2018年6月8日金曜日
0607 イキウメ「図書館的人生Vol.4襲ってくるもの」
短編3本。時代もシチュエーションも違うけれど、少しずつつながっている。
「箱詰め男」は近未来。アルツハイマー認知症にかかった脳科学者が自分の脳をコンピューターにアップロードする。寄木細工の箱に収められた男は肉体を失った変わりにすべての記憶を保っている。あらゆる質問に答えることができ、記憶は正確だが、感情がなく、AIスピーカーのようなやり取り。ネットや家電とつながって、サイト検索や家電の操作もしてしまうし。感情を刺激するような感覚があれば欲望が生まれるのではと、嗅覚センサーを付けたことで、感情が揺さぶられ、欲望も生まれる。が、眠ることができないコンピューターは感覚をオフにできず、常に覚醒した状態に苦痛を感じるようになる。脳科学者の妻役の千葉雅子がリアル。脳科学者の安井順平は声だけだが、AIスピーカー然とした冒頭から、感覚が呼び覚まされた様子を繊細に描写した。
「ミッション」は「一時停止を無視しろ」という衝動にかられて死亡事故を起こし、服役した男が主人公。出所後、事故で死亡した高齢者が認知症になりかかっていて、逆に交通事故の加害者になりかねなかったと知り、衝動にしたがったことが世界にいい影響を与えているのではと考えるようになる。自らの考えに拘泥する狂信的な男を演じる大窪人衛は前作の印象と被る。同僚の田村健太郎は、マエカノとの関係がこじれてストーカー認定されていたという過去を明かす。一見いい人そうに見えるちょっと困った男を好演していた。
「あやつり人形」就職活動を始めた女子大生由香里は、「就活生の型にはまらず、自分らしくすればいい」という兄の助言に釈然としない感じをもっている。ガンが再発した母は仕事を続けたい意向をもちながら、子どもたちの勧めで積極的な治療を選択する。治療の副作用が大きく、辛そうな様子に由香里は治療よりも母の希望を優先すべきではないかと考えるようになる。「あなたのためだから」という言葉が、実は発した側の気持ちを楽にするための言葉だというのではないかという問題提起が鋭い。由香里の彼氏役の田村が、一見いい人なのにどうしようもなくうっとおしい男だった。
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