2022年7月31日日曜日

0731 龍門の会

「三輪」
一子相伝で金剛流宗家にのみ伝わるという「神道」の小書き付き。重々しさが増すというか、荘厳な感じ。前シテは登場時から低くハリのある発声で、女姿ながら神の威厳を感じさせる。若宗家は声がよく響くので、作り物のなかでの謡でもよく聞き取れた。後シテは装束のせいか少年のような顔に見えた。指が分かれていない特殊な足袋での摺り足など、独特の舞も興味深い。

「末広がり」
千五郎の大名は堂々とした声と体格。太郎冠者が誤って唐傘を買ってきたため家から追い出したところで、不貞腐れたように軽く飛び立つどっかと座るのだが、こんな場面あったかな。
太郎冠者は逸平、とぼけた受け答えにおかしみがある。すっぱは宗彦。
後半、ハヤシに気を良くした大名が踊り出し、太郎冠者は許されて家の中に。というところでふっと踊り止み、徐に退場。踊りながらでなかったっけ?

半能「岩船」
龍謹の長男、謹一朗が初シテ。龍神の格好をした子どもが橋掛かりから出てくると 思わず拍手をしそうになってしまう。シテといっても、子どもなので面はつげす直面。ちっちゃい子が声を張って謡をしたり舞ったりするのは可愛らしい。後見の龍謹が緊張した面持ち。 

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2022年7月30日土曜日

7月30日 「加茂物狂」

観世流には謡のみ伝わる曲で、事実上の復曲。他流でも上演されなくなっている前場をつけたことで、物語がよりロジカルでわかりやすいように思う。 
遠く離れた夫への恋慕を諦めようとする女は上賀茂神社で恋を諦めることは神意に反すると気づく。後場では数年後、夫を探したまま物狂いになった女が、都へ帰ってきた夫と再会するも、はじめは互いに誰だかわからず、やがて連れ合いだと気づいてからも名乗らず、我が家で再会しようといって別れる。古典というより現代劇にありそうな展開だ。

上賀茂神社の末社に歌人の在原業平や藤原実方を祀ったものがあるとは知らなかった。 
地頭で配役されていた梅若実桜雪が休演だが、その旨の知らせはなく、単に配役を変更したとだけ案内があった。

7月29日 子供のためのバレエ「ペンギン・カフェ」

上演前に、上野動物園などで獣医を務めた成島悦雄のトーク。「ペンギン・カフェ」のペンギンはオオウミガラスのことで、元々北欧に生息していたこの鳥をペンギンと呼んでいたところ、南極に似た鳥がいたのでペンギンと呼ばれるようになったとのこと。オオウミガラスは1844年に最後の番と卵が殺されたと分かっているのが、何とも言えない。
動物が絶滅する理由は3つあり、人による乱獲、環境汚染、外来生物の持ち込みと、全て人のせいだというのが耳に痛い。

「ペンギン・カフェ」
オオツノヒツジの米沢唯、カンガルーネズミの福田圭吾、ウーリーモンキーの福岡雄大とベストと言っていい配役。なかでも奥村康祐のケープヤマシマウマの気高さに胸を打たれた。スラリとした肢体、媚びない物腰に野生動物の孤高さがあった。
改めて思ったけど、振付家はなぜいかつい顔のオオツノヒツジをエレガントな女性ダンサーに配役したのだろう。顔と身体のギャップにいつも戸惑う。


2022年7月29日金曜日

7月29日 歌舞伎「風の谷のナウシカ」

コロナ禍で観劇予定だった日が休演になったため、オンラインで視聴。

2年前の初演時にナウシカを演じた菊之助がクシャナ役になり、「白き魔女の戦記」として前編を再構成。菊之助のクシャナは大人っぽいというか、分別がある感じでナウシカよりも似合っている。ナウシカはちょっとカマトトぶっている感じがあった。七之助のクシャナとも違って、これはこれで格好いい。なんと言っても、覇権をねらう決意を固め、花道で決まる姿の美しいこと。2幕冒頭の母(吉弥)との場面は初演にはなかった部分で、もろさや優しさと言ったクシャナの隠された一面が描かれるのも、人物造形に深みを与えていた。

米吉のナウシカは可憐で、役によく合っている。キツネリスとの「怖くない」や、ミト爺への「そういうところ、嫌いではないぞ」など、アニメキャラらしい台詞も不自然ではないのがなんとも。

幼きナウシカで、菊之助の長女知世が初舞台。蟲を取り上げられて「何も悪いことはしてないの〜」と訴えるセリフが健気で可愛らしく耳に残る。
オームの精役の丑之助はナウシカの米吉ときっちり対峙して長い舞も危なげなく、存在感があった。

キャラ変更されたところでは、ラステルの吉太郎、ケチャの莟玉ら若い女方の活躍が頼もしい。弥十郎のユパは背の高いのは原作とは異なるのだが、老人という設定なので松也よりも似合うと思う。また、こういう、一癖ある熟練者の役が似合う。クロトワは吉之丞。小狡い感じは初演の亀蔵のほうに分があり。


2022年7月23日土曜日

7月23日 花形・名作舞踊鑑賞会

 16時開演の回を所見。

「お染久松」

花柳幸舞音のお染、藤間豊彦の久松、花柳輔蔵の猿曳。白塗りやセリフのある舞踊はどうしても歌舞伎役者には敵わないと思ってしまう。

「藤娘」

藤真紫の藤の精を見たかったのだが、正直期待はずれ。最初、藤の花の間から登場するところは可憐でよかったのだが、肉付きの薄い顔だちのせいか、年増に見えてしまった。

「棒縛り」

若柳里次郎の次郎冠者、西川大樹の太郎冠者、市川松扇の大名。なんなんだろう、間が悪いのだろうか。ちっとも面白くなかった。

7月23日 歌舞伎鑑賞教室

 歌舞伎のみかたは萬太郎。尾上緑が女方のこしらえで登場し、貝殻骨を寄せるなど女方の表現をレクチャー。親子で楽しむの回だったので、客席には子どもがたくさんいて、皆で真似をしているのが微笑ましい。

「紅葉狩」

松緑の維茂、梅枝の更科姫、亀蔵の山神、玉太郎の野菊、左源太の左近、右源太の萬太郎、高麗蔵の田毎ほか。梅枝の更科姫のたおやかさ、美しさ。二枚扇の舞も美しい。姫の姿の時から鬼の本性を垣間見せるときには、怖さも滲ませる。

2022年7月21日木曜日

7月21日 英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン「白鳥の湖」

オデット/オディールのローレン・カスバートソンの演劇的な踊り。ちょっと幸薄そうな顔立ちがオデットに似合う。かといって、オディールになると途端に妖艶になるのだから、 素晴らしい役者ぶりだ。

王子のウィリアム・ブレイスウェルは育ちの良さそうな貴公子ぶり。無垢で真摯な感じがジークフリートらしい。

リアム・スカーレット振付は初めて見たが、3幕の花嫁候補4人が王子を囲んでアピールするも、各国の踊りは別の人など、ところどころ違って興味深い。

最後はオデットのみが湖に身を投げ、王子が亡骸を抱き上げて幕。その前に何でかロットバルトは岩場で息絶えてたのも、よく分からんかった。

上演前と幕間にインタビューがあり、主演2人のコメントなどが聞けたのが興味深い。白鳥のコールドは、じっとしている場面があるので余計にしんどいとか。

2022年7月17日日曜日

7月17日 文楽公演 第3部

「花上野誉碑」

志度寺の段の中は希・清友。希は力演しているのだが、力みすぎなのか、身体で声を響かせられていないような気がした。複数の男の語り分けにも難あり。三味線は淡々と。
前は藤・藤蔵。  のびのびした藤の語り。希のあとに聞くと。語り分けが多彩だ。力の入る段なのだろうけど、藤蔵は唸りが耳に残る。
切は呂・清介。何だかなあ。。前回もだけど、気が抜けたようというか、迫力に欠ける。「よう盗んでくださった」で失笑が起こるのは緊張感がないからでしょう。「南無金毘羅大権現」で拍手が起こらないのも。 三味線は大熱演。太夫の迫力を補って余りある。
噴水?の水が細い紐をすだれのように垂らしたもの。前回のビニールテープのようなのも今ひとつだったけど、これはこれでどうなんだろう…。 

人形はお辻の清十郎、坊太郎の簑太郎。簑太郎は子役を遣うことが多いけど、あんまり可愛くない気がする。

「紅葉狩」 

床は呂勢、南都、聖、薫に錦糸、清馗、錦吾、燕二郎、清允。(芳穂はコロナ濃厚接触で休演)錦糸の三味線で語る呂勢は、力みがなくていいような気がする。芳穂に代わって南都が維茂だったのだが、アゴが上がってきたのが気になった。こんなに下手だったっけ?
(28日に再見。芳穂の維茂は大きさがあっていい。呂勢の見台が朱塗の蒔絵て華やか)
三味線は整然と揃った感じで心地よい。
人形は三人出遣いの一輔、簑紫郎、簑悠の更科姫が素晴らしくよかった。滑らかな動き、ポーズの美しさは踊り上手の舞踊を見ているよう。二枚扇も鮮やか。鬼になってからはなぜか、主遣いのみが出遣い。前半の方がより難しさがあるからなのかな。維茂の玉助はまあ、いつも通り。

7月17日 文楽公演第1部

 「鈴の音」

簑太郎時代の勘十郎作。作曲は清介。

カッパが綺麗な音が出る玉=鈴を拾う。友だちの狐のカップル(カッパの友だちがなぜ狐?とは思うけど)に自慢していたら、水の中では鈴が鳴らないので狐の首に着けてやる。大喜びで飛び跳ねて鈴を鳴らしていると、猟師に見つかって狙われることに…と、鈴を持つ不都合が次々明らかになって、結局は桜の木に掛けて音色を楽しむことにする。子ども向けに動物がでってきたり、沼の中の様子が透けて見えたり、というのは楽しい趣向だけれど、話に深みがないなあというのが正直な感想。

靖、小住、亘、碩に友之助、清公、清方という若い床に、人形は簑紫郎の河太郎、簑太郎のコン太、勘次郎のはつね、狩人の玉彦という若いメンバー。河太郎の動きが滑らかでよかった。


解説を挟んで「瓜子姫とあまんじゃく」は千歳・富助に錦吾、燕二郎。

千歳の語りはちょっと硬いというか、声に深みがない感じがした。口語調だし、普段の語りとは勝手が違うのだろうが。前回聴いた嶋太夫の語りはなんとも言えない味があったと懐かしく思った。

人形は紋臣の瓜子姫が可憐。じっさ勘市、ばっさ清五郎。あまんじゃくの玉佳が大暴れ。

2022年7月16日土曜日

7月16日 文楽公演第2部

 「心中天網島」

北新地河庄の段の中を睦・勝平、前を呂勢・清治、後を織・清志郎。

睦は掠れ声が聞きづらい。女性だけでなく、治兵衛も辛かった。口三味線で開放弦を口ずさんでいるはずなのに、音程がぶれるのはいかに。湿気のせいか勝平の三味線の音色がいまひとつ冴えない。

前は繊細な心理描写を三味線の旋律が彩り、呂勢は音採りが安定しているので安心して聞いていられる。義太夫節は音楽なのだなあと改めて感じた。途中、床裏から駒の入った箱が差し入れられ、交換していた。舞台に出て音の感じが違うとなったのだろうか?どうやって合図したんだろう。

織は表情が先に立つ感じで情感たっぷり。清志郎が突っ込んでいく演奏で緊迫感があった。

天満紙屋内の段は口を咲寿・寛太郎、切を錣・宗介。

今日の咲寿は声が安定していて悪くなかった。

錣は切の字がつき、弟子の聖太夫が白湯くみで控える。滴るような情が溢れる語りで、感情を揺さぶられる。

大和屋の段は咲・燕三。

久しぶりに元気そうな姿を見られて一安心。声は少し弱いものの、節づかいの確かさは頼もしい。

道行名残の橋づくしは三輪、睦、津国、咲寿、文字栄に団七、団吾、清丈、清公、清方。

人形は勘十郎の小春に玉男の治兵衛、和生のおさんと同世代3人が久しぶりに揃う豪華さ。小春は首がもげるくらい深く俯いていて、ちょっと心配になるくらい。治兵衛のダメ男ぶり、おさんの出来過ぎぶりと、人物描写が的確。玉也の孫右衛門の抑えの効いた演技がよかった。

7月15日 七月大歌舞伎 夜の部

「堀川波の鼓」

体調不良で休演していた仁左衛門が昨日から復帰とあって、登場場面で長い拍手。待ってました!という感じ。ただ、やはりこの演目は好きになれないなあ。妻の不貞を知って、義理の妹やら息子やらに、もっと早くなんとかしてくれていたら…という長台詞は名調子で拍手も出ていたけれど。
扇雀のお種は始めから触れなば落ちなんというか、隙だらけな感じ。酒に酔う前から誘っているみたいに見えた。
コロナ感染で休演の松之助に代わって松十郎が僧覚念。花道の出入りで足音がやけに響いた。

「祇園恋づくし」
幸四郎が江戸の指物師留五郎と芸者染香、鴈治郎が大津屋次郎八と女房おつぎの二役で、早替わりで盛り上げる…のだが。幸四郎の女方は鬘のせいか小梅太夫のようで、京言葉が板につかない。鴈治郎も、幸四郎よりはましとはいえ、関西弁がどこかわざとらしく聞こえる。 江戸と京都のお国自慢が長すぎて飽きた。
虎之助のおそのが可憐で、声もいい。隼人の文七は頼りないつっころばしを好演。七之助のお茶屋女将もちょぅといけずでしたたかな感じが良かった。
ラストに登場した勘九郎の持丸屋太兵衛が場を締めていた。

2022年7月15日金曜日

7月14日 「M.バタフライ」

岡本圭人のソン・リリン(バタフライ)が期待以上の好演。はじめ、京劇の拵えで出てきたときや、蝶々夫人の和装姿は、骨を感じさせる顔立ちや体つきが女性ぽくないように思ったが、プライベートのシーンでは立ち居振る舞いや話し方か柔らかく、夢の女のような魅力があった。男装に戻っての法廷シーンでは強かさも見せ、主役はこちらと思ったほど。腰が細いのでドレスが似合うのだが、残念だったのは足捌き。深いスリットのチャイナドレスで座るとき、足首が捻れたように曲がるのが美しくなかった。
ルネ・ガリマール役の内野聖陽は、理想の女にのめり込む男の滑稽さ、哀れさを活写。終盤の化粧をして、鬘、打ち掛けを纏って自害するとこの哀れさが壮絶。(そのあと、数分でメイクを落とし、くたびれた背広姿に戻っていたのは驚いた) 
事実と回想が入り混じり、ガリマールとソンの視点が入れ替わるので少し混乱する。妄想シーン?で出てくるガリマールの幼馴染マルク(みのすけ)の役割が今ひとつ分からず。ラスト近く、ソンが復縁を迫るところはソンの告白のようにも見えたが、これも含めてガリマールの妄想でいいのかな?

演出は劇団チョコレートケーキの日澤雄介。 

2022年7月10日日曜日

7月10日 OSK日本歌劇団「REVIEW inKYOTO」

「陰陽師」

安倍晴明と蘆屋道満の争いを軸に、鬼と恐れられる渡来人の物語を絡める。茨城童子が姫となり、源博雅と恋するという展開は、トンデモだけど少女漫画のようで悪くない。1時間余りにコンパクトにまとめてテンポよいのだが、鬼たちのハードロック調の音楽と衣装にいたたまれなくなった。昭和ぽいというか…。楊琳の晴明は、白を基調とした衣装が清々しいが、カラッとした明るさが子供っぽくも感じた。博雅の翼和希も青年というより少年の面影。 敵役の登堂結斗が低い声と重みのある佇まいで好演。茨姫はダブルキャストで、この日は千咲えみ。 

「INFINITY」は春も観たが、舞台装置やフォーメーションが変わり、洗練された印象。桐生麻耶が出てくると王者の貫禄というか、横に並ぶ楊を圧倒して見えた。ロケットはちょっと短い?と思ったら、トップ以下全員参加で再度踊ってくれたのがらしくていい。 

2022年7月9日土曜日

7月8日 大槻能楽堂自主公演 ろうそく能

吉坊の案内で、平知盛が題材の文楽「義経千本桜」と能「碇潜」。

文楽は呂・清友の床に、人形は勘十郎の知盛のみ。戦装束に着替えた銀平が、典の局、安徳帝に挨拶して出陣するまでの20分ほど。
湿度が高いせいか、三味線の音色が冴えない。呂の語りは相変わらず。脇正面の前方の席だったので、3人遣いの連携する様子がよく見えて興味深かった。

能の「碇潜」は、吉坊が「てんこ盛り」と言っていた通り、前場ではシテの教経とツレ安芸太郎・次郎兄弟のそれぞれに作り物の舟があるし、後場は屋根付きの船に子方を含め4人(知盛、二位の尼、大納言局、安徳天皇)が乗って登場。
前シテを演じた大槻文蔵は戦の場面の描写が見事。ツレの2人と共に海に飛び込むところの緊迫感と寂寥感がすごかった。
後シテの知盛は大槻裕樹。若々しく、キビキビした動きで、立ち回りから碇を担いだ入水までをダイナミックに見せた。