台本上も違いがあって、椎の木で小金五を強請る最中に小せんが戻ってきて、葦簀の陰から様子を見ていたり、まんまと20両をせしめて喜ぶ権太をたしなめると、「俺がこうなったのはお前のせいだ」となじったり。最後の花道を去るところも、悪態をついたままで、夫婦や父子の睦まじさを素直に感じられない。後半、内侍母子の身代わりに差し出すところで権太は悲しみを堪えるような表情を見せるのが、ちょっと唐突で同情しづらかった。また、権太はすり替えた葛籠にあった絵姿で維盛と知るのだが、小金吾は中身を改めたときになくなっていることに気付かなかったのだろうか。
小金五討死は立ち回りをたっぷり。打ち手を引き連れた猪熊大之進(菊市朗)との一騎打ちになり、小金五がいったん死んだと見せかけて、とどめを刺しにきたところで返り討ちにする。
よかったのは、梅枝の維盛。弥助としての頼りない様子から、お里らがいないところで弥左衛門と主従の立場に戻るところで、一瞬で高貴な風情に変わる。寿司桶を担いで登場するところで、力のなさをやりすぎないのもいい。桶の中身入ってないんだから、やりすぎるのはかえって不自然。一人男性客でやたら笑い声の大きな人がいて、ちょっと会場の雰囲気を壊していたのが惜しい。
小せんの吉弥、若葉の内侍に吉太郎と上方役者が存在感を示す。吉弥は文句なしにいい女房。女郎屋にいた小さんと恋仲になって子までできたのが悪いと権太に責められるところは、思わず同情してしまう。吉太郎はおっとりした話し方や仕草が高貴な人らしいが、若いので六代君と並ぶと母というより姉に見えた。
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