現代演劇レトロスペクティブで、岩崎正裕脚本、太陽族で1996年に初演した作品。地下鉄サリン事件の翌年だったら、もっと生々しかったのだろうが、30年以上経った今ではもはや遠い。
暗転して始まった舞台は、ボソボソと話すセリフが聞きとりづらく、集中力を要求される。中央に砂が盛られた、抽象的な装置で、後方の壁の向こう側が透けて見え、家族が料理をしたり、傘をさして出かけるのが見える。暗転が多用され、家族とのやりとりと並行して死んだはずの母親が出てきたり、仲間の男が現れたり、主人公の夢か、過去の現実か、混沌とした感じ。
公安の男の高杉征司が不気味な雰囲気。
大学で演劇をやっているという妹たちを通じて、シェイクスピアやチェーホフが引用される。演劇の力をうたっているのだが、演劇で世界は変えられないのではないかなあ。現実を打破したいといいながら、地道に働いたり、政治を志したりすることを馬鹿にする主人公に、演劇がどれほど作用できるのか。最後、妹に作ってもらったタスキをかけて、街頭演説に行くらしき主人公は、なにを語るのか。脳梗塞たか脳溢血だかで倒れて身体が不自由になり、頼みにしていたバイトに逃げられた父親が哀れだが、そうは描いておらず、どこか前向きなラストに救われたような気がした。
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