2017年11月26日日曜日

1125 極東退屈道場「ファントム」

階段状に並んだ正方形のパネルは、コインロッカーでもあるが、ゲームのマス目のようでもある。モジュール20まであり、ショートショートを連ねたような作品は脈絡ないようだが、時に登場人物が重なって、緩やかにつながっている。ちょっと維新派の芝居を思い出した。特に誰が主役というわけではないが、大沢めぐみの存在感が際立った。スナックのシーンでの啖呵にほれぼれした。

1115 遊劇体「のたり、のたり、」

震災復興から取り残されたということだが、どこか社会から取り残されたような人々。朝から酒を飲むのはまだしも、クスリでトリップされると共感しにくい。あけすけな性表現にも戸惑った。 100円(三田村啓示)はトロちゃん(大熊ねこ)のことが好きで、誕生日に時計を贈るが、柳葉包丁で首を切ったことが元で死んでしまう。好きな子に会いに行くのに、体を傷つけないと踏ん切りがつかないという不思議な男。トロちゃんは左目にあざがあることを気にしていて、どこか幼児のようなたどたどしさ。ラストはウイングフィールドの屋上に2人があがり、観客からは見えないところでセリフが交わされる。100円とトロちゃんの間で思いが交わされ、100円は光のなか死へと旅立つ。やさしさにあふれるエンディング。観客の想像力に訴える演出は上手くいったと思うが、初演時と比べてどうだったのだろうか。

2017年11月25日土曜日

1124 イキウメ「散歩する侵略者」

映画よりも先に舞台で観たいと思っていたのは正解だった。行方不明になった後、別人のようになって戻ってきた夫。実は宇宙人(というか人外の生命体?)に身体を乗っ取られている。宇宙人の目的は人間の概念を奪うこと。概念を奪われた人はそのことについて理解できなくなり、周囲の人との軋轢を起こす。夫役の浜田信也が穏やかな見た目ながら底の知れない不気味さを体現。ジャーナリスト役の安井順平が話を引っ張る。宇宙人の仲間、天野役の大窪人衛、立花あきら役の天野はなが人ならぬ突拍子もない様子を上手く出して、引き込まれた。破たんしかけていた夫婦が、夫の体や記憶を持ちながら別の人格のようになってしまった夫との間で、良好な関係を再構築できるという皮肉。最後、元居たところへ去ろうとする夫に、愛をいう概念を奪わせる妻。侵略者が愛について知ったとき、愛する相手は愛が分からなくなっているという、絶望。アンハッピーなのだけれど、すごいラブストーリーだなと感じた。 開演前から波の音が聞こえ、海に近い町であることがわかる。暗いうちは砂浜のように見えていたセットは、明るくなると板張りの坂。付きの表面のような映像を投影したりして、様々な場面に変化する。基地が近くにあり、航空機の音で会話がしばしばかき消される。海の向こうの隣国との軍事的緊張が高まり、戦争の足音が近づいているという設定は非常に今日的。厭世的気分から「いっそ戦争になってすべてをリセットしてしまえ」と思っていた男が、「所有」という概念を奪われたことで解放され、反戦運動に値めり込む。平和な時代に反戦を叫ぶのは大衆迎合で格好悪いが、戦時下に反戦を叫ぶのは逆に格好いいという理屈は面白い。

1124 壱劇屋「五彩の神楽 戰御史ーIkusaonsiー」

死んだと思ったら時間が遡り、エンドレスに戦いが続く。どこかで見たような場面が繰り返されるが、主客が入れ代わったりするのが面白い。歌舞伎の消し幕のような布をさっと翻す隙に人物を入れ替える演出も効いていた。赤星マサノリと大熊隆太郎のダブル主演だが、マイムが達者で身体表現に優れる大熊に目がいった。前説の頼りなさげな兄ちゃんとと打って変わって二枚目の役も悪くない。

2017年11月19日日曜日

1119 咲くや女義太夫の会~能楽堂に響く女義太夫節~

今年いっぱいで閉館される大阪能楽会館での素浄瑠璃の会。 竹本雛子・豊澤雛文で「絵本太閤記 尼崎の段」 雛子の語りは終始三味線との音程が微妙にずれ、キーが合ってない感じ。義太夫節は三味線に合わせすぎてはいけないそうだが、これがスタンダードなのだろうか。雛文は当人も言っていたように腕力がないせいで、叩きつけるような力強さに欠ける。先日、錦糸の演奏を聞いたばかりなので、やはり差を感じてしまう。 「銘木先代萩 政岡忠義の段」は住蝶・住輔。位の違う3人の女の語り分けが眼目だが、女性の声は違和感がない。住蝶の声がいいことに今日初めて気づいたし、大落としでは泣かされた。住輔の三味線はスカ撥が見られたのと、大落としのところでツボに甘さが感じられたのが惜しかった。

1118 立川志の輔独演会

開口一番の「二人癖」に続いて、志の輔の「茶の湯」「宿屋の富」。 「茶の湯」は吉弥のを最近聞いたばかりなので、どうしても比べてしまう。とんでもない茶を口にした人たちの四苦八苦ぶりが繰り返されるところが、ちょっとくどく感じる。長いし。それと茶を飲まずに戻しちゃうのってどうよ。お菓子は茶を飲む前に食べるが作法では?当然のように、茶を飲んだあとの口直しとして出てくるのに違和感があった。 「宿屋の富」は一文無しの男の壮大なホラが面白い。が、会場を暗くするのはいただけない。怪談話ならともかく、眠くなっちゃうじゃないか。 緞帳が下りたあとでちょこっとアフタートーク。トータルで2時間40分ほど、たっぷり楽しませた。

1118 松竹新喜劇 錦秋公演

「新・親バカ子バカ」 藤山寛美の出世作を孫の扇治郎が演じる。アホ坊は今の時代には無理があるので、戦隊ヒーローオタクに置き換えたのが工夫。オタクというより、子どものまま大きくなってしまったような人物造形だったが。扇治郎はとぼけた様子や号泣する顔などが写真の寛美にそっくりだが、たどたどしさが抜けず、つきぬけた面白さはない。渋谷天外の子煩悩な社長も情が薄く感じる。 「帰って来た男」 主人公の曾我廼家八十吉も悪くはないが、曾我廼家文童や高田次郎が出てくると安定感があるなあ。とたんに面白い。結局大国一家のシマを売ってしまったのは誰だかわからずじまいなのだが…。

1117 白石加代子×佐野史郎「笑った分だけ、怖くなるvol.2」

白石加代子と佐野史郎のリーディング劇。第一ラウンドは筒井康隆作の「乗越駅の刑罰」、第二ラウンドは井上荒野作の「ベーコン」。 2人がそれぞれ役割分担をするのかと思いきや、途中で登場人物が入れ代わるのが面白い。駅のベンチやマネキンのボディを使ったりして、2人で幾人もの人を演じるのが面白い。ごちゃごちゃした「乗越駅」より、「ベーコン」のほうが好み。あまり笑いはないけれど、どちらも終わったときにちょっとぞっとする。 近鉄アート館だけ特別?終了後にアフタートークがあり、アート館の思い出や、今作の裏話など。劇中の音楽は佐野の選曲で、白石の50周年にちなんで1960年代後半のポップスなどを選んだそう。

1117 宝塚月組 「鳳凰伝-カラフとトゥーランドット-」「CRYSTAL TAKARAZUKA-イメージの結晶-」

「鳳凰伝」 トゥーランドットの豪奢な衣装が、陳腐なセットで台無し。ツアー公演だからあまり作りこめないのだろうけど、もうちょっと何とかならないか。愛希れいかは驕慢な王女が良く似合う。カラフ役の珠城りょうがなんであの王女を好きになるのかがよくわからないが、真心で王女の頑なな心をほどく、キュンとするラブストーリーになった。 「クリスタル タカラヅカ」 ショートストーリーを連ねたような構成。何だろうこの濃厚な昭和感は。1場から音楽といい、ダンスといい、いかにもあか抜けない。愛希がマリオネットのようなダンスをするところはさすがだが、唐突感は否めない。

2017年11月17日金曜日

11月16日 吉例顔見世大歌舞伎 夜の部

「仮名手本忠臣蔵」 仁左衛門の早野勘平は特に六段目に入ってからが素晴らしい。舅を殺してしまったのではと分かってからの表情に込められた心情があふれるようで、思いがけず大金を手にして仇討ちに加われるという喜びから、舅殺しの疑惑にかられた絶望、一転して無実と分かった安堵と目まぐるしく変わる心根が痛いほど伝わる。さらに腹を切ってからの姿の美しさたるや。懐から財布を出して確かめるところ、間違って手ぬぐいを出してしまうミスがあった。吉弥のおかやも情にあふれてよかった。秀太郎の一文字屋お才は顔を赤味を強くしていたのは若々しさを出すためだろうか? 「新口村」 藤十郎の忠兵衛に扇雀の梅川。顔を近づけるとよく似ているのが、恋人同士としてはなあ…。藤十郎と並ぶと扇雀が大柄に見えるのもよろしくない。藤十郎はお歳を考えると驚異的だが、セリフがはっきりしなかったり、動きがミニマムになっていたり。ちょっとロボットっぽい動きだ。歌六の孫右衛門は風情があってよい。 「元禄忠臣蔵 大石最後の一日」 幸四郎の内蔵助。見合いを保護にされたおみの(児太郎)が、相手の十郎左衛門(染五郎)の真意をただすため、男装して赤穂浪士らが謹慎している屋敷に入り込む。青果ものらしい、理屈っぽいセリフの応酬にへきえきする。細川内記に金太郎。すらりとしたハンサムだが、鼻にかかったセリフ回し。退場する際、うつむいて数歩回ったのちに、ガクリという感じで頭を上げる所作。どういう意味なのだろうか。 荒木十左エ門の仁左衛門がお上の意を伝える場面で幸四郎と対面。看板役者が対峙し、緊張ある一幕だった。

2017年11月14日火曜日

1113 ミュージカル「スカーレットピンパーネル」

再演とあって石丸幹二のパーシーは手慣れた様子。歌をたっぷり聴かせるのは以前からだが、ぼそっと言うコミカルなセリフが板についていた。安蘭けいは中低音はいいのだが、高音部が裏声になってしまい、声量も落ちる。女優になってから長いはずなのにと残念。1幕は楽しめたのに、2幕になったとたん時間が長く感じられたのはなぜだろう。

1113 危険な関係

セクシーで危険な駆け引きがスリリングで、適材適所の配役もはまっている。何より、ヴァルモンの玉木宏、メルトゥイユの鈴木京香が色気にあふれる。玉木の上半身裸はある意味ファンサービスなのだろうが、胸筋や腹筋がちょっとできすぎ。2人とも声がいいのでセリフに期待していたのだが、意外とさらさらと流れていってしまう感じだったのが惜しい。舞台装置はミニマリズムな現代住宅という感じで、シェードのかかったガラスの扉を動かして場面転換する。背景に日本庭園や松の木などがあり、衣装も着物生地や帯のようなベルトなど和のの要素が効いていた。

2017年11月13日月曜日

1111 逸青会

「秋の色種」 尾上菊之丞・京のコンビは身長のバランスもよく、絵のような美しさ。要所要所がバッチリ決まっていて、どこでシャッターを押しても絵になる感じが素晴らしい。動きのよさはそれほど感じなかったけど。 「素襖落」 茂山逸平の太郎冠者、宗彦の主人、七五三のおじ。会場のせいか、風邪気味なのか、声の響きが悪く聞き辛かった。だんだん酔っ払っていく太郎冠者がほのぼのかわいい。 「わんこ」 くまざわあかねの新作。ペットショップの犬たちが、どんな飼い主に飼われるのがいいのか、注文ばかりつけてなかなか買い手が現れない。逸平が芝犬、菊之丞が血統書付きのテリア?。橋掛りからキャンキャン吠えるように躍り出てくる菊之丞が可愛いが、柱を登ろうとしたり、ボールに戯れたりするのは猫っぽくないか。

1110 関数ドミノ

イキウメの前川知大の脚本。パンフレットによると今回のために手を入れ直したのだとか。観ていてザワッとするのはいつもながら。才能だけでは世の中を渡っていけず、才能なくても運が良くて得しているような人はどこにだもいる。役者陣もよく、「プレイヤー」よりも引き込まれた。瀬戸康史演じる世を拗ねた、偏執的な男がリアル。

1110 宝塚雪組「ひかりふる路」「SUPER VOYAGER」

新トップお披露目でフランスの革命家、マクシミリアン・ロベスピエールを主人公にするとはチャレンジングと思ったが、望海風斗には似合っている。惜しむらくは脚本が荒く、前半の理想に燃える青年が、恐怖政治に突き進む変貌の動機付けが薄く、唐突に感じた。革命で家族を殺された貴族の娘、マリーアンヌ(真彩希帆)と惹かれあうところも、もっとじっくり描いて欲しい。ただ、トップ2人の歌唱力と演技力が素晴らしく、脚本の欠点を凌駕していた。フランク・ワイルドホーンの楽曲の素晴らしさもあるが、歌で演技ができる2人なので、デュエットシーンでは涙が出そうだった。 ショーはオーシャンのシーンの踊りが、スピード感があってよい。舞台の幅も奥行きも大きく使ったフォーメーションがよく、躍動感があり、ちゃんとリズムに合っているのが観ていて心地いい。宝塚のダンスがいいと初めて思った。

1109 劇団空晴「もう一つの、乾杯。」

式に出席するために集まった親戚一同。結婚式なのか、葬式なのかが明かされないまま、嫁の代理で出席する男とともに観客もハラハラ。兄の結婚式でのサプライズのため、口をきかないで無視し続けるなど、ちょっと無理があるところもあり。新作の「遠くの花火」と比べると拙さを感じる。

1108 劇団空晴「遠くの花火」

劇団結成10年の記念公演。10年ぶりの花火大会の日に、亡くなった親戚の十年祭に集まる人々。久しぶりにあう親戚は顔もよく分からず、早合点や勘違いで誤解が誤解を生んで笑わせる、いつもの空晴らしい展開。隣家は長男が1ヶ月前に亡くなったばかり。10年経って家族の死が日常になってきた人々と、気持ちの折り合いがつけられずにいる人々の対比を描きつつ、時間による癒しを提示する。「明日になったらいい薬あげる」それしかないけど、たまに効かないときがある。死者との距離感はそれぞれ。ある人にはもうでも、別の誰かにはまだ。そういう違いを受け入れることが多分生きていくということなのだ。学ラン姿の古谷ちさがよく似合い、少年役でもいけそう。

1107 ヨーロッパ企画「出てこようとしてるトロンプルイユ」

売れない画家たつが暮らすパリの長屋。亡くなった老画家の部屋を片付けながら、絵画論を戦わせたり、遺品のだまし絵で遊んだり。美術を勉強した人にはあるあるなのかもしれないが、にわか勉強をひけらかされているようで楽しめず。だまし絵も写真を加工した稚拙なでき。繰り返しは笑いのテクニックではあるのだが、くどくてイライラした。

1106 11月文楽公演 第一部

「八陣守護城」 浪花入江の段は靖、希、小住、亘に錦糸、琴に錦吾。靖の語りが安定してスケール感がある。大笑いがだいぶ苦しそうなので、聞いていてハラハラするのが惜しい。 主計之介早討の段は咲甫・清友。咲甫が歌い上げる様子が少なく、充実した語りぶり。 正清本城の段は呂・清介。今一つ迫力に欠けるのは声量のせいか。 「鑓の権三重帷子」 浜の宮馬場の段は始、芳穂、咲寿、南部、津国に喜一郎。始の堂々とした語り振りがいい。 浅香市之進留守宅の段は津駒・寛治に燕二郎の琴。 数寄屋の段は咲・燕三。咲は一段と痩せたようで、声に力がなく、嫉妬に狂うおさゐの狂気が物足りない。 伏見京橋妻敵討の段は呂勢、睦、小住、碩、咲寿に清治、清馗、寛太郎、清公、清允。三味線の音が分厚く、華やか。

2017年11月7日火曜日

1104 永楽館歌舞伎

「仙石騒動」
出石縁のお家騒動を芝居に。壱太郎の花魁道中に始まり、花魁→若殿様への早替り、座頭愛之助はお家乗っ取りを図る仙石左京とそれを阻止しようとする忠臣神谷転の主要2役の早替りに本水の雨+滝壺に入っての立ち回り、客席を走り回っての大捕物と八面六臂の大活躍。客席中が大きく沸いた。ラストは鴈治郎の裁きで、左京の悪事が露見し、大団円。(実は若殿が7年前から左京の企みに気づき隠密に探らせていたというのは、神谷の苦労は遅かったうえに無駄だったのでは…という疑問は横に置いておこう)10回目の節目に相応しい、ワクワクする舞台だった。

「芝居前」「元禄花見踊」
口上の代わりに役者たちが芝居小屋に乗り込む体で短く挨拶。華やかな舞踊で賑々しく打ち出し。

11月3日 文楽錦秋公演 第2部

「心中宵庚申」 上田村の段は文字久・藤蔵。文字久の語りはどこが悪いというのではないが、物語に入り込めないのは何故だろう。お千代・半兵衛が夫婦そろってもどかしいというか、イライラするせいか。おかるとお千代という、年代の近い2人の女の語り分けがはっきりしないのと、全体的にメリハリが薄いせいか。 簑助がお千代を勘十郎に譲って、姉おかる。出入りのときに足元がもたつくのはともかく、右手が変なとこから出てるみたいな。奥に引っ込むところで見返りの形はちょっとやり過ぎではなかろうか。(6日に再見。形の違和感は改善していたが、後半を簑二郎が代役) 八百屋の段は千歳・富助。充実の床。伊右衛門女房の憎たらしくも調子のよい様子、半兵衛の誠実さ、お千代の哀れと語り分けが明快で引き込まれる。 道行は三輪を筆頭に睦、靖、文字栄、三味線は団七、団吾、友之助、錦吾、燕二郎。三味線の音が厚く華やかな床。睦はこのところの擦れ声がなく、スランプを脱したか。 勘十郎のお千代、玉男の半兵衛は共に初役で師匠の当たり役を勤める。半兵衛は武士なので、武士の作法で腹を切る。ほかの心中物とは違うしどころなのだろうが、やや冗長に感じた。 「紅葉狩」 呂勢、芳穂、希、亘、碩に宗助、清志郎、清丈、清公、清允。琴2台が舞台端に置かれ、さっと三味線を持ち替えるのが格好いい。 呂勢の美声を堪能できるのはうれしいけれど、物語を聞きたくもあり。 人形は清十郎の更科姫実は鬼女。姫の間は出遣いで簑紫郎が左だった。扇を使っての舞など、滑らかな動きが美しい。紋臣の山神は足遣いのリズム感が悪く、ばたばたしたのが残念。

2017年11月2日木曜日

1102 iaku「ハイツブリが飛ぶのを」

九州で大規模な噴火があったあと、群発する噴火の1つがあった地方の避難所。9人の行方不明者のうち8人が死に、たった一人生き残った汽夏(坂本麻紀)は夫秋切の帰りを待っている。訪ねてきた男(緒方晋)を「秋利」と呼んで抱き付くが、その男は被災した妹を探しに来た別の男。被災者の遺族の似顔絵らしきものを描く夜風と名乗るボランティア(佐藤和駿)やのちにやってくる本当の秋利(平林之英)も現れ、サスペンス仕立てで物語が進む。坂本の肚の座った演技、緒方はリリー・フランキー風の枯れた中年男の風情。ただ一人若者の夜風の絶妙なうっとおしさ。記憶をなくした汽夏が思い出そうと途中まで口ずさむ歌。「峠の我が家」「浜辺の歌」が同じメロディ進行という仕掛けで、実は「七夕」や「夏の思い出」も同じというトリック。私は七夕を連想した。もったいぶって引っ張った割に、汽夏が記憶をなくした理由が夫の浮気だったというありがちな落ちがやや拍子抜けだった。

1101 「土佐堀川 近代ニッポン―女性を花咲かせた女 広岡浅子の生涯」

タイトル長すぎ。舞台に加島屋の大きな暖簾が下がり、店の入り口になったり、場面転換の際にスクリーンに使われたり。大同生命の協力があるのか、古い本社の写真など映像もたくさん。高畑淳子の浅子はどすの利いた声といい、骨太な演技が役柄にはまっていたが、赤井英和の信五郎は品の良さが足りずミスキャスト。浅子との絆はよく描かれていて、刺されて重傷を負った浅子を見舞うシーンはホロリときた。広岡正秋役の田山涼成は鬘が不自然なのが気になった。信五郎の父役の小松政夫は雀がちゅんとか、淀川長治の物まねなど往年のギャグ。浅子の女中で信五郎の妾になる小藤の南野陽子が意外によかった。

1030 壱劇屋 五ヶ月連続ノンバーバル殺陣芝居 「五彩の神楽 心踏音ーShintouonー」

目の見えない男が耳が聞こえず口をきけない女と出会うが、女が殺されて復讐の鬼と化す――という筋立てだと思うのだが。男に剣の手ほどきをしていた女の父がどうして敵になってしまうのかが不明で最後まで??を抱えていた。女が死んでしまうのもはじめ唐突で、後から回想シーンとして種明かしされてようやく納得した。しゃべれない女がタップで感情を表現するという手法は悪くないが、それをノンバーバル芝居でやるのはどうだろう。舞台狭しと動き回る殺陣は迫力満点。主人公、吉田青弘の凄みのある演技には引き込まれた。

10月29日 片山幽雪三回忌追善能 京都公演

片山九郎右衛門の「檜垣」の披きが眼目。後見に観世清和、地謡に観世銕之丞、梅若玄祥ら、相狂言に野村萬斎と豪華な顔ぶれ。幽雪が生前に注文しておいたという水桶は水色と白で描かれた波が鮮やか。 「察化」は茂山千作、七五三、逸平。千作の太郎冠者が大らかでほのぼのと楽しい。千作になってからのびのびとしているように感じる。 舞囃子「山姥」の梅若玄祥はなぜだか目が引き付けられる。体幹がしっかりしているせいか、動きが美しいのだ。 「恋重荷」は時間切れで前半だけで失礼した。重い荷物に悪戦苦闘する老人があわれ。

1028 貞松・浜田バレエ団「創作リサイタル」

29回目の創作リサイ 「ENSO」はコーラ・ボス・クルーセ振付の新作。コンテらしい作品で、器械体操のような衣装と動き。 貞松正一郎振付の「Far and Away~遥か遠くへ」。山口益加の踊りが目立った。 一番いいと思ったのは森優喜振付の「死の島」。今春東京で初演したものの再演。テーブルや扉、大きな布などのセットを使いつつ、黒い衣装、暗いセットの中で、迫りくる死の恐怖を秘めたような緊迫感のある踊り。 イリ・キリアンの「Falling Angels」は8人の女性ダンサーが、民族音楽のようなドラムの音に合わせて動き続ける。