倉庫の会場に設えられた舞台は三間四方ほどの正方形。開演前はぐるりと白い幕で覆われ、都会の喧騒?や文字などの映像がランダムに流れる。
幕が降りると舞台中央に与兵衛(獅童)が佇む。が、最初の一言でげんなりした。何なのだあの気持ち悪い関西弁は。獅童が情け無い男を演じる時によくやる、上ずったような声もいただけない。安酒場で小兵衛(赤堀雅秋)に借金を催促されているのだが、小兵衛が堅苦しい武士言葉なのも違和感がある。こいつはもっと小物ではないのか。仲間の男たちがやってきて、与兵衛と小菊の仲を冷やかすのだが、与兵衛が帰ると口々に悪口。小菊もおだてれば金を出すいいカモだと言っているとか。与兵衛はアホで無軌道な若者だが、いちおう二枚目だと思っていたのだが違うらしい。
小菊の壱太郎は、与兵衛の手を取って甘い言葉を囁く様が色っぽい。喧嘩になって引っ込んですぐ、お吉として登場する変わり身も鮮やか。今度は世話好きのお姉さんといった風情。お光役の子役の女の子がなかなか達者。荒川良々の演じる七左衛門は、「帯といて⁉︎」「べべ脱いで⁉︎」といちいち繰り返すのが、歌舞伎を見慣れない人にはわかりやすくていいのかも。
野崎詣りに訪れた夫婦(翫政、吉太郎)がイチャモンをつけるところ。自分たちはささやかながら幸せだという参詣人の男から与兵衛が「幸せなのか」と問いかけられるのが意味深。
おかちが先代徳兵衛の霊が取り付いたフリをするところ、吉太郎がドスの効いた声で凄みがある。が、与兵衛が「先代」と呼びかけるのは変では?そこは親父とかでしょ。吉弥の母おさわは情に溢れる芝居だが、何もないセットで場を持たせるためか、やたらと移動していたのが気になった。
豊島屋に儀兵衛夫婦が訪ねてくるところは、与兵衛が舞台の外に立って中を伺う。せっかく顔や姿がよく見えるのに、うろうろするばかりで、これといった心理描写が見られなかったのがもったいない。殺しはあっさりめ。油桶を倒すのは最後の最後で、滑ってのすったもんだは短い。早々に与兵衛が刀を落としてしまい、とどめは首を絞めていたような。全てが終わったところで起き出してきた子供に「何してるの?」と問われた与兵衛が「遊んでるんや」と答えるやりとり。しっかりと与兵衛の顔を見ているので、今後の伏線かと思ったのだが。
金回りが良くなって豪遊する与兵衛。あいそを振りまいていた小菊が、「あいつはもうダメだ」と突き放す冷たさ。
逮夜では、お吉を弔うお光が与兵衛を見て怯えた様子を見せるのだが、それ以上はなし。殺しの直後に顔見てるんじゃないの?天井から落ちてきた血染めの書きつけの筆跡が元で犯行がバレる。叔父森右衛門(猿三郎)は捕まる前に与兵衛を見つけて逃がそうとしていたが間に合わず、縄にかかる与兵衛は老親と対面する幕切れ。
チーム上方の個々の芝居は良かったが、作品としては突き抜けたところがないように感じた。期待しすぎたのか。
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