2021年2月28日日曜日

2月27日 ロームシアター京都 舞台芸術としての伝統芸能Vol.3 人形浄瑠璃文楽

昨年の上演予定が、コロナ禍で1年延期、ようやく実現できて何より。

「端模様夢路門松」
勘十郎が簑太郎だった30歳の頃に作ったという新作。ツメ人形の門松が三人遣いになりたいと夢見る。ツメ人形や動物がたくさん出てきて、賑やか。舞台裏(廊下)、劇中劇の戦場(ツメ人形の日常、侍役の三人遣いに投げ飛ばされ踏みつけられる)、夏祭りの長町裏、と3場面を展開して意外とお金がかかっている。オチは門松に想いを寄せる女中役のツメ人形といい仲になってハッピーエンドの可愛らしい作品。
床は碩に清介、清公、清允。清允は細棹、胡弓も。初演が嶋太夫だそうで、碩の語りに面影を感じたような気がした。

「木下蔭狭間合戦 竹中砦の段」
人形付きでは87年ぶりという復曲上演。桶狭間の戦いと、竹中官兵衛家のドラマが交錯し、物語が二転三転する怒涛の展開に息つく暇もないほど。床は錣・藤蔵。錣は大汗かいての熱演。藤蔵は激しい撥使いで、気づいただけで4回も糸を繰っていた。終始、ほとんど1音ごとに唸っていて、糸を繰りながりも掛け声をかけていたのには感心した。


2021年2月25日木曜日

2月25日 金春会定期能

 昨年4月に開催予定の代替公演。

「西王母」

梅井みつ子のシテ、アイではなく子方は見吉麻由、ワキは高井松男。

梅井は小柄で声はしゃがれ気味。足遣いがぎくしゃくしてみえたのは、一歩ずつ足をそろえるせいか。子方の登場は後場のみで、木に生った実を持ってくるのが金剛流と違うところ。


「秀句傘」

三宅右近のシテ、アドは三宅近成、三宅右矩。

愛嬌があって朗らかなシテ。秀句はよくわからなかったが。


「井筒」

長谷川順子のシテ、則久英志のワキ。地謡の5人と笛方も女性だった。

長谷川は詞が聞き取りやすいが、声の響きが少し物足りなく感じた。面とのバランスがいい背丈で、等身大な感じ。地謡もだが、女性の声だと地を這うような響きはないので、少し違って聞こえる。

則久はテノールのよく響く声で、女性のキーとは相性がいいのかも。


「鵺」

森瑞枝のシテ、ワキは村瀬堤。

橋掛かりを歩くとき、一歩ずつ足をそろえるようにするのは流儀なのだろうか。ぎこちなく見えてしまう。前シテはちょっと小柄な妖怪といった風情だが、後シテになると鬘とのバランスか四頭身のように見えて、恐ろしさが減じる。舞は手足が短く、ちょこまかした動きで、面が横に大きく口を広げてにやりと笑っているように見えたこともあって、どこかコミカルな印象。

3曲ともシテを女性が勤めるというのに興味を引かれて観劇。総じて体が小さいので面や装束とのバランスに違和感があったのと、謡の声の浮いた感じ(聞き取りやすい面もあるが)、足拍子の弱さが気になった。女性ならではの魅力はどういうことなのだろうかと考えさせられた。

2021年2月24日水曜日

2月23日 赤坂文楽#23 ワカテ名作チャレンジ

 千歳・碩の師弟トークに続いて、「壺阪観音霊験記」。トークでも言っていたが、碩の沢市は第一声で目が見えると分かる。盲目の人の詞は語尾を浮かせるということだが、感情を入れて語ると技術がおろそかになってしまうのだとか。三味線の燕二郎は音があまり鳴っていない様子で、精彩に欠けた。新しい曲だけに、派手な手がついているので、余計に気になったのかも。若手にとって世話ものは難しいのだなと再認識。清方がツレ。

人形は簑紫郎のお里に簑太郎の沢市。沢市も目が見えるようだった。                                     

2021年2月21日日曜日

2月21日 第六十一回 式能 第一部・第二部

第一部 

金剛流「翁」

金剛永謹の翁、大倉弥太郎の三番三、大倉基誠の千歳。

永謹の声に包容力を感じた。深みのあるいい声。

弥太郎は掛け声や動きが武道家のようい勇ましい。高い位置で束ねた髪がちょんまげのようで、烏帽子にフィットすると思った。


「西王母」

翁から引き続き。シテは今井清隆、ツレ今井克紀、ワキ野口能弘、ワキツレ大日方寛、野口琢弘、アイ大蔵教義。

桃の実がちょっとくすんだ色?


大蔵流「宝の槌」

善竹大二郎のシテ、アドは善竹十郎(果報者)、野島伸二(すっぱ)。

大二郎は声がよく、朗らかでいいのだが、野島がちょっと棒読みっぽいというか…。


喜多流「東岸居士」

シテ粟谷明生、ワキ工藤和哉。

粟谷はテノールの美声で穏やかな舞が荘厳。


和泉流「魚説法」

野村万作のシテ、裕基のアド。


第二部

観世流「胡蝶 物著」

梅若紀彰のシテ、ワキは福王和幸、ワキツレ村瀬堤、矢野昌平。

小書きにより中入りせず、後見座で後シテの扮装に。


大蔵流「土筆」

山本東次郎のシテ、アドは山本則俊。

東次郎の本領を見た。周囲を見渡す視線で青々と広がる野辺が見え、土筆を袂に入れる様子のリアルさ、友人に言い負かされていたたまれない様子など、ほのぼのとしたおかしみが漂う。相撲をとのが微笑ましく、負けて拗ねるのがかわいい。


金春流「俊寛」

櫻間金記のシテ、ツレは政木哲司、柴山暁、ワキは福王茂十郎。

平判官康頼と丹波少将成経は直面で、判官は頭巾を被っている。清水で酒盛りと戯れるところへ、恩赦の使者が現れて…という展開は、文楽や歌舞伎と同じだが、沖へ出ようとする船の艫綱に俊寛がとりつくと、綱を断ち切って振り払う。絶望感が際立つ演出。

茂十郎の声が能楽堂に響き、重厚感を増す。

地謡は布のマスク着用。


和泉流「痩松」

野村万禄のシテ、河野佑紀のアド。


宝生流「野守」

今井泰行のシテ、村山弘のワキ。

地謡がマウスガードをしているのは初めて見た。

2021年2月20日土曜日

2月20日  イキウメの金輪町コレクション 乙

 「輪廻TM」

輪廻転生の過去や未来を見られるというタイムマシンを発明したという、寺に住む怪しげな路上生活者(大窪人衛)と元大学教員(盛隆二)の元へ、来世を確かめたいという男(安井順平)が訪れる。なぜか女性もののハンドバッグを手にし、女言葉なのは…??という疑問は次の作品で明かされるという上手い演出。


「ゴッド・セーブ・ザ・クイーン」

女(松岡依都美)がひとり、ビルの屋上から飛び降り自殺しようとしていると、スーツ姿の2人の男(森下創、浜田信也)が現れる。自殺を止めはしないけれど、なにやら知っているようで…。どこかで見たと思ったら、MONOの「涙目コント」に提供された作品だった。演者が違うと印象が変わるものだ。(女の魂が、自らが殺した男・安井順平の体に移って天寿を全うすることで、来世で女性天皇になるというオチが「輪廻TM」につながる)


「許さない十字路」

何だかよくわからないけれど、「許さない」と言われ続けって怖い。


「賽の河原で踊りまくる『亡霊』」乙バージョン

安井順平の鬼、亡者は大窪、盛、森下、浜田。同じ脚本でも役者が変わると雰囲気が変わる。初見のせいか、鬼は松岡のほうが好みだった。奪衣婆は同じく瀧井公美。事務員風の衣装は色違い?ちょっとのぞかせるエスっぽさがいい。

2月20日 新国立劇場バレエ団「眠れる森の美女」

小野絢子のオーロラ、福岡雄大のデジレ。
小野は姫タイプと思っていたが、オーロラはちょっと違うかも…。2幕の登場、17歳の誕生日にしては落ち着きすぎていて、もっと初々しさやこぼれるような多幸感がほしいと思ってしまった。ローズアダージョもミスなく、立派だったのだが、もうちょっと余裕が見たかったというのは、高望みしすぎ?フィナーレの福岡とのパドドゥは圧巻。息の合った様子で、確かなテクニックを見せつけた。

カラボス(本島美和)とリラの精(木村優里)の対立が軸になるというウエイン・イーグリング版は初見。王子と出会う夢の場面など、主役の踊りが多く見応えがあった。

3幕の青い鳥に奥村康祐。フロリナ王女(池田理沙子)の回りで小鳥が羽ばたくようだった。

2021年2月19日金曜日

2月18日 イキウメの金輪町コレクション 丙

 「インタビュー」

笑いのツボが今一つ、と思っていたら、その後に続く町の節分祭で役所の地域課の職員が出し物としてやっていたという設定。だからわざといまいちにしたのかは不明。相槌が失礼で相手をいらっとさせるというのは面白いのだが、間なのか、セリフのチョイスなのか、あまり笑えなかった。会場の客はよく笑っていたけど。


「弁明」

町のジオラマを作ったのがすごい。内輪ネタぽくて、金輪町の作品をよく知っている人ならともかく、ちょっとついていけなかった。


落語「高速ジジババ」

柳家三三と前川知大が組んだらどうなるのか、というのが一番の興味だったのだが、結論は今一つ…。体調もあるのかもしれないけれど、途中何度かうとうとしてしまった。三三が町の理髪店の店主で、趣味で落語をやっているという設定。ネタだと思ったらマクラだったり、SF的な設定を表現するのに落語はあまり向いていないのではと思った。


「賽の河原で踊りまくる『亡霊』」

河原の石の代わりに段ボールを積んでは鬼に崩され…と体を張った芝居。鬼の松岡依都美のちょっとうんざりした様子がいい味出してた。奪衣婆の瀧内公美のクールな様子がいい。

2月19日 国立能楽堂 定期公演

 「塗附」

高澤祐介のシテ、アドは三宅右近、小アドは三宅近成。

和泉流のなかでは今まで見たなかで一番フランクというか、親しみやすかった。陽気な感じというか。

「砧 梓之出」

大槻文蔵のシテ、裕一のツレ、福王茂十郎のワキ。

シテが曲の始めに舞台に登場する演出。面が体の一部になっているというか、視線が定まっているので自然に感情が伝わってくる。正直、このシテの気持ちには同情しにくいのだが(3年経ってもわざわざ使いをよこすのは夫の誠意じゃないの?と思う)、絶望的なまでの悲嘆が伝わってくる。これに比べると、ワキの裕一は、面が造り物のままというか。

茂十郎は声がよく、フシのある詞に聞きほれた。

地謡頭に梅若実。床几を使うのはやめて、専用の座椅子を用意していた。周りの人から頭ひとつ出るだけなので、違和感が少なくていいかも。


2021年2月13日土曜日

2月13日 第六回復曲試演の会

「篁」

2020年6月の予定か、コロナ禍で延期され、ようやく上演。
西野晴夫法大名誉教授の解説によると、篁は隠岐で死んではいないので、隠岐に流された後鳥羽院と逢うのは史実に反することなどが嫌気されて上演されなくなったのではとのこと。
今日の上演を見て、登場人物たちの立ち位置や詞がよく伝わり、面白いと思ったが、それは復曲の初演で、演じ手たちが手探りなため、より心情がストレートに現れたからかもと思った。復曲にあたっては創成期の手順に従ったといい、台本の意図を伝えるための試行錯誤がまだ荒削りのため、長い年月を経て磨き抜かれた古典にはない、生々しさがあるのではと。
シテの小野篁は味方玄、ツレ(両シテ?)後鳥羽院は片山九郎右衛門、ワキ宝生欣哉、アイ小笠原由祠。
シテは前場はワキとのセリフ劇。船に乗り隠岐島へ行きたいと求めるワキとの緊迫感のあるやり取り。後場は鬼の面に笏を持ち、閻魔大王の補佐をしていたという伝承を思わせる。笏を放ったり、飛び上がって胡座で着地したりと、躍動感のある舞。
後鳥羽院は後場で登場。橋掛かりでの詞が会場に響きわたる。直面で遮るものがないせいでもあるのだろうが。篁が舞っている間、脇座で座っているのだが、視線が中正面席の方を向いていて篁を見ていないのは何故だろう。

仕舞
「実盛」河村和重
足元がおぼつかなく、立ち上がる時によろけたり、足の運びも不安定でハラハラ。
「雨の段」大江又三郎
「山姥 キリ」井上裕久

「葵上」
古演出によるとあり、破れ車の作り物と青女房が出てくる。
シテ河村晴道、ツレの巫女・片山伸吾、青女房・大江信行、ワキの横川小聖・有松遼一、ワキツレ岡充、アイ泉慎也。
大江信行の青女房が、頭ひとつ高く、小ぶりの女面をつけると9頭身くらいあって異世界の人のよう。
ワキは六条御息所を鎮めるところが格好いい。橋掛かりに追い詰めてから押し戻されるところで、後ろ向きに舞台へ戻りシテ柱にぶつかるアクシデント。何事もなかったように続けていたけれど、びっくりした。

2021年2月9日火曜日

2月8日 宝塚雪組「f f f -フォルティッシッシモ-」「シルクロード~盗賊と宝石~」ライブビューイング

 「f f f -フォルティッシッシモ-」

望海風斗の退団公演の大劇場千秋楽。上田久美子作・演出で期待の舞台。コロナ禍で延期されなければ、ベートーベン生誕250周年に上演されるはずだったものの、コロナ禍だからこその演出もあり、十二分に楽しませた。

冒頭、モーツアルトやヘンデルが天の裁きを待っているという設定。神のために音楽を作ったバッハは先に天国へ行くことができ、王侯貴族のために音楽を作ったモーツアルトらをどうするかは、後世の音楽家に委ねられているとして、音楽は誰のものかが一つのテーマであることが明かされる。

「英雄」の演奏会のシーンではベートーベンや演奏家がオケピから登場。コロナ禍で生オケが使えない状況を逆手にとった憎い演出。肖像画でよく見る、ぼさぼさの頭で情熱的なベートーベンの姿が望によく似合う。

幼少期に父親に虐待されたり、思いを寄せた女性に裏切られたりと、ベートーベンが苦境に陥るたびに現れる謎の女(真彩希帆)は、銃を差し出して死へ誘うなど「エリザベート」のトートを思わせる役どころ(思えば、冒頭の死者が裁きを待っているという設定も)だが、中盤からは作曲作業に打ち込むベートーベンの世話を焼くなど、少しずつ関係が変化していく。運命のテーマをピアノでつま弾いていたベートーベンに女が加わって連弾になり、壮大な交響曲に発展。最後は、女を運命と受け入れ、愛することで歓喜の歌が生まれるという展開に舌を巻いた。(余談だが、執筆中のベートーベンと女のちょっとほっこりするやり取りでファンサービスも忘れないのが心憎い。「一つだけやってほしいことがある」「(迫られと誤解した風にうろたえて)…なに、いやよ」などのやり取りや、パンを投げつけるシーンなどアドリブが交じり、トップ2人の関係性が垣間見えて微笑ましい)

曲はそれほど印象に残らなかったものの、歌上手のトップコンビらしく、ソロやデュエットで歌う場面が多かったのはよかった。せっかくベートーベンなのだから、全曲ベートーベンのアレンジでもよかったのではと思う。

ベートーベンが当初は心酔して交響曲をささげようとまでしたナポレオン(彩風咲奈)や度々曲を送ったというゲーテ(彩凪翔)との関係も丁寧に描かれ、物語に厚みを加えた。終盤のロシア遠征で壊滅状態のナポレオンとベートーベンが本音で語り合う場面は一つの山場だった。サヨナラ公演だけあって、お金をかけて丁寧に作っているなあと感心したのは、ナポレオンの戴冠式。ほんの数分なのに、豪華な衣装といったら!


「シルクロード~盗賊と宝石~」

生田大和演出のショーはシルクロードを中東から中国へと旅する。トップお披露目の「ひかりふる路」のとき、「悲劇ばかりやらせているから、次は明るい役で」と言っていたのだが、全体的に暗い色調で「明るい」というほどはじけてはいなかったような。

続く、サヨナラコンサートは「ドン・ジュアン」から始まり、「ファントム」や「ひかりふる路」など、名曲のオンパレード。コンサートの名に恥じず、歌をたっぷり聴かせてくれたのが何より。トップ2人のデュエットも楽しめ、幸せな気分。満足度の高い舞台だった。

2021年2月7日日曜日

2月7日 文楽公演 第三部

「冥途の飛脚」

淡路町の段の口は小住・清丈。清丈はややせわしない感じ。ミスタッチもあった?小住は落ち着いていい語り。

奥は織・宗助。
忠兵衛が勝手なことばかり言うのは、まあそういう話なのだけど、口先ばかり感が強くて、哀れさがないので、あまり同情できない…。多分、織は色んな意味で強者なので、弱い男の心境を理解できないのではと思った。

封印切は千歳・富助。
はじめは、無骨な語り口が世話物に似合わないなあと思っていたが、クライマックスの封印を切るあたりでは引き込まれた。忠兵衛の勝手ぶりには同情できないものの、梅川が哀れで。
人形は禿の簑悠が健闘し、三味線を奏でるところがよく合っていた。左は弾かないところではじいていたところもあったけど。

道行相合かご
三輪の梅川、芳穂の忠兵衛、亘、碩に團七、團吾、友之助、清允。
華やかな道行なのだろうが、なんだか暗く感じた。



2月6日 花形演芸会

歌つを「牛ほめ」

古今亭志ん吉「紙入れ」
主人公が同じ“しんきち”なのでやりにくいと。マクラは間男が冷蔵庫に隠れる小噺。二枚目崩れみたいな、親しみのある顔立ちで、わちゃわちゃと賑やかな話し方。

瀧川鯉八「長崎」   
独特ののんびりした話し方が味なのだろうが、私は苦手だわ。
100歳で大往生したじいちゃんとの結婚前の思い出を、97歳だかで存命のばあちゃんが話すという設定なのに「長崎は今日も雨だった」を歌いだすなど、時代がちぐはぐなのも気になった。

三笑亭夢丸「徳ちゃん」  
大正期の吉原が舞台で噺家が出てくる、古典落語みたい新作みたいな。安い女郎屋に入って散々な目に合うというありがちな話だが、相撲取りみたいな女郎って…。

桂小すみ 音曲   
越後獅子だったか、三味線の速弾きなど多彩なテクニックに感心した。櫓太鼓では撥の持ち手側での曲弾きも。最後、ボサノバから魚尽くしになるのが面白かった。

桂佐ん吉「景清」    
上方の噺はなんか落ち着くなあ。米朝一門らしい、きっちりした丁寧な話しぶりがいい。あまり爆笑を取るような噺でもないし。
マクラでざこばが脳梗塞を患った話から、めくらの噺へ。ざこばを話題にしたのはなじみの客が少ないアウェイゆえなのだろうか。客席の反応は今ひとつだった。


2月6日 文楽公演 第二部

 「曲輪文章」

口は睦・勝平に錦吾のツレ。破たんなく、無難な感じで店先での餅つきの様子を華やかに。

咲太夫一門総出で、咲の伊左衛門、織の夕霧、おきさに南都、男に咲寿。喜左衛門は藤。三味線は燕三、ツレ燕二郎。

男衆の咲寿は冒頭の賑やかし。咲は枯れた芸で、落ちぶれた伊左衛門を描出。織の夕霧は元気そう。美男美女のイチャイチャを楽しむ演目なので、文楽より歌舞伎向きと思う(出演者におよるが)

人形は玉男の伊左衛門に清十郎の夕霧。夕霧は病の表現なのか、首が襟元にめり込んでいるようなのが気になった。おきさの簑助は休演で、一輔が代演。


「菅原伝授手習鑑」

寺入りを希・清馗。希が意外に悪くない。

寺子屋の段の前を呂・清介。出だしは悪くないと思ったが、中盤から息切れした感じ。

後は藤・清友。いろは送りがひびかなかった。

人形は松王の玉助が立派な武士のよう。人形以上に視線をあちこちにやるのが目に付いた。玉也の源蔵が重々しくてよし。玉翔のよだれくりはふざけすぎず。



2月6日 文楽公演 第一部

「五条橋」
咲寿、津国、碩、文字栄に三味線は清志郎、寛太郎、清公、清方。
この並びなら牛若丸は咲寿とはいえ、シンかと思うと…。声は大きいのだが、腹から出てる感じでなく、何というか上滑りして聞こえる。
三味線はよくまとまって聞きやすい。
人形は玉勢の牛若丸、文哉の弁慶。弁慶の足と左が振り回されているようだった。

「伽羅仙台萩」

竹の間の段を靖・錦糸。
まだ練れてないというか、声が硬く、女ばかりの語り分けに難あり。意外に八汐があまりよくなく、あまり悪そうでなかった。

御殿の段の前は呂勢・清治。
清治の文化功労者顕彰記念とのことで、三味線の聴かせどころが多く、音楽的。呂勢も落ち着いた語りで、朗々と美声を聴かせた。さまざまな感情を音で表現しているのが耳に楽しく、飯炊きで退屈しなかったのは初めてかも。最近は子どもの詞で笑いが起きることが多いのだが、「お腹が空いてもひもじゅうない」でも笑いがなかったのはよかった。

後は錣・藤蔵。
圧が強い。

人形は八汐の玉志が意外に悪が強くない。和生の政岡に安定感。一輔の沖の井、簑紫郎の小巻、簑二郎の栄御前。


17日に再見。
「五条橋」 咲寿力はいりすぎ。文哉の弁慶は体が傾いでいるよう。

「伽羅先代萩」 靖は声に柔らかみが出てきた。呂勢・清治の音色は深みを増した感じ。


2021年2月6日土曜日

2月5日 イキウメの金輪町コレクション 甲

短編3作。
 
「箱詰め男」
前に見たことがあるなあと思っていたら、他の客もそうだったようで笑いが先回りしていた。
人の記憶をコンピュータに移して(アップサイクルといったか?)、肉体が死んでも精神は生き続けるという現代と地続きの近未来(設定は2050年くらい?)が舞台。ただ、記憶だけではいくら正確でも人間味に欠け、AIスピーカーのようなやり取りが可笑しく、空恐ろしくもある。香りという、感情を揺さぶる要素を加えることで、人間らしい対話ができるようになるものの、いつまでも鮮明で薄れない記憶に苦しめられる。箱男=不二夫の浜田信也は声だけで無機質な言葉つきから、感情に振り回される様への変化を表現。息子、宗男役の安井順平、不二夫の友人・時枝役の森下創。記憶に現れる不二夫の弟、輝夫役の大窪人衛はちょっとエキセントリックな役

「やさしい人の業火な『懐石』」
袋叩きに遭っていた男(仮釈放中の男・大窪)を助け、自宅に招き入れるコンサルタントの男(盛隆二)の偽善?ぶりがいかにもありそう。むやみに見知らぬ人を家に上げることに消極的な妻(松岡依都美)の常識が少し緩和剤になっていたが、ああいう根拠なく自信満々な男ってイライラする(そういう狙いなんだろうけど)。仮釈放中の男は、見ず知らずの男を容易く信用するというコンサルタントを試したのか、本当なのか。コンサルタント夫婦は子供を亡くしたらしく、そのことが今のあり方に影響しているようなのだが、詳しくは語られない。性善説のようにまず人を受け入れる姿勢って、どういう経験をしたらなるのだろう。ちょっと怖い、後味の悪さが残った。

「いずれ誰もがコソ泥だ、後は野となれ山となれ」
最後は万引き者のプロ・畑山(安井)と懸賞生活を送る女(瀧内公美)。畑山は必要以上には万引きしないという“美学”をもって万引きにいそしむが、やりたい放題の万引き犯・平雅(浜田)が現れ、店や社会の存続自体を危うくする。平雅の持っているスーツケースでは32インチテレビや高級シャンパン数十本は入りきらんだろう…というのは置いておいて、限度を無視して狩りつくそうとする空恐ろしさ。
万引きのプロの不文律を破ってス―パーの店長に平雅を突き出した畑山はどうなるのか…とハラハラさせておいて、意外なハッピーエンド?にほっとした。


2021年2月3日水曜日

2月3日 国立能楽堂定例公演

「粟田口」
野村万蔵のシテ、萬の太郎冠者、小笠原由祠のすっぱ。(誰かと思ったら匡から改名したそうな)

知らないものを買いに行かされた太郎冠者がすっぱに騙される…という滑稽な話だが、あまり笑いは起こらない。萬の太郎冠者は淡々として、余計なものを削ぎ落としたよう。

「杜若」
香川康嗣のシテ、野口能弘のワキ。  
在原業平の有名な歌が題材で、分かりやすいが、業平が仏の化身で女たちを救済したとは…。
ワキとシテの対話が多く、節のある詞のやり取りが聞きどころなのだろうが、野口は発生にムラがあるというか、音量が乱れるのが聞きづらかった。
シテは後見座で装束を変えるのだが、前半も錦糸の入った綺麗な装束で、みすぼらしくはないのでは。後半は冠に唐衣が中性的な感じがした。


2021年2月2日火曜日

2月2日 二月大歌舞伎 第二部

 「於染久松色読販」

玉三郎の土手のお六に仁左衛門の鬼門の喜兵衛と、久しぶりにがっつり組んでの共演に期待が高まる。お染の七役はなく、小梅莨屋から瓦町油屋までの強請場がメーン。悪い夫婦ながら息もぴったりで、長年連れ添ったような慣れた様子を醸し出す。

ただ、今回印象に残ったのは脇役陣の活躍。子役の丁稚長吉に真秀、髪結いに福之助と、お江戸の御曹司たちもよかったが、番頭の千次郎、丁稚久太の吉太郎、中間の松十郎と上方勢の活躍がうれしい。千次郎はチャリ場を引っ張る役どころで、死体に灸をすえるところで手指の消毒をしたり、真秀の丁稚が気を利かせたところで「しのぶお母さんの仕込みがいいから」と言ったり。ちょっと芝居が浮足立っている感じは初日のせいか。松十郎は花道で仁左衛門とがっつり芝居をするのが頼もしく、吉太郎は道化の役どころをしっかり演じて花見の引っ込みでは大きな拍手をもらっていた。


「神田祭」

鳶頭の仁左衛門と芸者の玉三郎が終始いちゃいちゃしている一幕。こういう仁左・玉が観たかった!と堪能した。美男美女の並びは目の保養だ。


23日に再見。花道に近い中央席の前方だったので、よく見えたこと!喜兵衛が悪事を働くときに周囲に目を配る周到な様子や、お六とのアイコンタクトによるあうんの呼吸。この2人にしか出せない空気感だと思う。神田祭はちょっと疲れも見え、初日ほどの多幸感はなかったけど、やはり眼福。