2023年9月30日土曜日

9月30日 語り×浄瑠璃「琵琶法師耳無譚」

 耳無し芳一をベースにした書き下ろし。語りは芳穂と金子あいが、代わる代わる、時にユニゾンで表現。現代語の語りと義太夫節のパートが交錯し、自然と物語に引き込まれた。驚いたのは三味線で、琵琶駒を使って琵琶のビョンビョン(芳穂はニョインニョインと言っていた)とした音色を表現したり、クラシックギターのハーモニクスやフラメンコギターの12拍子といった技法を応用したりと、多彩な表現で情景を描写。映画の効果音のように場面を盛り上げた。約1時間の作品ながら、聞き応えあり。小泉八雲の物語にはない玉虫という女官を取り入れたことで、人物の語りわけに幅ができたように思った。

2023年9月29日金曜日

9月29日 春風亭一之輔×桂二葉 二人会

開口一番は桂源太の「子ほめ」
元気よく、知名度がないのを適度に笑いにして嫌味がない。

一之輔「加賀の千代」
やる気ないのかってくらい力の抜けた話ぶりながら、甚兵衛の愛されキャラ、ご隠居夫婦の可愛がりぶりがじわじわおかしい。

二葉「金明竹」
阿呆な丁稚がニンに合う。使いの者の口上を噛まずにすらすら3回繰り返すところなど、巧さもみせた。

二葉「幽霊の辻」
茶屋の婆さんが上手い。チャキチャキ元気なだけじゃない。

一之輔「笠碁」
これまで聞いたのとは違ってて、笠碁…なんだよね?と思いつつ聞いた。間が長いのに焦れてしまう。

アフタートークは噛み合っているような、ないような。来年も二人会を催すそうで、それまでの目標は「もっと上手くなりたい」という二葉は、「お兄さんは伸び代がない」と。こんなこと嫌味なく言えるのは、二葉のキャラゆえ。二人会をするくらい親しいのかと思ったら、園芸写真家の橘蓮二のプロデュース。満員御礼で来年の開催も決まったとか。

2023年9月28日木曜日

9月28日 フェニーチェ文楽

 花岡京子氏を聞き手に大道具の解説の後、ワカテ鼎談は靖、寛太郎、簑紫郎。 
せっかく若手に聞く企画なのに、聞き手のせいか面白くない。新口村のしどころ、難しさなど聞いても真面目な答えばかり。こういう機会なのだからもっと砕けた話でもいいと思う。
靖は、新口の奥は地味だが、梅川のクドキなど華やかななところもあり、対比をしっかり語りたいと。息を引くところが大事で、次に語るところを考えて準備するよう、師匠から言われたとか。孫右衛門の心境の変化をどう表現するか。緩急をつけるためには、「捨てる」ことも必要。 寛太郎は、時代ものと違って、若手が頑張って弾いているではカタチにならない世話物の難しさ。弾いていないところをどう表現するか。 簑紫郎は、人形もじっとしているところが難しい。梅川は少し斜にかまえるなど工夫している。 最近は若手公演でも主役を後輩に譲って老け役に回ることが多く、今日も孫右衛門。老け役はやってみると面白いのだそう。

「傾城恋飛脚」 新口村の段

前を碩・燕二郎。
客席から声が掛かるも、半テンポ遅い。少しやりにくいかと思ったが表情は変わってなかった。碩は素直な発声が耳によく、燕二郎は難しい手に懸命にくらいついている感じで、珍しく厳しい表情。

奥は靖・寛太郎。
語りの世界に没入するには至らないものの、新口村の世界観をしっかり描出。靖の持ち味のせいか、流麗というよりは少し無骨な感じがした。

人形は、勘次郎の忠兵衛、簑悠の梅川。簑悠は大分背伸びした役ながら、精一杯の演技。梅川の嫋やかさや憂いが表現されていて、教えられたことをきちんと再現しているのだなと感じた。人形の構え方のせいか、首が胴体に埋もれたように見えてしまったのが惜しい。

勘昇の忠三女房、簑紫郎の孫右衛門。


iPhoneから送信

2023年9月26日火曜日

ま9月26日 文楽夢想継承伝

「二人三番叟」

小住、亘、聖、靖に清公、清志郎、清方、友之助。

人形は玉峻、玉男。玉峻は自信がないのか、終始玉男の方を伺っているので、動きがちょっと遅れがち。稽古時間が足りなくて動きを覚えてなかったのか?

能楽堂なので足も良く見え、三番叟は足踏みも多いので観察してしまう。玉男の足を遣った簑悠がリズム良く、また音もはっきり。2人の三番叟で役割分担してるのか、もう1人のほうは控えめだった。

場合転換の間、勘十郎が出てきておしゃべり。昨日まで公演していた国立劇場は入門した頃にでき育ててもらったと。人形高いが足りないなか、通し狂言をしたので、色々やらされた(できなくてもやらされた)。朝10時半ごろから若手勉強のためと大序で人形を遣わせてもらい、夜は10時くらいまでぶっ通し。楽屋に戻るヒマもなかったとか。

「知盛幽霊」は錣・清允。脇正面席だったので人形の陰に隠れてよく見えなかったよ。 
人形は玉翔。知盛のような大きな立役を豪快に遣った。

若手座談会は聖、清允、玉峻。聖は呂勢のすすめで研修生になったそう。清允は大先輩の錣を弾いて気を遣いすぎて頭がぼーっとしていると。玉峻は師匠の方ばかり見てしまったと反省の弁。自分でも気づいていたのね。


「釣女」

靖の太郎冠者、おかしみがあって良き。大名の亘は声が枯れ気味。美女の聖はフシはまだ不安定だが、嫌味のない発声がよい。醜女の錣は安定感。

人形は、急遽代役で勘昇の大名。後半、美女の勘十郎と並んでも、落ち着いた様子。勘介の醜女は、意外に嫋やかな動きで可愛らしい。 玉路の大名は一輔が左に入っていた。玉佳や玉翔も左に入っていた李するので、色々と注目してしまう。

終盤、左違いに呼ばれた介錯が急いで舞台裏へ行ったので、何事かと思ったら、醜女の扇がなくて取りに行ったらしい。ファインプレーの様子がしっかり見えたのも能楽堂ならでは。

2023年9月25日月曜日

9月25日 文楽祭

「菅原伝授手習鑑」

車曳の段をオールスターキャストで。太夫は呂の松王、錣の梅王、藤の桜丸、呂勢の杉王、織の時平に清介の三味線。呂は声を上げながら袖から登場し、本公演より力入ってる?という語り。織は時平の大笑いを豪快に(いつもより長かった?)演じて会場の拍手をさらったが、声が若々しく、松王の呂と入れ替わった方がよかったのではと思うなど。

人形は玉男の梅王、和生の桜丸、勘壽の杉王、玉也の時平、勘十郎の松王という豪華版で全体として本公演より一回り大きい舞台と感じた。和生の桜丸のポーズが美しい。勘十郎の松王は登場時に槍?に右足をかけて極まるのが格好いい。 


座談会は山川静夫を司会に、咲、清治、団七、和生、勘十郎、玉男が国立劇場の思い出を語る。車椅子で登場した咲は「車曳の後だから」と冗談。天ぷら屋で滑って油地獄、11時間手術したのだそう。にこやかに話していたけれど、坐位を保つのが辛いのかずっと肘掛けを握りしめていた。清治は山川に声をかけられてトチッたとか。忠臣蔵の通しをかけた時、12月14日に泉岳寺にお参りに行くのをサボったらそのまま寝過ごして、⑧綱太夫にこっぴどく叱られた。団七は清治と同期で昭和29年デビュー。当時は松竹傘下で新橋演舞場?で公演していたが、国立劇場という立派な劇場ができた。大阪の朝日座は音が悪かったのに比べ、音がいい。④津太夫の三味線を弾いた時、一撥目で皮を破ってしまったが、「一の糸が切れた」と書かれたのに憤慨。皮が破れるのは構わないが、糸が切れる、ましてや一の糸というのは三味線弾きにとって恥。最後は、玉男が主、勘十郎が左、和生が足を使ってお園の後ろ振りを披露。

天地会は寺子屋の段。口上に出てきた清方は拍子木の打ち方が覚束なく、人形の左に入っていた勘介が指導するという、幕開きから何だかおかしい。

三味線に入った勘十郎のオクリから始まるのだが、途切れ途切れ。横でニコニコしている玉佳はいるだけでおかしい。一撥だけで引っ込んでしまう人もいた中で、玉彦がまあまあ弾けていた(なぜか最初の登場では、指擦りを持ってこさせただけで引っ込んでしまう不審な動きをしていたが)のと、後半をほとんど一人で弾いていた呂勢。いろはオクリの前には、糸を繰って駒を替えるまでやっていたのはさすがで、語りに入った団七から「うまい!」の声も。(よほど大変だったのか、終演後は立てなかったみたい)

太夫は勝平や宗介、清介、燕三がしっかりと引き締め、ほかは一言だけ語る者や棒読みの者など。藤蔵は三味線が遅れた時に催促するように左手を見たり、自分で「テーン」とか言ったり、見台を叩いて拍子を取ったと笑いを取っていた。お面白かったのは棒読みながら結構長い間語っていた文司、手振りを入れたり、「楽屋に帰ってプレミアムモルツ」と言ったり自由な玉也、「えぇ〜」の間がなんとも言えない一輔など。いろはオクリは団七と清志郎で、団七は歌うよう。後半を語った清志郎は大きな声で団七をびっくりさせてた。

人形は菅秀才とよだれくり遣った燕二郎の健闘が光った。ツメ人形は皆自由に動かしていて、手習子を遣った富助がニコニコしていたのが印象的。文字栄の千代が目を瞑ったままだったり、上を向いたり俯いたりしている人形があって、左に入った本職の人形遣いが懸命にフォローしていたり、とハラハラドキドキ。左、足の人形遣いも皆頭巾なしだったので、必死の表情が見えて、それもまたおかしかった。

初めから終わりまで笑いっぱなしで、昨日泣いた寺子屋でこんなに笑えるとは。

開演前や休憩時間に技芸員らがロビーでファンサービス。「文楽名鑑」にサインしたり、写真撮影に応じたり。錣と友之助に長い行列ができていた。

2023年9月24日日曜日

9月24日 文楽公演 第2部

「寿式三番叟」

休演の咲に代わって呂の翁、以下、錣の千歳、三番叟は千歳と織。ツレに咲寿、聖、文字栄が入り、三味線は燕三、藤蔵、勝平、清志郎、錦吾、燕二郎、清方という7挺7枚の大編成。床から舞台後方に向かって並んでいて、下手側を向いて語っていたせいか、全体的に声が小さかったように感じた(7挺もの三味線が大きすぎるのか)。
三番叟に入って、シンの燕三は抑制された運びなのだが、御簾内の鳴物が走ってガチャガチャしたところも。客席の一部は手拍子するし。
人形は紋臣の千歳、勘十郎の翁、玉勢と簑紫郎の三番叟。能の写しとはいえ、人形が面をかける意味が分からん。

「菅原伝授手習鑑」

北嵯峨は希・団吾。
八重がんばれ! という気持ちに。

9月24日 文楽公演 第1部

「菅原伝授手習鑑」

車曳の段

小住の梅王丸に碩の桜丸が血気にはやる若者らしく、好演。碩の桜丸はおっとりというにはかちゃかちゃしていたが。松王丸の藤が舞台袖から声掛けしながら登場する文楽には珍しい演出。時平の津国は大笑いで手が入った。豪快といには枯れた感じだったが、悪い感じは十分。ずいぶん長かったような。三味線は宗介が1人で5人に対峙。

茶筅酒は三輪・団七。言葉が明快で語り分けもきっちり。団七はいつになく難しそうな顔。

喧嘩の談は咲寿・清馗。
いつもより落ち着いた語りは好印象。

訴訟の段は芳穂・錦糸。
前段と打って変わって厳粛な雰囲気。ここまで重々しかったか。錦糸が弾いていない時、目をキョロキョロしていたのは何だったのか。気になった。

桜丸切腹は千歳・富助。待ってましたの声が掛かる。
抑制された緊張感のなか、穏やかに語りが進む。八重の悲嘆、白太夫の「泣くないやい」の件もとても良かったが、なぜか拍手がなかった。雰囲気を壊したくない遠慮からか。前段できちんと場の空気ができていたからいっそう、胸に迫ったのかと思った。

天拝山は藤・清友。
きっぱりした激しい三味線。
菅丞相が怒り心頭で火を吹くのは覚えていたが、その前に髪を振り乱して大暴れするのに驚く道明寺とキャラ変わりすぎ。

人形は車曳で、玉佳の梅王、勘弥の桜丸、玉助の松王が力漲る熱演。一輔の八重がさまざま表情を見せてよき。勘十郎の白太夫は役が軽すぎるかと思ったが、天拝山で一人舞うなどしどころが多くて納得。おかしみのあるまろやかな動きが素朴な爺さんらしい。


2023年9月23日土曜日

9月23日 文楽公演 第3部

「曾根崎心中」

生玉の段を靖・勝平。
靖はいい顔になってきたのは、プレッシャーがなくなったからか。ただ、語り口が硬く、世話物の語りはまだまだと感じた。勝平の三味線はゆったりと大らか。安心感がある。

豊島屋の段は錣・藤蔵。
言葉がしっかりしているので、字幕を見なくても聞き取れるのだなあと。死の決意を確かめ合うところて、珍しくきゅんとした。(そもそもこの話が好きではないので、いつもは淡々と見てしまう)藤蔵は乗ってくると唸り声が耳につく。

天神森は織、睦、薫、織栄に清志郎、清丈、清公、清允、藤之亮。
織栄が2節ほど1人で語っていたのだが、真っ直ぐ前を見据えて語る様が浪曲みたいに見えた。師匠の影響? 顔立ちが京山幸太に似てるからか。

人形は和生のお初に玉男の徳兵衛。最近この組み合わせが多いのはなぜだろう。
田舎の客は休演の簑之に代わって簑悠。生魂でお初を連れ去るところ、初が徳兵衛に気を取られているさまがよかった。

国立劇場さよなら公演だけあって、満員御礼(いくつか空席はあったが)。終演後の拍手もいつもより大きかったよう。 

9月23日 「妹背山婦女庭訓」

春日野小松原から吉野川まで。両花道を使った華やかな舞台。

梅枝の雛鳥が可憐で。小松原で久我助を見初めるところで恥じらう初々しさ。それでいて、あざとはなく、良家の娘らしい品を保っている。

時蔵の貞高も素晴らしく、凛とした気品のなかに母の情愛を滲ませる。文楽と違って、雛鳥を打つところでは幾度も逡巡し、いざ手にかけると激しく慟哭する。心を大きく揺さぶられ、涙を誘われる。

一方の大判事家は、萬太郎の久我の助は背の低さが仇になって子どものようなのが惜しい。大判事の松緑は年齢的に難しい役とはいえ、くりっとした目鼻立ちがアニメキャラのよう(化粧のせいもあり?)周囲に比べて不釣り合いなくらい声が大きかったのも、そぐわない感じがした。セリフを通すのと大声は違うと思う。 そしてやはり、「覚悟の切腹、急くでない」の頓珍漢さにどうしても笑ってしまう。

というわけで、全体的に妹山の方に軍配をあげてしまう次第。

そういえば、床も両床なのだが、前半と後半で入れ替わる形。前半の妹山側は若い太夫で、声もよく検討していたけど、音楽的な情緒は文楽の方があると思った。三味線がね、なんか音が硬いのだ。
「抱き合い」のところは、(妹山)い〜、(背山)だ〜、(合わせて)きあいとなり、少しあっさり。

9月23日 文楽公演 第2部

「菅原伝授手習鑑」の四段目から拝見。

北嵯峨の段は希・団吾。

寺入りは亘・ 友之助。
子供の声が全体的によくないと思った。

寺子屋の切は呂・清介。
いつも通りの慎重な語り。いまいち盛り上がらないと感じるのは、起伏の幅が小さいからなのだろう。メリハリがないというか。玄蕃ですら、迫力がないのだもの。

後は呂勢・清治。打って変わって、色彩が豊かになった感。字幕を見なくても大丈夫なのは、滑舌がよく、言葉が聞き取れるから。登場人物の一人一人が何をして、何を感じているかが明確で、物語をより深く味わえた。小太郎が潔く死んだと聞いた松王丸の泣き笑いでほろり。ここで大笑いの泣き笑いバージョンだと初めて気づいたよ。清治の三味線の鮮やかさは言わずもがな。いろは送りも音楽的で聞き惚れた。(いろは送りの前で予備の三味線が差し入れられたけど、結局使わず。万一の備え?)

人形は玉也の源蔵、勘壽の千代は珍しい配役では。
よだれくりは勘介で、お笑い担当なので少々のおふざけはいいとして、寺子屋にの冒頭で太夫が深刻そうに語る横で笑いを取るのはいかがなものが。寺子屋の冒頭で子供たちが横一列に座っているの、初めて見た気がする。
松王は玉助。

五段目の大内天変の段は小住・寛太郎。約50年ぶりの上演。前回の音源があるものの、聞き取れないところも多く、ほぼ復曲だったそう。落雷を三味線で表現する寛太郎の力演。小住も力の入った語り。

最後、菅丞相の仇と言って、橘姫と菅秀才が小刀で時平を刺すのだが、菅秀才はともかく、橘姫の勇ましさに驚く。

2023年9月22日金曜日

9月22日 永楽館歌舞伎 夜の部

「車引」

上方演出の上演は永楽館ならでは。愛之助の梅王丸が花道、莟玉の桜丸が上手側の通路を両花道のようにして登場する華やかな幕開き。愛之助の梅王は手慣れたものだが、発声が江戸っぽいというか荒事?という感じ。莟玉の桜丸は隈取はないのだが、目元がキリッとしていて、柔らかみのなかにも凛々しさがある。
先払いで通路から登場した愛三郎が堂々として、どこの御曹司?と思ったほど。晴の会メンバーは今回出ないのかと思っていたら、杉王が千次郎で嬉しい驚き(昼の部と夜の部の間の時間に街中を歩いているのを目撃したので、てっきり出ていないものと思ってしまった)
梅王が上半身を脱いで緋色の襦袢さがたになるところで感嘆の声が漏れるなど、歌舞伎慣れしていない観客の反応に、昔の芝居小屋の雰囲気を感じる。
松王丸は九團次、時平は男女蔵。悪くはないが、ちょっと大きさが足りないか。

恒例の口上の前に、過去公演を映像で振り返る一幕。昼の部は第一回から六回だったそうだが、夜は七回から十二回。全部見ているはずなのに、どんな話だったか思い出せないもの多数…。新作ばっかりだからねぇ。

口上は愛之助、男寅、男女蔵、九團次、莟玉。5人並んだうちの3人が市川家の柿色の裃にとんがり髷なのが変な感じ。博多座之襲名披露の流れで来たから?
初お目見えの男寅は、名前と「世界遺産検定一級」だけでも覚えて、と若手落語家のようなことを。同じく初お目見えの莟玉は、自己紹介で「莟玉」の名前の由来はありがたいけど、なかなか読んでもらえないもどかしさを吐露。(苔玉とかのりたまとか呼ばれるらしい)パンダ好きと歌舞伎好きを繋げたいという野望も。
莟玉の前に九團次が、九團次としては初出演で、前回は前名の坂東薪車だったが、諸事情あって名前が変わったと。なぜか莟玉は受けていて、俯きながらかたを震わせていた。

「釣女」

愛之助の太郎冠者、男寅の大名。男寅は初役だそうで、発声や所作が松羽目物の寸法になっていない感じがした。莟玉の上臈は期待通り。男女蔵の醜女が面白く、被衣を被って登場するところから体の大きさは隠せないし、化粧はやりすぎないのに十分面白い顔といい、愛之助とのアドリブ混じりのやり取りといい、嫌味なくおかしい。
太郎冠者が釣り糸を垂れるところで客席に向けていたの、初めて見た。ファンサービスは嬉しかろうが、万一取ってしまったらどうするのだろう(誰か取ってくれ!)



2023年9月17日日曜日

9月17日 九月花形歌舞伎「新・水滸伝」

花形というには澤瀉屋の面々は手練れすぎる気もするが、隼人を中心に、團子や壱太郎らが活躍したのでいいのか。
幕開きに登場した彭玘役の團子はスラリとした立ち姿が若くて真っ直ぐなキャラに合う。滑舌が今ひとつなのは今後に期待したい。
林冲の隼人は酔っ払う様に色気があり、後半の覚醒してからは、長い手足をいかしたシャープな立ち回りが文句なしに格好いい。宙乗りも、余裕のある様子で客席を見渡し、横顔も絵になる。 (飛龍が飛び立つところで「林冲の夢見る力と共に天翔けよ」というセリフが気に掛かったのだが、ツイッタによると元々「林冲の心と共に」と言っていたのを猿翁の訃報を受けて変えたらしい)
壱太郎はお侠なお夜叉を好演。猿弥演じる王英との絡みはアドリブも交えて面白く(今日は「剣術の稽古」というところ「ケイジユツ(?)」と言い間違ってグダグダになりかけた)、ポーズをとって決まるところは美しく。
笑三郎の姫虎も格好いい姉御という感じで舞台を締め、成駒屋の福之助が梁山泊の李逵、歌之助が朝廷側の張進と敵味方に分かれていたのも頼もしい(歌之助は配役を確認するまで誰か分からなかった)。…などなど、個々の役者はそれぞれ良いのだが、全体として今ひとつ盛り上がらないのは、場面転換が多くて慌ただしいのと、敵役である高俅の浅野和之の悪っぷりが物足りなかったからだろう。 

個人的にツボったのは、王英・猿弥と青華・笑也のラブシーンで、なんか可愛くてほのぼの。気持ちが通じ合うまでの様子が複数の場面にわたってしっかり描かれるのがいい。 

2023年9月10日日曜日

9月10日 K⭐︎バレエスタジオ 37th コンサート

パート1の生徒らの発表は置いておいて、長谷川梨央と福田圭吾の「コッペリア」グランパドドゥ。福田のパドドゥはあまり見る機会がないので新鮮。リフトがとても優しく、パートナーを次の動きへ丁寧に送り出す感じ。ジャンプや回転はさすがの切れ味だが、二枚目で踊るのも新鮮だった。 

続いてスターダンサーズ・バレエ団の渡辺恭子と福岡雄大の「ジゼル」。暗転板付きから始まるのはドラマチックで効果的。

「FROZEN EYES」
矢上恵子の振付で、ジャクソンで金を受賞した徳彩也子と佐々木嶺のペアが凱旋披露。 

シャープな動きが印象的。中央に置いたパイプ椅子に、女性ダンサーが度々打ち捨てられた人形のように座り込む。2人とも身体能力が高く、難しい動きをブレなくこなす。女性は最後、椅子を踏み越えてパートナーの元へ。

パート2は矢上久留美振り付けの「レ・パティヌール(スケートをする人々)」
生徒ら総出演という感じで、小さい子がちょこちょこ踊っていると客席が微笑みに包まれる。3歳くらいの子もいたようだが、長い曲の間ちゃんと舞台にいられるだけでも大したもの。山本隆之が出演していたのも嬉しい。

パート3は恵子振り付けの「toi toi」

かっこいい。強いビートでテンポが速く、ジャズっぽい振りなのだが、これはバレエダンサーの踊りだ。体幹の強さや手足ののびやかさ違うのだろうな。 

冒頭、石川真理子とペアで踊った福岡雄大がとにかくカッコいい。精悍な感じで、力強く、シャープで素早いムーブメントに圧倒される。

男性ダンサーは、福田圭吾、ゲストの恵谷彰、佐々木嶺が力強い、圧巻の踊り。特に佐々木がいいと思った。優しげな雰囲気なのに、難しい振りをさらりとこなす。全幕ものでも見てみたい。

群舞では佐々木美智子バレエ団、京都バレエ団からの応援者も参加。藤川雅子のコンテンポラリーってはじめて見たけれど、やはり雰囲気のあるダンサーだと思う。 

カーテンコールは主宰の矢上久留美も加わって。福岡と福田が亡き香織、恵子の写真を手に登場すると拍手が鳴り止まず、何度も幕が開いた。

9月10日 京の会 舞踊公演

トップバッターの井上八千代目当てで、はじめの4曲だけ観覧。

八千代の「松の翁」は貫禄のある舞姿。井上流の舞って能を思わせる、控えめな振りが多いので、舞台で見せるのはハードルが高いと思うなど。

藤間寿由の「茶音頭」、藤間麗喜(?)の「廓八景」はベテランのお姉さん方。

続いて、井上葉子、安寿子の「新曲浦島」。左右の花道?から登場する華やかな演出。少し背の高い葉子と、丸顔の安寿子は姉妹のよう。

鳴物に笛の藤舎名生が出演するなど、50回記念ならではの豪華さ。桟敷席には普段着の芸舞妓もいて、賑やかだった。

2023年9月9日土曜日

9月9日 有馬能楽堂 能公演「俊寛」

大槻文蔵の俊寛が見たくてはるばる三田まで。屋外の能舞台は風情があるが、ツクツクボウシの音はそぐわないと思うなど。橋掛が吹き抜け?のため音が届かないのか、マイクが仕込んであって、声が後ろのスピーカーから聞こえるのは興醒め。舞台に上がると、鏡板の効果かちゃんと聞こえるのだが。

シテの文蔵の他は、大槻裕一の平判官康頼、上野雄介の丹波少将成経、ワキは福王茂十郎、アイは善竹隆平。
文蔵の俊寛は1人取り残される絶望が深い。声なく泣く姿から、寂寥感が溢れ、目が離せない。会場のせいか、謡もよく聞こえた。前にも思ったが、船の舫を切り離される音になんとも言えない断絶感があって、胸を突かれる。

三田屋本店は料理屋だからそこそこ期待していたのだが、全くがっかり。1人客への提供が早かったのはよかったが、メニューも調理も値段に不相応。多分2度と行かない。 

2023年9月3日日曜日

9月3日 TTR能プロジェクト「和魂Ⅸ」

 観世流と金剛流の流儀競演。

舞囃子、観世流は大槻裕一のシテで「鏑木」、金剛流は豊嶋晃嗣の「天鼓」。

今回の出演者で最年少と最年長だそう。演目が違うから一概に比較はできないが、金剛の方が手数多いというか、たくさん動いているものの、動き自体は大らか。一方、観世は手数は少なくてもキリッとシャープな動きが印象に残る。

独吟は2曲、弱吟と強吟を聴き比べ。「井筒」のキリは観世流の齊藤信輔、金剛流の宇高徳成、「起請文」は観世流の大江信行、金剛流の宇高竜成。

金剛流の謡がのびやかなのは発見だった。全体的に抑制の効いた観世流に比べて、詞章が聞き取りやすい気がする。比べて聞くと違いがよくわかる。

仕舞は「鉄輪」キリの競演で、観世流の笠田祐樹、金剛流の山田伊純。

実験企画は「乱」を同時に、観世流の大江信行と金剛流の宇高竜成が舞う。同じ曲でもここまで違うかという驚き。金剛流は足で青海波を描くそうで、グッと屈んでから舞い始める。爪先立って舞台上を左右に動き回る金剛流に対し、観世流は移動が少ない。アフタートークによると、ぶつからないよう、大江は少し譲ったのだとか。

最後は「船弁慶」の舞囃子。観世流は「重キ前後之替」の小書が付いて、浦田保親のシテ、金剛流は「白波之伝」の小書で金剛龍謹のシテ。

観世流は扇を預けて最後まで薙刀を持って舞うのに対し、金剛流は後半に薙刀を捨てて扇で舞う違いが。