2024年10月5日土曜日

10月5日 清流劇場「ヘカベ、海を渡る」

エウリピデスのギリシャ悲劇を関西弁で翻案。昨今のパレスチナ情勢を放棄させ、反戦のメッセージが色濃く描かれる。キャストによる歌も反戦色が強く、現在の世界で起きている戦争や紛争を想起させる。

末娘ポリュクセネを生贄にされ、隣国に逃した末息子ポリュドロスは裏切りにより殺され、と数々の悲劇に見舞われたヘカベの悲哀は日永孝子の熱演によって観客の涙を誘ったし、ラスト、アガメムノン(高口真吾)の剣を奪って、復讐の刃を振るうのは急展開にカタルシスのような感じもあった。が、終演後、これでよかったのかと考えてしまった。ポリュクセネを生贄のため連行する役所が飯炊女になっており(原作からの改変)、この女もかつて戦争に敗れて身を落としたという設定で、自分も戦争の犠牲者だと訴えるのだが、犠牲者同士が傷つけあうことで何を伝えたいかがぼやけてしまったように感じた。飯炊女ごときがギリシア軍の決定に影響するというのも無理があるし、ここは原作通り、ギリシア軍の将校オデュッセウスのままの方が対立軸が明確だったのではと思う。ヘカベがアガメムノンに刃を振るって娘の復讐?を果たそうとするのも、奴隷と将軍という立場の違いを考えると不自然に思える。(この辺りはアフタートークで丹下和彦も指摘していた)

大阪弁のセリフが効いていて、ヘカベとアガメムノンのやり取りは大阪のおっちゃんとおばちゃんのようで本音がストレートに響く。トラキア王(辻登志夫)への復讐を遂げたヘカベに対し、「やりすぎでは」と言うアガメムノンに、「あんたが言うな」とか。

アフタートークは演出の田中孝弥、丹下和彦と劇団不労社の西田悠哉。原作の改変に納得できない丹下の発言が止まらず、聞いているほうは面白かったけれどゲストの西田は困ったのでは。ポリュクセネは神に捧げられたのであって、ポリュドロス殺害とは意味がいが違う(ポリュクセネの復讐はできない)という指摘はギリシャ劇の本質にも関わる点かもしれない。

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