2020年10月25日日曜日

10月24日 木ノ下歌舞伎「糸井版 摂州合邦辻」

再演にして濃度が増し、アングラ感が高まった。玉手御前の内田慈をはじめ、多くのキャストが初演から引き続き、個々のキャラクターが際立って見えた。
冒頭に、合邦が玉手を刺す場面を見せ、その後も折々にそのモチーフを挿入する手法で、嫌でも物語が玉手の死に向かっていることを印象付ける。
何本もの柱が林立するセットは初演を踏襲しているが、ちょっと古びた木目調が目についた。 
内田の玉手はブルーの濃いアイメイクが際立ち、毒婦感が増した感じ。2幕の回想シーンで、幼少期に合邦と手を繋いで歩く無邪気さと、らい病で醜くなった俊徳丸に恋を仕掛ける妖艶さのギャップ。朝香姫を蹴り殺すというのが鬼気迫るあまり、その後のモドリとの整合性に戸惑った。
つい1週間ほど前に文楽の合邦住処を見たばかりなので、違いにいろいろ気づくことも。一番の相違は、文楽では合邦の物語なのに対し、糸井版では婆おとく(西田夏奈子)の存在が大きいこと。幼少期の回想シーンでは、玉手(お辻)と父、合邦との思い出を描き、パパと娘のデュエットが一つの見せ場なのだが、現代シーンでは玉手を刺した後の合邦はあまり印象がない。おとくは久しぶりに迎えた玉出にあれこれ世話を焼いたり、死んだ後は長尺のソロ歌唱で嘆きを一手に表現する(そして、この歌が聴かせる!)。役者の力量なのかもしれないが、色々と感慨深いものあり。
合邦が玉手に手をかけるシーンでは、西田のヴァイオリンと高山知宏のトランペットを伴って、伊東佐保(だったか?)が義太夫風の語りが迫力を増す。  
朝香姫(永井茉梨奈)は俊徳丸(土屋神葉)より背が高く、昔のお姫様というより、己の力で突き進む現代的な強い女性像。子供の頃、将来結婚しようという俊徳丸と次郎丸の両方に「まる!」と答えていたのはどうかと思う。これでは、次郎丸がしつこく迫るのもしょうがないのでは。 

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