2時間弱の舞台は濃密で、集中して観られた。

アフタートークで、演出のふじたあさやと対談。アンサンブル芝居への反動で一人芝居が流行りだした時に、何かいい題材はないかと探していた時に、三浦綾子の「母」と出会って戯曲化したこと。今回の公演は体調面での不安があったので、非常時に備えてふじたや朗読で参加した末永直美が控えていたことなど、舞台裏を話してくれた。

2022年8月25日木曜日

8月25日 上方歌舞伎会

「伊勢音頭恋寝刃」

愛治郎の福岡貢。セリフは固く、間も今ひとつだが、立ち回りはよい。奥庭の場に変わって襖を破って出てくるところからは、目つき、顔つきも変わって、殺気が滲む。
万野の折之助は吊り目の化粧で、意地悪そう。セリフの嫌味っぷりは十分だが、もう少し色気や柔らかみが欲しい。
お岸の千太郎は健闘だけれど、成長期のせいか顔立ちが角張ってみえるのが損している。
千野の千壽、お紺のりき彌、鴈政の喜助は手慣れた様子。お鹿の鴈大は特に不細工にしようとしていない化粧はいいが、芝居も素のままという感じで、もう少し可愛げがあったらと思った。
初めての女方という仲居の愛三郎が可愛らしい。若い頃の七之助を思わせるスッキリ系美人。


「 乗合船恵方万歳」

太夫の當吉郎の踊りはカウントで動いている感じ。オンカウント過ぎるのだろうか。才蔵の松四郎は三枚目らしい。白酒売の愛三郎は同じく可憐な女方。女船頭の當史弥に年増の色気。 


終演後の挨拶で、仁左衛門が「1週間の経過より2日の公演」、孝太郎も「稽古でできていなかったことができている」。客席の力を受けて成長するのだなあ。
仁左衛門が出演者一人一人に挨拶というか、役名と名前を言うように促し、客席には「拍手は最後にまとめて」と言っておきながら、最初の愛治郎が挨拶したところで率先して拍手してしまい照れ笑いする一幕も。

2022年8月21日日曜日

8月21日 坂東玉三郎特別公演「東海道四谷怪談」

愛之助の伊右衛門は色悪の悪どさが薄いなと思ったが、パンフレットの玉三郎のコメントによると、あえて写実にしたらしい。言われてみれば、浪宅に戻った伊右衛門にお岩が死後のことを聞くくだりで、はじめは遠慮や戸惑いがありつつも、冷酷な言葉を重ねるうちに吹っ切れていったように見えた。
玉三郎の岩は、武家の娘の気品を保ちつつも、醜くなってしまった女の哀れが悲しい。宅悦かっこ松之助)と揉み合って死ぬところはあっさり。
吉太郎の梅は、控えめで可憐ながら伊右衛門への恋慕をにじませる。乳母おまさの歌女之丞が手堅い。
小仏小平に喜多村緑郎、後家お弓に河合雪之丞と、新派に移った2人が歌舞伎の舞台に立つのが嬉しい。喜多村の小平は格好良すぎるけど。

「元禄花見踊」は打って変わって華やか。玉三郎の美しさは言うまでもなく、吉弥や千次郎ら上方の役者が加わったのも嬉しい。

2022年8月20日土曜日

8月20日 文楽素浄瑠璃の会

「碁平太平記白石噺」 逆井村の段

千歳・富助。51年ぶりの上演ということで、馴染みのない話だからか、話の筋が分かりづらい。演奏もこなれていない感じがした。
千歳は仰反るような姿勢が度々あり、声が前に出ていないように感じた。富助の三味線も精彩を欠いた。 

「奥州安達原」 袖萩祭文の段

呂・清介。出だしはさすが年の功と思ったのだが、聴きつづけるにつれ、起伏に乏しいのがしんどく、冗長に感じた。音量を抑えた語りも、弱っている袖萩の表現としてはアリかなとや思ったが、やっぱり義太夫らしくない。遠くの出来事を眺めているようで、泣けなかった。

「源平布引滝」久郎助住家の段 

錣・藤蔵。 語りと三味線のバランスが良く、情感のある語りで、今日一番聞き応えがあった。藤蔵の掛け声もほどほどで。知っている話ではあるけれど、ちゃんと情景が目に浮かんだ。

2022年8月16日火曜日

8月16日 地主薫バレエ団「未来へ繋がるダブル・ビル」

「シンデレラ」
案内役の岩本乃蒼アナによるあらすじやマイムの説明を交えて約1時間の短縮版だったが、そうとは感じさせない充実した一幕。シンデレラの奥村唯はほっそりした肢体が可憐で役に合っている。バレエ学校の子どもたちによる小ネズミが可愛く、シンデレラに甘える様子などほのぼのした。義理の姉たちの大久保沙耶、徳彩也子はイジワルだけどキュートさがあり、嫌な感じはない。継母の金克潤もいい味出してた。
王子の石神航一は抜擢だそうだが、ごめん。登場したとき王子を先導する従者かと思ってしまった。王侯貴族の威厳を醸すには経験がいるのだろう。

「ジゼル」
倉永美沙が直前で来日できなくなり、急遽小野絢子が代役だったが、さすがの一言。ジゼルの可憐さ、健気さ、優雅な舞が素晴らしい。そして、奥村康祐のアルブレヒトがすごくチャーミングで、このアルブレヒトだったら許してしまうのも納得。身分の差はありながらもジゼルを愛しいと思っているのが感じられたし、婚約者に素性を明かされそうになった時にシーッと口に手をやって気遣うところなど、細かいところまで行き届いた演技。2幕では精霊となったジゼルを捕まえようとしてもすれ違うもどかしさ。ウィリーたちに踊らされるところの連続シャンジュマンは本当に辛そうで。新国立劇場の公演がますます楽しみになった。

2022年8月14日日曜日

8月14日 東京シティバレエ団「白鳥の湖」

藤田嗣治の舞台美術に惹かれて劇場へ。1幕の王子の誕生会が緑の中で、森の中のガーデンパーティーの雰囲気。2幕の湖の場面とは一続きの場所という感じがあった。緑の木々が絵本の中のよう。3幕の宮殿はワインレッドでガラリと印象が変わる。とはいえ、観たことのない白鳥という印象は、舞台美術というより、振付や物語の展開によるところが大きい。
古風というか、パがシンプルで、昨今のを見慣れていると物足りなく感じるほど。4幕の幕開きの白鳥の群舞は4×4の隊列に囚われないフォーメーションの変化が面白く、綺麗だった。ラストはオデットをはじめ白鳥たちが人の姿に戻る。早替わりは見事だったけど、ストーリーとしては釈然としなかった。

オニール八菜のオデットはニンではないのかしっくりこない。理知的で自らの境遇を理路整然と説明している風に見えて、哀れさ、儚さが感じられなかった。本調子でないのか、ポワントてのバランスがぐらつくところも。一方のオディールは本領発揮というか、俄然イキイキして見えた。フェッテはシングルに時折ダブルを混ぜる感じだったが、最後は3〜4回転?(少しぐらついたが)
王子のジェルマン・ルーヴェは背が高く、手足の長いこと!オニールとのバランスはよかった。ノーブルな二枚目なのだが、(彼のせいではなく演出のためだろうが)苦悩する王子ではなくあまり考えていないボンボンといった感じ。3幕幕ではまんまと騙される間抜けぶりに失笑してしまった。

2022年8月13日土曜日

8月13日 能・義太夫節・歌舞伎 謡かたり「隅田川」

義太夫の語りに能楽のお囃子、歌舞伎の立方によるコラボレーション。詞章は能をペースにしていて、謡語りのような出だし。
母のセリフは菊之助、それ以外の登場人物は咲太夫という語り分けだが、子の死を知った母が咽び泣くところや、南無阿弥陀仏と念仏を唱えるところでは声を重ねる演出で、母の嘆きがより深く伝わる。
見えるのに触れられない息子の幻を探すところは、能のカケリ?に則って近くや遠くを探すよう工夫したのだとか。菊之助が美しくも悲しい狂乱ぶりで、途中仰反る仕草が印象的。最後の引っ込みはどこかへ消えてしまうようと思ったら、この後、息子の後を追って入水する演出だったそう。

すみだトリフォニーホールはクラシック用なので天井が高く、音が拡散してしまう。マイクを使っていたため、聞こえないことはなかったが、変に響くのが気になった。1回席がほとんどフラットなので、舞台が見えにくいという問題も。

アフタートークで、道行は重の井子別れを参考に、燕三が作曲したのだそう。梅若をいじめる件は、一番文楽らしいと咲太夫。

2022年8月11日木曜日

8月11日 京都バレエ団「ロミオとジュリエット」

ファブリス・ブルジョワの振付で、ストーリー立ても少し変わっている。幕開き、キャピュレ卿がジュリエットの思い出を書き記している場面から。ドレスを傍にかけているのだが、死んだ娘を偲ぶものがドレスってちょっと違和感。モンタギュー一族とキャピュレット一族の抗争というか、小競り合いの場面や、決闘のシーンが続き、ちょっと冗長に感じた。2幕の広場の場面に出てくる大道芸人の衣装が、体の中心で紫とベージュの2色に分かれていて、女性はいいのだが、男性は半裸みたいに見えて困った。あと、場面転換が暗転ばかりなのも、退屈だった。ラストもキャピュレット卿の書斎で、両家が仲直りするくだりがないのも物足りない。

パリ・オペラ座からのゲスト、フロロン・メラックがロミオ、ロクサーヌ・ストヤノフがジュリエット。スジェとプルミエールダンスールというポジションゆえか、踊りが硬いというか、ニュアンスが薄い気がした。2人とも長身で、日本人ダンサーより頭一つ大きいので、子供の中な大人が混じってるみたいな異質感があった。
ティバルトは鷲尾隆之。死の場面は刺されてから舞台上を大きく動き、見せ場になっていたけれど、ちょっと長すぎるように感じだ。(ダンサーのせいでなく、演出の問題)
よかったのはロザリンドの藤川雅子。柔らかいポワント使いにニュアンスがあり、ロミオを揶揄うようなマイムも饒舌。 キャピュレ卿の山本隆之、キャピュレ夫人の瀬島五月も存在感があった。


2022年8月9日火曜日

8月9日 蝠聚会

「加賀見山旧錦絵」
草履打の段は清介・清公。
清介の語りは、御隠居のよう。程よく力が抜けて。

「一谷嫩軍記」
熊谷桜の段は寛太郎・宗助。力の入った語りで、力みすぎて喉が開いていないかなという印象。札の前で村人がやいやいするところで笑いが起きていたのは、流石の間のよさ。藤の方ら女性同士のやり取りは高音が辛そうだったが、その後の梶原の力強い口調は立派だった。

「義経千本桜」
川連法眼館の段は藤蔵・清志郎に清允のツレ。藤蔵の忠信はウエットな印象。やり切ったのか、最後まで語り切ると客席を見回し、ドヤといった表情だったので思わず笑ってしまった。

2022年8月7日日曜日

8月7日 BALLET The New Classic

平場の舞台と客席が近く、ダンサーを間近で見られるという謳い文句はいいのだが、バレエは足元が見たいので、足元が見えにくいのは不満足。

「ローズアダージョ」
水谷実喜のオーロラ。モダンなピンクのチュチュに合わせて髪もピンクに色付けられて、深窓の姫というよりは活発な現代っ子の雰囲気。王子たち(堀内将平、池本祥真、太田倫功、高野陽年)の衣装は素肌に黒のロングジャケットで、なんというか、オラオラ感が…。テクニックは素晴らしかった。音楽はピアノのみだったので、ffで盛り上がるところがちょっと物足りなかった。

「HOMEM」
菅野茉里奈。エキゾチックでモダンな踊り。

「シェヘラザード」 よりパドドゥ
横山瑠華、堀内将平。
男女の駆け引きがスリリングでセクシー。モノトーンの衣装がスタイリッシュだった。 

「Moment in Time」
秋山瑛、池本祥真、太田倫功。秋山の衣装が、レオタードにフリル状の飾りがついていたのだが、ゴテゴテしてラインを隠してしまっていたのが勿体無いと思った。

「ジゼル」よりパドドゥ
森田愛海、高野陽年。長身の森田が出てきた時、一瞬中村祥子?と見間違えた。ジゼルはレースを重ねたようなふわっとした衣装が幻想的。アルブレヒトも白い衣装で、それ自体は婚礼衣装か死装束かという感じだが、胸元が大きく開いてあるのがいただけなかった。

「瀕死の白鳥」
中川祥子のアームズがうねるような繊細な動き。死の間際に生を希求するようで胸に迫った。これだけでも観に来たかいがあった。 

「ボレロ」 
ピアノソロにアレンジされた曲はジャジーな印象。二山治男のしなやかな踊りも良かった。 

2部はライモンダのバリエーションをダンサーが踊り繋ぐ趣向で、一体感が見られたのがいい。実力のあるdancerの中で中村祥子が女王の貫禄。


2022年8月6日土曜日

8月6日 文楽夢想

「二人三番叟」

人形は三人出遣いで、左を違う玉男の奮闘ぶりが微笑ましい。人形の胴体を支えていたのは主遣いをサポートするため。後のトークによると、今の子は背が高いので人形の位置が高すぎたり、移動の歩幅が大きいのでついていくのが大変なのだとか。

床は亘、薫、靖に清允、清方、清志郎。床とお囃子と人形の足踏みが崩壊しそうになりながらすんでのところで留まるスリリングな展開。鈴のリズムがビミョーだったのは初めての経験だった。

舞台転換の間、幕前で勘十郎のトーク。遅れて加わった玉男は、左遣いを終えたばかりで汗びっしょり。坂内、八右衛門は共に初役だそう。

「裏門の段」

床は呂勢・清公。解説でも度々語る場だが、普段はたいてい若手の太夫。呂勢の語りの安定感たるや。安心して聞いていられるし、この場面の面白さを再認識した気がする。「勘平の男は廃ったわやい」の声の調子に凛々しさというか、男らしさが滲んだのが新鮮。坂内のチャリもハラハラしないで、ただおかしいというのは貴重だ。清公は懸命な様子に好感が持てる。

人形は勘助の勘平、お軽が柔らかみがあってよかった。勘十郎の坂内は流石の面白さ。

トークは清公、玉峻、玉征。 

「新口村」

薫・清志郎。薫は大きな声で懸命に語るのは若手らしくていいのだが、音程がとても怪しい。声質もガチャガチャした印象。

切は呂・友之助。呂はいつも通りの省エネ運転。友之助は気合が入ったのか、泣きの場面で泣きそうな顔をして弾いているのが気になった。こんなに表情変えながら弾く三味線は初めて。

人形は勘介の忠兵衛、勘次郎の梅川。勘次郎の頭にずっと紙吹雪のかけらがついていて髪飾りのようでつい目がいってしまう。

旗振り役の玉翔がコロナで休演になり、急遽配役変更に。それでも上演できてよかった。




2022年8月5日金曜日

8月5日 霜乃会本公演「婦女模様芸瓦版」

 京山幸太を進行役に、新作浪曲で作品紹介。

林本大のシテで「羽衣」。袴能で見るのは初めてで、所作や謡に集中できた。

紋四郎の落語は「宿替え」

南龍の「一休禅師地獄問答」。地獄太夫の悲話なのだが、前振りが長すぎて、今ひとつ感動に至らず。のちのトークで「可哀想で」と言っていたけれど、ちゃんと泣かせてほしい。

碩太夫・燕二郎で「妹背山婦女庭訓 姫戻りの段」。緊張した面持ちだったのは、師匠の燕三が客席にいたからか。清々しい演奏だった。

8月4日 晴の会「伊勢参宮神乃賑」

 第2回で初演した作品の再演ということだが、キャストも内容もだいぶ変わっていて、新作のよう。

清八は初演に続いて松十郎だが、喜六は翫政。同期だった千次郎とのコンビは対等の友人といった感じだったが、翫政とのコンビは、作中で喜六が清八のことを「兄貴」と呼ぶように兄弟っぽさがあった。翫政は少しぎこちなさが残るところもあったが、立派な主役ぶり。

七度狐の千壽が初演に続き、というかそれ以上の大活躍で、煮売屋の婆から遊女おこん、仙女と次々に姿を変え、婆の怪しさ、遊女の色っぽさとガラリと変わる鮮やかさ。

初演は3人だけだったが、幕開きの巫女役に當史弥、千太郎、七度狐の手下の根太・お仲夫婦に佑次郎、りき彌と、上方役者勢揃いの様相。昼間は南座出演の千次郎も駆けつけ、尼妙林役で花を添える。

煮売屋で注文をするところで、勧進帳のようなやりとりがあったり、遊女が清八を誘惑するところで、油地獄のようなシーンがあったりと、歌舞伎のパロディが散りばめられているのも面白かった。

冒頭、亀屋東斎のこしらえで千次郎が挨拶をする映像を流したのだが、声が小さく聞き取れない。…と思ったら客席後方から千次郎が駆け降りて舞台に上がり、急遽口上。演出かと思ったら本当にトラブルだったらしい。

2022年7月31日日曜日

0731 龍門の会

「三輪」
一子相伝で金剛流宗家にのみ伝わるという「神道」の小書き付き。重々しさが増すというか、荘厳な感じ。前シテは登場時から低くハリのある発声で、女姿ながら神の威厳を感じさせる。若宗家は声がよく響くので、作り物のなかでの謡でもよく聞き取れた。後シテは装束のせいか少年のような顔に見えた。指が分かれていない特殊な足袋での摺り足など、独特の舞も興味深い。

「末広がり」
千五郎の大名は堂々とした声と体格。太郎冠者が誤って唐傘を買ってきたため家から追い出したところで、不貞腐れたように軽く飛び立つどっかと座るのだが、こんな場面あったかな。
太郎冠者は逸平、とぼけた受け答えにおかしみがある。すっぱは宗彦。
後半、ハヤシに気を良くした大名が踊り出し、太郎冠者は許されて家の中に。というところでふっと踊り止み、徐に退場。踊りながらでなかったっけ?

半能「岩船」
龍謹の長男、謹一朗が初シテ。龍神の格好をした子どもが橋掛かりから出てくると 思わず拍手をしそうになってしまう。シテといっても、子どもなので面はつげす直面。ちっちゃい子が声を張って謡をしたり舞ったりするのは可愛らしい。後見の龍謹が緊張した面持ち。 

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2022年7月30日土曜日

7月30日 「加茂物狂」

観世流には謡のみ伝わる曲で、事実上の復曲。他流でも上演されなくなっている前場をつけたことで、物語がよりロジカルでわかりやすいように思う。 
遠く離れた夫への恋慕を諦めようとする女は上賀茂神社で恋を諦めることは神意に反すると気づく。後場では数年後、夫を探したまま物狂いになった女が、都へ帰ってきた夫と再会するも、はじめは互いに誰だかわからず、やがて連れ合いだと気づいてからも名乗らず、我が家で再会しようといって別れる。古典というより現代劇にありそうな展開だ。

上賀茂神社の末社に歌人の在原業平や藤原実方を祀ったものがあるとは知らなかった。 
地頭で配役されていた梅若実桜雪が休演だが、その旨の知らせはなく、単に配役を変更したとだけ案内があった。

7月29日 子供のためのバレエ「ペンギン・カフェ」

上演前に、上野動物園などで獣医を務めた成島悦雄のトーク。「ペンギン・カフェ」のペンギンはオオウミガラスのことで、元々北欧に生息していたこの鳥をペンギンと呼んでいたところ、南極に似た鳥がいたのでペンギンと呼ばれるようになったとのこと。オオウミガラスは1844年に最後の番と卵が殺されたと分かっているのが、何とも言えない。
動物が絶滅する理由は3つあり、人による乱獲、環境汚染、外来生物の持ち込みと、全て人のせいだというのが耳に痛い。

「ペンギン・カフェ」
オオツノヒツジの米沢唯、カンガルーネズミの福田圭吾、ウーリーモンキーの福岡雄大とベストと言っていい配役。なかでも奥村康祐のケープヤマシマウマの気高さに胸を打たれた。スラリとした肢体、媚びない物腰に野生動物の孤高さがあった。
改めて思ったけど、振付家はなぜいかつい顔のオオツノヒツジをエレガントな女性ダンサーに配役したのだろう。顔と身体のギャップにいつも戸惑う。


2022年7月29日金曜日

7月29日 歌舞伎「風の谷のナウシカ」

コロナ禍で観劇予定だった日が休演になったため、オンラインで視聴。

2年前の初演時にナウシカを演じた菊之助がクシャナ役になり、「白き魔女の戦記」として前編を再構成。菊之助のクシャナは大人っぽいというか、分別がある感じでナウシカよりも似合っている。ナウシカはちょっとカマトトぶっている感じがあった。七之助のクシャナとも違って、これはこれで格好いい。なんと言っても、覇権をねらう決意を固め、花道で決まる姿の美しいこと。2幕冒頭の母(吉弥)との場面は初演にはなかった部分で、もろさや優しさと言ったクシャナの隠された一面が描かれるのも、人物造形に深みを与えていた。

米吉のナウシカは可憐で、役によく合っている。キツネリスとの「怖くない」や、ミト爺への「そういうところ、嫌いではないぞ」など、アニメキャラらしい台詞も不自然ではないのがなんとも。

幼きナウシカで、菊之助の長女知世が初舞台。蟲を取り上げられて「何も悪いことはしてないの〜」と訴えるセリフが健気で可愛らしく耳に残る。
オームの精役の丑之助はナウシカの米吉ときっちり対峙して長い舞も危なげなく、存在感があった。

キャラ変更されたところでは、ラステルの吉太郎、ケチャの莟玉ら若い女方の活躍が頼もしい。弥十郎のユパは背の高いのは原作とは異なるのだが、老人という設定なので松也よりも似合うと思う。また、こういう、一癖ある熟練者の役が似合う。クロトワは吉之丞。小狡い感じは初演の亀蔵のほうに分があり。


2022年7月23日土曜日

7月23日 花形・名作舞踊鑑賞会

 16時開演の回を所見。

「お染久松」

花柳幸舞音のお染、藤間豊彦の久松、花柳輔蔵の猿曳。白塗りやセリフのある舞踊はどうしても歌舞伎役者には敵わないと思ってしまう。

「藤娘」

藤真紫の藤の精を見たかったのだが、正直期待はずれ。最初、藤の花の間から登場するところは可憐でよかったのだが、肉付きの薄い顔だちのせいか、年増に見えてしまった。

「棒縛り」

若柳里次郎の次郎冠者、西川大樹の太郎冠者、市川松扇の大名。なんなんだろう、間が悪いのだろうか。ちっとも面白くなかった。

7月23日 歌舞伎鑑賞教室

 歌舞伎のみかたは萬太郎。尾上緑が女方のこしらえで登場し、貝殻骨を寄せるなど女方の表現をレクチャー。親子で楽しむの回だったので、客席には子どもがたくさんいて、皆で真似をしているのが微笑ましい。

「紅葉狩」

松緑の維茂、梅枝の更科姫、亀蔵の山神、玉太郎の野菊、左源太の左近、右源太の萬太郎、高麗蔵の田毎ほか。梅枝の更科姫のたおやかさ、美しさ。二枚扇の舞も美しい。姫の姿の時から鬼の本性を垣間見せるときには、怖さも滲ませる。

2022年7月21日木曜日

7月21日 英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン「白鳥の湖」

オデット/オディールのローレン・カスバートソンの演劇的な踊り。ちょっと幸薄そうな顔立ちがオデットに似合う。かといって、オディールになると途端に妖艶になるのだから、 素晴らしい役者ぶりだ。

王子のウィリアム・ブレイスウェルは育ちの良さそうな貴公子ぶり。無垢で真摯な感じがジークフリートらしい。

リアム・スカーレット振付は初めて見たが、3幕の花嫁候補4人が王子を囲んでアピールするも、各国の踊りは別の人など、ところどころ違って興味深い。

最後はオデットのみが湖に身を投げ、王子が亡骸を抱き上げて幕。その前に何でかロットバルトは岩場で息絶えてたのも、よく分からんかった。

上演前と幕間にインタビューがあり、主演2人のコメントなどが聞けたのが興味深い。白鳥のコールドは、じっとしている場面があるので余計にしんどいとか。

2022年7月17日日曜日

7月17日 文楽公演 第3部

「花上野誉碑」

志度寺の段の中は希・清友。希は力演しているのだが、力みすぎなのか、身体で声を響かせられていないような気がした。複数の男の語り分けにも難あり。三味線は淡々と。
前は藤・藤蔵。  のびのびした藤の語り。希のあとに聞くと。語り分けが多彩だ。力の入る段なのだろうけど、藤蔵は唸りが耳に残る。
切は呂・清介。何だかなあ。。前回もだけど、気が抜けたようというか、迫力に欠ける。「よう盗んでくださった」で失笑が起こるのは緊張感がないからでしょう。「南無金毘羅大権現」で拍手が起こらないのも。 三味線は大熱演。太夫の迫力を補って余りある。
噴水?の水が細い紐をすだれのように垂らしたもの。前回のビニールテープのようなのも今ひとつだったけど、これはこれでどうなんだろう…。 

人形はお辻の清十郎、坊太郎の簑太郎。簑太郎は子役を遣うことが多いけど、あんまり可愛くない気がする。

「紅葉狩」 

床は呂勢、南都、聖、薫に錦糸、清馗、錦吾、燕二郎、清允。(芳穂はコロナ濃厚接触で休演)錦糸の三味線で語る呂勢は、力みがなくていいような気がする。芳穂に代わって南都が維茂だったのだが、アゴが上がってきたのが気になった。こんなに下手だったっけ?
(28日に再見。芳穂の維茂は大きさがあっていい。呂勢の見台が朱塗の蒔絵て華やか)
三味線は整然と揃った感じで心地よい。
人形は三人出遣いの一輔、簑紫郎、簑悠の更科姫が素晴らしくよかった。滑らかな動き、ポーズの美しさは踊り上手の舞踊を見ているよう。二枚扇も鮮やか。鬼になってからはなぜか、主遣いのみが出遣い。前半の方がより難しさがあるからなのかな。維茂の玉助はまあ、いつも通り。

7月17日 文楽公演第1部

 「鈴の音」

簑太郎時代の勘十郎作。作曲は清介。

カッパが綺麗な音が出る玉=鈴を拾う。友だちの狐のカップル(カッパの友だちがなぜ狐?とは思うけど)に自慢していたら、水の中では鈴が鳴らないので狐の首に着けてやる。大喜びで飛び跳ねて鈴を鳴らしていると、猟師に見つかって狙われることに…と、鈴を持つ不都合が次々明らかになって、結局は桜の木に掛けて音色を楽しむことにする。子ども向けに動物がでってきたり、沼の中の様子が透けて見えたり、というのは楽しい趣向だけれど、話に深みがないなあというのが正直な感想。

靖、小住、亘、碩に友之助、清公、清方という若い床に、人形は簑紫郎の河太郎、簑太郎のコン太、勘次郎のはつね、狩人の玉彦という若いメンバー。河太郎の動きが滑らかでよかった。


解説を挟んで「瓜子姫とあまんじゃく」は千歳・富助に錦吾、燕二郎。

千歳の語りはちょっと硬いというか、声に深みがない感じがした。口語調だし、普段の語りとは勝手が違うのだろうが。前回聴いた嶋太夫の語りはなんとも言えない味があったと懐かしく思った。

人形は紋臣の瓜子姫が可憐。じっさ勘市、ばっさ清五郎。あまんじゃくの玉佳が大暴れ。

2022年7月16日土曜日

7月16日 文楽公演第2部

 「心中天網島」

北新地河庄の段の中を睦・勝平、前を呂勢・清治、後を織・清志郎。

睦は掠れ声が聞きづらい。女性だけでなく、治兵衛も辛かった。口三味線で開放弦を口ずさんでいるはずなのに、音程がぶれるのはいかに。湿気のせいか勝平の三味線の音色がいまひとつ冴えない。

前は繊細な心理描写を三味線の旋律が彩り、呂勢は音採りが安定しているので安心して聞いていられる。義太夫節は音楽なのだなあと改めて感じた。途中、床裏から駒の入った箱が差し入れられ、交換していた。舞台に出て音の感じが違うとなったのだろうか?どうやって合図したんだろう。

織は表情が先に立つ感じで情感たっぷり。清志郎が突っ込んでいく演奏で緊迫感があった。

天満紙屋内の段は口を咲寿・寛太郎、切を錣・宗介。

今日の咲寿は声が安定していて悪くなかった。

錣は切の字がつき、弟子の聖太夫が白湯くみで控える。滴るような情が溢れる語りで、感情を揺さぶられる。

大和屋の段は咲・燕三。

久しぶりに元気そうな姿を見られて一安心。声は少し弱いものの、節づかいの確かさは頼もしい。

道行名残の橋づくしは三輪、睦、津国、咲寿、文字栄に団七、団吾、清丈、清公、清方。

人形は勘十郎の小春に玉男の治兵衛、和生のおさんと同世代3人が久しぶりに揃う豪華さ。小春は首がもげるくらい深く俯いていて、ちょっと心配になるくらい。治兵衛のダメ男ぶり、おさんの出来過ぎぶりと、人物描写が的確。玉也の孫右衛門の抑えの効いた演技がよかった。

7月15日 七月大歌舞伎 夜の部

「堀川波の鼓」

体調不良で休演していた仁左衛門が昨日から復帰とあって、登場場面で長い拍手。待ってました!という感じ。ただ、やはりこの演目は好きになれないなあ。妻の不貞を知って、義理の妹やら息子やらに、もっと早くなんとかしてくれていたら…という長台詞は名調子で拍手も出ていたけれど。
扇雀のお種は始めから触れなば落ちなんというか、隙だらけな感じ。酒に酔う前から誘っているみたいに見えた。
コロナ感染で休演の松之助に代わって松十郎が僧覚念。花道の出入りで足音がやけに響いた。

「祇園恋づくし」
幸四郎が江戸の指物師留五郎と芸者染香、鴈治郎が大津屋次郎八と女房おつぎの二役で、早替わりで盛り上げる…のだが。幸四郎の女方は鬘のせいか小梅太夫のようで、京言葉が板につかない。鴈治郎も、幸四郎よりはましとはいえ、関西弁がどこかわざとらしく聞こえる。 江戸と京都のお国自慢が長すぎて飽きた。
虎之助のおそのが可憐で、声もいい。隼人の文七は頼りないつっころばしを好演。七之助のお茶屋女将もちょぅといけずでしたたかな感じが良かった。
ラストに登場した勘九郎の持丸屋太兵衛が場を締めていた。

2022年7月15日金曜日

7月14日 「M.バタフライ」

岡本圭人のソン・リリン(バタフライ)が期待以上の好演。はじめ、京劇の拵えで出てきたときや、蝶々夫人の和装姿は、骨を感じさせる顔立ちや体つきが女性ぽくないように思ったが、プライベートのシーンでは立ち居振る舞いや話し方か柔らかく、夢の女のような魅力があった。男装に戻っての法廷シーンでは強かさも見せ、主役はこちらと思ったほど。腰が細いのでドレスが似合うのだが、残念だったのは足捌き。深いスリットのチャイナドレスで座るとき、足首が捻れたように曲がるのが美しくなかった。
ルネ・ガリマール役の内野聖陽は、理想の女にのめり込む男の滑稽さ、哀れさを活写。終盤の化粧をして、鬘、打ち掛けを纏って自害するとこの哀れさが壮絶。(そのあと、数分でメイクを落とし、くたびれた背広姿に戻っていたのは驚いた) 
事実と回想が入り混じり、ガリマールとソンの視点が入れ替わるので少し混乱する。妄想シーン?で出てくるガリマールの幼馴染マルク(みのすけ)の役割が今ひとつ分からず。ラスト近く、ソンが復縁を迫るところはソンの告白のようにも見えたが、これも含めてガリマールの妄想でいいのかな?

演出は劇団チョコレートケーキの日澤雄介。 

2022年7月10日日曜日

7月10日 OSK日本歌劇団「REVIEW inKYOTO」

「陰陽師」

安倍晴明と蘆屋道満の争いを軸に、鬼と恐れられる渡来人の物語を絡める。茨城童子が姫となり、源博雅と恋するという展開は、トンデモだけど少女漫画のようで悪くない。1時間余りにコンパクトにまとめてテンポよいのだが、鬼たちのハードロック調の音楽と衣装にいたたまれなくなった。昭和ぽいというか…。楊琳の晴明は、白を基調とした衣装が清々しいが、カラッとした明るさが子供っぽくも感じた。博雅の翼和希も青年というより少年の面影。 敵役の登堂結斗が低い声と重みのある佇まいで好演。茨姫はダブルキャストで、この日は千咲えみ。 

「INFINITY」は春も観たが、舞台装置やフォーメーションが変わり、洗練された印象。桐生麻耶が出てくると王者の貫禄というか、横に並ぶ楊を圧倒して見えた。ロケットはちょっと短い?と思ったら、トップ以下全員参加で再度踊ってくれたのがらしくていい。 

2022年7月9日土曜日

7月8日 大槻能楽堂自主公演 ろうそく能

吉坊の案内で、平知盛が題材の文楽「義経千本桜」と能「碇潜」。

文楽は呂・清友の床に、人形は勘十郎の知盛のみ。戦装束に着替えた銀平が、典の局、安徳帝に挨拶して出陣するまでの20分ほど。
湿度が高いせいか、三味線の音色が冴えない。呂の語りは相変わらず。脇正面の前方の席だったので、3人遣いの連携する様子がよく見えて興味深かった。

能の「碇潜」は、吉坊が「てんこ盛り」と言っていた通り、前場ではシテの教経とツレ安芸太郎・次郎兄弟のそれぞれに作り物の舟があるし、後場は屋根付きの船に子方を含め4人(知盛、二位の尼、大納言局、安徳天皇)が乗って登場。
前シテを演じた大槻文蔵は戦の場面の描写が見事。ツレの2人と共に海に飛び込むところの緊迫感と寂寥感がすごかった。
後シテの知盛は大槻裕樹。若々しく、キビキビした動きで、立ち回りから碇を担いだ入水までをダイナミックに見せた。


2022年6月25日土曜日

6月25日 お豆腐の和らい 瀬戸内寂聴さんを偲ぶ

 思い出話はくまざわあかねを聞き手にあきらが寂聴との思い出を。最初の結婚の頃の経緯が「京まんだら」に書かれているのだそう。のちにドラマ化された時には自身がモデルになった透役をされたのだとか。

「呂蓮」「鐘の音」に続いて、寂聴作の「居眠り大黒」

宗彦の大経師、しげるがその妻、千之丞の番頭、千五郎の大黒天、山下の坂本の女という配役。

大黒天の月詣りに行くと装って坂本の愛人に会いに行く大経師、主人の浮気を暴露して後釜に座ろうと目論む番頭を宗彦と千之丞がノリノリで演じる可笑しさ。しげるの妻も、いつもの1.5倍くらいのわわしさで、コントを見ているような面白さ。坂本の女は「ぷんぷん」などのセリフに時代を感じるが、若い女の軽佻浮薄ぶりがよく出てる。4人が取っ組み合って争っていると大黒天が目を覚まして全てをおさめてしまうという大団円。ケラケラ笑ってスッキリした。

2022年6月20日月曜日

6月19日 文楽若手会

「絵本太功記」

夕顔棚を碩・錦吾。のびのびとした語りがこの人の良さ。時代物らしい重厚感も感じられた。女義っぽいのは声のトーンが高いからか。錦吾はきっちりして好感が持てる。

尼ヶ崎の前を小住・清公。最近聴いたなかでは一番のでき。清公の三味線は繊細というか、しっとり聞こえる。人形のせいか、十次郎と初菊の場面がとても健気で、2人のラブストーリーとして印象的だった。
後は希・友之助。希は師匠譲りなのか、声が幕越しに聞こえるような物足りなさ。節回は丁寧にたどってる風だが。三味線は掛け声も多く、気合の入った演奏だった。

人形は光秀の玉翔、竹藪から登場するところは風格があってよかったが、大きく腕を広げた決まるところなど、ここぞというとかに腰が引けて見えるのが残念。母さつきの玉誉、妻操の簑太郎は背伸びしてるというか、まだ役者不足な感じ。役の若さと人形遣いの若さが近いからかか、十次郎の玉彦と初菊の勘次郎のカップルがとてもよく、普段の公演ではあまり気に留めないシーンがとても印象深かった。 

「摂州合邦辻」

合邦住み家の中を咲寿・燕二郎。抑えめの語りは悪くない。燕二郎はよく手が回る。
前は芳穂・寛太郎。「惚れてもらう…気」がちょつと強気な感じ。寛太郎は終始難しい顔をしていたのは、難しい曲だからか。しっとりと色を弾く感じで情感溢れる演奏だった。
後は靖・清丈。このところ聞いた合邦住家で一番感動したかも。絶叫しすぎず、けれど感情が迸る。何度も拍手がかかったし、観客も満足したようだった。
人形は文哉の合邦、紋吉の玉手、和馬の朝香姫、玉路の俊徳丸と、総じてこぢんまり。若手には難しい役なんだろうな。

「二人禿」
亘、聖、薫、小住に清允、燕二郎、清方、清公。数合わせとはいえ、10分ほどの一幕はいるのか?
人形は簑之、簑悠。この並びだと、簑之の方が先輩なのかな? 人形の動きはやや固く、乱雑に見えた。簑悠のほうは、柔らかい動きが好印象だった。

2022年6月18日土曜日

6月18日 横浜能楽堂特別公演「三老女 第3回」

「富士松」
野村萬、万蔵。
滋味のある演技なのだが、体調不良もあって集中が途切れた。最後は特にオチらしいものもなく、あれ?という間に終わってしまった。

「関寺古町」
観世銕之丞のシテ。作り物の庵のなかに正座しているのだが、姿勢が良すぎて老人に見えない。歌舞伎役者は膝に置く手の位置で年齢を演じ分けるそうだが、能ではそういうのないのかしら。
子方が声を張り上げるのも、体調不良の身には辛かった。
舞の中程で、シテ柱の前で頽れるようになるところなど、老いの悲哀を感じさせるところもあったが、うーん、私にはまだ老女ものは早すぎるのかも。 

6月18日 横浜能楽堂特別公演「三老女 第3回」

 「富士松」

野村萬の太郎冠者に万蔵の主。

「関寺小町」

観世銕之丞のシテ、ワキは宝生欣哉ほかワキツレが3人。子方は谷本康介。

うーん。私には関寺の魅力は難しいようで…

2022年6月13日月曜日

6月12日 スペクタクルリーディング「バイオーム」

宝塚を退団した上田久美子の独立第1作をオンラインで視聴。

政治家一家を舞台に、人と屋敷の庭に生える草木の視点が交互に物語を紡ぐ。
8歳の息子ルイ(中村勘九郎)は実在しない庭師の娘ケイや、庭の木々と会話をするなど、発達障害のきらいがある。母親の玲子(花總まり)は情緒不安定で、息子との関係はぎこちなく、夫・学(成河)との関係もうまく行っていない。学は優秀な官僚だったのを見込まれて婿入りし、義父・克人(野添義弘)後継者として着実に歩を進めつつも、問題の多い妻や息子を持て余し、仕事に逃げている。
古参の家政婦ふき(麻実れい)やその息子で庭師の野口(古川雄大)、玲子が傾倒する花療法士ともえ(安藤聖)ら、癖のある登場人物ばかりで、濃厚なセリフのやり取りは重苦しいほど。

キャスト表の筆頭はルイだが、むしろ玲子の物語としてみた。花總は夫や息子に素直に愛情を注げずに苦しむ様を熱演し、クライマックスで原因は出生の秘密があることが明かされ、実の母であるふきとの壮絶なやりとりには息を呑んだ。
麻美は、いわくありげな家政婦と、庭の母木である黒松の双方で存在感を発揮。野口は玲子の幼馴染で、身分違いの憧れを抱いているという役どころ。古川と花總が演じると、別作品での共演の記憶が重なって、前世の縁があるように見える。

ラスト近く、二役で黒松の芽を演じた花總と、ルイが共に幕の向こうへ去るのは、母子ではないのだけど、この親子の関係に少し救いを感じさせた。 

2022年6月11日土曜日

6月11日 文楽鑑賞教室 Cプロ

 「二人三番叟」

芳穂、咲寿、碩、聖に清馗、寛太郎、清公、清允。

人形は文哉、玉勢。

「仮名手本忠臣蔵」

二つ玉は亘・友之助に胡弓の清允。

身売りは小住・勝平

勘平腹切りは織・燕三

2022年6月5日日曜日

6月4日 文楽鑑賞教室 Bプロ

「二人三番叟」

靖、亘、小住、薫に清丈、友之助、錦吾、燕二郎。人形は玉翔、簑太郎。

床と鳴り物、足拍子ががちゃがちゃで、気持ち悪かったのは私だけ? シンの清丈があまり力の入っていないように感じたのだが、引っ張る力が弱いのかな。

解説は勘次郎。ちょっとつかえたりもしたが、誠実な感じで好感がもてた。

「仮名手本忠臣蔵」

二つ玉は碩・寛太郎、胡弓の燕二郎(床裏)。
寛太郎の三味線がキッパリしていい。要所を締めていた。碩はハキハキとしていい。声が若いので仕方ないのだろうが、定九郎があまり悪人らしくなく、与市兵衛が爺らしくない。

身売りは希・清志郎。希は悪くはないのだけど、おかるは合っているが、やはり婆はもう少しという感じ。清志郎はやりすぎでない気迫が感じられた。

勘平腹切は呂勢・錦糸。三味線にハッとさせられることが多く、床ばかり見てしまった。場面描写が的確。呂勢は清治と組んでいる時よりもの早く伸び伸び語っている気がする。このところの活躍ぶりが頼もしい。 

2022年5月29日日曜日

5月28日 ミュージカル「メリー・ポピンズ」

映画版で聞いた耳に馴染んだ曲が多く、メリーのカバンから様々なものが出てくるカラクリや、舞台の枠を伝い歩くようなワイヤーアクション、宙乗りなどのアクロバットも楽しい。特に、「スパカリ」はキャッチーな曲と楽しい振り付けでウキウキする。
が、メリー役の笹本玲奈の歌が…。地声と裏声の落差が激しく、音量もコントロールされてない感じで聞きづらいこと。パート役の大貫勇輔は踊りはもちろん、期待してなかったにもかかわらず、ミュージカルらしい歌唱でよかったのに。子役の2人(弘山真菜、田中誠人)が歌、演技とも達者だった。

2022年5月22日日曜日

5月22日 貞松浜田バレエ団「バレエ・リュスの世界」

「レ・シルフィード」

白い衣装に身を包んだ妖精たちの幻想的な踊りだが、少し現実感が回見えてしまったように感じた。

「牧神の午後」

以前観たニジンスキー版と異なり、ロビンス版は現代のバレエの稽古場が舞台。男女の恋心というテーマがわかりやすい一方、踊りというより芝居を見ているような感覚だった。

「ボロヴェッツ人の踊り」

荒々しい男性群舞など、勢いを感じさせる一幕。


貞松浜田バレエ団にとって、バレエ・リュスの作品は初挑戦だそうで、慣れない様子もあったけれど意欲作。ロビーには薄井憲二コレクションから関連資料の展示もあり、世界観を感じられた。 

2022年5月15日日曜日

5月15日 南座歌舞伎鑑賞教室

 上村吉弥が長年続けてきた公演を、弟子の吉太郎らが引き継ぐという胸熱。

歌舞伎のいろはは茂山逸平を案内役に、拵えをした狂言の女役(鈴木実)と歌舞伎の女方(片岡千太郎)の比較や、見得やツケ打ちの実演など。鈴木のわわしい女ぶりがおかしい。実演で参加した祐次郎や當史弥らが活躍す

ミニ公演は「吉野山」で、吉太郎の忠信に千壽の静御前。

吉太郎はキリッとした所作が気持ちよく、千壽の踊りには秀太郎の面影を感じた。

2022年5月8日日曜日

5月8日 文楽公演第三部

「桂川連理柵」

石部宿屋の段を三輪、咲寿に勝平、清允。

咲寿は丁稚長吉みたいな役だといいのかもしれないが、ガチャガチャした感じが抜けないなあ。

六角堂を希・団子。

帯屋の前を呂勢・清治、切を呂・清介。

呂勢の儀兵衛の馬鹿笑いが面白い。意地悪な役はピカイチだ。

道行朧の桂川は睦、芳穂、津国、碩、薫に団七、友之助、錦吾、清方。

5月8日 文楽公演 第二部

「競伊勢物語」

玉水渕の段の口を亘・清丈、奥を織・清友。
亘が意外に良い。

春日村の段の中を小住・清馗、次を藤・藤蔵、切を千歳・富助。
小住は声がよく出ていて、久しぶりに会心の語りを聞いた。ここのところらしくない感じがしていたので、一安心。
切は千歳・富助。70分の長丁場を堂々と語り切った。4月は気負いもあったのかな。 

5月8日 文楽公演 第一部

「義経千本桜」

4月の大阪に引き続き、伏見稲荷を靖・清志郎。 
靖は4月よりは良くなっていたけれど、声のコントロールが不安定に感じた。狙った音程や音量でないような。

道行は少し面子が変わって。より落ち着いた?三味線陣の安定感。

川連法眼館は呂勢・錦糸。ますます磨きがかかったようで、初めの一音から聴き入る。安定した語り、艶のある三味線に浄瑠璃っていいなあと。
切の咲太夫が体調不良で休演し、織が代役。三味線は燕三に燕二郎のツレ。織は力みが抜けて聴きやすくなった。4月公演で代役にたったのも聞いたが、その時は力が入りすぎて聴くのが少し疲れた。

2022年5月7日土曜日

5月7日 横浜能楽堂特別公演「三老女 第2回」

「萩大名」
大蔵東次郎のシテ。
全体的に格式ばったセリフづかいなのだが、そこここにおかしみが漂う。庭の奥を見遣る仕草になんとも言えない味がある。
最後、太郎冠者は呆れて何処かへ行ってしまうという風でなく、一通り教えてスッと立ち去る感じ。

「檜垣」
大槻文蔵のシテ、福王茂十郎のワキ。
前シテは橋がかかりから舞台へ上がるまでだけで十数分かかったのはないかというくらい、ゆっくりと静かに登場。コンディションのせいか、前場は総じて謡の言葉が聞き取りづらく、物語の世界に入り込めなかったが、後場はシテの存在感に圧倒された。終盤、鏡を見るように扇をかざすところで、老女でなく、年齢不詳の美しい女に見えた不思議。 
ただ、この女、昔美しかっただけで、無限に水を汲まなければならなくなるような悪いことはしていないと思うのだが。女だというだけで宿業を背負ってるということ?
地頭の梅若実は先月より体調が悪そうに見えた。心配。 

2022年5月5日木曜日

5月5日 新国立劇場バレエ団「シンデレラ」

池田理沙子&奥村康祐ペアの初日にして千秋楽。
池田のシンデレラは可憐で健気で、役にあっている。
2幕、待望の奥村王子の登場。2日前にアグリーシスターだったとは思えない、颯爽とした王子ぶり。アイコンタクトが素晴らしく、表情豊かに恋する様を描く。ピュアでありながら、王子の品を保っているのが素晴らしい。珍しくリフトがちょっと不安定かなと思っていたら、3幕が開く前に劇場から、怪我のため井澤駿が代役とのアナウンスがあり心配。早く回復されるといいのだけれど。
急な代役にも関わらず、井澤は安定感のある踊りでさすが。
義理の姉は。決して悪くないのだけれど、奥村の時と比べると物足りない。何が違うのかと考えたけれど、女役の成り切り度なのか、シナを作る様というか、押し出しが違うのかなと。女であることの自信があるとより面白いし、ドラァグクイーン感が出るのかもしれない。他の人は本当にアグリー(不細工)でそこに引け目があるように感じたけれど、奥村は自信満々でスカッとしてるのがいいのかも。 

2022年5月4日水曜日

5月4日 新国立劇場バレエ団「シンデレラ」

米沢唯&井澤駿ペア。テクニックの確かさは折り紙付きだが、思ったより印象が薄い。米沢シンデレラは、前半は可憐ではあるけれど地味で目立たないし(そういう役だけど)、井澤王子は恋に浮かれる感じがなんだかその辺の男子のよう。とはいえ、美しいドレスに包まれたときの米沢の輝きはさすが。

義理の姉たちは、ローリー寺西みたい。悪くはないのだけど、奥村康祐のハジけっぷりには及ばないかな。 

5月3日 新国立劇場バレエ団「シンデレラ」

小野絢子のシンデレラ、福岡雄大の王子はいずれもハマり役で素晴らしいのだが、今回は奥村康祐の義理の姉が観たくて、急遽チケットを追加。期待を上回る好演て、終始笑いっぱなし。化粧映えする顔立ちなので、ドラァグクイーンのように美しく、はじけた演技で目が離せない。出番も多いし、キャラクターのはっきりしない(というか、典型で深みがない)王子役よりも美味しいのでは⁉︎と思うほどの存在感だった。「もう一度やりたい」と本人が言っていたこともあり、気持ちも乗っていたのではないだろうか。幅の広い演者さんだなと改めて感服した。アグリーシスターというくらいだから、不細工なのはいいとして、禿げ散らかしたような頭はどうなの?と思ったが。
小野のシンデレラは、ボロをまとった冒頭から気品が漂う。踊りでは、ポワントワークの美しさが印象に残った。
福岡王子はこれぞ王子という堂々としたヒーローぶり。
秋の精の池田理沙子。激しさを感じさせるシャープな踊りで、嵐ということだが、オレンジ色の衣装もあって炎のように見えた。 

2022年4月10日日曜日

4月10日 四月大歌舞伎 第三部

「ぢいさんばあさん」

仁左衛門の伊織と玉三郎のるんがいちゃいちゃするのを愛でる幸福よ。若い日の2人の仲睦まじさは、側で見ている方が照れてしまうし(その意味で、久右衛門役の隼人は演技の必要ないのでは?と思うほど)、年老いてからの可愛らしさ。特に伊織のキュートなおじいちゃんぶりに癒される。
玉三郎は前半の若々しさに驚いた。隼人と並んでちゃんと姉弟に見えるのだもの。が、立ち上がるときによろけたり、珍しくセリフが怪しいところがあったりして、ちょっと心配も。
歌六の下嶋は、伊織が好きなのに構ってもらえなくて憎まれ口で言いすぎてるみたい。
甥夫婦に橋之助と千之助が若々しく好演。千之助は若妻の初々しさが似合うが、眉が青っぽくて横一直線みたいで気になった、 

「お祭り」 

玉三郎の芸者に福之助、歌之助の若い衆。
大向こうがないものの、あたかも声がかかった間をとって「待っていたって?待っていたとはありがたいねえ」と受ける玉三郎の見事さよ。

4月10日 四月大歌舞伎 第一部

「天一坊大岡政談」

猿之助は天一坊のような小悪党の役がはまる。吉宗のご落胤を騙ってすましているところと、本性がバレた開き直りとの落差がうまい。伊賀亮の愛之助は久しぶりにちゃんとした芝居を見せてもらった感じ。声がいいし、顔立ちもそれらしく作って、骨太な悪役が似合う。大岡役の松緑とのやりとりなど聞かせた。松緑は語尾の癖が気になったものの、同世代の役者たちががっぷりくんで演じるのはいい。幕切は、悪事が露見して縄をかけられていながら、天一坊の不敵な様子が見えた。
大岡と忠右衛門(左近)の親子が切腹をしようとするところ、肩衣を外したり、着物を肩脱ぎにしたりの所作が揃っていて踊りのよう。さすが親子。 

2022年4月9日土曜日

4月9日 横浜能楽堂特別公演「三老女 第1回」

「 財宝」
野村万作のシテ、アドは中村修一、内藤連、飯田豪。
アドの3人は初めて見る顔。若手なのか、橋掛かりを歩いてくるところから緊張した面持ち。万作の足取りがおぼつかないのは演技なのだろうが、アドの1人が腰の辺りに手を添える風(多分これも型)なので、あれと思った。そして、やはり少し意識が飛んでしまった…。後ろの席の客が「笑うところがなかった」と言っていたが、ゲラゲラ笑わなくても面白いものは面白いのだけど。
後半、囃子方が入って、賑やかに歌い舞う。最後は2人が腕を組んだ上に万作を乗せて退場…という、ちょっと変わった終わり方だった。

小鼓に大倉怜二郎。少し見ない間に青年の顔になっててびっくり。

「姥捨」
梅若実が体調不良で地頭に回り、シテは梅若紀昌。実はいつもの椅子だけでなく、切戸口から入るのも難しいらしく、地謡座の後ろの扉を開いて舞台に上がるという具合で、かなり心配な様子。移動するのも支えが必要だったみたいだし、途中、目を瞑って休んでいる様子もあった。

そして、姥捨。三老女のなかでは軽めの曲らしいのだが、140分(タイムテーブルには150分とあった)の大曲。特に後場が長い…。後シテの老女の姿になってからの舞で40分くらいあったのではないだろうか。あまり変わり映えのしない動きが続くので、辛かった…。
紀昌は前シテのときはなんだかよかったのに、後シテになってからはピンと来なかった。老女は自ら捨てられた経緯を語るでなく、最後は成仏するでもなく、ワキが先に去って舞台に残されるという展開が、よくわからなかった。老女の哀れさ?

地謡が優しい音づかいでメロディアスだなあと思った。
ワキは福王和幸。後場でも結構シテとの絡みがあり、度々体の向きを変えるなど、比較的することが多いように見えた。
アイは野村萬斎。女が捨てられた経緯をを説明するのだが、たっぷり20分の一人語り。深刻そう。 

2022年4月3日日曜日

4月2日 文楽公演 第三部

「娘景清廓日記」 

花菱屋を藤・団七。

日向嶋を千歳・富助。切語りにふさわしい千歳の語り。気合が入りすぎ最後ちょっと声が掠れ気味だったけど、おいおい改善していくだろうし、何より力をセーブして物足りないよりよっぽどまし。

「蝶の道行」
織、芳穂、亘、聖、薫に藤蔵、団吾、清丈、友之助、錦吾、燕二郎。 
華やかなのだけど、なんで死んじゃうかな。人形は一輔と玉助。並ぶと一輔に分がある。 

4月2日 文楽公演 第二部

「摂州合邦辻」 

万代池の段を三輪、希、南都、津国、咲寿に清友、清方。
あまり聞いたことのない段だが、これがあると物語がわかりやすい。

合邦住家は中を睦・清馗、前を呂勢・清治、切(!)を呂・清介。
こちらも呂勢が良かった。清治の三味線も冴えてた。一方、切の字がついて初めての舞台だった呂は…。清介がバンバン三味線を弾いてなんとか盛り立てていたというか、三味線にかき消されていたよ…。もっと義太夫節らしい語りを聞かせてほしい。

人形は和生の玉手御前が品があって素晴らしい。「蹴り殺すぞ」もちゃんと足は出しているのに、ヒステリックでないのがいい。
俊徳丸は休演の玉佳に代わって玉翔。本役ではないからか控えめだったけど、誠実な感じがよかった。

4月2日 文楽公演 第一部

珍しく幕開き三番叟に間に合った。 足踏みがちょっと不揃いな感じがするのが、若手っぽい。

「義経千本桜」
伏見稲荷の段は靖・清志郎。靖はちょっと不調か、語りがちょっと硬く感じた。

道行初音の旅は錣(←切語りになったのに切の字がつかない)の静御前と織の忠信、ツレに小住、碩、文字栄。三味線は宗介、勝平、寛太郎、清公、清允。華やかで、道行としては上々。

川連法眼館の前を呂勢・錦糸。これが、思いのほか良かった。音楽的な三味線の旋律に美声の語りが調和して、心地よい。
切りは咲・燕三。得意の四ノ切のはずなのだが、精彩を欠くというか、せっかくの狐言葉も力無い感じだったのが残念。

人形は、忠信の勘十郎の早着替えショーみたいな感じ? 覚えているだけで、黒紋付き、黒地に金の織模様、狐火、桜色の紋付きをとっかえひっかえ。早替わりのときは、下手の桜や小山の下からせり上がり、障子を破って…など、舞台のあちこちから登場して楽しませる。
道行では、静の簑二郎がキラキラ(金蘭?)の裃、勘十郎が黒地に金糸で模様の入った裃と、キラキラ豪華で祝祭感があったのは、咲太夫の文化功労者顕彰記念だから?

2022年3月27日日曜日

3月27日 OSK日本歌劇団「レビュー春のおどり」

100周年記念という触れ込みなのに、新橋演舞場で3日だけとは寂しい。大阪松竹座の公演がコロナ禍で一部休演になってしまったというから尚更。

1幕は日本もの「光」。山村友五郎、尾上菊之丞、藤間勘十郎の演出・振付という豪華さ。冒頭は友五郎の振付で、三番叟で周年を寿ぐ。これがよかった。専科の浅香櫻子の千歳、桐生麻耶の翁に厳粛さがあり、洋楽に乗せた「とうとうたらり〜」も新鮮。楊の三番叟は機敏な動きが好もしく、日舞の動きを取り入れた速いテンポのステップは「踏んでいる」感があった。動いても体幹がブレないのが見事。ちゃんと日舞も稽古しているのだと感じられた。
…が、その先は今ひとついただけなかった。おそらく勘十郎のパートなのだが、写楽や鼠小僧?、火消しや花魁など様々な登場人物、場面が繰り広げられるのだが、統一感がなく、雑多な印象。写楽のもとに現れた花魁(楊)が燕尾服の男に変じ、ドレス姿の娘役と踊り出すに至るや?しかない。

2幕は洋ものの「INFINITY」(荻田浩一作・演出)。  楊の持ち味は洋舞の方が発揮される。トップスターの風格がついてきて、群舞の先頭に立ってで踊っている時など、率いているという頼もしさがあり、劇場の隅々にまで気を配っている感じがした。 

2022年3月21日月曜日

3月20日 三月大歌舞伎 第二部

「河内山」
休演から復帰した仁左衛門の河内山。花道を使った出入り以外はほとんど座ったままで動きがなく、セリフを楽しむ芝居なのだと改めて実感。勧進帳などは山伏問答の内容を理解していなくても、「富樫か次々と繰り出す難しい問題に、弁慶はすらすら答えているのね」程度のことが分かれば十分に楽しめるのだが、河内山はそうはいかない。七五調の名文句に酔ってつい瞼を閉じてしまってはダメなのだ…orz。
とはいえ仁左衛門。口跡の良い名セリフはもちろん、質店でことの顛末を聞いて腹に何か閃いたふうにふっと表情を変えたり、往生際の悪い松江公(鴈治郎)の様子にスイッチが入って追い込む様など、要所要所で魅せる。
千之助の浪路は所作に硬さがあるものの可憐な娘を好演。他の腰元に比べて顔が白すぎる(赤みがない)ように見えた。

「芝浜の革財布」
菊五郎劇団の手練れによる世話物で、熟練の芸をたっぷり。菊五郎の政五郎、時蔵の女房おたつをはじめ、適材適所の配役で、左團次、彦三郎、橘太郎ら長屋の仲間たちの酒宴の楽しそうなこと! 特に妻自慢で惚気る大工役の左團次の風情がいい。…が、全体としては歌舞伎のこの作品ってあまり好きではないかもと思った。
財布を拾って帰った政五郎が妻と金勘定をするところがなく、湯に行くからと預かった包みをおたつが開いてびっくり!というのはインパクト薄くないか? 最後は酒を飲んでしまうし、財布の金を奉加帳に寄進するのは悪くないけど、落語と違うくだりが気になった。

丁稚に眞秀。芝居好きという設定で、河内山の真似に始まり、弁天小僧や三人吉三の名文句など音羽屋の芸を披露するのはいいが、ちょっと長かった。

2022年3月17日木曜日

3月17日 音楽劇「夜来香ラプソディ」

軍の招聘で上海に渡った服部良一(松下洸平)が、「夜来香」の作曲者黎錦光(白洲迅)、李香蘭(木下春香)らと、1945年6月にコンサートを開催する。物語はこのコンサートの模様として生演奏の歌唱があり。その間に過去のエピソードを混ぜ込む構成。

冒頭、「こんなご時世なのにご来場くださり…」みたいなセリフがあり、もちろん、太平洋戦争の終戦間近の混乱した時期という設定なのだが、ロシアによるウクライナ侵攻という時勢とも重なって見える。

松下が目当てで観に行ったのだが、はしゃぎすぎに感じるくらいのテンションの高さがいただけなかった。服部良一の為人がそうなのかもしれないが、戦時下の日本男性として違和感。座長としては立派につとめ、舞台を引っ張っていたとは思うけれど。

ジャズバーの女主人?マヌエラ役に夢咲ねね、川島芳子役に壮一帆、共産党のスパイ、リュバ・グリーネッツ役に仙名彩世と、宝塚出身者が多く、それぞれに歌を披露する場面があったこともあって、どことなく宝塚風味が漂う。夢咲は、気風のいい女性という役どころなのだろうが、口調や動きが雑な印象。深いスリットのチャイナドレスで踊るところなど、柔らかみにかける直線的な仕草が残念な感じ。壮一帆は元男役だけあって、男装は決まっていたが、女装のチャイナドレス姿で1曲披露したのは?? 観客の混乱を見越してか、歌い終わってから「川島芳子でした」というのもなんだかだ。仙名はミステリアスな雰囲気が役に合ってよかった。途中1曲披露したのは、別役でだよね? リュバは子どものころの李香蘭に声楽の指導をした人物という設定だったけど…。

コンサートを企画した陸軍中将山家亨役の山内圭哉、憲兵隊長役の山西 惇ら、個性的なキャストが脇を固め、全体としてはまとまっていた…のかな。

2022年3月14日月曜日

3月13日 文楽巡業公演 夜の部

「曽根崎心中」

生玉を小住・清丈。柔らかな語りが場面に合う。お初の声にかわいさが出ればなおよかろう。

天満屋を織・燕三。叙情たっぷりの語りに、しっとりとした三味線。

天神森の段は睦、咲寿、碩に錦糸、錦吾、燕二郎。睦は声を出していない時に、顎を上げて天井を仰ぐ姿勢が散見され気になった。

人形は和生のお初が、上品で控えめな風情。徳兵衛は玉男。軒下に潜り込むところで左遣いが戸にぶつかったり、初の着物の裾に頭を入れてしまったりと、要領が悪かった。


2022年3月13日日曜日

3月13日 文楽巡業公演 昼の部 @所沢市民文化センターミューズ

「一谷嫩軍記」

解説は珍しく藤太夫。さすが年の功で、分かりやすくいい解説だった。文楽とは、能、歌舞伎と並ぶ日本の三大劇で、作品は三大義太夫の一番いいところを書いた並木宗輔が最期に書いた作と紹介。陣屋までのあらすじもきちんとまとめ、初めての人も物語に入って行きやすいのでは。

靖・勝平。出だしからちょっと声が上ずっている感じで、最後までそのままだった。端場だから調子を上げていたのかもしれないが、三味線の調子と合っていない気がした。藤の方との語り分けも甘い。

熊谷陣屋の前を千歳・富助。切語りとしての風格を感じさせる堂々とした語り。35分ほどで終わってしまってあれ?と思ったら、前の方が難しいのだそう(織太夫談)。

後は藤・藤蔵。このコンビは久しぶりか。藤の語りは師匠が存命の頃に比べて軽くなったというか、伸び伸びしてるというか…だが、50分ほどを一気に語り切り緊張感が途切れなかった。

人形は玉助の熊谷は、下手に控えている時の足が不恰好に曲がっているなどして決まらない。一輔の藤の方は品がある。玉佳の義経で一際大きな拍手。それほどの役ではないと思うのだが、贔屓がいたのか。

2022年3月12日土曜日

3月12日 三月大歌舞伎 第一部

 「新・三国志」

関羽篇とのサブタイトルで、劉備(笑也)による蜀建国までをフォーカス。関羽篇といいながら、物語の主人公は劉備で、実は男装の麗人だった、というトンデモ設定なのだが、「民が飢えず、売られず、殺されない国をつくる」という劉備の夢が、「女子供のたわごと」と揶揄されたり、流血を好まないのを「男らしくない」と責められるなど、ジェンダー問題を想起させ、今の時代により響く内容になっていた。…が、「夢見る力」って別に女に特有のものでもないのでは? と思うなど、劉備が女であることの必然性があまりないように感じた。表向きは自身を漢王朝の皇帝の末裔だと主張しているものの、実は縁もゆかりもない出自という設定も疑問だ。シンプルに、皇帝の血をひきながら女であるから公式には面に立てなかったとかいう設定のほうが、夢のような理想を掲げる理由になるし、もっともらしいと思うのだが。それと、関羽(猿之助)とのロマンスがちっともロマンチックでなかったのはなぜだろう。1幕の最後に手を握ったり、荊州に赴く関羽との別れで2人きりになって言葉を交わしたりするのだが、なんだか関係性がそっけないというか、気持ちが通っているように見えなかった。2人のロマンスって、この作品の肝じゃないの?

中車が、冒頭、原作者羅貫中の弟子だか子孫だかの羅昆虫を名乗って解説していたかと思ったら、幕が開くと張飛として登場。諸葛孔明は弘太郎改め青虎。襲名披露の口上はなかったが、関羽らが、劉備の軍師に招く際に「青き虎となって…」と入れ事で盛り上げる。

呉軍の軍師、陸遜の猿弥、華佗の寿猿ら、澤瀉屋の面々が頼もしく脇を固めるなか、司馬懿の笑三郎の芸域の広さに感嘆。はじめ出てきたとき、誰だかわかなかったくらい。NARUTOの大蛇丸で影のある敵役ができるのは知っていたが、また違った雰囲気だった。

孫権の福之助がキリっとして、若き盟主を好演。香渓の右近は気の強い娘役がよく似合い、キレイだった。関羽の養子、関平の団子はもう立派な青年。背が高くて頭が小さいので、次世代の子という感じがする。

30分の休憩挟んでトータル2時間40分という制限でいろいろカットしたせいもあるのだろうが、場面の継ぎ接ぎのような感じが否めず、消化不良な感じ。最後に、劉備ら蜀の面々と並んで張飛が花道を歩いてくるので、「え?死んだんじゃなかったの??」と混乱。そのあと呉、魏と、キャスト全員が花道から引っ込んでいくので、フィナーレのパレードの演出だったらしい。最後の最後に、関羽の猿之助が宙乗りし、桃の花びらが舞うのだが、これって物語上の意味あるの? 宙乗りに全くテンションが上がらない性質なので、なんだか…だった。

3月11日 サファリP「透き間」

黒で覆われた空間に、四角い台が4×4個並ぶ舞台。どこからともなく台の下へ潜こんだ俳優たちのてや腕が、暗闇の中に照らし出される印象的なシーンから始まる。彷徨う人々、泣きじゃくる人々の行進、寝たきりの男…断片的なシーンの連続。妻(佐々木ヤス子)と歩く人(達矢)が絡み合うシーンは官能的だが、湿っぽさがなく、カラリとして感じた。セリフはごく少なく、散文詩のような印象的な言葉が語られる。「死を待っているのではない、死に逃げられたのだ」など。
原作の小説を読んでいないので、ストーリーはよく分からなかったが、大切な人を殺された者が殺す側に回り、次には命を狙われる…という無限ループのような立場の転換。殺された者の怨念の集合体のような存在が恐ろしくもあり、悲しかった。最期にはその中心に唯一の女性・佐々木が組み込まれるのは、復讐の連鎖を断ち切ろうとするよう。

2022年3月6日日曜日

3月6日 3月歌舞伎公演

「盛綱陣屋」

菊之助が初役の盛綱。理知的で器の大きい武将らしさがあり、冷静さを保ちながらも、小四郎に腹を切らせるよう話すところなど泣かされた。最後の小四郎を褒めてやれというセリフが切ない。所々、台詞の語尾や両手を挙げる所作などに吉右衛門の面影を感じてじんときた。
女形陣もみなすばらしく、篝火の梅枝は凛々しく武家の妻を好演。最後、小四郎の遺体を抱いて、涙に濡れながらグッと顔を上げる姿が美しい。微妙の吉弥は悪かろうはずもなく、三婆の格式保ちながらしっかりと情を感じさせた。莟玉の早瀬は、片はずしの役はまだ早く、背伸びしている感じが拭えなかったが、健闘していてこれからが楽しみ。
小四郎の丑之助は二度目とあって、大役もしっかり。「心残りは、ち、ち、う、え…」ではしっかり泣かせた。そして、小川大晴の小三郎がかわいいこと。重そうな鎧を着けて、機敏に動くのが愛くるしくて、キュンとした。

2022年3月5日土曜日

3月5日 大槻文蔵裕一の会

「江口」
文蔵のシテ。静かでほとんど動きのない曲で、2時間近く。昼ごはんをたくさん頂いたあとには辛かった。舞もあまり動きがなく、正直、あまりピンとこなかった。
地頭に梅若実。椅子を使うのはもう定番だが、お疲れなのか、しばしば俯いていたのが気になった。

「縄綯」
萬斎の太郎冠者。主人の命へ気のない返事をしたり、変顔をしたりと、いつもより笑わせにかかっているように感じた。主に内藤進、何某に高野和憲。

「小鍛冶」
裕一のシテ。ワキは福王和幸、ワキツレに知登と美声が揃い、耳福。曲の違いなのか、地謡も迫力があるように聞こえた。裕一は謡いが明瞭で、キビキビした動きが好ましく、楽しく観られた。

2022年2月26日土曜日

2月26日 人間浄瑠璃「新・鏡影綺譚」

森村泰昌と勘十郎による新作。
冒頭の曽根崎心中の観音巡りがプロローグのようになり、森村による書き下ろしの物語へと進む。彫っている人形に魂が入らないと嘆く人形師、今日十郎のもとに、悪魔コッペパン(!)が現れ、魂と引き換えに人形に魂を入れてやろうと唆す。目玉をくり抜かれ、代わりに水晶の目を与えられた十郎が鏡を見ると、鏡に映ったお京人形(森村)か鬼と化し、炎の中に投げ込まれる。炎をかたどったフレームにプロジェクションで揺れる炎が映し出されるなど、視覚的にも変化に富み、80分を短く感じた。
森村の人形は、自身の顔をかたどった面をかけて表情を消して動く様が人形らしい。面は控えめなメイクが中村芝のぶに似ていた。両手は大ぶりな女形人形の手を用い、足元は足遣いが着物の裾を捌いて表現。勘十郎は着物の背から左手を差し入れ、首の動きを指示していたよう。左右の手は文楽人形のように人形遣いが動かし、森村自身の手は隠れていた。
鬼に変化するところは、作り物の目と牙を剥いた口を顔に貼り付け、捌いた髪や角を付ける早替わり。炎に包まれる場面で全体がぐるりと回ったので見えてのだが、森村自身は滑車つきの台に乗っていて、4人目の人形使いが滑車を動かして移動する仕組み。
最後のセリフ、「俺を助けてくれたお京は、人間なんやろか、人形やったんやろか」が、この作品の全てを表しているように思う。物語の中の人間を人形が演じ、人形を森村が演じるという逆転により、異空間に誘われたような感覚。

床は織に清介、清公、清允。詞章が現代語風だったので語りは朗読劇に近い印象。コッペパンの詞を高めの調子で道化っぽくしていたが、低音で不気味にするのが良かったのではと思った。三味線は現代音楽っぽく感じた。

2022年2月23日水曜日

2月23日 素浄瑠璃の会

錣の会主催。錣と藤蔵による、「ひらかな盛衰記」松右衛門内より逆櫓の段は約90分とたっぷり聴かせる。最後の舟唄まで上演するのは珍しいのだとか。
アフタートークによると、当初「合邦」を予定していたが、昨年末に呂が素浄瑠璃の会でやったばかりなので外し、錣は「すし屋」をやりたかったが、藤蔵の勧めでこうなったのだとか。藤蔵いわく、権四郎は錣のキャラにあってると思ったのだとか。

力いっぱいの語りと、勢いのある三味線(掛け声もたっぷり)で、聞きごたえは十分だったのだが、「やっしっし」のあたりはちょっとキーが高すぎ、声がかすれているように感じた。三味線の音がなんだか耳に障るなあと思っていたら、右手の人差し指をけがして、撥をちゃんと握れなかったそうなので、その影響かも。ケガしているなどとは感じさせない、勢いのある演奏だったが。

アフタートークで錣が、2月公演で演じた「弁慶上使」は登場人物の誰にも共感できなくてやりにくいというので笑ってしまった。

2月13日 文楽公演 第三部

「平家女護島」

鬼界が島の段を呂と清介の代役で清公。
呂は相変わらずの慎重運転で、丁寧なのかもしれないが義太夫節にはもっと力強さとか豪快さがほしいと思ってしまう。切語りになるのだから、一段の奮起を期待したい。
清公は朱を見ながらとはいえ、大役をよく勤めた。

人形は玉男の俊寛が抑制された動きでよろし。勘市が怪我で休演し、簑紫郎が丹座衛門を代役。

「釣女」

芳穂の太郎冠者、小住の大名、碩の美女、南都の醜女に錦糸、清丈、寛太郎、錦吾。清允は休演。
錦糸が淡々と弾いていたのは、まあまあと思っているからか。(そもそもそんなに好きな演目ではないので、思い入れられない)

人形は大名が玉勢、太郎冠者の文司が病気休演で玉助が代役、美女の紋吉、醜女の清五郎。

2月13日 文楽公演 第二部


「加賀見山旧錦絵」

草履打ちを咲・織・靖・小住に燕三。
初日が直前で休演になったので、実質的な初日に。幕開きの拍手にに熱がこもる。
咲の岩藤が憎々しく、健在ぶりに安堵。織は病み上がりとは思えないくらいよく声がでている。が、尾上は声が高すぎないか?老女形というより娘のようで役にあわないし、キンキンした声が耳に触った。
靖と小住は出番少なくないか?わざわざ配役するほどでもないし、腰元は1人でもよかったのではと思った(…が再見して、腰元は複数でガヤガヤしているほうがいいと認識を改めた)。4人でのユニゾンが不揃いだったのは、稽古不足か。日を重ねれば揃うと期待。

廊下は三輪・団七。
岩藤の底意地の悪さが絶妙。

長局は前が千歳・富助、後が織・藤蔵。
千歳は実質切語りらしく、安定した語りで、義太夫節を聞いているという感じがする。岩藤の憎らしさ、尾上の節度ある落ち着き、お初の若さが的確に感じた。
織は盆が回るなりクライマックスで、いきなりフルスロットルで語るのは難儀だと思うが、ちょっとやり過ぎというか、うるさく感じてしまった。  

奥庭は希の岩藤、咲寿のお初、津国の庄司・忍びに清志郎。
希は老けた感じはあるが、憎らしさが薄く、善人のよう。咲寿は出だしの語りは力強くて良かったが、お初の叫ぶようでヒステリックな語りが耳に障った。狂乱より、主人大事の健気さが欲しかった。

人形は和生の尾上は期待通り。岩藤の清十郎は、人形の腰がせむしのようだったのが気になった。お初の勘十郎は熱演。ちょっと気になったのは、弾正と岩藤の密談を衝立の裏で盗み聴いている場面で、左遣いの頭や主遣いの顔が見えていたのが興ざめ。(たまたま、簑助が同じ役を演じるのを映像で見たところ、左遣いは腰をかがめていたし、主遣いも人形が表に出るまでは姿を隠していた)

20日に再見。咲の語りはより深さを増しており、織も前半は落ち着いた感じだったが、後半はキンキンした感じで聞きづらかった。長局も聴くのがしんどかった。義太夫の語りには、憂いというか、濁りというか、ちょっとした不純物が必要に思うのだが、織はきれいすぎて、逆に耳に障る。奥庭の咲寿も聞きづらいが、これは調子が外れているから。

2022年2月6日日曜日

3月6日 二月大歌舞伎 第二部

 「春調娘七種」

千之助の静御前に梅枝の十郎、萬太郎の五郎。
千之助は姿は可憐だけれど、2人と並ぶと所作が見劣りしてしまう。
梅枝の立ち役は珍しいが、柔らかい風情がいい。萬太郎は小柄ながら元気が漲る。

「義経千本桜」
渡海屋から大物浦。仁左衛門の一世一代とあって、客席の期待も高い。
仁左衛門の知盛は、これで最後というのがもったいない。銀平の格好良さ、知盛の白装束のハッとするような美しさ。感情表現がこまやかで、安徳天皇の言葉でふっと得心する様子がよく伝わる。岩に上るあたりから満場の拍手だったが、私は拍手はせずにただ見ていた。あまりの緊張感に拍手などできなかったのだ。

周りの配役も素晴らしく、孝太郎は典侍の局になったとたん、凛とした気品が漂う。安徳天皇は小川大晴は集中力を保って、長台詞もしっかり。相模五郎の又五郎は、ちょっと動きがしんどそうだったけど、入江丹蔵の隼人も、義経の時蔵も役によく合ってよかった。弁慶の左団次は渡海屋では出ず、大物浦のみ。セリフのないところで首が小刻みに揺れていたのが気になったが、大きさが感じられた。

2022年2月5日土曜日

2月5日 文楽公演 第一部

「二人禿」

10時45分開演なのを失念していて、最後の数分だけ観たが、床も手摺もガチャガチャした感じ。

「御所桜堀川夜討 弁慶上使の段」
前後に分けるところ、急な配役犯行で睦・勝平が一段を演奏。
盆が回ると緊張した面持ち。睦は最初から声が掠れ気味で、稽古が大変だったのか、心配したが、弁慶の詞など堂々として聞かせた。勝平は後半は朱を見ながらの演奏だったが、ずっと唸ってる感じで、よくできるなぁと感心。

「酒屋」
中を希・清公。2人とも急な代役をよく勤めた。が、希はちょっと歌いすぎか。

前の藤・清友は…。体調不良に昼食後が重なって、よく寝てしまった。というか、藤は伸び伸び語ってるのはいいのだが、耳あたりが良すぎるきらいが。耳に障るところがないと、義太夫っぽくないのかもと思ったり。

奥の呂勢・清治はよかった!ちゃんと集中して聞けたし、音楽を堪能した。お園の境遇にはまったく共感できないのだが、かわいそうーと思えたし。「今頃は半七さん〜」のクドキでは、嶋太夫を思い出した。

 第一部終了後、外出して戻ると二部の上演が中止との報。
 草履打は藤の岩藤、呂勢の尾上、咲寿が善六・腰元に清志郎、長局は千歳・富助で一段ま  るまるという、代演を楽しみにしていたのでがっかり。


20日に再見。
「二人禿」は希、亘、聖、文字栄に団吾、友之助、清公、燕二郎、清方。
薫が病気療養で休演のため、前半キャストの聖に代わったほかは、予定通りの顔ぶれ。
…なのだが。やはりガチャガチャした感じだった。

「弁慶上使」は中を睦・勝平、奥を錣・宗助。
錣山の情感あふれる語り。宗助は勝平ほど唸っていなかった。
人形はおわさの一輔が地に足がついている感じでよい。信夫の簑紫郎もいい風情。

「酒屋」は中を靖・清馗。義太夫らしい語り。
前は藤・清友。前回よりは集中して聞けたが、もやもやした。芝居っぽいというか、義太夫を聴いているという感じが薄いのだと思う。
奥の呂勢・清治はこれぞ!という聞きごたえ。一段まるまる聞きたかったなあ。

2022年2月2日水曜日

2月2日 SINGIN'IN IN THE RAIN~雨に唄えば~

 主演のアダム・クーパーはじめ、キャストの全クオリティーが高く、歌も踊りも残念な人が一人もいないという素晴らしい舞台。これぞエンターテインメントというのを堪能した。そして、このコロナ禍(コロナ禍下?)にあって、1月公演がキャンセルになりながらも来日してくれ、こんな素晴らしい舞台を見せてくれたことに感謝。カーテンコールでは涙がでそうだった。数日前に思い立ってチケットを取ったにも関わらず、15列目のセンターブロックで、しかも前2列ががら空き(プロモーターのミスか団体客のキャンセルか)で、視界良好。過去公演よりも時間は短かったようだが、密度の濃い好演だった。

ドン役のアダムは踊りがいいのは当然として、声がよく、歌も上手い。タップも軽やかにステップを踏んでいたし。顔は相変わらずのハンサムだったけどお腹周りに貫禄がついて、ちょっともっちゃり。シャツにニットベストという衣装だと特に体形が気になってしまった。寄る年波よね…と思っていたが、調べたらまだ50歳なの⁉ ちょっと老け過ぎでは…。

キャシー役のシャーロット・グー(?)は古風な美人で、鈴を転がすような美声。脚がきれいで踊りもいい。コズモ役のロス・マクラーレン(?)も歌も踊りも申し分なく。リサ役の女優(名前が分からない)は、アニメ声で憎たらしい敵役を好演。

カーテンコールでは、全キャストが雨の中、白シャツに黒ベスト、ハットのいでたちで「SINGIN'IN THE RAIN」を歌って踊り、客席に水しぶきを浴びせるサービスぶり

1幕を観ながら、当然録音よね…と思っていたら、2幕の冒頭で舞台後方を見せる演出があり、生オケであることが分かった。初日(昼公演もあったので、ステージとしては2回目だが)ということもあって、演出家一行が2階席で観ていたし、この状況下で大勢のスタッフが来日し、贅沢な舞台を見せてくれたことに感謝!

2022年1月29日土曜日

1月29日 金春円満井会横浜公演

 仕舞「源太夫」は金春憲和、「花筐」は櫻間金記に代わって金春安明。

狂言「御田」は山本東次郎のシテ。
ほのぼのとして祝祭感にあふれる演目。陽気な神職と、アド以下、7人の早乙女が華やか。

「関寺小町」は古式の小書き。
シテは本田光洋、ツレは子方の中村千紘、ワキは森常好にワキツレが3人。
金春流では一子相伝で宗家のみが演じていたところ、初めて宗家以外の能楽師が演じるという記念すべき舞台だったのだが、関寺を初めて観るということもあり、あまりピンとこないというか…。基本的に枯れた芸なのだろうが、子方とシテの舞比べとか、子方が凄く上手いというでなく、シテの動きが演技なのか老化なのか判然としなかった。

2022年1月26日水曜日

1月26日 国立能楽堂 特別公演

 仕舞の「雲林院 クセ」(梅若万三郎)と狂言の「二千石」(七五三、宗彦)は体調不良もあって半分くらいうとうとしてしまったのだが(スミマセン…)、大槻文蔵の「求塚」が凄かった。

現代の感覚では到底受け入れられないストーリーではあるのだが(菟内日処女には全く落ち度はないのに、二人の男に一方的に恋焦がれられたあげく、死んだ後も地獄で苦しめられるとか、ひどすぎる。前世の宿業と言われても納得しがたく、責められるべきは、身勝手で諦めの悪い2人の男だと思う)、ドラマチックな演技にハッとさせられた。舞などの動きが多いわけではないのだが、少しの所作に緩急があって、物語を強く訴えた。前シテの「これを最期の言葉にて この川波に沈みしを」で足を鳴らすところや、後シテで僧に供養を願うところの悲痛さなど、これまでの能公演では感じたことないほど心が揺さぶられた。文蔵はしゃがんだ姿勢から立つところで少し危うさが感じられるところもあったが、おおむね動きに淀みはなく、今年80歳になるとは思えない身体だ。

ツレの菜摘女に坂口貴信、大槻裕一、ワキは森常好、ワキツレ梅村昌功、則久英志、アイは茂山逸平。

2022年1月23日日曜日

1月23日 壽初春大歌舞伎 第三部

 「岩戸の景清」
難有浅草開景清とあるように、新春浅草歌舞伎のメンバーによる新作…かと思ったら河竹黙阿弥作だった。キビキビ動く隈取の江間義時は誰?と思っていたら種之助だったらしい井。巳之助の北条時政、隼人の和田義盛はきりっとしており、莟玉の千葉介常胤はすっきり、米吉の衣笠、新悟の朝日は美しく、歌昇の秩父忠信には堅実さが…と浅草メンバーの成長ぶりが感じられる一幕。景清の松也は座頭格として健闘していたけれど、ニンではない感じが否めない。数日前まで代役を務めていた猿弥で観たかった、と思ってしまった。

「義経千本桜 川面法眼館の場」
四代目猿之助の四ノ切は得意演目としているだけあって、見応えあり。NHKの劇場中継で観たときは、この人の嫌らしさが目に付いてしまったが、3階席からと遠目だったのがよかったのか、芝居に集中できた。舞台全体を見渡せるので、静や義経の様子にも目を配れたのも収穫だった。雀右衛門の静かは可憐。義経は門之助で、静を迎えるところを注目していたのだが、やはり淡々として表情は変わらず。
寿猿が局千寿で、初めて女形姿(老女形だけど)を見た。普通にと言っては失礼だが、キレイだった。東蔵の法眼、笑也の奥方、猿弥の駿河次郎、弘太郎の亀井六郎。

1月23日 国立劇場 初春歌舞伎公演「南総里見八犬伝」

 冒頭、スライドとナレーションで伏姫と八犬士誕生のいきさつを説明し、序幕は大塚村蟇六内から。
菊之助の信乃ははまり役で、スッキリとした美青年。浜路の梅枝もよいが、本郷円塚山の場で早々に退場してしまうのがもったいない。
松緑が網乾左母二郎と犬飼権八の2役で、一瞬誰?と混乱した。セリフは相変わらず、語尾に癖があり、少し浮いて聞こえる。左近が犬江親兵衛仁で、親子で花道でする芝居が見どころになっていた。左近は小柄に見えるけど、15歳とな。

二幕目からはテンポよく進み、足利館の屋根上での立ち回り、利根川べりの夏、対牛楼の秋、扇谷定正居城の春と、四季の風景も美しく、正月公演にふさわしい華やかさ。菊五郎の犬山道節は出てくるだけで安心感があるし、時蔵の犬坂毛野は立ち役化とおもいきや、女田楽に扮して華麗な剣舞を見せ、それぞれに見どころがあって楽しめた。

2022年1月22日土曜日

1月22日 ミュージカル「 INTO THE WOODSーイントゥ・ザ・ウッズー」

 スティーブン・ソンドハイムの歌なのに、キャストの半分以上が歌に難ありというのがつくづく残念な舞台だった。望海風斗の魔女は圧倒的な歌唱力だったけど、ほかは……。2人の王子(広瀬友祐・渡辺大輔)のデュエットは悪くなかったのと、赤ずきんの羽野晶紀がいいキャラを出していたほかは、正直、歌を聴くのが辛かった。パン屋夫婦の渡辺大知と瀧井公美、シンデレラの古川琴音など、役者としては評価している人たちだったので、マイナスのイメージになってしまうのが惜しい。ジャック役の福士誠治はこんなに歌えなかったっけ?という印象(1幕目、配役を確認せずに観ていたので、この歌が下手な役者はだれ?くらいに思っていた)。8~9割方歌える人をそろえて、残りをキャラクターを表現するためにどうしてもこの人の演技力が欲しいということで、あまり歌えない人を入れるならまだしも、歌える人が少数派というのはいただけない。

赤ずきんとシンデレラ、塔の上のラプンツェル、ジャックと豆の木というなじみのある童話を森でつなぐ物語はよくできていて、1幕は(歌を抜きにすれば)楽しく見られた。が、1幕の最後にシンデレラとラプンツェルがそれぞれ王子と結ばれて大団円の満足感があったので、2幕が少し蛇足に感じた。というか、2幕でハッピーエンドのその後を描くなら、もっと中身が欲しかった。呪いが解けて子どもを授かったパン屋の夫が、自分が抱くと赤ん坊が泣くといって妻に子育てを押し付けるところや、追い求めていた女を手に入れた王子たちが次のターゲットを求めるくだりはリアリティがあったけれど、それ以外はピンとこない。1幕は魔女が影の主役という感じで、継子のラプンツェルとの関係(魔女のセリフで、「世間はひどいところだから、塔に閉じ込めて守っていた(世界は野蛮だから、子供のままでいなさい。永遠に?」みたいなのがあって、毒親とそれに反発する娘みたいなシーンがあったし、パン屋の息子の呪いを解こうとするのも、ラプンツェルとの関係修復のためだった)がテーマなのかなとも思えたが、2幕では早々に退場してしまって、物語を担うのがシンデレラとパン屋、赤ずきん、ジャックになってしまうし。人を食う巨人が出てくると、どうしても進撃の巨人を連想してしまうのもよくないと思う。

2022年1月16日日曜日

1月16日 新国立劇場バレエ団「ニューイヤー・バレエ」

 「テーマとヴァリエーション」

米沢唯と奥村康祐のペア。技巧的な振付が濃密に盛り込まれているのに、ゆったりとこなしていてせかせかして見えないのはさすが。ステップやポーズの一つ一つが美しく、あらゆる瞬間が絵面のようで眼福。奥村は白の衣装が良く似合い、端正でノーブルな踊り。特に終盤、男性ダンサーを率いて踊るところはぐっと来た。米沢は回転で軸がぶれないのが素晴らしかった。主役の2人はもちろん、群舞もキレイにそろっていて優美。特に池田理沙子の腕の遣い方が柔らかく、音楽的だった。

「ペンギン・カフェ」

去年は配信で観たが、生で観るとより楽しい作品。
ペンギンの広瀬碧の愛らしさ。ユタのオオツノヒツジの木村優里は初役だそうだが、もっとコケティッシュでもいいかも。井澤駿の伊達男ぶりは、今井翼に似ている気がする。
テキサスのカンガルーネズミの福田圭吾は飛び跳ねっぱなしで、凄い運動量。
ケープヤマシマウマの奥村康祐はアフリカンダンスのようなリズムで、アクロバティックな動きなのに哲学的に見える。女性陣の衣装がスタイリッシュで素敵。
ブラジルのウーリーモンキーは福岡雄大。高い跳躍を連発する軽々とした動きで、身体能力の高さを再認識した。


2022年1月10日月曜日

1月10日 初春文楽公演 第1部

「寿式三番叟」

呂勢の翁、靖の千歳、小住、亘の三番叟に碩、聖のツレ。三味線は錦糸、清志郎、寛太郎、清公、燕二郎。
錦糸の三味線のおかげか、呂勢はいつもの悪い癖が抑えられていて聞きやすい。語尾が鼻にかかるというか、しゃくるような感じがなく、翁の風格があった。靖は顔を真っ赤にしての熱演。小住と亘の三番叟になると、元気が溢れるほど。格式を考えたらちょっと抑えてもいいか。
人形は勘市の千歳、和生の翁、玉勢、簑紫郎の三番叟。文楽の景事はやはりあまりいいとは思えず、どうしてかと考えた。人の舞踊の場合は、稽古で体得した常人を超えた動きに感動するけれど、人形なので人の限界を超えた動きは当たり前だし、人の動きを真似るためにわざわざ人形を動かす意味が腑に落ちないのではないかと思った。
和生の出と引っ込みで拍手。人間国宝だから?

「菅原伝授手習鑑」

寺入りを芳穂・清丈。
子どもたちやよだれくりの声を、甲高くしすぎないのはやりすぎるよりはいいけど、少し物足りなくもある。

寺子屋のまえを錣・藤蔵、切を咲・燕三。
錣伸び伸びエモーショナルな語りが、とてもよかった。相変わらず、ひどい話ではあるのだが。藤蔵の三味線も、情感たっぷりで、掛け声にも勢いがあった。
一方、咲はやや物足りなく感じた。錣と比べると平易に聞こえるのか、淡々とした語りはこの場に合ってるはずなのに。
人形は和生の源蔵と一輔の戸波の夫婦がバランス良く、玉男の松王丸も安定感がある。勘弥の千代、玉峻の小太郎
よだれくりがふざけたのを他の子どもたちがやり込めるところ、文机を被せるのはやりすぎでは。


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1月9日 初春文楽公演 第3部


「染模様妹背門松」

生玉の段を希、亘に清馗、清方。
掛け合いかと思ったら、希がメインで語り分けていた。亘が語るところで初めて清方が一人で演奏するのを聞いたが、一音一音丁寧に弾いている感じで快感が持てた。

質店の段は千歳・富助。世話ものも悪くないなと思ったのは、この段の実質的な主役が久作だからか。爺が切々と訴える様が泣かせる。けど、このまま2人を置いておいては心中しかねないと分かっていて、なんでみすみす見逃すかなぁ。おかつも、もうすぐ正月だからなんて言わずに、さっさと引き離しておいたらよかったのにと思ってしまう。

蔵前の段は病気休演の織に代わって藤・宗助。宗助の三味線は手堅い。藤は悪くないのだろうが、この話に共感できないので…。織だったら違っただろうが、もっと感動できないような気がする。

人形は清十郎のお染、勘弥の久松。お染は首が埋まっているようというか、鳩胸すぎるというか。娘の人形は、うなじが大事なのでは? 玉也の久作の安定感たるや。この爺かいるから物語が成立している気がする。清五郎の質入れ女房が哀れ。

「戻駕色相肩」
睦の次郎作、靖の与四郎、希の禿に咲寿、小住、文字栄。三味線は清友、団吾、友之助、錦吾、清允。
十数年ぶりだそうだが、やらなくて正解だと思う。睦はやはり声が掠れ気味で、つられたのではなかろうが希も禿の詞が掠れて小さい。他のところでは声は出ていたので、意図的だと思われるが、なぜ?
人形は玉志の次郎作、玉助の与四郎。西と東の二枚目ということのようだが、与四郎が意外に江戸前風にシュッとしている。禿は簑二郎。

びっくりするほど客が入っていなくて、後方席はガラガラで中央前方ブロックですら空席Kが目立つ。少し心配になった。




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1月9日 初春文楽公演 第2部

「絵本太功記」

二条城配膳の段は三輪、津国、咲寿、碩、南都の掛け合いに勝平の三味線。
勝平らしからず、音が軽くて浮いてるみたいと思ったら、10日に再見した時はいつものおおらかな音で安堵。
出だしが津国で、骨太ながらやや調子外れではらはらしたが、横暴な春長には似合う。三輪の光秀は安定感がある。無骨な武士のようで光秀?とも思ったが、文七の頸には首には合っているのだろう。
咲寿の蘭丸は喧しい。美少年らしくなく、ギャンギャンとけたたましいのだが、春長の威をかって横暴に振る舞っている役だからこれでいのか? 碩の十次郎が清々しい好青年なので、並ぶと…と思ってしまう。

夕顔棚は藤と病気休演の団七に代わって団吾。
藤が伸び伸び語っていて、とても上手く聞こえる。義太夫らしくはないのかもしれないが、聞きやすい。団吾は相変わらず斜に構えた(物理的に)弾き方で、ロックしてる。

尼ヶ崎は前が呂勢・清治、後が呂・清介。
清治の三味線は音が的確なのだと改めて実感。音程が確かなのはもちろん、間や音量も揺るぎがない。呂勢はやや三味線に背を向けるようにすわっていたのが気になったが、伸びのある声で節の抑揚が細か。初菊のクドキは音楽的ですらある。
後の呂は、「現れいでたる武智光秀〜」は迫力があったが、その後は尻切れとんぼ。三味線の手は多いわ、立ち回りやらでツケが入るわで、周囲の音にかき消されて、語りが聞こえないというのはどうしたものか。
人形は十次郎の玉佳が苦悩する若侍を好演。さつきの勘寿は婆の首が本人の分身のよう。紋臣の初菊が可憐で、袴が女性の着物に使うような華やかな模様だったのもよき。春長は休演の文司に代わって文哉。大役をよくこなしていた。
十次郎の目が見えなくなって、手探りで初菊を探すくだり、黙って顔を触られている操に違和感。人間だったら、初菊のほうへ促すなり、なんらかのリアクションがあるのでは?

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