2024年12月22日日曜日

12月22日 第十二回 龍門之会

仕舞「西王母」
金剛宣之輔。行儀よく、健気な感じ。

舞囃子「小鍛冶」
金剛謹一郎。成長が感じられて頼もしい。

狂言「棒縛」
茂山忠三郎、山口耕道、山本善之。

舞囃子「山姥」
金剛永謹。


「弱法師」
金剛龍謹のシテ。ワキ村山弘、アイ茂山忠三郎。
俊徳丸が我が身を恥いるところにグッときた。舞の後半、変化のあるところがとても印象的。

2024年12月8日日曜日

12月8日 十二月大歌舞伎 第三部

「舞鶴雪月花」

勘九郎が桜の精、松虫、雪達磨と姿を変えて踊り巧者ぶりを見せる。6列目の良席だったので、桜の精の着物の襟元が引き抜きのため緩んでいるのが見えてしまい、気になった。
松虫は長三郎も。名子役ぶり。
雪達磨は滑稽ななかにペーソスがあっていいのだが、オバQ之ような扮装はどうなの? しかもそれがチラシに並ぶのは違和感あり。


「天守物語」

玉三郎の富姫は姿もセリフも、泉鏡花の世界をこれ以上ないくらいに体現。そして、再登板を決意させた團子の図書之助は、これぞ図書之助という適役。清々しいたたずまいに所作の美しさ、セリフの明晰さが揃い、富姫が引き止めたくなるだけの説得力があった。こんなに説得力のある図書之助は初めて。

薄の吉弥、侍女は歌女之丞を筆頭に京妙、芝のぶ、玉朗、鶴松か並び、舌長姥の門之助、朱の盤坊の男女蔵ら、適材適所の配役。(鶴松はも一つだったが)昨年と入れ替わりで亀姫の七之助は綺麗だけど、亀姫にしてはシャープすぎる感じ。妹らしく、もうちょっと柔らかいとなお良いと思った。(つまり、去年の玉三郎は妹らしい可愛さがあった)

12月8日 文楽公演 第1部

「日高川」

希、咲寿、南都、文字栄に団七、団吾、燕二郎、藤之亮。
遅刻して後半だけ。希の清姫は限界に挑戦みたいな語りで、懸命なのは分かるが、それだけではダメだと思う。咲寿は船頭。大失点でもないがよくもなし。全体的にチグハグな感じ。
人形は紋臣の清姫、玉翔の船頭。清姫が蛇になってから、人形に主遣いが振り回されているみたい。

「瓜子姫とあまんじゃく」

千歳・富助に錦吾、清允。 
千歳の語りに嶋太夫を思い出した。である調子の詞章は義太夫節っぽくないのだが、義太夫節らしさを感じられたのが不思議。瓜子姫とあまんじゃくの攻防?と妖怪之話が行ったり来たりするのは、話の構成としても分かりにくいと改めて思った。
人形は皆が頭巾を被っていたが、玉佳のあまんじゃく、紋吉の瓜子姫。

「金壺親父恋達引」

藤、靖、亘、聖、碩に燕三、清丈、清公。 
藤の金左衛門は金にがめつい意地汚い感じを好演。靖が二枚目。亘はお高やお舟ら娘役が多かったが、あの発声は裏声では? ちょっと気持ち悪い。

人形は簑二郎の親父、一輔の娘お高など。 簑紫郎のお梶婆が好演。

2024年12月7日土曜日

12月7日 文楽公演 第3部

「曽根崎心中」

この日の収穫は何と言っても一輔のお初。可憐で、情に溢れ、セリフのない受けの芝居も行き届いている。玉男徳兵衛との繊細なやり取りがよく、この二人のコンビはいい。

生玉社前を三輪・清友。
珍しい組み合わせと思ったが、特にコメントはなし。

天満屋は織・藤蔵。
やったるで感満載で、お初があまり可愛くないのはマイナスだと思う。

天神森は芳穂、小住、薫、織栄に錦糸、清馗、友之助、清斗。
錦糸の三味線が的確に紹介を描き、芳穂の語りもよく応えているが、アンサンブルとして聴くとまとまりにかける。



12月7日 文楽公演 第2部

「一谷嫩軍記」

熊谷桜は睦・勝平。
風邪薬のせいでうとうとしてしまったが、高音が掠れる悪い癖が出て相模と藤の局のやり取りが辛い。

熊谷陣屋の前は呂勢・清治。
とても心地よかった。 女同士のやり取りが上手い。

切は若・清介。
いつもの囁き語りで、これはこれで好きな人もあろうが、義太夫節とは何かと考えてしまう。三味線がバチバチで、気を吐いていた。

人形は勘寿休演のため紋臣が藤の局。和生の相模、玉也の阿弥陀六など適材適所。

「壇ノ浦兜軍記」

錣、靖、津国、聖に宗介、清志郎のツレ、三曲は寛太郎。
宗介の三味線は堅実だけど、華やかさにかけるか。寛太郎の三曲は落ち着いている。

勘十郎の阿古屋は当たり役といってよく、慣れたもの。左は簑紫郎、足は勘昇。簑紫郎の左手が繊細。

阿古屋の人気か客席は満員。


2024年12月5日木曜日

12月5日 朧の森に住む鬼

25分ほど遅れて観劇(ライがシュテンと義兄弟の契りを結ぶあたりから)。 
幸四郎演じるライは口から出まかせ、嘘八百で他人を丸め込み、裏切り続けてのし上がる、欲の塊 。ファンだったら格好いいと思うのかもしれないが、思い入れがないのでただただ嫌らしい。
時蔵のツナは女丈夫で格好いいけれど、ビジュアルはイマイチ。解けかけたポニーテールのような髪型が冴えない。女だてらに四天王と呼ばれる将軍という役どころもあって、女形というより立役に近い。
よかったのは猿弥のマダレ。主人公が裏切りばかりでちっとも共感できないので、人情のあるキャラにホッとする。
染五郎はメイクが濃いというか、目の周りを赤すぎて変な感じ。おじいさんに似てきた。

2024年12月1日日曜日

12月1日 吉例顔見世興行 夜の部

「元禄忠臣蔵 仙石屋敷」

仁左衛門の大石内蔵助、仙石伯耆守の梅玉はセリフ術に不足がなく、やり取りが耳に心地よい。真山ものをやるには当代随一の配役では。(が、客席が暗いこともあり、時折睡魔に襲われる)
四十七士とまではいかないが、35人くらいは舞台にいて圧巻。間十次郎は進之介で年1回の生存確認。セリフをとちってモゴモゴ言っていたのを、堀部安兵衛の中車が引き取ったのはアドリブか?
力弥に鷹之資、磯貝十郎左衛門に隼人、不破数右衛門に松之助、富森助右衛門に青虎ら。
鈴木源五右衛門の笑三郎は立役も上手い。

「色彩間苅豆 かさね」

萬寿のお目見えで、愛之助が与右衛門のはずが怪我で降板し、萬太郎が代役。親子で恋人役ってあまり好きではないのだが。
萬寿は期待通りだが、初日のせいか髷が曲がっていたような。萬太郎は急な代役を健闘していたけど、陽のキャラさなので冷酷な役はニンでない。 


「御所五郎蔵」

隼人の五郎蔵は仁左衛門の指導の後が見られるが、何かが足りない。着物がだぶついて見え立ち姿がどこかスッキリしないし、セリフのキレも今ひとつ。対して、土右衛門の巳之助がいい。落ち着いたセリフもいいし、姿も。(先日の中車よりよほど役らしい)皐月は壱太郎。いつもの籠ったようなセリフ回しが気になる。吉太郎の逢州は大健闘。綺麗だし、セリフもいいし、立ち回りも美しい。

「越後獅子」

鴈治郎、萬太郎、鷹之資。3人並ぶと鷹之資の上手さに目を惹かれる。体幹の安定感が歴然で、同じ振りでも一味違う。


2024年11月30日土曜日

11月30日 大槻能楽堂

「呂蓮」

和泉流の三宅右近、右矩、近成の親子共演。
やはり和泉流は私には笑えないなぁ。ただ旅の僧が可哀想。

「井筒」

友枝昭世のシテとあってとてもとても期待していたのだが、今ひとつ響かず。多分、井筒の話に共感できないから。
橋掛に近い脇正面席だったので、シテの登場を間近で見られたのはよかったが、あまり動きはないし、謡にも特別なものは感じられなかった。ただ唯一、最後に薄をかき分けて井戸を覗くところは景色が見えた気がした。
喜多流の地謡は力強く、空間に広がっていく感じというのは何となく分かった。(対して観世流は内に集中していく感じか)
宝生欣也のワキ、三宅近成のアイ。

2024年11月23日土曜日

11月23日 立川立飛歌舞伎

新幹線の遅れで口上は見られず。解説の終わりごろから。

「新版 御所五郎蔵」

木ノ下裕一が補綴し、滅多にかからない時鳥殺しを含めて再構成。お馴染みの御所五郎蔵と、時鳥と傾城逢州の姉妹の話が錯綜する。

妹の時鳥(壱太郎)は浅間巴之丞の愛妾となるも、後室百合の方にうとまれなぶり殺しにされる。愛之助の百合の方は冷酷な感じで、壱太郎の時鳥が美しくも哀れ。

お馴染み、渡りセリフは長い両花道で颯爽と。土右衛門の中車と並ぶと、愛之助の五郎蔵が格好いいこと!姿勢がいいのでシュッとして見える。一方の中車は化粧がマンガっぽいというか。
五郎蔵の子分に松十郎、翫政、愛三郎ら。

五郎蔵の妻、傾城皐月の笑也が若々しく美しい。

大詰めで、金を工面するために去り状を書いた皐月(笑也)に怒り、皐月の打掛を着ていた逢州を殺してしまう五郎蔵。逢州と並んで歩いていたはずの土右衛門が消えていて、不適な声とともに姿を表すと夜だったのが急に明くなるのがよく分からん。結末も唐突な感じで、皐月が土右衛門の連判状を拾ったことで百合の方らのお家のっとりの企みを知った巴之丞らが駆けつけ、手柄を理由に五郎蔵の追放が許され、時鳥、逢州は念入りに弔うから安心せよって、強引過ぎないか?

「玉藻前立飛錦栄」

玉藻前+道成寺×変化舞踊みたいな感じ。壱太郎が白拍子から花売り、座頭など9役を早替わりで踊り分け、最後は九尾の狐になって宙乗りという大活躍。踊りは上手なので見応えあったけど、玉藻前なら鐘より殺生石では?と思ったり。

立川スカイガーデンは2500席ほどという大箱で、歌舞伎には向かないのでは…。左サイド席だったのだが、舞台の半分は見えず、代替のスクリーンは凝ったカメラワークが逆効果。舞台にせよ、花道にせよ、見えない方を引きで見たいのに半端に寄っている。喋っている人だけでなく、受けの芝居も見たいし。解説で壱太郎がカメラワークに凝っているといっていたが、求めているのはそういうのじゃないのよ。生の舞台を見ているはずなのに、テレビ中継を見ているような物足りなさ。チケットは安かったけど、次は正面席以外はないかな。こんなに舞台が見えなくて、なんの公演に使うのだろう。

2024年11月18日月曜日

11月17日 文楽公演 第2部

「靱猿」

藤の猿曳、希の大名、咲寿の太郎冠者、織栄と文字栄がツレ。三味線は清志郎、清丈、錦吾、清允、藤之亮。
違う芝居を寄せ集めたみたいに声の調和が取れてなくて、とても聞き苦しい。藤は楽しそうだが、希は発声が苦しそう。咲寿は高らかに語るのはいいが、タガが外れたみたいだし。狂言と話の筋は同じだが、大名が女で、首がおかめなのは何で?

人形は紋臣の大名、玉誉の太郎冠者、簑二郎の猿曳、玉彦之猿。猿の人形は子どもくらい大きく、ちょこまかとよく動く。最後、全員で舞うときに、いったん後ろに下がって背中を向けたのはどういう演出なのか。身繕いするわけでもなさそう。

「仮名手本忠臣蔵」

山崎街道出合いは碩・寛太郎。
碩の瑞々しさ、寛太郎のキッパリした音が正統派な感じ。

二つ玉は靖・団七に清方の胡弓。
靖は定九郎の悪っぷりがよく、与市兵衛も役に合ってる。

身売りは織・藤蔵。
揚々と語り上げるせいか、おかるが可愛くない気がする。「たっぷりと」の大向こうは違くないか?

勘平腹切りは錣・宗介。
水分多めな感じで情感たっぷり。女房の嘆きは涙に濡れてる。宗介の三味線は堅実だけど、切場なのでもう少し華々しくてもと思った。錣の語りとのバランス?

一力茶屋はオールスターキャスト。由良之助の千歳が流石の風格。力弥の碩も若々しく、おかるの呂勢は艶のある声で聞かせる。平右衛門の織は張り切って、煩いくらい。下手に置かれた白木の演台はこんなに高かったろうか。スポットライトが眩しい。
冒頭は店の入り口で、三味線なしで一力亭主、十太郎、喜多八、弥五郎らのやり取り。室内に入って三味線とともに千歳らが床に。
三味線は前半が燕三、後半が富助。廓の華やかさは燕三に分があるか。

人形は勘十郎の勘平が錣の語りに乗って観客を惹きつける熱演。定九郎の玉勢は大きさがあってよい。一輔のおかるが在所での地味な出立から打って変わって一力ではたおやかで色気がある。由良之助の玉男、玉翔の力弥、簑紫郎の伴内ら適材適所。玉助の平右衛門は太夫の語りと相まってドタドタと煩いくらい。

2024年11月10日日曜日

11月10日 永楽館歌舞伎

第14回の永楽館歌舞伎。市長が変わってどうなることかと思ったが継続されるようで安堵。

「袖萩祭文」

壱太郎初役の袖萩がよい。目を瞑ったまま、娘お君に手を引かれて花道から登場。おぼつかない足取り、母娘が互いを労る様子にじんとする。門の外で「せめて娘に一目…」と懇願するところは血反吐を吐くような慟哭に涙を誘われた。三味線も上手で、かじかむ手で途切れ途切れに弾く感じがあり、竹本の糸にも乗ってちゃんと役になっている。お君役は市川侑里。三味線を弾く袖萩の頭の上に手拭いをかざして雪除けにする型は初めて見たが、健気さが涙に追い打ちをかける。着物を脱いで袖萩に着せかける時、背中合わせに体ごと覆い被さって裏表に被せるのは舞台が狭いから?
貞任の愛之助は残り30分ほどに登場。ぶっ返りも決まって座頭の風格たっぷり。「父さんいのう」と縋り付くお君に復讐を踏みとどまったり、宗任との立回りがあったりと、たっぷり見せるのは澤瀉屋(二代目猿翁)の型らしい。(口上で歌之助が言ってた。地歌舞伎の演出を取り入れたそう)ただ、舞台と花道を行ったり来たりするのは忙しないと思った(永楽館の狭さのせいかも)。
宗任の歌之助は顔が赤い過ぎに見えたが、堂々たる武者ぶり。顔をすると愛之助と似ていて、兄弟であることに違和感なし。けど声を聞くと兄の橋之助に似てる。
傔状の九團と浜夕の千寿はともに老け役をするには若過ぎるのはしかたない。

「口上」
愛之助を中心に上手に歌之助、孝太郎、下手に九團次、壱太郎が並ぶ。
愛之助はいつもはすぐに出番があるのですぐ顔をするのだが、今回は出番が遅いので、出石の街を散策していると。
歌之助は数年前に父が演じて憧れていた宗任をこんなに早くできたと感謝。「この後九團次さんが永楽館(永楽館歌舞伎?)をお題に謎解きをする」と無茶振り。 目を白黒する九團次。
孝太郎はずっと来たかった永楽館に初お目見えが叶った。愛之助から「立役なら来てもらえそう」と声をかけられ、「立役でもいい」と応じたのだとか。
壱太郎は愛之助の妹役から、恋人、今回は妻役に。将来は母親役を演じられるくらい続いて欲しいと。恒例のご当地土産紹介は、コウノトリ のこーちゃんのぬいぐるみ大小と、モケケ?のコウノトリ バージョン、そばバージョン。
九團次は「(謎解きを考えて)他の人の口上が全く耳に入らなかった」としどろもどろ。「新そばの出る永楽館とかけて、その心は…」と言いかけて、会場の雰囲気がおかしいことに気づき、隣の壱太郎に何か聞いた様子。「謎解き」が何かを勘違いしていたようで、「代わりにパントマイムやります!」と強引に転換し、「イカで首をつる」のパントマイム。グダグダだけれど笑いはとれた。

「高坏」

愛之助の次郎冠者、九團次の主人、歌之助の太郎冠者、壱太郎の高足売り。
セリフの間合いが面白く、よく笑った。肝心のタップは、ドタドタとうるさく、下駄の前後の歯を交互に打ってタカタカとするとリズムが良くない。

2024年11月8日金曜日

1108 地主薫バレエ団「運命が織りなす古典と現代のダブル・ビル」

「ラ・バヤデール」

婚礼の場のみだが、幕前で主要人物の関係を示すプロローグをつけ、物語を分かりやすく。
ガムザッティの葭岡未帆はテクニックがしっかりして踊りに不足はないが、小柄で童顔なのがニンではないというか。純粋にソロルが好きな娘みたいに見えた。ニキヤのソロでは意地悪そうな顔をしていたけど。 ニキヤの山崎優子はスラリとした容姿が憂を帯び、悲劇を浮き上がらせる。この2人だったら逆の配役でもと思うが、ニキヤがより似合うかも。ソロルの宗近匠も大技を決め、見応えあり。
デベルティスマンは黄金の神像の巽誠太郎が美しい手足の動きで神々しさを描出。壺の踊りは奥村唯で、子役の壺の蜜を狙う2匹の蜂を率いて可愛いらしい。

「運命」

ベートーヴェンの交響曲第五番を使ったコンテンポラリー。運命を奥村康祐、人生を唯が勤め、総勢約40人の群舞。
奥村康祐はしなやかな手足の動き、ジャンプの軌跡が美しい。ラスト、ロープにぶら下がって宙吊りに複雑なリフトも華麗にこなす。唯と並ぶと体つきもよく似ている。
主人公は人生とのことで、時に運命に背中を押され、時に行手を遮られ、最後には運命の先を行くように見えた。
アンサンブルはゲストの多い男性陣に比べ、劇団員ばかりの女性陣がよく揃っていた。

2024年11月3日日曜日

11月3日 祇園をどり

祇園東は少人数(舞妓6+1、芸妓6)ながら、踊りがしっかりしていて華やか。双六で京都の名所を巡る趣向で、嵐山、鞍馬、東山、伏見稲荷、金閣寺と進んで、八坂神社であがり。夏の船遊び、雪の金閣寺と四季も巡る。場面ごとに別の人が踊っているのかと思ったら、芸妓は1人2役くらいこなしていてびっくり。場面転換がスムースでよかったが、セリで捌けるばっかりなのは飽きる。
客席は外国人観光客が多くて、当日券で結構入っていた。

2024年11月2日土曜日

11月2日 文楽公演 第1部

「仮名手本忠臣蔵」の大序から四段目まで。いろいろ思うところはあれど、やっぱり忠臣蔵はいい。

大序の鶴が岡兜改めの床は若手のリレーで、碩、織栄、聖、薫、亘、小住に燕二郎、藤之亮、清方、清允、錦吾の順。トップの碩、締めの小住がやはり目立った。聖もしっかりした発声に好感。 
恋歌の段は睦の師直、南都の顔世、靖の若狭助。睦の師直は悪くない。

人形は主遣いも頭巾を被っていたが、判官が初めから顔を上げていてあれ?と思った。顔世が首を震わせていたのはなぜだろう。

二段目の力弥使者は 希・友之助。小浪と力弥のいい場面なのに、なんか軽い。

本蔵松切は芳穂・錦糸。安定感。

三段目の馬場先進物は亘・清公。チャリがなんかいやらしい。

おかる文使いは睦・勝平。師直と違っておかるはちょっと厳しいか。

殿中刃傷は呂勢・清治。もう何度目だろう。安定の面白さ。師直が判官をいびるところは絶品で、大笑いでは拍手も出た。見台も素敵だった。
大笑いのあと、師直の口が開いたままになってしまい、左遣いがそっと直していた。 

裏門は小住・清馗。大序に比べるとこちらは今ひとつ。小住の語りに亘を感じてしまうのは同じ師匠に習っているから?

四段目の花
籠の段は藤・清友。

判官切腹は若・清介。通さん場にしていたが、あまり重々しさがなく、さらさらと過ぎていった感じ。「由良之助は」「未だ参上…仕りません」の件もあまり溜めないので。三味線で心情が分かりハッとするなど。 盆が回ると「待ってました」の掛け声。この場面で待ってましたはないと思う。 

城明け渡しは薫・清允。(筋書き名前はないが、御簾内にはもう一人三味線がいたような)
たった一言なのだけど、的確に語るのは難しいと思った。

人形は和生の判官がさすがの品格。勘十郎の勘平、一輔のおかる、玉男の由良助と適材適所。簑紫郎の伴内が軽快。


16日に再見。
清馗の三味線の糸が切れた。
城明け渡しは聖で、タイミングが少し遅かったようで、玉男が少しイラついたようす。声はよく出ていて、語りは悪くないと思った。

2024年10月27日日曜日

10月27日 新国立劇場バレエ団「眠れる森の美女」

柴山沙穂・福岡雄大ペア。
柴山のオーロラは出てきた時から王族の気品があり、プリンシパルとしての風格が感じられる。ローズアダージョはじめ、テクニックも申し分なし。福岡は王子というより王のような威厳。サポートの安定感、ジャンプの大きさ。リラの精に米沢唯。慈愛に溢れ、物語を包み込むよう。カラボスはキッパリと悪役らしい。
親指トムが大きなジャンプ。直塚はカラボスの時より朗らかなフロリナのほうが好き。確かなテクニックで余裕があり優雅。ブルーバードの森本亮介はしなやかさは前日の山田悠貴に劣るがジャンプが高く、対空時間が長い。ゴールドの中島瑞稀はなんか艶かしい。

2024年10月26日土曜日

10月26日 新国立劇場バレエ団「眠れる森の美女」

冒頭、吉田都舞踊監督が沈痛な面持ち登壇し、小野絢子が体調不良で降板し、池田理沙子が心を込めて踊るとアナウンス。事前にメールで案内があったうえ、入り口でもビラを配っていたので、さらに何か?と不安になった。

池田と奥村康祐のペアは何度も組んでいる安心感がある。フィッシュダイブなど軽々として滑らか。池田は技術がしっかりしているし、ローズアダージョも難なくこなしたが、もう少し王女の高貴さが欲しい。奥村とのパドドゥは多幸感溢れる。
奥村の王子は思慮深い感じ。イーリング版は王子の出番が多く、2幕で悩める風情で登場し、オーロラの幻を見せられて恋に落ち、喜びを見出すなど、心情変化が描かれるのもいい。踊りの見せ場も多く、奥村は調子がよさそうで、キレのいいジャンプや回転を見せてくれた。 
幻のオーロラはパドドゥでも王子と目を合わさず、目が覚めてからはアイコンタクトをしっかり。王子も嬉しそうでよき。
リラの精の内田美聡は長い手足が映えて威厳があるのはいいが、動くと手足の長さをコントロールしきれてないみたいに見えた。 カラボスの直塚美穂は迫力あり。
ディベルテスマンはゴールドの小川尚宏のノーブルな踊りに目が行った。ブルーバードの山田悠貴はブリゼ・ボレの足捌きが滑らか。親指トムの石山蓮がワイルドな跳躍で魅せた。

2024年10月25日金曜日

10月25日 中之島文楽

現代美術家とのコラボ企画が恒例になっているが、どんな効果を期待しているのだろうか。会場アンケートでは観客の大半は文楽を観たことがあるる人で、新規の開拓にはなっていないし、プロジェクションマッピングも、舞台効果を高めるよりは文楽の良さを殺している気がする。特に今年の谷原菜摘子は絵柄のクセが強く、色彩のコントラストが強いので、人形より背景が目立ち、人形にかかる影が濃くなってマイナスである。自身の描いたものがアニメーションになって動くのは面白かろうが、背景としての役割は考えていたのだろうか。
文楽で春夏秋冬を描くというプログラムは悪くない。夏から始まる不規則も華やかな春で終わるためなら許容範囲。
夏の「夏祭浪花鑑」は浪曲に置き換え真山隼人・沢村さくらコンビ。時間の都合か終始早口で、団七にも義平次にも重みがないのは惜しい。アニメーションの絵柄がどぎついので、別の物語を見ているようだった。
秋の「関寺小町」は藤・燕三、燕二郎。音が遠くに聞こえ、せっかくの演奏が今ひとつ。人形は玉佳。時折人形がスクリーンにアップで映し出されるのは不思議な感じだ。
冬「伊達娘恋緋鹿子」は織、織栄に清丈、友之助、燕二郎。いつもの歌い上げる感じ。人形は紋秀。上半身が硬く、前日の簑悠の方がよかったかも。火の見櫓に雪が降るのはいいとして、火花が飛ぶのは疑問。史実のお七と違って火はつけていないのでは。 
最後は春の「義経千本桜」の道行。床は藤、織、織栄に燕三、清丈、友之助。三味線はとてもいい。人形は玉男の忠信に一輔の静。この組み合わせはあまりないと思うが、よく似合う。玉男は狐の扱いはややぎこちなかったが、忠信の踊りは柔らか。一輔の所作が美しいのは言わずもがな。惜しむらくは、白地に桜?の素敵な裃を着ていたのに映像の影が写ってよく見えなかった。

トークで藤が、中央公会堂の思い出として、日経の文楽の夕べで住太夫に下腹を殴られ「ここから声を出せ」と叱られたと。丹田から声を出せということらしい。火の見櫓の段の説明で、お七が彼氏に会うために…とか、軽い。現代美術家の谷原菜摘子は着物で登場。衣装をつけたモデルの写真から絵に起こすと言っていたが、どの絵も自身によく似ていると思った。

2024年10月24日木曜日

10月24日 ワカテ de ワカル フェニーチェ文楽「火群」

午後の部を観劇。

「伊達娘恋緋鹿子」
靖、薫に寛太郎、清方、燕二郎。
安定感のある床。
人形は簑悠が主遣い。首の動きが雄弁で、体全体を使ってよく動いていた。髪を振り捌いてからの動き、三味線との拍子の合わせ方が他の人と違ったのは何か意図があるのか。

火の見櫓の大道具を横から、中の構造が見えるように壁を取り払って解説。前からも後ろからも登れる階段があり、梯子を登るところは上から左、主、足が並んで違うのだそう。裏からも3人で遣っているとはとは知らなかった。

トークは燕二郎、碩、勘次郎、玉延、簑悠。
金殿の段はお三輪感情が大きく変わるので、弾き分け、語り分けが難しいのだそう。燕二郎は師匠から筒いっぱいにと常々言われているそう。碩は女を語るのだけれど語り手が女になってはいけないと。お三輪の感情を出しすぎると可愛くなくなり、加減を試行錯誤。官女は意地悪だけれど高貴な人なので、やりすぎて食堂のおばちゃんみたいになってはダメ。勘次郎は初役のお三輪。巡業中も師匠や簑紫郎に稽古してもらったそう。左や足は何度も遣ったが、主遣いの出や合図が遅れると全体が崩れてしまう。左の簑紫郎や足の勘昇に助けられた。 太夫によって少し解釈が違うので、碩と燕二郎の録音をもらって練習したとか。勘十郎は「太夫の語りの中で役をより膨らませるのが人形遣いの仕事」(大意)と。

「妹背山女庭訓」金殿の段

床は碩・燕二郎。
碩は貫禄を感じさせる語り出しで筒一杯の熱演が頼もしい。疑着の相になったところは迫力があり過ぎて、般若というか、人ならぬものに変じてしまったように感じた。燕二郎も力強く熱演。前半は掛け声に力が籠るあまり太夫よりも前に出ているようだった。
人形は勘次郎のお三輪。動きが少し小さくまとまっていたかも。


2024年10月23日水曜日

10月23日 伝統芸能新喜劇

吉本新喜劇と伝統芸能のコラボで、文楽から芳穂、友之助、玉翔、玉路、簑之、講談の玉秀斎が出演。内場勝則と未知やすえ夫婦が経営するたこ焼き屋台は近くにショッピングモールができた影響で客が減っている。盛り上げようと知り合いの伝統芸能とのコラボを企画。文楽人形を操って接客をしたらSNSで話題になって…という筋立て。吉本のベタなギャグは笑えなかったけれど、芸人が文楽人形を操ってみる流れを芝居の中に組み込んだのはいい工夫。三味線で吉本新喜劇のテーマ曲を弾いたり、義太夫節で自己紹介したりと伝統芸能側が笑いを盛り込んでなかなか面白かった。芝居のあとにワークショップがあり、吉本芸人や観客からの質問に答えたり、講談や義太夫節、人形遣いを体験したり。観客の半分くらいは吉本ファンらしく、伝統芸能側の説明を面白がっている様子だったが、こここら本興業に引っ張ってこられるかはどうだろう。 

2024年10月19日土曜日

10月18日 東京バレエ団「ザ・カブキ」

十数年前に観た時はピンと来なかったが、とても面白かった。仮名手本忠臣蔵への理解度が高まったせいもあって、舞台上で何が起こっているかが分かり、物語の再現度に驚いた。とはいえ、勘平腹切りのくだりはは説明不足。与市兵衛を殺したと思い込んで命を断った人がどうして連判状に加われるのか、初見の人には分からないだろう。

場面の最初に義太夫節の演奏があるのも良き。言葉による状況説明の後、言葉のない音楽と踊りが物語を引き取る演出が効いている。竹本じゃないよなと思ったら、呂大夫(五代目)と清治だった。

由良之助の柄本弾ははじめから最後まで踊りっぱなし。現代の(といって衣装は少し古い感じだが)若者が江戸時代に迷い込んで、はじめ傍観者だったのが判官の切腹を機に討ち入りを率いるリーダーになっていく様に説得力があった。
おかるの沖香菜子が小柄でほっそりしているので、おかっぱにペールピンクのレオタード、打掛という衣装がこの世ならぬ人のよう。勘平は池本祥馬。古典と現代のおかる勘平が併存するのはどんな意図なのだろう。

顔世御前の上野水香は品のある佇まい。判官の樋口祐耀とは夫婦なのに、並ぶと格が違う感じ。由良之助に討ち入りの真意を問うところで、半ば狂乱したように花の散った桜の枝を持って彷徨うのも優美。ただ、ここで赤褌に赤鉢巻の男たちが出てくるのは違和感。ラストの日の丸といい、三島由紀夫を彷彿とさせモヤモヤした。

討ち入りの場面は47人の浪士による群舞が圧巻。9人が並ぶ逆正三角形の隊列が美しい。

2024年10月16日水曜日

10月16日 大阪能フェスタ in 上町

「蟹山伏」
善竹隆平の山伏、隆司の剛力、弥五郎の蟹ノ精という親子共演。蟹ノ精の指づかいがユーモラスで、なんとも言えない間も面白い。

「羽衣」
詞章を一部カットした短縮版ながら、大槻文蔵の天女の端正な美しさを堪能。ワキは茂十郎で、最後、天女が去った後、空を見つめて佇む様に余韻があった。
それにしてもワキツレはなんのためにいるのか。 

2024年10月14日月曜日

10月14日 錦秋 十月大歌舞伎 昼の部

「平家女護島」
菊之助初役の俊寛は頑張っているのだろうけどやはり役に合ってない。疲れたメイクをしているが、身のこなしが元気そうで、外見と中身がチグハグな感じ。本当は37歳だから老けていなくてもいいのだけど、満足に食べてないからやつれてはいる訳で、素早く動いたり足腰が安定していたりするとあれ?と思う。登場からやたらと大向こうが掛かっていて、まるで応援しているようだった。最後におお〜いと言った後、何も言わずにじっと遠くを見つめていたのは、運命を受け入れて諦観しているよう悪くなかった。
吉太朗の千鳥は悪くないが期待していたほどでなく。素朴な仕草が作為的に見えてしまって、もっと健気な方が千鳥らしいと思う。俊寛らが船に乗り込んだあと、ひとり舞台に残ってのクドキは感無量で、控えめに拍手を送った。

「音菊曽我彩」
曽我ものの祝祭劇で、色彩美溢れる華やかな舞台。右近の一万、真腹の箱王は血気にはやる感じが少々オーバーぎみで鼻につく。巳之助の朝比奈が手堅く、左近の化粧坂少将が雛人形のように可憐。魁春の大磯の虎、橋之助の秦野四郎。菊五郎の工藤は板付きで座ったまま幕を巻き上げて登場。最後だけ立って決まった。

「権三と助十」
獅童の権三、松緑の助十。駕籠かきなのだがみな刺青を背負っていて、松緑が似合いすぎて怖い。権三女房おかんが時蔵。江戸っ子らしいチャキチャキしたおかみさんで、立板に水のセリフが心地いい。獅童との掛け合いも息があってよし。
大阪から訪ねてきた彦三郎に左近。大阪弁がぎこちなくてモゾモゾした。

10月13日 錦秋十月大歌舞伎 夜の部

「婦系図」

これまで見たなかで一番胸に響いた、というか、これまでピンと来なかったのが初めて感情移入できたというか。

仁左衛門の早瀬主税は若々しく、恩師の命令に苦悩する様が痛々しくも美しい。酒井役の弥十郎と並んでも輝くような若さ。弥十郎は「女のバカなのはいいが、薄情なのはだめ」とか、差別発言連発で、現代の感覚とかけ離れた価値観を描き出す。
湯島天神では玉三郎のお蔦が無邪気にはしゃいでいる登場シーンから哀れで泣きそう。江戸っ子らしく饒舌なセリフがお蔦のキャラだと思うのに、時々言い淀んだりいい間違ったりしていたのは玉三郎らしくなかった。

冒頭、女優陣を含む新派の面々が出ていたのも嬉しい。


「源氏物語」

六条御息所を玉三郎、光源氏を染五郎ということで、美しい平安絵巻が見られるのかと思いきや、何じゃこりゃ。脚本も演出も酷くて、途中で帰りたくなった。
まず、六条御息所が僻みっぽく、教養のかけらもないような女性に描かれており、「どうせ私は日陰の身」と言ったり、床に倒れ込んで泣き崩れたりするのがイメージと違いすぎる。葵と別れて私と結婚してとも言ってたな。十二単に着替えてでてきてからしばらく袖が捲れたままだったのも、御息所らしくないし、玉三郎らしくもない。(「誰か!直してあげて!」と思っていたら、座った時にさりげなく直していてほっとした)光源氏は光源氏で、やけに尊大な態度で、年上の御息所への敬意がない。
光源氏が葵に向かって「これからは共に生きていこう」と言ったり、御息所の生霊?に強い絆で結ばれている我々に付け入る隙はない(大意)とか宣ったりと、セリフがとても安っぽくて思わず乾いた笑いを抑えられなかった。
セットも簡便で、説明セリフで進むのもいただけない。車争いは難しいにしても、最初の葵上に何者かが襲いかかるところは、視覚化してもいいのでは。あと、夕霧が生霊に殺されたから(なんで左大臣が知ってるの?)から今度も生霊の仕業では、とか、生霊の血を引いた女の姿とかいう説明台詞が冒頭から頻出するので、もううんざりしてしまった。もののけや怨霊の方が自然だと思うのだが。
光源氏と御息所が花道で寄り添うところは美しく、これだけは見もの。そして、染五郎よりも輝いて美しい玉三郎に驚嘆した。ラスト、光源氏が子を抱いた葵上を抱き寄せ手て幕というのも、絵面としては美しかった(物語としは???だが)。
時蔵の葵上は過不足なく。病気休演の吉弥に代わって折之助が中将。御息所よりは年上の設定なのかと思うが、年齢不詳だった。 

2024年10月6日日曜日

10月6日 歌劇「ラ・ボエーム」

井上道義が振る最後のオペラで、森山開次の演出振付に興味を惹かれて観劇。 
ミミ役のルザン・マンタシャンは繊細な感じで声が美しく、ムゼッタ役のイローナ・レヴォルスカヤの色気や力強さと好対照。ルドルフォの工藤和也、マルチェッロの池内響、コッリーネのスタニスラフ・ヴォロビョフ、ショナールの高橋洋介と男性陣の歌唱もすばらしく、音楽としてはとても素敵。…なのだが、改めてストーリーを考えると色々と共感できないというか。ミミとルドルフォの急展開のラブラブぶりにはびっくりだし、病に苦しむミミを支えられないから別れるとかって意味不明。ミミはミミで、一度は身を引いたものの、死にそうになってから最期に一目会いたいとか、訳がわからん。

「芸術の息吹」という名の4人のダンサーが時には暖炉の火になったり、蝋燭の火を吹き消す風になったり。全身黒のタイツに半身に白い染料を散らしたような衣装は黒衣のようでもあり、登場人物の感情を増幅するように舞台を彩る。マルチェッロを藤田嗣治風の出立にしたのは面白いけれど、余計なキャラクターづけになってしまったようにも感じた。

井上が幕のはじめやカーテンコールで客席に向かって指鉄砲のような仕草をするのでどうしたのかと思ったら、一部から執拗なブーイングがあったらしい。けれど、舞台上のおもちゃ商とふざけたり、楽しそうに振っていたのが印象的。カーテンコールでは森山とお辞儀し合ううちに土下座になってしまったり、カンパニーの雰囲気の良さが感じられた。

2024年10月5日土曜日

10月5日 清流劇場「ヘカベ、海を渡る」

エウリピデスのギリシャ悲劇を関西弁で翻案。昨今のパレスチナ情勢を放棄させ、反戦のメッセージが色濃く描かれる。キャストによる歌も反戦色が強く、現在の世界で起きている戦争や紛争を想起させる。

末娘ポリュクセネを生贄にされ、隣国に逃した末息子ポリュドロスは裏切りにより殺され、と数々の悲劇に見舞われたヘカベの悲哀は日永孝子の熱演によって観客の涙を誘ったし、ラスト、アガメムノン(高口真吾)の剣を奪って、復讐の刃を振るうのは急展開にカタルシスのような感じもあった。が、終演後、これでよかったのかと考えてしまった。ポリュクセネを生贄のため連行する役所が飯炊女になっており(原作からの改変)、この女もかつて戦争に敗れて身を落としたという設定で、自分も戦争の犠牲者だと訴えるのだが、犠牲者同士が傷つけあうことで何を伝えたいかがぼやけてしまったように感じた。飯炊女ごときがギリシア軍の決定に影響するというのも無理があるし、ここは原作通り、ギリシア軍の将校オデュッセウスのままの方が対立軸が明確だったのではと思う。ヘカベがアガメムノンに刃を振るって娘の復讐?を果たそうとするのも、奴隷と将軍という立場の違いを考えると不自然に思える。(この辺りはアフタートークで丹下和彦も指摘していた)

大阪弁のセリフが効いていて、ヘカベとアガメムノンのやり取りは大阪のおっちゃんとおばちゃんのようで本音がストレートに響く。トラキア王(辻登志夫)への復讐を遂げたヘカベに対し、「やりすぎでは」と言うアガメムノンに、「あんたが言うな」とか。

アフタートークは演出の田中孝弥、丹下和彦と劇団不労社の西田悠哉。原作の改変に納得できない丹下の発言が止まらず、聞いているほうは面白かったけれどゲストの西田は困ったのでは。ポリュクセネは神に捧げられたのであって、ポリュドロス殺害とは意味がいが違う(ポリュクセネの復讐はできない)という指摘はギリシャ劇の本質にも関わる点かもしれない。

2024年10月1日火曜日

10月1日 伝統芸能で彩る 京の風景

文化庁芸術祭のオープニングで、秋篠宮夫妻の観覧のため入口でセキュリティチェックあり。日傘が持ち込めなかったのだが、何でやねん。

「 廓の賑」
祇園甲部の芸妓による手打ちは、七福神と花づくしで華やか。年配者が木頭を務めるしきたりだそうだが、リズムが不安定で気持ち悪かった。

「萬歳」
井上八千代の一人舞は、義太夫が呂勢、靖、小住に燕三、勝平、燕二郎、笑に藤舎名生の笛、小鼓は藤舎呂浩ほかという豪華版。聞いていて危なげないのが何より。

「鬼瓦」
七五三の主人に千五郎の太郎冠者。妻を懐かしがって泣くのが何とも可愛く微笑ましい。
背景に絵をあしらい、横長の舞台をそのまま用いていたので、出捌けがよくわからなかった。

「大般若転読会」
智積院の僧侶らによる声明。 

「小鍛冶」
金剛流の宗家が神田明神、若宗家が老翁と前シテと後シテを分けて演じるのは珍しいのでは。
緞帳が上がると出演者が板付きで始まりびっくり。アイはおらず、前シテが引っ込むと程なく後シテが出てくる演出は時間短縮のためか。
ワキは宝生欣哉。

2024年9月25日水曜日

9月25日 楽しむ能「楽」プロジェクト 京都公演

ゲストの井上芳雄が逸平と同い年だそうで、意気投合したトークが盛り上がった。自分たちも同世代の中ではスタイルいい方だけど、今の若い子はもっと顔が小さいとかいう同世代話に始まり、ほとんど能に馴染みがないという井上の素直なリアクションが楽しげ。能はミュージカルと似ていて、盛り上がると歌と踊りが始まるという説明は、井上目当てのファンにも分かりやすかったのでは。

「呼声」 

逸平の太郎冠者、宗彦の主人、島田洋海の次郎冠者。表情豊かに笑わせて、最後だんだんテンポアップする囃子が楽しい。

「葵上」

井上裕久のシテ。前シテは嫉妬に囚われてしまうやるせなさや悲しみが感じられ、葵上を攻める手はどこか弱々しい。一方後シテは鬼になり切っているようであまり悲しげには見えなかった。前シテの最後の方、たくし上げていた小袖?が解けてしまって足元にかかるハプニングが。後見が直していたけど、直りきらずでハラハラした。後シテは束ねた後ろ髪が床を這うほど長く、小聖と対決する前に左の袖に入れていたのが不思議な感じ。
ツレは深野貴彦、ワキの小聖は岡充、ワキツレは原隆、アイは鈴木実。


2024年9月24日火曜日

9月24日 第三回みのり会

 ひらかな盛衰記の松右衛門内より逆櫓の段を芳穂と燕二郎。

2人とも筒いっぱいという熱演で、芳穂は会場を震わせるほどの大音量、燕二郎は突っ込んで三味線に穴をあけるほど。終盤ちょっとバテたかなというところもあったし、三味線の手が回りきらないようなところもあったけれど、力一杯の語り、演奏は清々しく、義太夫節を聞いたという満足感があった。

次回は来年5月3日。和田合戦女舞鶴をやるそう。

2024年9月23日月曜日

9月23日 木ノ下歌舞伎「三人吉三廓初買」

3人の吉三と並行して歌舞伎ではほとんど上演されない丁子屋の人々が描かれ、物語がより重厚に。今までに見たキノカブの中で一番面白かったかも。休憩を挟んで5時間20分の長丁場だが、全く時間を感じなかった。

何より3人の吉三の誰もがいい。お坊の須賀健太は小柄ながら弾けるような身体性で、悪ガキのようなやんちゃさの裏にお坊ちゃん育ちの甘えが見え隠れする。和尚の田中俊介は長身が映える。お坊、お嬢との義兄弟の関係に加え、おとせ、十三郎という実の弟妹との関係に苦悩する様を的確に描いた。お嬢は坂口涼太郎。芸達者ぶりを発揮し、巧みな台詞回しで男と女を行き来する。当初配役の矢部昌暉が体調不良で降板したため急遽代役となったとは思えない 。「月も朧に〜」の件はなかったものの、「こいつは春から縁起がええわい」の決め台詞や躍動感に溢れる大川端の立ち回りなど1幕から見どころ満載だが、印象的だったのはラストの本郷火の見櫓の場。捕手はおらず、3人の吉三が見えない敵に向かってスローモーションで立ち回りを演じる。お坊とお嬢が助け合い、手を伸ばして互いを求めながら事切れたのをお坊が両者の手を結ぶエンディングは泣けた。

吉原丁子屋ではお坊の妹、一重(藤野涼子)と、一重に入れ上げる刀剣商の木屋文蔵(文里、眞島秀和)を軸に、文蔵の妻おしづ(緒川たまき)らの物語が進行。正直、眞島や緒川でなくても…とは思ったし、吉三らの物語に比べて弱い感じがした。

おとせ役の深沢萌華はセリフがいいと思ったら劇団四季出身だそう。丁子屋花魁吉野役の高山のえみは目を引く美しさ。八百屋久兵衛や丁子屋主人長兵衛を演じた武谷公雄が脇を締めた。土左衛門伝吉と賽の河原の地蔵を演じた川平慈英はコメディーリリーフみたいな感じ?

2幕の冒頭は地獄正月斎日の場は閻魔大王や紫式部が出てきて???だったが、初演時の台本にもあるそう。(じゃんけん勝負が面白かったが、これも原作にあってびっくり)



10月19日、兵庫県立芸術文化センターにて再見。 
涙は出なかったが物語の世界に引き込まれ、長いとは感じなかった。 
2回目なので、馴染みのなかった一重と文理の物語により目が行った。はじめつれなかった一重が、家とゆかりのある者と分かって文理に気持ちを向けていくのが唐突でなく理解できたし。消し幕など歌舞伎の仕掛けをうまく使っているのにも気づいたり。緒川たまきは役不足かと思っていたが、紫式部での存在感に納得。
三人の吉三の中では、お坊とお嬢が傑出していたため、和尚が少し物足りなく感じた。

2024年9月22日日曜日

9月21日 文楽鑑賞教室 Aプロ

「 伊達娘恋緋鹿子」

碩、薫に清馗、錦吾、藤之亮。
まあ、何だ。あまり心躍らない。碩は少し語りにくそうに見えた。
人形は玉翔。浅葱幕を振り落として登場した時、玉翔が人形のボディーガードみたいに見えた。よく動いていたけれど、この役にはもっと情念のようなものがほしいと思った。

解説は簑太郎。ツメ人形を持って客席の通路から登場するのは目を引いたが、喋る内容はいつも通り。

「夏祭浪花鑑」

三婦内を芳穂・錦糸。期待通りの安定感。芳穂はちょっと詞を噛んだところもあったが。錦糸がこちらを睨みつけて何度か目があったような…。

アトを聖・寛太郎。
意外と言っては失礼だが、びっくりするくらいよかった。団七が骨太でしっかりしてるし、女性陣の語り分けもまずまず。寛太郎の三味線は気合いがみなぎり、相乗効果で聞き応えがあった。

長町裏は小住の団七に靖の義兵義平次、三味線は藤蔵。
小住の団七も堂々としてよく、義平次に詰め寄られて狼狽える様や、最後の決め台詞もバッチリ。靖は意地悪さがたまらん。
人形は玉助の団七が熱演。額を割られたところや、義平次を切ってしまったと悟るところの声がちょっと大きいか。玉佳の義平次がネチネチした嫌味ぶりでいい。切られて池にほうりかまれてから屈んでそでにはけるところ、屈みきれてなくてすがたまるみえなのはご愛嬌。一輔のお辰は粋で格好いい。
簑悠の徳兵衛キッパリとした男前で、団七より格好いいくらい。

ブラックボックスの劇場空間のせいか、照明がいつもと違って、生々しく見えた。

9月22日 文楽鑑賞教室 Cプロ

 「伊達娘恋鹿子」

南都、聖に清丈、燕二郎。
南都は流石の年の功。お七のクドキがいい。
他は三味線3挺なのに、2人で健闘し、他の組と遜色なかった。
人形は簑太郎。梯子の裏に回るのが早く、中途半端にぶら下がっている時間が短いのがよい。 

解説は亘と清公。客席からの登場は亘のみだが、人形ほどには客席湧かないのでは。

「夏祭浪花鑑」

三婦内は織・宗助。
織の団七は男前。格好良すぎて、「据え膳と鰒汁を食わぬは男の内ではないわい」で笑いが起きないのは隙がなさすぎるからではなかろうか。こっぱの権らのやり取りがとても早口。

アトは薫・清志郎。
老若男女の語り分けを頑張っているのは伝わった。

長町裏は咲寿、睦に 清志郎
咲寿の団七は低い声で頑張っていたが、気張りすぎて力士みたいに聞こえるところも。殺しの場面まで力を抜かず、気張っていたのは好感がもてた。
睦の義平次は案外いい。嶋太夫一門は意地悪な役が得意なの?

人形は玉勢の団七が長い手足を活かした大きな動き。 
義平次は玉志。


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9月22日 文楽鑑賞教室 Bプロ

「伊達娘恋緋鹿子」 

亘、織栄に団吾、清允、清方。
人形は玉誉。


「夏祭浪花鑑」

三婦内を呂勢・燕三。
不足はないが、期待値が高すぎたのか、あまり心躍らず。 というか、こっぱの権となまの八が三婦に引っ立てられて出ていったところで盆が回ってしまうので、聞きたりない感じ。

アトは碩・清公。
よく声が出ていたが、団七はもっと骨太がいい。

長町裏の団七は希、義平次の藤に勝平。
希は「おおーい」と追いかけてくるところで顔を真っ赤にしての熱演だが、ペース配分はどうだろう。殺しの場は淡々としてて。 、尻すぼみな感じ
人形は簑紫郎の団七が腕をピンと張って大きく決まっていたのが良かった。精一杯な感じが。義平次 は簑二郎。お辰は紋臣。


2024年9月21日土曜日

9月21日 歌舞伎「夏祭浪花鑑」

彦三郎の団七はシュッとしている。 幸四郎に習ったそうで、さもありなん。口跡はいいし、形も決まっているけれど、上方のもっちゃりした感じが欲しい。殺しの場面は団七の帯や着物を使って決まるなど、あまり見慣れない形だった。
義平次は片岡亀蔵。よぼけた爺さんというよりはかくしゃくとしている感じで、欲深い感じもどこかからっとしている。切られたところで「ちべた」がなかったような。
宗之助のお梶や坂東亀蔵の徳兵衛など、江戸役者のさっぱりした芝居のなか、孝太郎のお辰がこってりした上方ぶりなのがいい。男女蔵の三婦は白髪姿は似合っているが、まだまだ枯れていない、活気盛んな感じは否めない。まあ、まだ若いし。 

2024年9月16日月曜日

9月17日 第12回 和のしらべ

阪神能楽囃子連盟 調和会の公演。お囃子中心の構成が珍しい。

素囃子「水波之伝」

狂言「福の神」 
茂山七五三、逸平、慶和の親子孫共演。
七五三の福の神は出てきたところから福々しい。終盤なぜか、福の神に化けているように見えた。

連管「楽」 笛3人のアンサンブル。

舞囃子は金剛流の「八島」と観世流の「屋島」を続けて見比べ、聴き比べる趣向。
金剛流は宇高竜成のシテ。舞金剛らしく動きが大きく華やか。謡は重厚な感じ。
観世流は笠田裕樹。舞は控えめ。謡は声のトーンが少し高いというか、テノールのような響きと感じた。

連調「笠之段」 謡と小鼓2人ずつ。成田達志、奏の親子共演に注目。

舞囃子「藤」
今井清隆のシテ。とても長く感じた。

連調「蝉丸」

舞囃子「邯鄲」 

一調「鐘之段」は藤井完治と大倉源次郎

一調「龍田」は豊島弥左衛門と三島元太郎

能「内外詣」
金剛流にのみ伝わる曲だそう。シテの神主は金剛永謹。後場で獅子の装束(といっても面をかけるのではなく、赤い鬘に扇2枚で顔)から神主の姿に舞台上で早替わり。
ツレの巫女の若宗家がよかった。

2024年9月15日日曜日

9月15日 九月花形歌舞伎「あらしのよるに」

気にはなっていた話題作をようやく初見。絵本原作だから子どもも親しみやすいし、かといって笑いあり泣きありで大人も十分楽しめる。噂に違わぬ良作。

何と言っても、獅童演じる主人公狼のがぶのキャラクター造形がいい。一見強面だが、雷が怖いなど弱味もあり、何より優しい。対する山羊のめいは初役の壱太郎が可愛らしく、いいコンビ。2匹が手をとりあったり、抱き合ったりすると、友情を超えた愛情にも見え、ほのぼのとしが雰囲気。
じぐの松十郎、ばりいの千寿、ざくの千次郎の狼3匹がコテコテの関西弁で悪役を演じているのも楽しい。とくに千寿は横山やすしばりの悪態をついて普段の女方とのギャップに驚く。
竹之助が冒頭で食われてしまう山羊のほわで終わらず、2幕の栗鼠で活躍してたのも嬉しかった。

2024年9月14日土曜日

9月14日 貞松・浜田バレエ団 創作リサイタル36

クラシック色の強いバランシン、ラテン、エクマンとバラエティに飛んだ構成で楽しめた。

「ワルプルギスの夜」

バランシン振付のクラシックスタイルを踏襲した一幕。上山榛名と・水城卓哉のペアを中心に、シフォンドレスの女性ダンサーが舞台を縦横に移動し、優雅に舞う。男性は一人だけなのはどのような意味があるのか。

「Malasangre(マラサングレ)」 

ラテンの歌に乗って早いテンポで、あり得ないような角度に手足を動かす。近頃流行りのダンスグループなんて目じゃないくらい動いてるし揃ってる。スターダンサーズ・バレエ団から石山紗央里と加地暢文が客演。誰だか見分けがつかなくくらい一体になっていた。 

「CACTI」

2020年はコロナ禍で急遽無観客(関係者のみ)上演だったので、待望の有観客での初演。胸や手足、台を叩いたり、息遣いでリズムを刻むのが面白い。裏打ちしたり結構複雑なリズムをこなし、コンテンポラリーの技術力の高さを感じた。



2024年9月13日金曜日

9月13日 Kバレエトーキョー「MARMAIDE」

アンデルセン童話とも、ディズニーアニメとも違う人魚姫。

マーメイド(飯島望未)や海の生き物たちの衣装が素晴らしい。マーメイドラインのスカートの裾が魚のヒレのようで、水中を揺蕩うようにひらひらと揺れる。腕を波のようにユラユラしたり、横たわって足を尾鰭のようにパタパタしたり。飯島の端正な踊りがマーメイドの純真さをよく表す。3人ががりでのリフトで水中を浮遊するのは新国と似てる。カクレクマノミのちょこちょこした可愛らしさ、シャークの迫力。イルカははじめ、スイミーのような小魚かと思ったが、群舞は美しかった。
陸上の場面では、クラシックバレエの手法にそったキャラクター、振付で、グランドバレエの楽しさは十分。プリンセスの日高世菜が圧倒的な美しさ。
劇作としては、王子の心を得られない人魚姫が王子を刺し殺せば助かると言われて苦悩し、ラスト、王子を殺められず、剣を残して立ち去るところまでの感情の動きは胸を打った。ただ、海に飛び込むなり、消えてしまうという描写がないのは物足りなく感じた。

うーん、と思ったのは、冒頭の酒場の場面。なぜ酒場? 王子がお忍びで訪れる必然性が感じられないし、娼婦の役は必要か? 踊りを見る物乞いも、踊りしては面白いがこの役である必要はないのでは。普通に宮殿とかで、道化役とかでいいのでは? というか、王子が王子らしい場面が2幕の結婚式までないので、王子としての魅力が感じられず、人魚姫が一目惚れする理由がよく分からない。 この日の王子は山本雅也だったが、王子の友人堀内将平、栗山廉は別日の王子役なので、山本が際立って見えなかったのも一因か。
プリンセスも、はじめ、修道女の姿で出てくるのが不明。打ち上げられた王子を見つけても無関心だったのが、剣のつかの紋章を見て態度を変える描写も。プリンセスをことさら計算高い人物像として描くのはなぜだろう。






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2024年9月7日土曜日

9月7日 第2回GKBプロフェッショナルパフォーマンス

「alpaca」

奥村康介、森田維央と22人の女性ダンサー。20分ほど。
アルパカ役の奥村は長い手脚をしなやかに動かし、しなやかな跳躍やターンが野生動物のよう。ペンギンカフェのシマウマはダウンのリズムで内にこもる感じだが、こちらは外に向かうようで伸びやかで開放的。森田演じる少年?と触れ合う場面や、白いゆったりとしたパンツスタイルの衣装もあって、マシュー版白鳥を連想してしまった。というか、スワン役似合うと思う。踊ってほしい。

「舞姫」は池田理沙子と新井英之。
10分ほどの短いパドドゥ。
ピアノ、フルート、バイオリン、チェロの生演奏は珍しい組み合わせだがいい響き。

「バヤデール」2幕 
小野絢子のガムザッデイの美しさ。 バレエ団代表の刑部星矢のソロルは残念ながら位負け。
ほかは、バレエ団の団員?ブロンズアイドルやら壺の踊りやら盛りだくさんで、小規模バレエ団なのに金かけてるなぁと。

最後はまさかの客席おりからのロビーで見送り。団員だけかと思ったら、ゲストもいてびっくり。


2024年9月6日金曜日

9月4日 鷲山祭九月大歌舞伎 夜の部

「妹背山婦女庭訓」のみ幕見で。 

太宰館花渡しから吉野川まで。

玉三郎の定高は気丈な中に娘への情愛があり、涙を誘う。対する松緑の大判事は位負け感あり。
蘇我入鹿の松之氶は秀山祭ならではの配役だろうが、公家悪にしては大物らしくない。

久我之助の染五郎、雛鳥の左近はともに初役だが、セリフが硬い。とはいえ、左近は可憐な姿で、玉三郎の定高との母娘の情愛は感じられた。大判事家は「覚悟の切腹、急ぐでない」がどうしても笑ってしまう。


2024年9月4日水曜日

9月4日 秀山祭九月大歌舞伎 昼の部

「摂州合邦辻」 のみ幕見で途中まで拝見。 

菊之助の玉手の美しいこと。花道の登場で頭巾(片袖)を被った凛とした横顔、俊徳丸を口説くところはしなだれかかったり、色目を使ったりとすごい色気なのに品がある。
歌六の合邦、吉弥のおかやは期待に違わず。折之助代役のおかやも見てみたかった。愛之助の俊徳丸は悪くないが、何か似合わなと思ってしまう。米吉の浅香姫はちょっと硬く見えた。

文楽と違う?と思ったのは、玉手が合邦宅に入る時に片方の草履を外に落として行くところ。あんなに人目を気にしてるのに、と思ったが、後で入平が拾った草履を検分して玉手と知るくだりがあった。
入平が家内に入るのが、玉手が浅香姫を牽制してるくだり。「邪魔しやったら蹴殺すぞ」は浅香姫というより入平に向けて? 
玉手が浅香姫に脇差を振りげ、それを奪って合邦が突き刺す。

2024年9月1日日曜日

9月1日 京都洋舞協議会

「バッロ・デヴェルテンテ」(昼公演)

ジュニア世代のために石井潤振り付けた作品だそう。
様々な年代の少年少女の踊りが清々しい。


「シャンソネッタ・デデスカ」
 
同じく石井潤作品。
フォークダンスのように輪になって踊ったり、村の若者たちの祭りのような。1人の男をめぐる2人の娘の恋の鞘当てやら、技の披露やら。久しぶりに見た吉田旭が目をひいた。拍いっぱいまで粘るのと、芝居っ気があるのが要因か。


「trois amours〜3つの愛の物語〜」 

石原完二振付。
3組のカップルを中心にした群像劇風。鷲尾・藤川ペアが叙情的でよい。鷲尾はこんなにワイルドだったか。 


「ラ・シルフィード」

今日のお目当て、小野絢子・奥村康祐ペア。期待通りの素晴らしさで、小野は軽やかで妖精のようだし、奥村のジェームスはほっそりとした体躯がおとぎの世界のような人物像によく似合う。シルフィードと触れ合うところはないのだけど、なんか嬉しそう。直前に夜の部の良席がとれ(実質最前列)、昼夜ともに見ることになったが齧り付きで見られる幸福。奥村は左膝にテーピングしていて少し心配。

2024年8月31日土曜日

8月31日 素浄瑠璃の会

第一部

「川連法眼館の段(中)」

聖・清公。
聖は真っ直ぐな語りぶりに好感が持てる。語り分けや音の使い方は未熟だけれど、ちゃんと真ん中で語ってる感じがする。狐言葉の前までだったのは、まだ彼には荷が重いという判断だろうか。
清公もきっぱりした弾きぶりがよい。音の大きさでなく、寸法がちょっと小さく感じられるのが、若手ってことなのかと思った。

「勘平腹切りの段」

睦・清允。
聖と比べれば格段の上手さで出だしはとても良かった。後半、ばてたのか声が掠れてきたのと、婆(女性)の語りがもう一つ。
清允は健闘してたけど、やはり寸足らずに聞こえた。

「山の段」

靖・清方。
山椒大夫の話は素浄瑠璃でしか残っていないのかな。靖は度々手がけているようだが、うーん。三味線が未熟だと語りにくいのか。
清方はよく弾いていたように思ったが。

「九郎助住処の段」

碩・藤蔵。
この日一番の聞き物。のびのびとした語りで、スケールの大きさを感じた。語り分けもできてたし、情景描写にもメリハリがあった。何より、太郎助が健気で可愛いのがいい。
藤蔵は唸り声は控えめで、太夫を上手く乗せていた。


第二部

「妙心寺の段」は小住・藤之亮。
三味線を盛り立てる語り。大きな語りで、隙間を埋めるような。藤之亮は固かったが、大きなミスはなかったのでは。

「夕顔棚」は薫・清志郎。
チャリっぽくなる癖を抑えてまずまず。

「花渡しの段」は亘・寛太郎。

「油店の段」は織・燕二郎。
チャリだから軽くていいのだけどやや早口で忙しない感じ。予定時間より10分ほど巻いて終わった。
コトバが多く、三味線は3分の2くらい弾かないでじっとしているので、燕二郎の稽古になるのかと思ったら、燕三の指示なのだそう。

3回目を迎える素浄瑠璃の会だが、台風の影響もあって客席が寂しかったのが残念。

2024年8月25日日曜日

8月25日 上方歌舞伎会

「荒れねずみ」 

松十郎、千寿、千次郎、りき弥、千太郎、愛三郎、愛治郎が素踊り。
振付は二世楳茂都扇性。てっきり友五郎振付かと思っていたが…。ねずみの顔を扇で表現するなど、ちょっと洒落た楽しい踊りなのだろう。松十郎がリーダーの風格。
プログラムによると、当代扇性の愛之助も指導にあたったそう。
 
「封印切」 

翫政の忠兵衛は愛嬌があって、いい忠兵衛。特に、後半の梅川に真実を打ち明けてからの慟哭が良い。成駒家は封印切りではなく「封印切れ」だったと思うが、小判がバラバラになってしまうほどの切れっぷり。吉太朗の梅川は前半、もう少し儚さが欲しいと思ったが、後半は忠兵衛を一途に思う風情に泣かされた。忠兵衛との並びも似合っていて、数年後にまた見たい。

八右衛門は松四郎。ところどころ愛之助の八右衛門を思わせる、仇っぷり。ただ、あれだけの独白を持たせるのはちょっと荷が重いか。ちょっと意識が遠のいてしまい、忠兵衛が階段を駆け降りるところを見逃した…。 

中居およしを千太郎、おふさを愛三郎が勤め、千寿とりき弥は名前のない中居なのは若手に経験を積ませようということなのだろう。若手2人は臆することなく、丁寧に勤めて好印象。おえんは當史弥。懐の深い女将さんといった風情がいい。

幕の後の挨拶は仁左衛門、友五郎、孝太郎、吉弥。(鴈治郎は翌日の藤間宗家の公演準備のため欠席だったが、成駒家の封印切だったので一言欲しかった…)「一部を除いて100点」と仁左衛門。成駒家型だったので遠慮していたところもあったろうが、主役の2人の芝居を見れば納得。「一部」」が誰だか気になるところだが、出演者の挨拶でトップバッターの松四郎の声がとても小さかったのはそう言うこと…?と思うなど。仁左衛門は上方歌舞伎会と言うべきところで「晴の会」と言い間違えたり、最後の手締めを忘れそうになって「どうやるんだっけ?」という感じで後ろにいた松十郎や千寿に教えてもらったりと、チャーミングさを遺憾なく発揮されてた。

 
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2024年8月24日土曜日

8月24日 内子座文楽 午後の部

解説は聖。緊張しているのかかなりとっ散らかって要領を得ず。4〜5分ほど。

寿柱立万歳は同キャストなので省略。

「摂州合邦辻」

前は藤・清志郎。
歌うような語り。
切は錣・宗介。
エモーショナルな語りというのはこういうのをいうのでは。合邦の慟哭が劇場に満ちる。三味線は午前の部より控えめ。終演後、駅で遭遇した宗介に聞いたところ、合邦の三味線は師匠によって違い、〇〇風というのでなく、個人の差だそう。「楽屋で清介が攫っているのを聞いたらかなりバチバチ弾いていた」とのこと。

8月24日 内子座文楽 午前の部

解説は薫。寿柱立万歳の由来、改修工事に入る内子座の未来を寿ぐ意義を説明。合邦は、合邦住処の前段からあらすじの要点を不足なく話していたのに感心した。本人も長々と言っていたが、ちょっと長くて7〜8分かかったか。

「寿柱立万歳」

希の太夫、亘の才三、聖、薫に寛太郎、清公、燕二郎、清允。
漫才なんだけど、ふざけた感じなのか裏返ったみたいだったり、節の調子が三味線と合ってなかったり。寛太郎をシンに三味線チームはキリッとしてた。 
人形は玉翔の太夫に玉勢の才三。

「摂州合邦辻」

前を呂勢・燕三。
玉手御前に色気があるのがいい。あっちからも惚れてもらう…気。はぞくっとした。合邦の元武士らしい武張った感じ、妻の娘可愛さ、それぞれの登場人物の輪郭がクッキリ描かれてバランスの取れた語り。しっかりと床本を見て語っていたのも好印象。燕三の三味線は情景描写が的確でとてもよかった。

切は若・清介。
十一代目若太夫襲名だけあって、掛け声がたくさん、拍手もたくさん。のっけから玉手のみならず、浅香姫も瀕死なの?という囁きボイスで、合邦のおいやいはため息にのよう。後半、三味線の手が増えると掻き消されて聞こえないにも関わらず拍手が起こるのは、「ここが拍手」という語りをするからと気づいた。清介の三味線はいつもに増してバチバチで、速弾きで拍手も大きかった。

2024年8月17日土曜日

8月17日 大槻文蔵と読み解く 能の世界〜能作者そして作品〜

対談は小田幸子と世阿弥をテーマに。世阿弥を50分で語るのは無理とのことで「恋重荷」を中心に紐解く。シテツレの女御は初めから舞台にいるが、ワキや前シテの荘司からは見えていない設定(御簾内にいる?)。後場から出てもよさそうなところ、いないはずの女御の視線の先で荘司らのやり取りが展開されるという演出に作者の狙いがあると。荘司がどうして死んだのかは明記されていないが、重荷に頭をぶつけて死ぬという解釈でそう演じていると文蔵。現行曲では荘司は言葉で女御を責め立てるのみだが、古い演出では、荘司の霊が女御を追い回して打擲するといった直接的な場面があるとか。最後、守護神となって千代に女御を守るというが、鬼に恨まれるのとどちらが怖いかという指摘に深く頷く。

「蝸牛」 

善竹弥五郎の山伏、忠重の主、忠亮の太郎冠者。
枯れた風というか、セリフも動きもおっとりした感じ。世代の違う忠亮だけ声量が大きい。


「恋重荷」

赤松禎友のシテ、大槻裕一のツレ、福王茂十郎のワキ、善竹隆司のアイ。
裕一の女御は清楚な感じ。上手に座っている間、頭も動かさずにじっとしているのは辛いと言っていたが、そう聞いて見てみると大変そう。後場で死んだ荘司を見せられたり、怨念に苦しめられたりとただただ気の毒。因果と言っても、重荷を持たせたのは女御の指示ではないのに。最後、守神となってずっと見守っていると言われ、佇む姿は絶望のあまり呆然としているように見えた。
シテは重荷を持てずに絶望し、重荷の脇で音を立てて膝をつくのが死んだということらしい。その後、橋掛かりから引っ込むのだが、肉体は動いているけど中身がないというか、役の命は離れているように見えた。ただ、その後、アイやワキが荘司の死骸を前に色々するので、現代劇だったら着物か何かを残すだろうなと思った。
小鼓は大倉源次郎。シテの面を丹後に伝わる古いものを使ったのにちなんで、同時代(室町期)の弥七?作の胴を使ったとか。

2024年8月16日金曜日

8月16日 大文字送り火能 蝋燭能

「葵上」

金剛永謹のシテ。登場したときから深い悲しみを称え、葵上への恨みを述べたり、打擲したりする仕草もどこか哀れ。腋正面席だわったのだが、こちらを向いている場面が多く、面の角度によって泣いているようにも見えた。
無明之祈の小書は金剛流のみに伝わるものだそうで、中入り後に後シテが緋の長袴に着替え、葵上の小袖を引きずって連れ去ろうとするのを小聖が奪い返し、祈る間後シテが橋掛りで悶え苦しむ。最後は舞台上でふと我に返ったようになって終わるので、退場が不思議な感じ。
ツレの照日の巫女は宇高徳成、ワキツレの朝臣は喜多雅人、ワキの小聖は福王和幸、アイは茂山千五郎。 アイは朝臣に言われて小聖を呼びに行くだけだった。

2024年8月14日水曜日

8月14日 BALLET with 金子三勇士 ステージアートの世界Vol.1〜身体表現の可能性〜

ピアニストの金子三勇士を中心に、バレエダンサーを招いての公演。クラシック音楽とバレエはともに舞台芸術であり、2度と同じものは再現できない一期一会。キャパ200人くらいの小ぢんまりした会場で、贅沢な時間だった。

「薔薇の精」
金子のピアノに、本島美和の少女、中島瑞生の薔薇の精。
本島は端正な踊りで清楚な少女を描出。中島は意外と上半身ががっしりしているのでローズ色のタイツ姿はちょっと刺激が強い。

ピアノソロでシューマンのトロイメライ、ドビュッシーの月の光、ショパンのバラード第1番など。ポッパーのハンガリー狂詩曲はチェロの植木昭雄と。

シューマン「詩人の恋」 
全16曲の独唱をテノールの城宏憲、金子のピアノ。
奥村康祐は全曲を踊るのではなく、①美しい5月、③バラや、百合や、鳩や、太陽や、⑤僕の心を潜めってみたい、⑦僕は恨みはしない、⑩かつて愛する人の歌ってくれた、14夜ごとに僕は君を夢に見る、16むかしの、忌まわしい歌草を、の7曲。初めての振り付けだそうだが、曲ごとに異なる感情をバラエティのある表現で魅せた。舞台が狭いので、途中、ピアノの後ろで見えないところがあったのが残念。

サン=サーンス「瀕死の白鳥」
ピアノとチェロの演奏に本島美和のソロ。
本島は初演だそうだが、もう少し腕の動きが柔らかかったらと思った。



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2024年8月12日月曜日

8月12日 八月納涼歌舞伎 第三部

「狐花」

京極夏彦書き下ろしの新作。歌舞伎役者が演じれば歌舞伎というが、セリフや演出に歌舞伎らしさは薄くストレートプレイに近い。 百鬼夜行シリーズの中禅寺秋彦の曽祖父、中禅寺洲斎が主人公のミステリー。
曼珠沙華が咲き乱れる鳥居の場面が印象的で、キーパーソンである萩之助の小袖の柄や、事件現場に残された曼珠沙華の花など象徴的に舞台を彩る。 照明も凝っていて、陰影が効果的に使われていた。
七之助演じる萩之介は娘たちを惹きつける妖しい美しさ。てっきり、家臣が連れて逃げた美冬(笑三郎)の息子だと思っていたが、雪乃(米吉)と双子という設定にはちょっと無理がないか? 自分とそっくりな人に一目惚れするかとか、一人だけ養子に出されるとか、そんなに幼い時に生き別れたのに復讐に身を捧げるほど事情を知っているとか、いろいろハテナが。米吉はわがままで可愛らしい、いいところのお嬢さんを好演。 
敵役の上月監物は勘九郎。老けた化粧で極悪人らしかったが、最後に中禅寺に「結局のところ独り」と言われて急に恐れ嘆くのは唐突な感じ。弟、的場左平次は染五郎。濃いアイシャドウで悪そうな雰囲気を醸し出し、老けて見えた。
憑き物落としの中禅寺洲斎は幸四郎。セリフを噛んでいたのがいただけない。流暢に喋ってこそ説得略がある役なので。 
堅物に横恋慕される美冬に笑三郎。美しくしっかりものの奥方。堅物と共に悪事を働く近江屋の猿弥、辰巳屋の片岡亀蔵は典型的な悪党ぶり。雲水の門之助がよくわからない役どころだった。
萩之介と雪乃だけでなく、堅物と左平次などみんな血縁なのはなんだかなあ。

2024年8月9日金曜日

8月9日 夏休み文楽公演 第2部

「生写朝顔話」

宇治川蛍狩の口は薫・清公。
懸命に語っているが、声のコントロールが未熟なので強弱の揺れが耳に障る。上目遣いでほとんど床本を見ていないのも気になった。

奥は睦・勝平。
女の声が掠れているのはいつものことだが、何か足りないのは艶かもしれない。美幸と阿曽次郎の色っぽい場面なのに盛り上がらない。 

明石浦船別れは芳穂・錦糸に清方の琴。
前日のフラストレーションと比して、こういう義太夫節が聞きたかったと思う。声がいいし、フシもいい。三味線も流麗だ。

浜松小屋の前は呂勢・清治。
朝顔と浅香、2人の女性の愁嘆場をたっぷりと聞かせる。これでもかと嘆きが続くので、逆にこれぞという見せ場(拍手のタイミング)がないのかも。
休演から復帰した清治が元気そうで一安心。譜面をみて俯くことはなかったが、一頃に比べて音色が優しくなった気がする。

後は小住・清馗。
輪抜吉兵衛が現れて立ち回りになるところから急に床が変わる。前回よりも声の抑制が効いて聞きやすかった。

島田宿笑い薬の中は咲寿・寛太郎。
発声が落ち着いてだいぶ聞きやすかった。

次は織・藤蔵。
こちらも力みが抜けて、軽妙な笑いに。

宿屋の錣・宗助、大井川の千歳・富助と切場が続き、充実の語り。朝顔はせっかく再会できたのだから、川止めくらいで絶望して死のうとしなくても…と思う。阿曽次郎はきっと迎えに来てくれるでしょうに。

2024年8月8日木曜日

8月7日 夏休み文楽公演 第3部

「女殺油地獄」

徳庵堤は三輪、津国、文字栄、南都、織栄に清友。
与兵衛は三輪だが、なんだか今ひとつ、あっさりした感じ。南都のお吉、小菊も今ひとつ美しくない。織栄が花車やお清、小栗八弥ら複数役を担当。上目遣いが目についたが、よく声がでていた。 
人形は頭巾を被っていたので、あまり印象に残らず。

河内屋内の口は亘・団吾。
ぎょーてーぎょーてーの出だしから大きな声。団吾は安定のしかめつら。

奥は靖・燕三。
この日一番の床。
与兵衛を折檻しつつも親の情の滲むお沢、徳兵衛が泣かせる。与兵衛のダメっぷりも的確だし、おかちは娘らしい可愛さがある。燕三は太夫を盛り立てるという感じではないのかもしれないが、靖との相性は悪くないように感じた。

豊島屋油店は若・清介。
声が小さいというより、もはや囁き? メリハリのないのっぺりとした語りで、人物の語り分けも皆同じに聞こえる。殺しに至るまでのやり取りも、気の抜けたぬるいコーラみたいで緊張感がない。聞いていてムカムカしたのは初めてだ。こんな語りで三味線はどんな顔して弾いてるの?と何度も床を凝視してしまった。

人形は玉助の与兵衛に一輔のお吉。与兵衛はすごいダメ男だし、お吉は所作が丁寧で言葉がなくても人柄の良さが滲み出る。豊島屋の床を滑る場面は息のあった動きで本当に滑っているよう。床の緊張感がなかったのがつくづく惜しい。
 
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2024年8月7日水曜日

8月7日 九雀の噺 美吉屋ご一門を迎えて

南座の歌舞伎鑑賞教室が縁という美吉屋一門が落語に挑むお楽しみ。本職の役者だから、芝居噺の芝居部分はさすがのうまさだが、普段の落語よりもボリュームがある上に歌舞伎役者の間なので少し長く感じた。落語家は芝居の上手い人でもやはり落語の芝居だったのだなあと。


 九雀「まめだ」

まめだの哀れさが強くて、こんなに悲しい話だったかと思う。

吉太朗「蔵丁稚」

ものすごく緊張していて、特にマクラはしどろもどろで終始着物の裾を直していた。丁稚のこまっしゃくれた可愛さ、主人のとの語り分けもしっかりしていて、芝居の部分になるとさすがの口跡の良さ。ひとりで演じて忠臣蔵四段目の緊張感を描き出していたのはあっぱれ。

折乃助「転宅」

2回目とあって、吉太朗よりは落ち着いた様子。特に後半は伸び伸びとして良かった。妾の色っぽさ、泥棒は普段はほとんど演じない男の役なので新鮮。弁天小僧の名乗りなど聞かせどころもよかった。

吉弥「質屋芝居」

意外なくらい緊張していて、本題に入ってからも羽織を脱がないのでハラハラしてしまった。忠臣蔵三段目の刃傷から裏門、鷺坂坂内までと盛りだくさん。坂内のところは日本舞踊のように形が決まって、「いい形!」と大向こうもバッチリ。立ち回りのところは舞台の左右から吉太朗と折乃助が出てきて3人で大いに見せた。

九雀「芝浜」

慣れない落語に挑戦する3人を憚って江戸弁で。イントネーションには違和感なかったけれど、ちょっともっちゃりした感じ。前半はサラサラとすぎたが、3年後の大晦日の告白はたっぷりと。

2024年8月4日日曜日

0804 京都バレエ団

「デフィレ」
設立75周年記念で、全団員らが舞台上に並んで壮観。

「コンチェルト・アン・レ」
エクササイズのような基本的な動作で構成された振付。ダンサーが入れ替わり立ち替わり、子どもから段々大人に替わり、ステップの難易度も高くなっていくが、クラスレッスンを見ているようで正直退屈。

「ペルソナ」
矢上恵子振付のコンテンポラリー。音の取り方、リズムの刻み方が心地よく、引き込まれる。
黒い衣装の藤川雅子を中心にした男性ダンサー4人がよく踊っていて、中心の藤川は次々と変わる曲調、振付をこなして見応えがあった。グレーの衣装の女性ダンサー4人のグループは若手もいたせいか踊りのキレが弱く、メリハリがなくてぼんやりと流れてしまう感じがした。

「ボレロ」
茶道をモチーフにしたそうだが、竹が象徴的に使われていて、女性ダンサーはうちわの骨のような小道具、男性ダンサーの持つ竹の棒を持つ。小道具を茶筅のようにシャカシャカしたり、竹棒を囲いのように用いたり、男性ダンサーが並行棒のように掲げる竹棒に女性ダンサーが脇でぶら下がって宙に浮いたり。竹の梯子に乗った女性ダンサーを掲げるところは、音楽の高揚感と合わさって盛り上がった。ラヴェルの曲はベジャール版が有名だが、こちらの方が好みかも。

「ル・レーヴ」
6年ぶりの再演でいろいろ改善したようで、冒頭の村のシーンは子どもたちも加わりより華やかに。主人公ら村人の衣装は作務衣みたいどが、上衣がコンパクトになって踊りやすそう。
ダイタ役の北野優香は華があり、長い手脚を生かした踊りは主役として不足なし。夢の場面でのソロで転んでしまったのは気の毒。前回同様ペラペラの中振袖のような衣装は脇のスリットがなく、踊りにくそうだった。
タイコ役の鷲尾佳凛は地味な衣装のせいか期待ほどではなかった。踊りの見せ場もあまりなかったし。意外に良かったのは領主役の吉岡遊歩。黒ベースの裃風の衣装もあって威厳があった。 イザナミの佐々木朝彩はもう少し女神の神々しさが欲しい。せっかくの衣装があまり素敵に見えなかったのはなぜだろう。

2024年8月3日土曜日

8月3日 夏休み文楽特別公演 第1部

「ひょうたん池の大なまず」

小住、碩、聖、薫に清志郎、清丈、錦吾、清允、清方。
人形は簑紫郎のごんべえ、勘介の大なまず。

勘十郎が子ども向けに作ったという新作。
舞台を左右に分けて、左側を地上、右側を池の中に設えて釣りの様子を見せる演出は面白い。ストーリーというほどのものはなく、なまずをはじめとする池の生き物たちを見るのが楽しいのかな。ごんべえの簑紫郎は細かな動きがいきいきとしていたし、勘介はサービス精神あふれるコミカルな動きが子どもの観客にも受けていた。

解説 文楽ってなあには勘次郎。ちょっと早口。

「西遊記」

五行山の段は希・友之助、燕二郎、藤之亮。
岩に閉じ込められた孫悟空と三蔵法師の出会いの場面から描くのはわかりやすい。これまでだったら語り分けにしそうなところ、一人で語り分ける意欲は買う。

一つ家の段は藤と休演の団七に代わって団吾。
いつもにまして顔を歪めての演奏は代役のプレッシャーからか。

人形は玉佳の孫悟空が大小の如意棒を操ったり、最期は宙乗りしたりと大活躍。ちっちゃい悟空がわちゃわちゃしているのもかわいかった。三蔵法師は紋臣で、気品がある。芙蓉実は銀角は紋秀で、孫悟空と一緒に宙乗りしていくのだが、蛇体を操るのは大変そう。孫悟空も宙乗りは大変そうで、本人の手足に人形の上半身をつけた状態なので身体のバランスが不思議な感じ。劇場後方の出口から捌ける寸前にホッとした表情になって手を振っていたのが印象的だった。




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2024年8月1日木曜日

8月1日 晴の会「伊賀越道中双六」

10年目、第9回に挑むのは上方歌舞伎の大物「伊賀越道中双六」。松嶋屋三兄弟の当たり役をそれぞれの弟子が演じる胸熱企画。4時間コースを覚悟していたが、沼津を中心に前後を補う構成で、3時間半にまとめた(タイムテーブルは3時間25分だったが、さすがに押した) 小さい劇場なので役者の表情がよく見えるし(今回はBブロックの下手側通路脇だったので、本当に近かった)、初役で教わったことを丁寧に演じていることもあって、普段の大歌舞伎よりも役柄の心情がより鮮明に伝わるように思う。

それぞれ熱演だったけど、十兵衛と仇の沢井股五郎を演じた松十郎が真逆の役どころを見事に演じ分け、成長を感じた。股五郎は低い声で憎々しく、沼津の十兵衛は仁左衛門写しのいい男ぶり。お米に一目惚れする軽さがチャーミングで、実の親子、兄妹と知って、情と義理の間で苦悩するところも魅せた。別れ際、平作の顔をよく見ようと提灯の灯りをかざすところなど、細かい所作に目がいくのは丁寧に演じているからだろう。平作とのやりとりで、名物のどじょうを食べるかというやりとりで「うまいモノに、、、罪はない」と言って笑いを堪えていたのは「名物に美味いものなし」というべきところをトチッたから? 白粉を耳の上半分をと首の後ろ塗り残していたのがちょっと気になった。 

千寿のお米は、序幕で物語の発端にも触れていたこともあって元は傾城の瀬川だということが分かる粋さを感じさせた。 沼津だけだとどうしても田舎の気立のいい娘に見えてしまうので、この構成は良い。翫政演じる志津馬への情も丁寧に描いた。
千次郎は改訂の亀屋東斎藤に加え、平作と唐木政右衛門の二役。平作はさすがに若すぎるのだが、人の良さそうな好々爺を好演。政右衛門はキリリと格好良かった。

お谷のりき弥は武家の女房らしい品格。當史弥は股五郎母の鳴海。母の慈愛があってよかったが、息子が武士らしい最期を迎えられるよう自害するという流れについていけなかった。
翫政は二枚目の志津馬と十兵衛の荷物持ちの二役。ちょっと小柄なのが惜しいが、軽率な二枚目もいい。愛治郎は孫八。迫力のある立ち回り。



2024年7月28日日曜日

7月28日 Noism Company Niigata 20周年記念公演

「Amomentof」

20周年を記念した作品。
舞台を斜めに横切るようにバーが置かれ、井関佐和子がひとり、ストレッチをしているところへ次々と団員が合流する。井関がふと伸ばした指先を見ると、これまでの来し方が思い起こされ…という構成。多くのダンサーが合流しては離脱し、最後に一人残された井関を孤独が苛むが、振り返ると鏡越しにかつての作品の衣装に身を包んだ団員たちがいて。喜びの叫びをあげて泣き笑いの表情で再び踊り出すと、いつの間にか最初の場面に戻り、バーレッスンを始める。
バーはこちらとあちらを隔てるボーダーのようでもあり、決して交わらない断絶を表す。かと思うと、バーの一端な隙間ができて、向こう側へ走り抜ける。Noism の20年を観続けてきたわけではないけれど 、さまざまなタイプの振りが散りばめられ、20年の歴史を凝縮したように感じた。

「セレネ、あるいは黄昏の歌」

白い僧侶のような衣装の井関を先頭に、白装束を纏った男女が入り混じった一団。呪いのような手振りや宗教行事のような揃った動き、乱暴を働いた男に制裁を加える様子など、閉鎖的なコミュニティーのちょっとゾッとするような感じもあった。

7月27日 新国立劇場バレエ団「人魚姫」

初演の初日に期待が高まりすぎたのか、少し物足りなく感じた。話の筋に関係のない群舞が多く、全体として物語がわかりづらいと感じた。たくさんのダンサーが踊るのは振付としては面白いのだが、子供のための作品と銘打つなら、人魚姫や王子の心情を丁寧に描いて欲しい。(と思ってしまうのは、地主薫版と比較してしまうからかも…)

プロジェクション?を用いた海の底の情景は美しいが、舞台装置が少ないせいか小ぢんまりして見える。衣装も存外凡庸。(2023年のDance to the future で披露した小品の時の衣装が素敵だったと思ったらこちらは木下嘉人の振り付けだった) 

体調不良で降板した米沢唯に代わって廣川みくり。悪くはないが、ハッとするものはなかった、王子の速水省吾は悪意なく軽薄な王子らしい人物造形。高いジャンプや回転のテクニックを遺憾なく発揮する。奥村康祐の深海の女王は圧倒的な存在感。悪役かと思いきや、ナイフを忘れた人魚姫を追って地上まで来てしまう世話焼き。タコ足の衣装がイマイチ。

振付の貝川は休憩中もロビーにいて写真撮影に応じたあり、終演後はオペラシティ内のレストランに出没したりと、観客に近い感じだった。

2024年7月21日日曜日

7月21日 夏休み文楽公演 第2部

「生写朝顔話」

宇治川蛍狩の段の口を聖・清公。
聖は盆回しで出てくるのは初めてでは。10半ほどを一人で語ったが、堂々として良く声も出ていた。清公は先輩らしい落ち着き。
奥は睦・勝平。
出だしはよかったが、やはりという若い女性の言葉に難あり。深雪や浅香の声がああも掠れていては、美しい娘とは思えない。勝平の安定感。

明石浦船別れの段は芳穂・錦糸。琴に清方の名があったが、盆の裏で姿は見せず。
それまでと比べて人物描写が的確で、物語に立体感が出た。女主人公らしい流麗なくても旋律も錦糸の三味線がしっとりと聞かせる。

浜松小屋の段の前を呂勢・清治。
期待に違わぬ床。 落ちぶれた身を嘆く深雪が哀れ。
後は小住・清馗。
急にボリュームを5メモリくらい上げたような大声でびっくり。立ち回りのシーンがあるから?

嶋田宿笑い薬の段の中を咲寿・寛太郎。
終始上擦ったような発声で、10代の子どもがはしゃいでいるみたい。寛太郎のきっぱりとした三味線が救い。
次を織・藤蔵。
チャリ場にしては重々しいというか。藤蔵の三味線もどちらかというと思いので、聞く方が緊張感を強いられる。咲の軽妙さが懐かしい。
宿屋の段は錣・宗助。琴は清允。
切場の貫禄。
大井川の段は千歳・富助。千歳にはすこし軽い役かもしれないが、切場らしい品格があり、満足感があった。

人形は和生の深雪に玉男の阿曽次郎、勘十郎の祐仙と人間国宝揃い踏み。(なのに客入りの悪さよ…。ほぼ半分しか入ってなかった)

2024年7月20日土曜日

7月20日 OSK日本歌劇団「レビュー in KYOTO」

春の松竹座公演の第2部「BAILA BAILA BAILA」の南座バージョン。陰陽師や過去の南座作品のメドレーが加わり、半分くらい変わっている印象。

春には出ていなかった登堂結斗が陰陽師の敵役、蘆屋道満で出演。帝をたぶらかす九尾の狐の男役の椿りょう、帝役の華月奏らが印象に残った。
ロケットの前のフォーメーションやそれぞれのソロ(回転やジャンプ)などが凝っていて見応えアップ。ロケットは速くて高くて揃ってて、これぞOSK。
楊琳斗舞美りらのサヨナラだけど、最後まで明るく、楽しいショーだった。


2024年7月15日月曜日

7月15日 七月大歌舞伎 昼の部

「小さん金五郎」 

孝太郎の小さん、鴈治郎の金五郎。粋で洒落たやりとりが見どころなのだろうが、今一つ華やかさが足りないようで心が踊らない。
許嫁がいながら芸者のお糸(壱太郎)といい仲になって勘当された六三郎に隼人。女にはモテるが頼りない若旦那がよく似合う。  
金五郎に惚れている髪結のお鶴は扇雀。あまり惚れてる風に見えなかった。
千草屋娘お崎の吉太朗が可憐。

「藤娘」
菊之助の脂の乗った芸を堪能。

「俄獅子」
新時蔵の芸者、隼人、萬太郎の鳶頭。
時蔵が粋でいなせな芸者をきっちり魅せる。

「恋女房染分手綱」

時蔵改め萬寿の重の井は武家の乳人の品格があり、我が子への情と公の立場との間で引き裂かれる悲哀を好演したが、新梅枝の三太が思ったほど良くない。教えられたセリフ、所作をこなすだけでも大変だとは思うが、役として訴えるものがなかったのは残念。

2024年7月13日土曜日

7月13日 N響「夏」2024 大阪公演

前半はヴァイオリンのノア・ベンディックス・バルグリーを迎えて、シベリウス「ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 作品47」

北欧の寒冷な空気を思わせる静謐なメロディに心が洗われるよう。

アンコールはJ.S.バッハ 無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番ハ長調「ラルゴ」

後半はベートーヴェン 交響曲 第6番 「田園」

生オケで聞くのは初めてで、爽やか。

アンコールは伝ハイドン(ホフシュテッター)「セレナーデ」(弦楽合奏版)

よく聞くメロディだが初めて曲名を知ったかも。オーケストラのアンコールで弦楽器だけ(管楽器はただ座っている)というのはアリなのだろうか。

シンフォニーホールの舞台後方W列に座ってみたが、指揮者の表情がよく見えるので面白かった。指揮者のグスターボ・ヒメノは「驚きの指揮者」「魔術師」と評されているそうで、クールな表情でオケを率いる様をみて納得。オケの後ろで聞くのはどうかと思ったが、一般的な客席と特に違いはないように思った。

2024年7月8日月曜日

7月8日 七月大歌舞伎 夜の部

「義経千本桜」 

木の実から小金吾討死、すし屋。
仁左衛門の権太はもう何度目か。木の実で小金吾の荷物と取り違えるところで笠で手元を隠すなど芸が細かい。首実験で本物の松明は以前から? 煙が目に染みる演技がより自然に見える。小せんは吉弥。情のあるいい女房だが、なぜか姉さん女房に見えた。花道での「瑞々しいなあ」はどうしても秀太郎を思い出してしまう。倅善太郎は秀乃助(歌昇の次男?)はかなり小柄で幼く、仁左衛門が背負うにはいいのだろうが、セリフが拙かったのが残念。
萬寿の維盛は品よく、不足はないのだが、梅枝の鮮やかな変化を見ると少し物足りない。壱太郎のお里が可愛らしく、歌六の弥左衛門、梅花の女房のバランスがいい。若葉の内侍は孝太郎、六代君は種太郎。


「汐汲」

扇雀の苅藻、萬太郎の此兵衛。
扇雀は体格がよくどすこい感が、、、。萬太郎と並ぶと大きく見えるのは損だ。


「八重桐廓噺 嫗山姥」

梅枝改め時蔵の襲名披露。
時蔵の八重桐は喋りの間がよく、長い一人語りを全く飽きさせない。嫗山姥は何度か観ているが、こんなに面白かったのかと思う。最後に時行の魂が乗り移ってからの変わり身が別人のよう鮮やか。
煙草屋源七実は坂田蔵人時行は菊之助が華を添える。女房に見つかり隠れてしまったり、敵討がなされているのを知らなかったり、挙げ句の果てには勝手に切腹してしまったりといいところがない。沢瀉姫の壱太郎はおぼこい姫を好演。白菊の孝太郎、鴈治郎の太田十郎。萬太郎の腰元お歌はちょっと意外な配役だったが、ちゃきちゃきした女中という感じ。襲名を寿ぐ感じでよき。

竹本は葵太夫で、景事の声質ではないと思うのだが、格調高かった。

2024年7月6日土曜日

7月6日 林宗一郎の会

「俊成忠度」

林彩八子のシテ。名前から娘さんかと思ったらご子息だそう。直面で鬘をつけ、大人と同じような装束ながら、謡は子方らしい一本調子なのは、大人の役を子方が演じているから? 45分ほどの曲の半分くらいは舞っている感じで、懸命に勤めている感じがよい。袖を巻き上げる所作の度、烏帽子に引っかかってしまうのは体格ゆえか。
観世清和がツレの俊成で、対面してセリフのやり取りをする。この歳で宗家とがっつり舞台を勤めるというのはとても恵まれているのだと思う。

「腰折」

茂山慶和の山伏、千五郎の太郎冠者、七五三の叔父。
慶和は大人顔負けの体格でハキハキとしたセリフが清々しい。とぼけた間がよく、笑わせる。
七五三は腰を曲げてヨボヨボた出てくるだけでおかしい。声が掠れ気味なのがちょっと心配。千五郎の安定感。


「望月」

林宗一郎がシテの甲屋主人、ツレの母を樹下千慧、花若を小梅。樹下は透き通った高い声が女の役に合っている。能役者は女の役でもあまり声を変えないと思っていたが。
ワキの有松遼一。いつもと違う発生で、悪役っぽく感じた。
獅子舞は扇2枚を獅子のカシラに見立てる綱豊卿の扮装なのだが、獅子というより貝のおばけみたい。余興をで油断させて、ここぞという時に仇に迫る、一瞬でテンションが変わるスリリングな展開。古式の小書きが付いていて、最後に望月を討つ前に、素性を問われて名乗る場面が加わる。生身の役者が後ろから小刀、正面から太刀を突きつけられるという生々しいシーンにたじろいだが、その後ワキは退場し、残された笠に太刀を振り下ろして成敗。

2024年7月5日金曜日

7月5日 素浄瑠璃の会

「源氏烏帽子折」 

伏見の里の段を靖・燕二郎。
素浄瑠璃でのみ継承されている曲だそう。燕三が燕二郎に伝えたいと思い、相方を靖にしたのだとか。2月の京都で初披露したのは聞けなかったので、聞けてよかった。

冒頭から三味線の旋律が美しく、太夫のフシも流麗で、常盤御前が主人公だからか、終始音楽的で美しい曲。靖は健闘していけれど、美声の太夫で聞いてみたいと思ってしまった。燕二郎はよく手が回るが、この曲を弾きこなすのは大変そう。


「義経千本桜」

渡海屋から大物浦の段を呂勢と燕三。
呂勢がこういう骨太の時代物を語るのは珍しく、わざわざ聞きに行った甲斐があった。知盛は、仁左衛門よりも若い感じで、怨念の深さというよりは、虎視眈々と義経を狙っているかのよう。内侍の局の嘆きはさすがで、安徳帝とのやり取りは感極まった。
燕三の三味線の端正さに惚れ惚れ。人形付きだと舞台の派手さについ目を奪われてしまうけれど、素浄瑠璃でも情景描写が鮮やかだし、むしろ物語が深く描かれる気がした。

アフタートークで呂勢の見台を紹介。桜に錨の模様はこの曲にうってつけだが、これまで使う機会がなかった。肩衣は白地に金糸?で知盛の白糸縅をイメージしたとか。(師匠存命中は派手だと言われ使えなかったのだそう) 入門した頃は師匠方から文楽は世襲じゃなく実力主義なのがいいところだと言われていたが、最近の文楽は誰かの孫だとか甥だとかいう人が目立っている。今日の4人は皆文楽の家の出身でない、馬の骨チーム。
燕三は適当にお茶を濁したり、自分に見切りつけるような稽古はだめで、できなくても追い求めることが大事で、靖と燕二郎はそういう稽古をしていると。結果は甘んじて受け、また上に少しでもと考えることが大切。2にの姿勢には感銘を受けたと褒めていた。いい師弟関係。呂勢については、すぐに自虐する困った人(笑)と。呂勢の靖評は、情が語れて自分にないものを持っているライバル。燕三は師匠思いで、(あまり付き合いたくない人に)よく仕えたと。

2024年6月29日土曜日

6月29日 十一代目豊竹若太夫襲名疲労公演「平家女護島 鬼界が島の段」

対談は児玉竜一と河内厚郎。
聞き手の岩城則子の仕切りがふんわりしていて締まらない感じ。若太夫について語るのかと思いきや、俊寛のあらすじを細かく解説したり。明治期にはあまり上演されていなかったのを山城少掾が復曲し、以後山城の弟子筋が語ってきた。近年は越路が得意としていたので、越路の弟子でもある若が語るのは適任だとか。山城は復曲にあたって座外の伝承者に習ったのだが、別のところの2人から同じ節を教わり、伝承の力を感じたそう。

若太夫については、文楽劇場のパンフレットのあったような芸筋を説明。詞の巧さに当代の良さがあるので、俊寛や瀬尾だけでなく、二枚目成経の語りにも注目と言っていたが、、、。

「平家女護島」

語り出しにずいぶん時間をとっていたが、重々しさはない。語り分けのメリハリがなく、誰の詞も同じように聞こえる。瀬尾が軽く、敵役というより、小悪人のよう。千鳥はしゃがれ声でちっとも可愛くない。
人形は健闘していて、和生の俊寛には品と憂い、瀬尾に切り掛かるところには激しさがあった。幕切れはすがるような感じ。
千鳥の簑紫郎は健気。精一杯可愛くしてた。

セットは簡易版?で、俊寛の東屋がなかった。最後に岩が回るのは人力で動かしていたのが見えた。ご苦労様。 

2024年6月23日日曜日

6月23日 宝生能楽堂 夜能

津田健次郎の朗読。
声の表現が豊かで、さすが引き込まれる語り。白拍子が妖艶なのはイメージと違ったけど、怨念が恐ろしいほど。住職が「我らが願い聞き入れたまえ!」と叫ぶところはヒーローみたい。 
中正面寄りの正面席目付柱近くに立ってやや下手目線だったので、ずっとこちらを見ているようでドキドキした。
長田育恵の上演台本は、白拍子目線の独白が面白い。が、最後の「ただ一度、あなたの瞳に見つめられ、その指に触れていただきたかった」というセリフには納得しかねる。蛇にまでなる情念はこういう控えめな態度と相入れないと思う。
雅楽の楽器の中に巨大な三味線をチェロのように弾いているのがあり、何かと思ったら豪弦という大正時代に作られたオリジナル楽器だそう。

能「道成寺」
宝生流宗家のシテ。小柄なせいか、可憐で健気に感じる。座席からは乱拍子の間中、視線の上にシテと小鼓方がいて、緊迫感のある息遣いを感じられた。小鼓方の鵜澤洋太郎は長い掛け声(イヨーッ)を声が掠れるまで伸ばしていて、シテは静止の緊張感を極限まで張っている。
鐘入りの前、烏帽子と扇を払ったのが白洲まで飛んで(すかさず後見が客席から回収)、鐘のしたに滑り込んで飛び上がるまでの息迫る迫力!
鐘が上がると誰もおらず、少し遅れて鐘の中から後シテが現れる演出。一瞬、消えたのかと驚いた。僧たちに調伏され、泣きながら引っ込むのは、蛇身に変わった我が身を恥じているようにも見えた。

アフタートークによると、野口兼資の型付けを参考にしたそう。中の段で乱拍子を繰り返し、最後に杖を投げて泣いて帰るのは十八世、鐘を引き上げた時に姿がないのは五世の演出?で500年前の伝書にある。鐘の中にぶら下がった状態で引き上げるため、通常よりも鐘後見を増やしたのだとか。宗家の体格(160cm台、52kg)と体力あってこその演出。乱拍子は申合せ1回のみ。相手の呼吸で変えていくのだそう。

2024年6月22日土曜日

6月22日 文楽若手会


「源平布引滝」

九郎助住家の段の中を碩・清允。
のびやかな声。全体的に音程が高く、九郎助女房などは上品すぎる感じ。

次は小住・錦吾。小住は大きな声はいいが、もう少しコントロールされるとなお良いと思う。

前は靖・寛太郎。義太夫節らしい語り。低音部には苦戦していたが、女性の語り分けもしっかり。寛太郎の三味線が引き締める。

後は希・清丈。単調な感じがしてしまう。

人形は簑紫郎の瀬尾の身振り手振りが雄弁で、語りを補っているかのよう。玉勢の実盛の動きが悪く、瀬尾と並ぶと見劣りした。
小まんは頭巾をしていて分からなかったが、簑悠。腕が付いて気がつく前に目が開いていたような…。

「菅原伝授手習鑑」

寺入りを薫・燕二郎。
3年目とは思えない、しっかりとした語りぶり。語り分けなどまだまだなところは沢山あるが、正解に向かう途上にある感じがする。燕二郎の三味線はキッパリしていていい。 

人形は寺子たちがちとふざけすぎ。

寺子屋の前を芳穂・友之助。この座組では抜群の安定感。
後は亘・清公。

人形は玉翔の松王丸、簑太郎の源蔵、玉誉の戸浪、紋吉の千代。  



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2024年6月17日月曜日

6月17日 文楽鑑賞教室 Dプロ

 「二人三番叟」

希、亘、聖、織栄に清丈、寛太郎、燕二郎、藤之亮。

リズムが崩れることなく、安心して聞けたのはシンの力量か。

人形は和馬と玉誉。


「菅原伝授手習鑑」

寺入りは碩・清公。

寺子屋の前は呂勢・藤蔵、後は芳穂・錦糸。

呂勢は時代ものらしい重厚な語り。戸波、千代の語りわけはもとより、松王丸、春藤玄蕃のような悪役の低音もいい。学校鑑賞できていた女子高生?は半分近く寝ていたが、「蠅虫めら!」で目が覚めていた様子。藤蔵の三味線も力強く。

後の芳穂も錦糸の三味線で重厚な語り。松王丸の泣き笑いははじめ乾いた笑いで、だんだん泣きが入ってくる感じ。いろは送りも聞かせた。

人形は紋臣の千代のリアクションが細かい。紋吉の戸波、玉勢の源蔵。簑紫郎の松王丸が意外と凡庸。

2024年6月16日日曜日

6月16日 六月大歌舞伎 夜の部

 襲名披露狂言の「山姥」のみ幕見で。

萬寿の山姥は若々しく、梅枝の怪童丸と並んで嬉しそう。梅枝は元気はつらつで、立ち回りの決めポーズもしっかりしてた。

時蔵が白菊役登場し、劇中口上。菊五郎が藤原兼冬で口上役を務めた。(とはいえ萬寿の紹介のみで、後は萬寿に振っていた)セリフはしっかりしていたが、御簾内から座った状態での登場は歩行が難しいからか。

獅童の息子、陽喜と夏幹が初舞台。夏幹はまだ滑舌も辿々しいが、ちっちゃい子が懸命に舞台に立つ姿はほのぼのする。

6月16日 新国立劇場バレエ団「アラジン」

 福田圭吾のアラジン、池田理沙子のプリンセス。

福田は確かなテクニックではつらつとした踊りが心地よい。やんちゃというより優しい印象だったのは少し意外。今期で引退というのは惜しいけれど、主演の舞台が見られたのは嬉しい。

池田のプリンセスは可愛らしい。浴室のシーンではプリンセスのオーラが薄くて、お付きたちに紛れてしまうように感じた。キラキラした装飾品がなくても主役感を醸し出すには経験が必要なのか。

ジーンは渡邉峻郁。シュッとした感じ。マグリブ人の中島駿野は宇宙人ぽい。中家正博がサルタンの守衛で、前日のマグリブ人と打って変わって翻弄される様が面白い。

2024年6月15日土曜日

6月15日 新国立劇場バレエ団「アラジン」

奥村康祐のアラジン。陽気でイタズラっぽい感じが役にあっていて、表情がくるくる変わる。一幕の前半は踊りっぱなしで、友人たちとの絡みも楽しい。ただ、2幕で浴室に忍び込むのはヤバいやつだし、アラジンがプリンセスに惹かれるのはともかく、なんでプリンセスがアラジンに惹かれるのか分からないが、パドドゥからは幸せが溢れているからいいか。 
プリンセスの米沢唯は可憐。複雑なリフトも軽々として見えたが、体調不良で2幕で降板。大事でないといいけれど。
3幕は急遽、福岡雄大&小野絢子ペアに。急な登板にも関わらず観客を惹きつけるのはさすが。アラジン役は奥村の方がニンに合ってると思う。急に大人になってしまったみたい。

ジーンほ井澤駿。上半身に陰影をつけて筋肉を強調していたにせよ、こんなにマッチョ(厚み)だったか。キレのある踊りで魅せた。

6月15日 六月大歌舞伎 昼の部


「上州土産百両首」

獅童の正太郎に菊之助の牙治郎。悪くはないのだが、1時間半は長く感じた。途中、主人公は牙治郎ではないかと思うところも。隼人の三次が今ひとつワルになりきれない感じ。 

堅気になった正太郎が板前として働く上州の店の娘を米吉。正太郎と婿にという話があってイチャイチャするところがあるのだが、明度が明るすぎる感じで、獅童となんか釣り合わない。

「時鳥花有里」

義経千本桜の短い舞踊で花を添える。又五郎の義経と染五郎の鷲尾三郎、この2人の組み合わせは珍しい。
白拍子に児太郎、米吉、左近が並ぶ。かれんな米吉、左近と並ぶと児太郎の体格の良さが目立つ。


「妹背山婦女庭訓」

新時蔵の襲名披露狂言で、三笠山御殿の場のみ。

七之助の橘姫がたおやかな姫の気品があり、おっとりと古風。求女を一途に恋して、邪念のかけらもない感じが素晴らしい。お三輪との絡みも観たかった。改め萬寿の求女は絵に描いたような貴公子で、言っていることはつくづく酷い。橘姫の好意を利用しながら、二世の夫婦とか甘言を並べたりして。

お三輪の時蔵は初めから終わりまで隙のない好演。花道から出てくるところは恋に一途な町娘で、いじめ官女に痛ぶられるのはただぢ哀れ。一旦は家に帰ろうとするも、官女たちの囃し立てる声に煽られて擬着の相に変じるところが凄まじい。単なる嫉妬を超越した凄まじさがあり、これが擬着というものがと思った。

豆腐買いおむらに仁左衛門。娘おひろの梅枝を連れて登場。劇中口上もあり、新時蔵を古風で華のある素敵な女方と紹介。大晴改めて梅枝は、芝居が大好きでいつも袖から見ていると。三代の襲名はめでたく、親戚として柄にもない役で花を添えたと照れた風。花道を引っ込むところで間違えて「播磨屋さん」と言いかけたのはご愛嬌。

いじめ官女は小川家総出で。隼人、歌昇、獅童、又五郎、歌六、錦之助、萬太郎、種之助がそれぞれ張り切っていじめる。獅童で一際笑いが起こって、歌昇も笑いを堪えてた。 

松緑の鱶七が大きく説得力があった。

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2024年6月13日木曜日

6月13日 文楽鑑賞教室 Bプロ

「 二人三番叟」

芳穂、咲寿、聖、織栄に寛太郎、清公、燕二郎、藤之亮。
お囃子とリズムがずれそうになるのを寛太郎が引き締めて崩壊するのをとどめていた感じ。変な緊張感があるのやめてほしい。

人形は勘介と簑太郎。勘介が真面目な方だったが、逆の方がキャラに合ってるかも。


解説は勘次郎。
サラサラと澱みないのだが、聞き流されてしまいそう。


「菅原伝授手習鑑」

寺入りは碩・錦吾。
寺子たちの語り分けもできていて、菅秀才が賢そう。

寺子屋の前は織・清志郎、後は希・清丈。
織の語りは気持ちよさそうに歌っているのだが、義太夫節ではなくなっているような。清志郎の三味線も心なしか切れ味が鈍い。
希は単調。松王丸の泣き笑いの泣きが薄く、急に声を張り上げるのでびっくりする。

人形は玉助の松王丸に大きさがある。簑一郎の戸波、勘彌の千代、源蔵は文昇。

2024年6月9日日曜日

0609 いばらきバレエへの誘いvol.2「白鳥の湖」

 弦楽四重奏の演奏で解説付きでバレエを抜粋で上演する趣向。菘あつこの解説が的確で、初心者にも親しみやすく。舞台との距離が近いので、ダンサーの踊りを間近で感じられる臨場感がいい。演奏の音が小さかったのと、テンポの早いところがもたついた感じがしたのが残念。

地主薫バレエ団の若手キャストも楽しみ。オデットとオディールが別役で、井上裕美のオデットは清楚な感じで、踊りも端正。オディールの山崎優子は妖艶というより健康的な感じながら好演。フェッテの最後回りきれなかったのが惜しい。ジークフリートの宗近匠はノーブル。ロットバルトの松田大輝はスラリとした長身が映えるが、メイクが残念だった。

2024年6月8日土曜日

6月月8日 スーパー歌舞伎「ヤマトタケル」夜の部

団子のヤマトタケルは役の年齢に近いせいか、リアリティが増す。我が道を模索する若者の迷いや苦悩を吐露するセリフが胸に響く。三代目猿之助は映像でしか観たことがないけれど、四代目も、そりゃあ上手いのだが、演じている感が常にある。団子は役になりきっているというか、それだけ必死ということもあるのだろう。大碓命と小碓命の早替わりは鮮やかで、声の使い分けもはっきりしている。大碓が弟橘姫に言いよるところで「男というものは色々な女が欲しいものだ」というようなセリフ(うろ覚え)にドキリとした。最後の宙乗りは長い手足で羽ばたく姿がスラリとして映える。 

兄橘姫と妹橘姫は壱太郎が二役で。意思のある女性像を描いていて、妹橘が海に身を投げるところなどしっかり魅せた。
倭姫の笑三郎はともかく、笑也が尾張の国造の妻だけというのは物足りないが、団子の相手役というのは厳しいのか。

6月8日 文楽鑑賞教室 Aプロ

「二人三番叟」

睦、南都、小住、薫に清馗、友之助、清允、清方。
南都が懸命に声を張り上げていて驚く。三味線とお囃子、足踏みの調子があっていなくて気持ち悪い。何度も思わずじっとシンの清馗を見てしまったので向こうにも気づかれた感じで気まずい。チラチラ舞台?御簾内?を見ていたのはなにか含むところがあるのか…。
人形は玉翔、玉路。

解説は簑太郎、和馬、勘昇。
女方の首を震わせて泣くのが、あまり震えてない。
久しぶりに、観客を舞台に上げて人形体験。学校鑑賞で来ていた中学生?が積極的に手を上げていてよし。


「菅原伝授手習鑑」

寺入りは 亘・団吾。

寺子屋は前が藤・燕三、後が靖・勝平。
藤は軽い感じで、源蔵の深刻さが薄くてサラサラと流れていってしまう一方、寺子の呼び出しのところはフワフワしていて軽妙な面白さがなく、全体的に物足りない。せっかくの燕三の三味線が勿体無い。
靖は盆が回るやフルスロットルの語りで、これぞ義太夫節!という聞き応え。千代の嘆きや松王丸の泣き笑いもしっかり泣かせた。勝平の三味線も大きくてよし。

人形は簑二郎の源蔵が細々と手数が多い。簑紫郎の戸波と似合いの夫婦だ。千代の清十郎の抑制の効いた演技がいい。 松王丸は玉志。


2024年6月1日土曜日

6月1日 大槻文蔵 裕一の会

文蔵と野村萬斎の対談「伝承と継承」

能の演出についてなど。かつて照明能を試みた時、数時間かけて徐々に日が暮れていくように照明を絞るよう演出したところ、照明スタッフから嫌がられたとか。新作能では古典にはないような演出をあえて意図して、鬼滅では暗転を取り入れたとか。

「養老」 

水波之伝の小書。アイがなく、前場が終わると後ツレの楊柳観音が舞う演出は華やかでいい。シテは裕一。前シテの樵翁は若さが前に出てしまい、老人には見えなかったが、後シテの山神は緩急の効いた舞が清々しい。

「蝸牛」

囃子入の小書。ホール公演用に賑やかさを加えるため、20年ほど前に作った演出だそうで、「でんでんむしむし」と囃すところでお囃子が入る。野村萬斎の太郎冠者、裕樹の山伏、中村修一の主。


「葵上」

古演出によるとあり、前シテの六条御息所の登場時に車の作り物を置き、三人の青女房を従える。青女房がいると位の高さが感じられる一方、葵上を攻め立てるところは御息所の思いの激しさが薄まってしまうように思った。前場の終わり、橋掛に向かう途中、囃子座のあたりで奥義を放るのは、先週見た林宗一郎(葵上の着物に向かって投げつける)と違ったが、演出の違いか? 文蔵のシテは気品のある佇まいで、嫉妬に駆られる自身を抑えられない悲しみが満ちる。ツレの照日ノ巫女は裕一で、梓弓を持って登場。ワキは福王茂十郎。

咲くやこの花賞・大阪文化祭奨励賞受賞記念と銘打ち、ロビーには賞状とトロフィーが飾ってあった。

2024年5月25日土曜日

5月25日 糺能

「延命袋」

七五三の夫が可愛く、恐妻家で気が弱そう。ちょっと声が小さく掠れてたのが気がかり。鈴木実の太郎冠者は惚けたおかしみ。逸平の女房はわわしくて、七五三がやられちゃいそう。

「葵上」 梓之出 空之祈

林宗一郎のシテ。声がよく通り、詞章が聞きやすい。ツレの樹下千慧はこちらに背を向けていたせいか、声が小さかった。梓之出の小書がつき、御息所の独白のところでツレが一緒に謡うのが神秘性を増す。 ワキは有松遼一。後シテとの攻防に緊張感が漲る。
逸平の間、ワキツレは原隆。お囃子は杉信太郎の笛、大倉源次郎の小鼓、河村凛太郎の大鼓、前川光範の太鼓。

下鴨神社の舞殿を舞台に後方の中門に向かって橋掛を設る。舞台後方の真ん中から役者が出てくるので、囃子方の真ん中にスペースを設け、地謡は舞台右後方に斜めに並ぶ。橋掛が舞台の影に隠れてしまうので正面からだと橋掛での演技が見えないし、舞台上も柱が多くて見えにくいなど難もあるが、糺の森に囲まれたロケーションが日に暮れていく様は他にはない風情がある。



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2024年5月19日日曜日

5月19日 團菊祭五月大歌舞伎 夜の部

「伽羅先代萩」の御殿から床下を幕見で。

御殿は菊之助の政岡は期待通り。大名家の乳母としての品格と情愛があり、凛とした美しさに緋色の着物が映える。丑之助の千松はただの子役に止まらない達者ぶりに舌を巻いた。古典の子役なのであまり個性は出せないと思っていたのだが、なかなかどうして。「お腹が空いてもひもじゅうない」のセリフは前半を弱々しく、ゆっくりと、「ひもじゅうない」をはっきり発声することで、弱っていながら強がっていることがまざまざと感じられた。飯炊きを待っている間に雀の歌を歌うところでは袖で顔を覆って泣きじゃくるなど、これまで見落としていたところに目が行って、退屈する暇がないほど。目を細める癖も見られなかった。鶴千代は種太郎。十分いいのだが、丑之助のように特筆することはなし。歌六の八汐は意外に凡庸。お家のっとりを図る大きさがなく、意地悪なおばちゃんみたい。栄御前に雀右衛門、沖の井に米吉、松島に芝のぶ。

床下は右團次の男之助、團十郎の弾正。少し痩せたのか、顔が幸四郎に似て見えた。

5月19日 文楽公演 Bプロ

「ひらかな盛衰記」 

義仲館は藤・勝平。
あまり見ない組み合わせ。山吹御前とお筆の語り分けが甘いところもあったような。
人形は簑紫郎の巴御前が凛々しい。馬に乗って登場し、薙刀を振り回す。鎧姿で男のような足が吊ってあるのだが、体とのバランスが悪いというか、ガニ股なのがいただけない。

楊枝屋は靖・燕三。
期待していた組み合わせだったが、あまりしっくりきていない感じがした。
長持の中に山吹御前、駒若、お筆の3人が隠れているのはちょっと無理があるのでは‥‥。梶原方の詮議から逃れるため、飼っている猿に若君の着物を着せて引き渡すのはともかく、追っ手らが家内に押し入るのを物陰に隠れてやり過ごし、まんまと家内に閉じ込めて逃げるというのも、粗い。木造家屋なのだから、武器を持った武士ならば壊せるでしょ。

大津宿屋は希、津国、南都、文字栄、聖、薫の掛け合いに清友、錦吾。
夜中に子どもらが遊んでいるうちに、入れ違ってしまう。

笹引は呂勢・清治。
お筆大活躍。のびやかな声で、笹を引くところの節も聞かせる。
清治はタブレットでなく、紙の譜面をめくりながら。結構手数の多い曲なのに、ずっと下を向いて弾いているので心配だ。段切りの、定番のフレーズですら譜面から目を離さない。

松右衛門内の中は睦・清志郎。
今日はいい睦。冒頭少しヒヤリとしたが、声もよく出ていたし、破綻なく。

切りは千歳・富助。
松右衛門に大きさがあり立派。切語りの風格がある。 

権四郎が、槌松を殺された仕返しに駒若を切ってしまえというところで、詞章にはないけれど人形が包丁を研いでいるのが怖い。

逆櫓の段は芳野・錦糸。
力強い語りと三味線で満足の聞き応え。
芳穂が座布団1枚分くらい離れていたのはなんでだろ。

人形は和生のお筆が大活躍。玉男の松右衛門が立派。玉也の権四郎も手堅い。勘寿のおよしは珍しい若い女役。


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2024年5月18日土曜日

5月18日 文楽公演 Aプロ

「 寿柱立万歳」
咲寿の太夫に亘の才三、織栄のツレに清馗、清丈、燕二郎、清方。
咲寿にシンはまだ厳しいなあ。全体的にガチャガチャした感じだった。

人形は簑太郎の太夫、文昇の才三。

口上は大阪とほぼ同じ。呂勢と錣のカンペが赤い紙で緋毛氈に馴染んでいた。


「和田合戦女舞鶴」
市若初陣の段を若・清介。
端場を付けず、市若が訪ねてくるところから。やはり理不尽に可哀想。
「ほんぼんの〜」の件では拍手もあり、大当たりの大向こうがかかっていた。  

「近頃河原達引」

堀川猿廻しの前を織・藤蔵に清公のツレ。
三味線の稽古とか、意気揚々とした語りぶり。藤蔵の唸りも存分に。

切は錣・宗介に寛太郎のツレ。
情に溢れる語り。

道行涙の編笠は三輪のおしゅん、小住の伝兵衛、碩のツレに団七、団吾、友之助、清允。

人形は玉助の与次郎、清十郎のおしゅん。一輔の伝兵衛がシュッとした二枚目。

2024年5月12日日曜日

5月12日 歌舞伎鑑賞教室

歌舞伎の見方

元OSKの桜花昇と千寿が歌劇の男役と歌舞伎の女形の共通点と違いを解説。それぞれ異なる性を演じる工夫がありなるほど、と思うところもあり。二人ともセリフがいまいち流暢でなかったのは、初日を終えてが抜けたから? 立ち回り要員で愛治郎。

「京人形」

吉太郎の京人形の精が達者。魂がない時の無骨な動きから、鏡を懐に入れると途端にたおやかになる。松十郎の甚五郎、千寿のおとくは出番が少しで物足りない。 



2024年5月3日金曜日

5月3日 祝賀能 翁付高砂

京都芸術大学の移転記念の祝賀能で、翁は50数年振りという珍しい小書付きというので、急遽観劇へ。

クラシック音楽向けのホールは音響がよく、面をつけていても詞章がはっきり聞き取れた。広すぎないのもいい。傾斜があるので前の人の頭で見えないということはないし。板を踏む音が少しうるさかったのは改善を求めたい。

「翁」は金剛永謹の翁に茂山竜正の千歳、千五郎の三番三。「松風風流」の小書は松と竹の精の舞が出てくる。松の精は茂、竹の精は宗彦、風龍千歳は七五三。芸大生が作ったという被りものは盆栽の松とミニ門松みたい。

「高砂」は龍謹のシテ、宇高徳成のツレ、ワキは宝生欣哉、ワキツレに宝生尚哉、小林努。若宗家の舞を俯瞰で見られ、舞台上の移動の軌跡がよく分かった。

休憩なしで、翁から高砂までぶっ通しで3時間余り。足元が寒くて集中できなかった。

5月3日 繁昌亭 ゴールデンウイーク特別公演 第1回

時間の都合で中入り前までを鑑賞。

三実「寿限無」 
それなりにキャリアのある噺家の寿限無は危なげがなくていい。

二葉「天狗刺し」 
お得意のネタで、勢いがある。マクラでなんでも試しに食べてしまうアホの話はちょっといただけなかった。

うさぎ「隣の桜」
本人も言っていたように、女性っぽい名前と違うベテラン男性。流石に落ち着いた芸。
  
豊来家幸輝の大神楽 。

仁智「めざせ甲子園」
マクラでコロナ禍の話は少し古い感じ 。 

2024年4月21日日曜日

4月21日 四月大歌舞伎 夜の部

「於染久松色読売」
土手のお六と鬼門の喜兵衛、柳島妙見の場から小梅莨屋、瓦町油屋までだが、これだけでは話のすじがさっぱり分からない。刀の折紙を隠した嫁菜の藁包は、売約済みだからと頑なに善六に売らなかったのに、何故か嫁菜売りが持ったままなのもよく分からん。が、玉三郎のお六と仁左衛門の喜兵衛の息のあった調子が見られるだけで価値はある。油屋に強請に入って態度を豹変させる面白さ、小悪党らしい狡さや強かさがたまらない。
番頭善六の千次郎が大舞台で健闘。中間権平の松十郎と歌舞伎座の真ん中でやり取りするのは胸熱。
丁稚久太の松三はどこぞの御曹司かと思ったら松緑の弟子だった。可愛らしい顔立ち。

「神田祭」
仁左衛門と玉三郎がイチャイチャしてるだけで、なんでこんなに嬉しいのか。客席中が幸福感に包まれる。動きがちょっと重たげなところもあったけど、2人が元気で共に舞台に立っているのがありがたい。
若い者の筆頭にやゑ亮と愛治郎。

「四季」
春の紙雛は菊之助の女雛に愛之助の男雛が雅で美しい。五人囃子に萬太郎、種之助、菊市郎、菊史郎、吉太郎。吉太郎は太鼓方をきっちりと。

夏の魂まつりは橋之助の若衆と児太郎の舞妓の仲を取り持つ太鼓持の歌之助が冷やかしてニヤニヤするのが板についてる。橋之助は痩せて顔がスッキリしているのに対し、児太郎は舞妓にしてはゴツいかも。仲居の梅花、芝翫の茶屋の亭主。

秋の砧は孝太郎の一人舞台。夫を待つ妻の寂しさを情感たっぷり。

冬の木枯は木の葉の男女がトンボを切ったり、側面したり、リフトしたりとアクロバティックな群舞が意外に楽しい。みみずくの親玉?の松緑はコントのような扮装。真ん中で踊った木の葉の女、左近が小柄で可愛らしく、踊りも上手い。

4月21日 四月大歌舞伎 昼の部

「夏祭浪花鑑」を幕見で。

愛之助の団七、菊之助の徳兵衛は去年の博多座以来で、歌六の三婦、米吉のお梶が初顔合わせ。住吉鳥居前では、団七を迎えに来る三婦とお梶が親子のようでほのぼのする。市松の秀乃介は歌昇の次男だそうで、小作りな顔立ちが愛らしい。愛之助の団七は安定感があり、力みなく自然に団七になっている。菊之助は2回目とあって、板についてきた。
床屋の客でりき彌。下剃りの三吉は巳之助で、スッキリとしていいアクセントになっている。
磯之丞の種之助は小柄なせいか子どもっぽく見え、莟玉の琴浦も傾城というには町娘の風情で、共に映らない。佐賀右衛門の松之助は歳を重ねて動きに鈍さもあるが、まだ上手い。
三婦内は歌六はすっきりと格好いい。鴈治郎の愛嬌のある三婦を見慣れていたので新鮮。昔悪だったというからには、こういう男前な感じが本来かもと思う。お辰は愛之助が二役。キリリとした化粧が吉弥のようで、それは悪くないのだが、きつい感じがして情が薄いというか、アッサリとして見える。「こちの人が好いたのは」のくだりは、余裕のある調子でいい間だった。
義平次は橘三郎。三婦内では傘を取らないが、嫌ぁな感じを醸し出す。
長町裏は決まり決まりの型が美しい。「しもた〜」の言い方が、それまでのセリフと地続きで、今までより自然に聞こえた。
池の向こうが一段高くなっているのは歌舞伎座仕様?

2024年4月20日土曜日

4月20日 マシュー・ボーンの「ロミオ+ジュリエット」

スクリーンに映し出された真っ赤な映像の振り落としから、ロミオとジュリエットが寝台に横たわる印象的なシーンで幕開き。ヴェローナ・インスティテュートという若者の矯正施設が舞台で、白いTシャツとパンツの制服を着せられ管理されている。抑制された行動を肘を曲げた揃いの動きで描出し、プロコフィエフの音楽が効果的に使われている。 
仲間を庇い、看守ティボルトの虐待を受けるジュリエット。一方のロミオは、政治家の父母に疎まれ、施設に入れられる。
バルコニーの場面で恋に落ちた2人がもつれ合いながらキスをするのは圧巻というか、アクロバティックというか。時間的にもだいぶ長いし、転がったり、体勢を入れ替えたりしても離さないのはよっぽどなのねぇと思うなど。別れてから、男女別々の部屋でそれぞれ仲間たちと恋バナで盛り上がってキャッキャしているシーンが微笑ましい。
酔ったティボルトがマキューシオを殺すのは原作通りだけど、ティボルトが殺されるところはロミオとジュリエットの2人ががりでベルトでくをを締めているように見えた。なのに、捕まって拘束服を着せられるのはなぜかロミオだけ。ロミオはいったん施設を追い出されるも、親の金の力で再び戻り、ジュリエットとの再会を喜んだのも束の間。ティボルトの幻影が現れたあたりから、「衝撃のラスト」は分かってしまった。怯えるジュリエットが誤ってロミオを刺してしまい、絶望して自ら胸を刺す。マキューシオの遺体?を間に左右に横たわり、互いに手を伸ばす構図は美しいけど、重なって倒れる方が自然では。 
パリス・フィッツパトリックのロミオとモニーク・ジョナスのジュリエット。モニークは表現が硬い感じがして、共感しにくかった。
全てのキャストに名前がついていて、それぞれの物語が描かれるので、1度みただければ理解しきれない感じ。絶賛とまでは行かないけど、、もう一度見たくはある。 

チケットの売れ行きが悪いと聞いていたけれど、1階席は8〜9割ほどか。後方サイドに空席が目立った。

2024年4月13日土曜日

4月7日 OSK日本歌劇団「レビュー 春のおどり」

第一部の「春楊桜錦絵」は山村友五郎構成・演出の和物ショーだが、こんなにつまらないと思ったのは初めて。
チョンパからの総踊りは華やかだけど新味はなく、客席降りを多用するのはあざとく感じる。途中の筍を巡るコントは友五郎らしくも退屈。翼和樹の無駄遣い。 
退団する楊琳と舞美りらが組んで踊るところが多いのはファンサービス。最後の楊のソロは「泣かないで」という歌詞で、さよならを湿っぽくしない。楊はソロで歌うところが多かったけれど、上手くなった。

第二部の「BAILA BAILA BAILA」は荻田浩一演出が楽しい。のっけからラテンのダンス2連発で盛り上げ、長髪の桐生麻耶の色気がダダ漏れ。ブギウギにちなんだコーナーもあり、「ハッピーブギ」やら「買い物ブギ」やらヒット曲も盛りだくさん。ただ、「ジャングル・ブギ」のところで虎柄の衣装(しかも鬼のパンツみたいなオレンジ地)はいかに。「私は雌豹」と歌っているのだから豹柄であってほしい。USKの舞台の再現シーンもあり、朝ドラでOSKを知った人にも楽しい構成。朝ドラの舞台演出を荻田が手掛けていたからこそ実現したのだろう。
ロケットはUSKのシーンでも少しあり、これで終わり?と思っていたら、ちゃんと別にもあった。スピード感があり、これぞOSK。

2024年4月12日金曜日

4月12日 文楽公演 第3部

 「御所桜堀川夜討」

弁慶上使の段の中を睦・勝平。切を錣・宗助。

悪くはないがあまり印象に残らないのは、話が好みではないからだろう。中盤はつい意識が飛んでしまった。錣の熱演に拍手が起こっていたけれど。

人形は和生のおわさに情がある。瀕死の信夫を抱えたところなど、視線で語るよう。玉志の弁慶は少し地味か。玉誉の信夫、簑悠の卿の君、簑一郎の花の井、文昇の侍従太郎。

作品紹介などで、弁慶の生涯ただ一度の恋とか書かれてるけど、これは恋なのか?


「増補大江山」

戻り橋の段を織の若葉、靖の綱、咲寿の右源太、薫の左源太に燕三、団吾、清丈、錦吾、清方。錦吾、清方は八雲も。

中之島文楽のときも思ったけれど、織の若菜はあまり美人な感じがしない。厚化粧な感じとでも言おうか、自分は美しいと思って自惚れてる感じはある。薫は首を傾げて語るのはふざけているみたいに見える。

人形は一輔の若葉がスモークの中せりから登場し、滑るような動きで人ならぬものの怪しさを描出。舞も美しい。最後は雲の幕に乗ってせり上がる。渡辺綱は玉助、右源太の玉誉、左源太の簑太郎。

2024年4月7日日曜日

4月7日 文楽公演 第1部

「絵本太功記」

二条城配膳の段は掛け合いで、津国の春長、睦の光秀、碩の蘭丸、亘の十次郎、浪花中納言の文字栄に清友。
睦は太い声で堂々とした語りが武将らしい。津国は春長ならばもう少し位取りが欲しい。清友は的確。 ここから始まると物語が分かりやすい。

千本通光英館の段は小住・藤蔵。
小住の語りに貫禄が増している。

夕顔棚は三輪・団七。
女3人の語り分けもきっちり。

尼崎の前は呂勢・清治。
艶のある語り。伸びやかなフシに聞き惚れる。清治はタブレットは見ていないようだったけど、音に精彩がないというか、先が鈍ったというか。ミスタッチ?というようなところも。

後は急病で休演の千歳に代わって靖・富助。
靖の力いっぱいの語りがあっぱれ。語り出して10分で汗だくなのは大役に全力で臨んだからこそ。十次郎の「涼やかなりし」で拍手があったし、「現れいでたら武智光秀」は声量といい迫力といい十分で、大きな拍手。十段目はこうでなくては。後半の瀕死のさつきや十次郎にはもう少し情感が欲しいが、急な代役でここまで望むのは酷だろう。


2024年4月6日土曜日

4月6日 文楽公演 第2部

「団子売」

藤、靖、咲寿、織栄に清志郎、寛太郎、清允、藤之亮。
藤はのっけから声が掠れている。清志郎は緊張感のある演奏。
人形は玉佳と一輔。手足の先まで行き届いた所作が滑らか。

口上は前列に新・若太夫を中心に、呂勢、錣、若、団七、勘十郎、千歳が並び、後列は弟子6人が控える。弟子たちはあまり緊張感のない感じ? 呂勢の進行で、笑いを交えた挨拶。

「和田合戦女舞鶴」

市若初陣の段の端場を希・清公。
あまり緊張した様子もなく。 

襲名披露披露演目を、若・清介。 
盆が回って大向こうがかかるが、バラバラとして間が悪い。
素浄瑠璃で手がけるなど、前々から準備していただけあって、計算された運び。8割ほど埋まった客席も暖かく、盛り上がるべきところは盛り上がった。板額のクドキやら、市若の健気さやら、泣かせどころは声も出ていて少し心が揺さぶられたが、素直に泣けなかったのは、物語の理不尽さがひっかたから。板額の一人芝居とか、訳わからん。父親の浅利与市は屋敷の外で中が見えないくらい高い塀に隔てられているのに、なぜが中の様子を具に把握しているし、政子尼や綱手と板額の会話が外まで聞こえるくらい大声だったのなら、障子を隔てただけの隣室にいた市若に聞かれていなかったのは変だ。

人形は勘十郎の板額が大奮闘。だが、女武者というのが見える場面がないので、人物像がぼやける。紋臣休演により綱手は玉誉が代役。

「釣女」

芳穂、小住、聖、南都に錦糸、清馗、友之助、燕二郎。 
歌舞伎や狂言と比べて掛け合いの面白さが物足りない。間の問題なのか。
人形は清五郎に代わって蓑一郎の大名、美女は紋秀に代わって紋吉。 


23日に再見。客席の入りは半分ほどと振るわない。
新若は力の抜けた語りが一層進化。「ほんぼんの」の件では三味線が盛り上げた感じだった。
釣女の美女が簑紫郎。

2024年3月24日日曜日

0324 金剛能楽堂開館二十周年記念公演

 「安宅」は金剛龍謹のシテ、義経は謹一郎。富樫樫某は宝生欣哉。強力は野村又三郎、富樫の従者は野村信朗。

龍謹は弁慶の装束が似合う。声もよく、堂々とした弁慶。謹一郎は大役のためか緊張した面持ち。義経の臣に一門が揃うのだが、背がまちまちでばらばらな感じ。


「佐渡狐」は七五三の奏者、越後の百姓を島田洋海、佐渡の百姓を宗彦。

袖の下を一度は断りながらも受け取り、ニヤリと笑う七五三のおかしみ。宗彦と共犯の目配せする間の息のあった様子が笑いを誘う。


「泰山府君」

天女の舞の小書。泰山府君に金剛永謹、天女に観世清和という、異流の宗家による競演が貴重だ。天女は金剛流の雪の小面、泰山府君は観世流の小癋見をかけるという趣向。

ワキは福王茂十郎、花守は茂山忠三郎。

桜の開花はまだだったが、春を先取りするような華やかな舞台。






2024年3月23日土曜日

3月23日 BUNRAKU 1st SESSION「曽根崎心中」

 ゲネプロと本番1回目を続けて鑑賞。

ジブリアニメの背景を担当した男鹿和雄によるアニメ背景を用い、古典芸能とサブカルチャーのコラボレーション、海外公演時の大道具の移動コストを削減しようという取り組み。ゲネプロはクラウドファンディングのリターンになっていて、男鹿と勘十郎の対談映像も。男鹿のファンだという勘十郎はアニメ作品を見るとき、背景を見ている時間が長いのだとか。

ナビゲーターはいとうせいこう。玉助を招いて、三人遣いのことなど解説するのだが、映像もあるとはいえ、人形がない中で位置関係など話されても初見の人には意味不明ではと思う。

上演h天神森の段のみで、背景のアニメ映像も違和感ない。橋だけはリアルの大道具で、移動に連れて背景が動く。途中、森の奥に分け入るような描写もあり、舞台に奥行きが感じられた。背面から投影していたので、人形に影が掛からなかったものよい。徳兵衛がお初を刺すところは背景がブラックアウトし、スポットライトのみとなる演出も効いていた。ラスト、2人の魂?が白み始めた空に登って星になるというのは、ちょっと説明過多かなと思った。

床は藤のお初、靖の徳兵衛、咲寿に清志郎、寛太郎、清允。

人形は玉助の徳兵衛(左・玉翔、足・玉延)、簑紫郎のお初(左・玉誉、足・清之助)。出遣いでなく、頭巾をかぶっていたが、カーテンコールで顔出し。

解説込みでトータル1時間ほど。英語の同時通訳入り、入門編としてはいいのかも。





2024年3月22日金曜日

3月22日 三月大歌舞伎 昼の部

「寺子屋」

菊之助初役の松王丸はニンでないのか合わない服を着ているような違和感があった。化粧も似合わないし、セリフの調子もどこか冷めた感じで、悲しみが薄いように感じた。
対する愛之助の源蔵は時代物の重々しさが十二分。「せまじきものは〜」のくだりで戸波と嘆き合うところはこれまで見たことがないほどの泣きぶり。慎吾の戸波は決意のこもった眼差しが力強い。
千代の梅枝は気丈に振る舞いながらも悲しみが隠せない様がよく、寺入りから見たかった。小太郎は丑之助で、こちらも短い出番が勿体無い。ただ、戸波に手を引かれて出てくるところ、いつもの癖か眩しそうに顔を傾げていたのが気になった。

涎くりは鷹之資。とても目立っていたのはいいとして、何回か大向こうがかかっていたのは多過ぎ。

冒頭、菅秀才に反抗した涎くりを寺子たちが懲らしめるところで一旦外に出て、源蔵が帰ってくるのに気づいてあわてて席に戻る→帰宅した源蔵を寺子たちが並んで出迎え→源蔵は子たちの顔を見比べてため息…という流れは初めて見た気がする。そんなに露骨に品定めせんでも…と思う。

「傾城道成寺」

四世雀右衛門の追善で、当代が清姫。スッポンから出てくるも、あまりおどろおどろしさはなく、正体を現すのも、髪を捌いて(打掛の陰で鬘を変えた?)ぶっかえりくらい。菊五郎は椅子に座ったまま登場で、最後まで座ったままだったのは体調が心配だ。

「元禄忠臣蔵」

仁左衛門の綱豊卿が充実。セリフの緩急、時折見せる鋭い眼差しでほぼセリフのみでドラマを牽引する。客席が暗いので集中力が途切れることもあったが、これまでで一番ちゃんと見られたと思う。
梅枝の喜代が、千代とはガラリと変わって、若々しく柔らかみのある色気。
伊勢参りは小川大晴。背も伸びて、一生懸命やってるだけで可愛いという時期を脱しつつある。
助右衛門の幸四郎は暑苦しい男を熱演。

冒頭の女中の綱引きの場面で、りき彌が扇で応援。遅れて加勢する力持ちの女中に千蔵。女方は珍しい。 松十郎が助右衛門を案内する番卒役。




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2024年3月21日木曜日

0320 重山狂言会 春「茂山七五三 人間国宝認定記念」

 小舞で幕あき。蓮の「土車」と鳳仁の「岩飛」

「鎧」は千五郎の太郎冠者、逸平の果報者、千之丞のすっぱ。話の筋は末広かりとほぼ同じ。鎧を求めに行くという設定のためか、少し武張った感じがする。

「素袍落」は七五三の太郎冠者、竜正の主人、あきらの叔父。七五三は疲れからか声が掠れ気味なのが気がかりだが、酒をねだるところなど表情や間の取り方がなんともおかしく、可愛らしい。四世千作を思わせた。あきらの叔父は飄々と。竜正の主人はまだ硬さがあるが、祖父孫世代の競演が感慨深い。

素囃子の「神舞」を挟んで、「福部の神」は宗彦、茂、千之丞、虎真、島田洋海、井口竜也、山下守之、増田浩紀と大人数。地謡に丸石やすし、千五郎、逸平、松本薫が入り、最後は慶和の福部の神が舞う。一門総出演のおめでたい雰囲気。

2024年3月17日日曜日

3月17日 三月花形歌舞伎 松プロ

口上は壱太郎。コースターもまた壱太郎だったし、今回は壱太郎づいているのかも。

「心中天網島 河庄」

今まで見たことない新鮮な河庄だった。隼人の孫右衛門になんともいえないおかしみがあって、出て来た時から挙動不審というか、慣れない侍のふりに必死な様子。右近の治兵衛とのやり取りなんか漫才のよう。これまで観たのは弥十郎やら梅玉やら、ベテランだったので、年相応の貫禄が兄らしさにもなっていたけれど、隼人は治兵衛と変わらないくらい頼らない感じ。
右近の治兵衛は、セリフは鴈治郎の写しで、上方言葉に違和感はない。やはりシュッとして、背筋に芯が入っている格好良さ。情けなさは薄くて、ワガママも上からな感じがして、母性本能をくすぐる感じではない。でも小糸があれほど惚れるくらいだから格好良くていいのかと思ったり。 
壱太郎の小糸は、力無く俯いている様がなんとも哀れで、上方和事の風情を一人色濃く醸し出していた。男2人と違う次元にいるような感じがしないでもない。

太兵衛に千次郎(今日が誕生日だったそうで、口上で壱太郎が話していたので登場時の拍手が一段と大きかった)、善六に千寿の上方コンビ。こういう配役が見られるのも、南座の花形ならでは。千次郎のセリフに愛之助みを感じた。千寿の口三味線は掛け声多め。

「忍夜恋関扉」

隼人の光圀は絵に描いたような二枚目ぶり。 壱太郎の滝夜叉姫は桜とあまり変わらない感じ。
ラストは屋根の上で滝夜叉姫と光圀が対峙。



2024年3月16日土曜日

3月16日 貞松・浜田バレエ団「The Lake」

「白鳥の湖」の改訂でなく新制作だそう。ストーリーも設定もガラリと変わり、白鳥のいない湖の話になった。

森優貴の振り付けはスピード感があって面白く、舞台いっぱいを使ったフォーメーションも面白い。音の取り方はマシューボーンを彷彿とさせるところも。やはり白鳥の湖の音楽はドラマチックだし、群舞が映える。群舞の衣装はユニセックスで、背中が大きく開いた白い上下。マシュー版の白鳥に似てる感じもするが、背中を開けている理由がよく分からなかった(背中が美しくみえるというわけでもなかったので)。照明の使い方も凝っていて、3つのペアのシーンでそれぞれを四角い光で加工ところなど効果的だった。公演を重ねて改善を期待したいのは、1幕の暗転の多さ。曲が変わるたびに暗転する感じで、集中力が削がれる。配置転換のためなのかもしれないが、もう少しスマートにできそう。2幕で母親が魂との交流ののち解脱?するところで、それまで着ていた衣装を脱いで、裸の背中と淡いピンクのロングチュチュ姿に。光に包まれてとても美しいシーンなのだが、脱いだ服を胸に抱えていて、身体で隠しているつもりなのだろうが、見えてしまうので少し興醒め。

白鳥の湖と銘打っている割に、チャイコフスキーでない音楽が多いのにも不満が残った。印象としては1幕の半分、トータルでも3〜4割は知らない曲。新制作とはいえ、よく知っているあの曲をこう踊るのかという驚きを期待しているので、そういう意味ではモヤモヤ。ストーリーもよく分からなくて、何で親子なん?とか、最後父親は魂になったの何で?とか。 
大切な人を亡くした人が色々出てくるのだが、夫を亡くした妻とか、姉を亡くした令嬢とか、誰がどの役か初見ではわからない。プレトークがあったらしいので、聞いていればわかったのかもだが、そもそも事前説明がないと分からない作品って…とも思う。 

2024年3月13日水曜日

3月13日 三月花形歌舞伎 桜プロ

口上は壱太郎。客席後方から出てきてびっくり。遅れて来た外国人の客とぶつかりそうになって、ソーリーと言ったとか。
「女殺油地獄」は女が油の地獄で殺される話と、身も蓋もない紹介。タイトルでネタバレは歌舞伎あるあるだけど、結末が分かっていてもそれまでの人間模様を見てと。

「女殺油地獄」
隼人初役の与兵衛は、野崎、河内屋は今ひとつ。セリフや仕草の端々に仁左衛門の教えが見え隠れするも、だから余計に足りなさを感じてしまった。一番足りないのは可愛げか。仁左衛門の与兵衛はしょうがないなぁといいながら、放っておけない感じがある。
ただ、豊島屋はすごく良かった。お吉を説得しようとするも断られたときの顔が何とも美しく、殺しの場面では狂気の横顔にみほれた。
右近の七左衛門は、与兵衛に嫉妬を露わにするのが目新しい。これまで見た七左衛門はもっと大人の分別で抑えている感じだったと思う。 
吉弥のおさわと橘三郎の徳兵衛が流石の説得力で芝居の世界を作り出していた。豊島屋から帰るところで手を繋いでいたのが、夫婦仲のよさを表して微笑ましい。 

「忍夜恋関扉」

壱太郎の滝夜叉姫は怪しい美しさ。光圀は右近で踊り上手の2人の競演に緊張感がある。
屋台崩しの後出てくる蛙がユーモラスで可愛い。ラストは花道から去る滝夜叉姫。









2024年3月9日土曜日

3月9日 新国立劇場バレエ団「クラシックバレエハイライト」

「ドゥエンテ」
静かな曲のコンテンポラリー。身体能力の高いダンサーたちはよく揃っていてきれい。両足を卍のように曲げたポーズが印象的だった。照明が暗くて誰が誰やらよく分からなかったのだが、総じて男性ダンサーの上半身裸の衣装が見栄えしないなぁと思う。欧米人のような厚みがあるといいのだろうか。


「海賊」のパドドゥは木村優里・速水渉悟ペア。
速水は舞台からはみ出す勢いでジャンプしたり、木村はクルクルとよく回ったりで、テクニックを見せつけた。木村のフェッテで手拍子が出たのが残念。

「ジゼル」のパドドゥは小野絢子・奥村康祐ペア。
暗転を挟んだだけの転換だったが、一瞬で作品の世界観を描出していたのはさすが。小野は妖精のような軽さが儚く、奥村のサポートが光った。

2部のドンキは米沢唯・福岡雄大ペア。米沢は連続パッセやポーズを余裕たっぷりに見せつける。フェッテで少しグラついたものの、トリプルを交えて圧巻。福岡も、空中で回し蹴りするようなジャンプなど、振り切った演技で会場を沸かせる。 

枚方市総合芸術センターは新しいホールで、3階席からでもかなり見やすい。こんなお値段で新国バレエ団のトップダンサーをこんなに見ちゃっていいの!?と思う。2部のドンキはパドドゥ+αくらいかとかと思っていたらキャストが大勢出てきてびっくり。まあ、録音だし、19時終演予定が18時半過ぎに終わってたけど(ということはドンキはトータルで20分強だということ⁉︎とまたびっくり) 




2024年3月2日土曜日

3月2日 文楽京都公演 Aプロ

解説は靖。上演しない小金五討死の話より、説明すべきことがあるのでは。客席はほぼ満席で、補助席まで出てた。

「義経千本桜」

椎の木の段の口は南都・燕二郎。
詞が制御されてなくて、まとまってない感じ。

奥は靖・清丈。
靖は人物の語り分けは出来ているのだが、締まりがないというか、足元が不安定な感じがする。

すしやの段の切は千歳・富助。
どうしちゃったの?というくらい、聞いているのが辛かった。お里が可愛いさを作ってる感じもしんどいし、無理に声を出してるようで。

奥は藤・清志郎。
のびのびとした語りは聞きやすいのだが、10分くらい寝落ちしてしまったのは何故だろう。芝居っぽいのかなぁ。

人形は一輔のお里が可憐で健気。寝たふりしながら維盛が「義理で契った」いうのを聞いてわっと泣き伏すところとか、哀れで。維盛は和生で、弥助の時の頼りなさと、維盛の時の気高さの変化が巧み。紋臣の若葉の内侍も品があって良き。
権太は玉男。母親からまんまと金をせしめた時に小躍りするのが可愛かった。


3月2日 文楽京都公演 Bプロ

解説は碩。桂川は実際にあった出来事を元にしていると言いながら、ご当地京都が舞台ということに触れなかったのはもったいない。

「桂川連理柵」

六角堂の段は睦・勝平。
高音の掠れもなく、よく声が出ていて、いい睦だった。

帯屋の段の前は織・燕三。
お絹の思わず義母に食ってかかるところ、ヒステリックな感じはキャラじゃないと思う。儀兵衛の笑いも耳に触る。燕三が何だか悲しそうな顔で、体調が悪いのかと心配。三味線は美しかった。

後は呂勢・錦糸。
ガラリと雰囲気が変わって、落ち着いた語りぶりが心地よい。お半の「おじさん」の破壊力。長右衛門と抱き合うところが官能的というか艶かしくて、これまで見たことないお半長に驚いた。人形の一輔、玉也のおかげもあるだろう。錦糸の三味線は派手さはないけど、的確なのだと感じる。

道行朧の桂川は咲寿、碩、織栄に友之助、錦吾、清方。
咲寿はフシの音程があれ?というところもあったが、落ち着いた語りになってきた。

人形は何より一輔のお半が!あざとさや媚びた感じは全くないのに、14歳の少女の危うさというか、長右衛門がどうにかなっちゃうのもわかる気がする。玉也の長右衛門は分別のある落ち着いた中年男の風なのに、お半に翻弄されてしまう弱さに色気がある。
儀兵衛の玉佳は憎めない敵役。亀次のおとせは本人と似てる。玉助の繁斉は珍しい老け役だが、頼りなくてお前がしっかりしないから…と思わせる。

2024年2月26日月曜日

2月26日 MONO「御菓子司 亀屋権太楼」

経歴詐称が明らかになった古い和菓子屋を巡る物語。 
江戸時代か続くという偽の由来を創業者の父が作ったことが発覚するが、次期社長の次男(尾方宣久)は父の死期が近いことを慮って公表には踏み切れないでいる。SNS時代の、過ちを糾弾する社会への対応を描くとともに、出来る弟に嫉妬する兄(水沼健)や、被差別部落出身の従業員(金替康博、奥村泰彦)やカフェ店長(高橋明日香)、本気出してないゆとり世代のアルバイト(渡辺啓太)なども絡んで盛り込みすぎの感も。とぼけた笑いを誘った和菓子職人の金替が面白かった。
舞台を囲む壁が収納にもなっていて、机や椅子などの道具を出し入れして場面転換するアイデアが秀逸。

2024年2月25日日曜日

2月25日 新国立劇場バレエ団「ホフマン物語」

奥村康祐のホフマンは期待を上回るハマり役。冒頭の初老のくたびれた感じが秀逸で、友人やウェイトレスとのやり取りがまさに中年男という感じ。舞台の真ん中で踊りの見せ場が展開しているのに、上手のテーブルから目が離せないほど。

舞台が転換すると一転、若々しく、溌剌とした青年に。女性群舞にモテモテで愛想を振り撒く様がまたいい。オリンピア(奥田花純)と会ってからは喜びに溢れ、周囲に嘲笑われているのも知らず幸せそうで、騙されたと知った時の落胆ぶりが哀れ。

2幕のアントニア(小野絢子)とのグランパドドゥは、音楽に合って優雅。昨日より音楽との一体感を感じたし、小野の宙を漂うような軽やかさが際立つ。バランスなども危なげなく、乗って踊っている感じがした。

3幕のジュリエッタは米沢唯の説得力が勝る。出てきた時から妖艶な魅力に溢れて、誘惑に引き寄せられずにいられない。奥村ホフマンは抗いながらも次第に引き寄せられていく様を丁寧に描く。

現代に戻って、ステラに去られたあとの表情には寂寥感や諦め、喪失感など様々な感情が渦巻いているのが感じられ、幕が降りてからも余韻が残った。

2024年2月24日土曜日

2月24日 新国立劇場バレエ団「ホフマン物語」

福岡雄大のホフマン。男性ダンサーが主役なのに、4人の女に振られまくり、3幕とも絶望で膝から崩れ落ちて幕という可哀想な役。いろいろな踊りが見られてとても楽しめた。最後、やり切ったというような表情を見せた。

ホフマンの友人は速水翔悟、森本亮介、木下嘉人。速水がやはり踊りの伸びやかさで目を惹く。森本は回転ジャンプの後の着地が不安定だった。

オリンピアの池田理沙子は人形振りがキュート。小野絢子のアントニアはグランパドドゥもあり、女性主役? 病弱な役所ながら、死ぬ時は結構前のめりな感じ。ジュリエッタの柴山沙穂はオディールを思わせる役どころ。 

3幕を通してホフマンの敵役を渡邉峻郁。いろいろなタイプの悪の魅力で格好いい。

3幕の男性群舞の衣装、オリエンタルな感じで上半身裸なのがセクシーというより滑稽に見えてしまうのは何故だろう。特に短パンがいただけない。女性はそれなりにセクシーなのに(全体的にもうちょっと厚みは欲しいが)。

2024年2月12日月曜日

2月12日 文楽公演 第3部

「五条橋」

咲寿、亘、薫に清志郎、友之助、清允、藤之亮。
咲寿がシンとしての落ち着きというか、肚が据わった感じ。牛若丸の詞は甲高いと感じたが、以前のような張り上げる風ではなく、聞きやすい。
人形は簑太郎の弁慶、玉誉の牛若丸。対で出ることの多い2人だ。

「双蝶々曲輪日記」

難波裏喧嘩の段は靖の長五郎、津国の郷左衛門、有右衛門・長吉の南都、吾妻の碩、与五郎の織栄に、団吾。
靖の長五郎は与五郎の窮地に駆けつける格好良さ。ザ・ヒーローの風情。
文字栄の休演て有右衛門の代役に立った南都は敵役と味方の長吉の二役ながら、大きな語り。碩の吾妻はヒロインらしく。
人形は黒衣。

八幡引窓の段の中は芳穂・錦糸、切は千歳・富助。
芳穂は錦糸と組んでからぐんぐん良くなってきた。長五郎母の語りがいい。盆が回ってからだいぶ外まで移動した(回転する外まで)のはいかに。
切の千歳は、これまで見聞きした引窓で一番というくらい感動した。このところパッとしなかったので期待していなかってのだが、なかなかどうして。長五郎が捕まるつもりというのを母が引き止めるところでは拍手があったし、終始、過不足ない感じ。
人形は和生の長五郎母は実子と継子の間で気持ちが行ったり来たりする母心が胸に迫る。お早の勘彌、玉男の十次郎。玉志の長五郎が男前。


2月12日 文楽公演 第2部

「艶姿女舞衣」

酒屋の段を三輪・清友、錣・宗介、呂勢・清治のリレーで。ベテランと言っていい演者が並ぶので不足などあろうはずもなく。
幕が開いていきなり「待ってました」の掛け声があり、思わず「誰を?」と呟く。舞台上は玉彦だけだし、盆のどちらか?
三輪のチャリ場は上手いけど、長太の泣き声は激しすぎでは。
錣は宗岸の親心を情感豊かに描出するも、お園のクドキの前で盆が廻り、選手交代。呂勢の美声と清治の淡麗な三味線が悲劇を彩る。…のだが、話の理不尽さにどうしても入り込めず。夫婦は二世だから次は夫婦でとか言われて喜べないし、私が死んでたらとか言いながら婚家に戻ってくるのが理解できん。

人形は勘十郎のお園のが身体中から嘆きが迸るよう。後ろ振りも綺麗に決まっている。が、後ろ振りって悲しみの最高潮にしては変なポーズだなあと思ったり。悲しい時って前屈みに身体を丸めるのに、立ち上がって背を反らせるなんて真逆じゃん。
冒頭、玉彦の長太が滑稽な動きをよく遣っていた。


「戻駕色相肩」

廓噺の段は藤、靖、碩に燕三、清丈、清公、燕二郎。
人形は玉佳、玉勢、一輔。一輔の禿が可愛い。

2月12日 文楽公演 第1部

「二人三番叟」

睦、亘、聖に勝平、寛太郎、錦吾、清方。
日本青年館ホールの音響のせいか、鳴り物と足踏みがずれてて気持ち悪い。反響が残る感じ?終盤の三味線はヤケのように、拍子を無視して早く弾いていたようだった。

人形は紋吉と玉翔。 

「仮名手本忠臣蔵」

山崎街道は小住・清馗。
小住は貫禄が増して頼もしい。

二つ玉は希・団七。 床の後ろで藤之亮の胡弓。
何故だか集中できず。

身売りは織・藤蔵。
おかやとお軽の語り分けが明瞭で、聞きやすい。お軽の軽やかな感じがいい。一文字屋亭主はちょっと押し出しが強すぎ。見ていた時は一文字屋の使いかと思ったが、亭主ならもっと抑えてもいいのでは。

勘平腹切は呂・清介。
いつもながらの制限速度を守るような安全運転。緩急を効かせるところが欲しい。

人形は玉助の勘平が力演。簑紫郎の定九郎は注目していたのだが、記憶が…。紋臣のお軽が可愛い。

2024年2月9日金曜日

2月9日 猿若祭二月大歌舞伎 昼の部

「野崎村」

鶴松のお光、登場シーンは嬉しさが表情からも身体の動きからも溢れ、健気で可愛い。クールな感じの化粧がもっと柔らかくなったらなおよいのでは。終盤の悲しみも泣かせる。
久松は七之助。おっとりとして頼りなさそうな色男ぶり。児太郎のお染は綺麗だが、顔立ちも身体つきもがっちりしているので、七之助と並ぶと逞しく見えてしまう。
弥十郎の久作、東蔵のお常。


「釣女」

たわいない舞踊劇なのにちっとも笑えないのは時代の変化だけではない。萬太郎の大名、新悟の上﨟は古典に則っていたけど、太郎冠者の獅童と醜女の芝翫は笑わせようとふざけているのが却って笑えない。表情で芝居しすぎだし、余計な動きが多い。時代の価値観なら合わなくなっているからこそ、何気なく演じる中におかしみがでてくるくらいに止めるのがよいのでは。


「籠釣瓶花街酔醒」

勘九郎の次郎左衛門は勘三郎を彷彿とさせつつも、より純朴な人物像。裏切りに恨みを募らせ、4ヶ月かけて復讐の準備をする執念が怖い。七之助の八ツ橋は美しく、間夫と上客の間で引き裂かれる様が哀れ。ころならずの縁切りに緊張感が漲る。
仁左衛門の栄之氶は美しく色気があり、プライドばかり高いダメ男なのに八ツ橋が惚れてしまう説得力がある。が、悪いのは松緑演じる権八だよなぁ。
九重の児太郎は野崎村に同じく。七越の芝のぶに曲輪らしさ。 

2024年2月8日木曜日

2月8日 ミュージカル「イザボー」


史上最悪の王妃という触れ込みで、望海風斗のダーティーぶりを期待していたのだが、正直期待外れ。悪徳の限りを尽くしたというが、大して悪いことはしていないと思う。気が触れた王の代わりに様々な男と関係を持って味方につけるというのはこの時代ならさもありなんだし、国家財政を顧みずに贅沢をしたというのも、マリー・アントワネットという有名な例を超えるほどではないし。しかも、大した贅沢をしているように見えないし、それで楽しそうでもないのだ。何のために何をしているのか不明だから感情移入できず、傍観者として見るしかない。ラストのバラの花びらが降ってくる演出も既視感が(「once upon a time in American」?)。日本であまり知られていない人物で、面白くなりそうな人物なのに、生かしきれていないようで勿体無い。よかったのは歌唱面、シャルル7世役の甲斐翔真を味め、シャルル6世の上原理生ら、歌が達者な人が多くストレスなく聞けた。望海もソロナンバーが多く、劇場を満たすような歌唱力は堪能できた。ハードロック調の曲や衣装は残念な感じ。劇団☆新感線を狙ったのか。3重の円柱状のセットが目まぐるしく動き、舞台転換がスムーズなのは飽きずに見られた。

2024年2月6日火曜日

2月6日 立春歌舞伎特別公演 夜の部

「新版色讀販 ちょいのせ」

壱太郎の久松は憂いのあるたたずまい。右近のお染は綺麗だけど、ちょっときつそう。
鴈治郎の善六が三枚目を好演。亀鶴の源右衛門と浄瑠璃を語るところは、義太夫とは違う感じだったけど、たっぷりと笑わせる。 愛之助が山家屋清兵衛で美味しい役。

油屋蔵前の場は人形振りで。踊り上手の右近が力量を発揮。鴈治郎の善六は人形の足をつけて、終始コミカル。

「連獅子」

扇雀、虎之介親子。虎之介の子獅子は勢いがあるのはいいが、ちょっとうるさい。板をぶち抜くかという足踏みや、跳躍時に袴が捲れて脛までみえるのはいただけない。並ぶと扇雀がとても上手く見えた。
宗論は荒五郎とかなめ。ちょっと間延びして感じた。

「曽根崎心中」

壱太郎のお初のコッテリした色気と憂い。藤十郎の面影を其処彼処に感じる。3回目ともあって気持ちも乗っていて、のっけから一貫して匂い立つよう。一方、初役右近の徳兵衛はシュッとしてて、江戸の役者なんだなと。つっころばしには隙というか、庇護欲を刺激するような頼りなさがいると思う。一つ一つの動きが踊りの所作のようで、美しいが、気持ちより形をなぞっているように見えた。
亀鶴の九平次は憎たらしい敵役。
お初の同僚の女郎に吉太朗、千之助、愛三郎の若手が並び、若々しい。

お玉に翫政。女方は珍しいが、ハキハキとして愛嬌があった。着物のお尻のところが裂けていたのは演出?

お初と徳兵衛が花道を去ってから、九平次の店の使いが印判を持って現れ、悪事が露呈するくだり。初めて観たように思うが、蛇足では。死ななくていいのに死を選ぶ2人の悲劇が強調されるより、早まった浅はかさを見せつけられるよう。

天神森は舞踊のように美しいポーズを繰り広げるが、ちょっと長く感じた。最後は徳兵衛が刀を振り翳したところで緞帳が降りて幕。


2024年2月4日日曜日

2月4日 立春歌舞伎特別公演 昼の部

「源平布引滝」

義賢最期
竹本の樹太夫は若手の抜擢だそうだが、声が大きく、明瞭な語りが好印象。三味線もクリアな音色で舞台を引き立てる。

上方歌舞伎塾の面々が活躍しているのも嬉しい。 冒頭の千寿とりき彌の葵御前と待宵姫の会話がこっくりとしてよき。右近の奴はシュッとしていて、待宵姫が惚れるのもわかる。上方風ではないけれど、これはこういう人でもまあいいか。 

愛之助の義賢はもう何度目か。襖の向こうから地響きのような声を響かせ、立ち現れた姿が骨太で立派だ。戸板倒しも、仏倒れも危なげなく決まった。 りき彌・待宵姫との親子の別れ、千寿・葵御前との夫婦別れに胸熱。戸板倒しの最後の軍兵は愛治郎。きれいに決まり、客席がどよめく。何度も見て慣れてしまっていたけど、初めて見たら驚くよね。 
壱太郎の小万、松之助の九郎助は太郎吉を背負って奮闘。太郎吉の子役がいたいけでかわいらしい。 
義賢を最期に追い詰める進野次郎は吉太朗。立派ないい武者ぶり。階段を上がって義賢を抱え上げたり、羽交締めにしたりと、力技もこなすのにびっくり。役の幅広すぎ。 

竹生島遊覧

塩見忠太が誰かと思ったら吉太朗で驚く。前の場面と変わったコミカルな役で笑わせる。



2024年1月28日日曜日

1月28日 NIGHT KABUKIか

スクリーンに英語で歌舞伎を紹介するVTRが流れて、藤十郎やら吉右衛門やら、仁左衛門やら玉三郎やらの舞台映像。歌舞伎は東京の歌舞伎座と国立劇場で観られると言っていたが、国立劇場は休館中…と思ったら、随分前の制作だった。

解説は千寿。 英語での自己紹介の後は通訳を挟んで。女方の実例として當史弥が化粧から実演する様子を映像で紹介。外国人は笑っていたが、花魁姿が美しかった。
立ち回りは愛治郎が実演。希望者4人を舞台に上げて体験も。

「操り三番叟」
千次郎の三番叟に愛三郎の後見。
芸達者の千次郎だが、糸が緩んで腰を落とす動きがぎこちなく感じた。股関節が硬いのかな。
人形振りは外国人にも楽しめるという選択は良いと思う。

開演前には劇場前でスタッフが呼び込みをしていたり、外国人観光客を呼び込もうという取り組みはいいけど、この内容で6000円は高いと思った。 
千秋楽だからか、客席で祐次郎、りき弥、翫政を見かけた。



2024年1月25日木曜日

1月25日 若手素浄瑠璃の会

 「源平布引滝 九郎助住家の段」は亘・清公。

声の調子が悪いのか、太郎吉の声が掠れていて可愛くない。高音も苦しそう。畳み掛けるように語ってほしいところが少しモッタリするというか。瀬尾の憎々しさは役に合っていた。


「絵本太閤記 尼が崎の段」は小住・清丈。

落ち着いた語りだが、少し型にはまりすぎているかも。もっと爆発するところがあってもいいと思う。初菊の可憐さも足りない。清丈はメリハリの効いた演奏。

1月14日 新春浅草歌舞伎 昼の部

挨拶は橋之助。
次の演目で初っ端から出番なのでと携帯電話オフの注意と能登地震の義援金のお願いのみという、最小限のことだけ。だったら別の人にすれば良いのに。

「十種香」
橋之助の勝頼は2度目とあって落ち着いた様子。慎吾の濡衣が若さに似合わず、世知長けた感じが上手い。
米吉期待の八重垣姫は、容姿は可憐な赤姫で申し分ないが、所作はまだまだか。点を結んだようなぎこちなさが残り、義太夫に乗り切れていない感じ。セリフも気持ちと噛み合っていないようで、八重垣姫って難しいのだなとつくづく思う。ニンにはあっていると思うので、2回目、3回目を観たい。

歌昇の長尾謙信は、小柄な身体を補う押し出しの良さで、戦国武将の強かさを描出。種之助の白須賀六郎は良く似合う。

「世話情浮名横櫛」
隼人、米吉の切られ与三。
隼人の与三郎は坊ちゃんらしさがある一方、やさぐれ感は薄い。しっくりこないとは思ってしまうのは、昨年観た仁左衛門・玉三郎の切られ与三の印象が強いせいもある。隼人のニンには合っているので、こういう与三郎もあり?かと思う。セリフは所々、仁左衛門を彷彿とさせた。
米吉のお富は、八重垣姫よりハマった。吉原狐のときも思ったが、婀娜っぽい、粋な江戸の女が上手い。 
松也の蝙蝠安はなんかちょっと違う感じ。ならずものの凄みが足りないのか。
歌六の多左衛門が舞台を引き締める。

「どんつく」
巳之助がすっかり踊りの名手になっていて、感慨深い。莟玉も含め、出演者総出で華やかに。
歌昇が太神楽の玉入れを見事に披露。

2024年1月13日土曜日

1月13日 初春歌舞伎公演

「梶原平三誉石切」

菊之助初役の石切梶原。岳父吉右衛門の色が感じられる実直さがあり、清々しい。梅枝の梢が情に訴える。
梶原方の大名に並ぶ吉太郎が、一際キリリとして目立っていた。(隣の市村光がちょっととっぽい感じなので余計に) 六太夫と梢の芝居の間、すぐ後ろにいるので目につくのだけど、気を抜いてないのが立派(目を瞑っていたときはあったが)。よその一門の初春芝居でこんないい役を任されるなんて、大したものだ。

「蘆屋道満大内鑑 葛の葉」

梅枝が狐の葛の葉と本物の葛の葉の二役。早替わりもさらりとこなし、女房と姫の演じ分けも鮮やか。狐の正体を明かしてからは、獣みも滲ませる。
乱菊の衣装、ぶっ返ってから腰の辺りがモコモコしてたのが気になった。

「競獅子」

菊五郎劇団総出の賑やかな一幕。
丑之助、真秀、亀三郎、大晴の子どもら4人の中でひときわ小さい大晴の可愛いこと。後ろに下がるタイミングをしくじり1人だけ決まったままま舞台前に残っていたのも微笑ましい。

菊五郎は最後の最後に神輿のようなものに乗って登場し、数歩歩いたあとはすぐに腰掛けたり、杖を手にしていたりで、身体が心配。声はよく出ていたが。

吉太郎は萬太郎と同格の鳶役。最後、獅子舞の中に入っていたのは驚いた。逆立ちもしてたよね。 

1月12日 ナニワノヲト「主役以外にも注目してや。」

シテ以外の能役者による公演というのは珍しい。

舞囃子「三番叟 揉ノ段」は狂言方とお囃子のみ。小笠原弘晃は22歳の若さを遺憾なく発揮し、躍動感ある舞。力入りすぎなくらい。

一管「三番叟 鈴ノ段」は笛方の貞光智宣の独奏。笛だけを聴くというのは初めてで興味深く聞いた。  

演習「船弁慶」はワキ方福王知登の弁慶と狂言方野村万之丞の船頭。万之丞は元気よいというか、パワー出し過ぎ。船を漕ぐ仕草が過剰に感じた。 知登は淡々としていたので余計に。

「土蜘」は太鼓とワキ方による一調。福王知登の謡は聴きものだったが、一対一の緊張感は期待したほどではなかった。多分、太鼓の中田一葉が自分のことで精一杯という感じで、芸のやり取りをするに至らなかったのでは。

狂言「末広かり」は小笠原由祠・弘晃親子と万之丞。力演もちっとも笑えず、やはり和泉流は合わないのかと思う。


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2024年1月12日金曜日

1月12日 坂東玉三郎新春公演

1幕は口上と地唄舞「黒髪」。
道成寺の所作を見せながら、手拭いや扇使って女方らしく見せる工夫を解説。重力を使って手拭いを美しく振ったり、着物の裾を流して曲線を見せたり。 
今の世情では「女らしい」とは言い難いと「女方らしさ」と言っていた。ジェンダーバイアスは良くないけれど、芸術の表現まで制限されてしまうのは筋が違うと思う。

2幕は天守物語のワンシーンを映像を交えて実演するという趣向。玉三郎の富姫と亀姫の両方を観られるのは嬉しいけど、後半の富姫は映像というのがいただけない。
支度のため、松竹座の歴史や機構を紹介する映像を挟んで、地唄舞の「名残りの月」。
舞踊は美しいが、これで1等席1万円が取れるのは玉様だけだろう。



2024年1月10日水曜日

1月10日 能法劇団 42周年公演 雨の中、傘の下

二カ国語狂言「梟」

丸石やすしの兄、茂山千之丞の山伏、弟はスペシャルゲストでジョナ・サルズ。
バイリンガルは千之丞だけで、日本語の狂言のセリフとちゃんぽん。英語も狂言風の抑揚で話すので、一瞬英語と気づかなかった。兄と山伏のやり取りは、おうむ返しが多いので、英語が分からなくても大意は通じる。梟の病が伝染したところで会場の赤ちゃんが泣き出すハプニング。奇妙な動きが怖かったのか。 

詩「J.アルフレッド・プルフロックの恋歌」

全編英語の詩なので、よく分からず。ただでさえ詩だから脈絡がないのだし。
同化役の竹ち代毱也が猫(猿?)やらカニやら、ウエイターやら、様々な役をセリフなしで表現したり、3人の女のうち1人はダンサー、もう1人は日本舞踊家で、舞踊のようなシーンも。最後、青いカツラにビスチェのような衣装になるので何かと思ったら、人魚らしい。

新作「雨の中、傘の下」

9・11ののちに書かれた小説?が原作。崩れた摩天楼のなか、酸性雨が降り続く街を彷徨う赤い傘の女(松井彬)、傘売りの男(茂山あきら)、島民が行き交う。能楽師、狂言師、ダンサーらと、能菅、小鼓のお囃子とパーカッションが共演し、異文化がミックスされる感じ。
女と入れ替わりに現れる、ポスター貼りの男(千之丞)の独白で終わるのかと思いきや(お囃子も退場したし)、傘売りと諍いになり、さらにシテも再び登場。廃墟のビルから対岸(探している恋人?)無事を知らせるランプを灯し続けるのが哀れというか、物悲しいというか。余韻の残る舞台だった。

2024年1月7日日曜日

1月7日 初春文楽公演 第1部

 「七福神宝の入舩」

三輪の寿老人、津国の大黒天、咲寿の弁財天、小住の布袋、碩の福禄寿、聖の恵比寿、薫の毘沙門。三味線は勝平、清馗、清丈、寛太郎、錦吾、清允。

薫は上目遣いでどこを見ているのか。


「近頃河原の達引」

四条河原の段は睦の伝兵衛、靖の官左衛門、文字栄の勘蔵、南都の久八に団七。

睦は伝兵衛は高めの声で、ちょっと頼りない二枚目らしい。靖の官左衛門も役にあっている。

堀川猿回しの段は前半を錣・藤蔵に清方のツレ。後半は呂・清介に清公のツレ。

切語りに切り場を2つに分けて語らせるのはいかがなものか。呂は猿回しの歌では声がよく出ていた。

人形は勘十郎の与次郎に愛嬌がある。小猿は弟子だと言っていたが、体つきからすると勘介?

簑二郎のおしゅん、玉佳の伝兵衛はすっきりした二枚目。

2024年1月6日土曜日

1月6日 初春文楽公演 第3部

「平家女護島」

織・燕三。75分ほどを一人で語り切り、力の入った大熱演…なのだが。

初めの謡がかりからあれ?と思ったが、俊寛が男前だったり、千鳥が賢しげだったり、なんか違う感があって物語に入り込めなかった。

人形は玉男の俊寛、文哉の康頼、勘市の成経、玉助の瀬尾、玉也の丹左衛門。勘市が成経のような若い二枚目を遣うのは珍しく、玉助と玉也はいつもだったら逆の配役になりそう。一輔の千鳥が可憐。


「伊達娘恋緋鹿子」

八百屋内の段は藤・宗助。

珍しい段を珍しい組合せで。

火の見櫓の段は希、亘、碩、聖、織栄に清友、清志郎、友之助、燕二郎、藤之亮。

前段からの上演なので、お七だけでなくお杉や弥作、武兵衛らが出てきて剣を巡って立ち回り。


2024年1月4日木曜日

1月4日 大槻能楽堂

「翁 弓矢立合 三人之舞」

大槻能楽堂設立九十年記念で珍しい小書付き。  

弓矢立合は3人の翁が直面で相舞する珍しい型。
大槻文蔵、観世清和、観世銕之丞の人が並ぶと神々しい。観世の2人は 文蔵だけ少し腕の角度や動くタイミングが違うのは芸の近さなのか。

三人之舞は三番叟が3人。野村万作、萬斎、裕基の親子孫共演。万作は足をクロスするところで少しふらついていたものの、年齢を感じさせないキビキビとした動き。萬斎は高さのある跳躍。  

千歳は大槻裕一、面持は野村太一郎(面はつけないのに面持がいる不思議) 


「三本柱」

野村萬斎の果報者、野村太一郎の太郎冠者、中村修一の次郎冠者、内藤蓮の三郎冠者。


「望月」

観世銕之丞のシテ、ツレは観世淳夫、子方は福王登一郎、ワキは福王知登、アイは野村裕基。

シテが初めに登場して名乗るのはワキのよう。後シテの獅子の装束が「元禄忠臣蔵 御浜御殿」の綱豊卿。登一郎は舞台慣れしていないのか緊張した様子で声が小さい。



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2024年1月3日水曜日

1月3日 初春文楽公演 第2部

「伽羅先代萩」 

竹の間の段は芳穂・錦糸。
語りが落ち着いてきた。重厚感が出てきたというか。

御殿の段っは千歳・富助。
品位があっていいのだが、泣けるまではいかないのはなぜだろう。鶴喜代は悪くないが、千松があまり可愛くない気がする。

政岡忠義の段は呂勢・清治。
政岡の慟哭が泣かせる。

床下の段は小住・燕二郎。
病気救援の団吾に代わった燕二郎が大健闘。キッパリとした音が緊迫感のある場面を盛り上げる。小住の語りもいい。最後は勘解由の高笑いをしたまま盆が回って退場。 

人形は和生の政岡が磐石。玉志の八汐は背骨が傾いている感じで、仇としての風格が足りない気がする。 
床下のネズミは着ぐるみで、正体の勘解由よりも大きいのはいかに。

18日に再見。千歳は調子が悪いのか、御殿の段は呂勢・清治で聞きたかった。床下は亘・団吾。

2024年1月2日火曜日

1月2日 新国立劇場バレエ団「くるみ割り人形」

2024年の初観劇は池田理沙子・奥村康祐のくるみ。2階席から観たせいか1幕のリフトはやや重く感じたが、2幕のグランパドドゥの幸福感は期待通り。踊りや表情から嬉しい気持ちが溢れてて、観ている方も幸せな気分に浸れる。が、やはり1幕はちょっと退屈。お子様たちは頑張って可愛いけど、大人が楽しむには物足りない。
男性主役は甥、くるみ割り人形、王子と目まぐるしく早替わりするが、幕が降りてからカーテンコールまでの短時間で甥→王子になってたのでびっくり。

ドロッセルマイヤーは中家正博、進出鬼没な不思議なおじさん。 

蝶々の五月女遥が軽やかで目を惹かれた。

福田圭吾が老人とロシアの人形みたいな役だけというのは勿体無い。