2024年6月29日土曜日

6月29日 十一代目豊竹若太夫襲名疲労公演「平家女護島 鬼界が島の段」

対談は児玉竜一と河内厚郎。
聞き手の岩城則子の仕切りがふんわりしていて締まらない感じ。若太夫について語るのかと思いきや、俊寛のあらすじを細かく解説したり。明治期にはあまり上演されていなかったのを山城少掾が復曲し、以後山城の弟子筋が語ってきた。近年は越路が得意としていたので、越路の弟子でもある若が語るのは適任だとか。山城は復曲にあたって座外の伝承者に習ったのだが、別のところの2人から同じ節を教わり、伝承の力を感じたそう。

若太夫については、文楽劇場のパンフレットのあったような芸筋を説明。詞の巧さに当代の良さがあるので、俊寛や瀬尾だけでなく、二枚目成経の語りにも注目と言っていたが、、、。

「平家女護島」

語り出しにずいぶん時間をとっていたが、重々しさはない。語り分けのメリハリがなく、誰の詞も同じように聞こえる。瀬尾が軽く、敵役というより、小悪人のよう。千鳥はしゃがれ声でちっとも可愛くない。
人形は健闘していて、和生の俊寛には品と憂い、瀬尾に切り掛かるところには激しさがあった。幕切れはすがるような感じ。
千鳥の簑紫郎は健気。精一杯可愛くしてた。

セットは簡易版?で、俊寛の東屋がなかった。最後に岩が回るのは人力で動かしていたのが見えた。ご苦労様。 

2024年6月23日日曜日

6月23日 宝生能楽堂 夜能

津田健次郎の朗読。
声の表現が豊かで、さすが引き込まれる語り。白拍子が妖艶なのはイメージと違ったけど、怨念が恐ろしいほど。住職が「我らが願い聞き入れたまえ!」と叫ぶところはヒーローみたい。 
中正面寄りの正面席目付柱近くに立ってやや下手目線だったので、ずっとこちらを見ているようでドキドキした。
長田育恵の上演台本は、白拍子目線の独白が面白い。が、最後の「ただ一度、あなたの瞳に見つめられ、その指に触れていただきたかった」というセリフには納得しかねる。蛇にまでなる情念はこういう控えめな態度と相入れないと思う。
雅楽の楽器の中に巨大な三味線をチェロのように弾いているのがあり、何かと思ったら豪弦という大正時代に作られたオリジナル楽器だそう。

能「道成寺」
宝生流宗家のシテ。小柄なせいか、可憐で健気に感じる。座席からは乱拍子の間中、視線の上にシテと小鼓方がいて、緊迫感のある息遣いを感じられた。小鼓方の鵜澤洋太郎は長い掛け声(イヨーッ)を声が掠れるまで伸ばしていて、シテは静止の緊張感を極限まで張っている。
鐘入りの前、烏帽子と扇を払ったのが白洲まで飛んで(すかさず後見が客席から回収)、鐘のしたに滑り込んで飛び上がるまでの息迫る迫力!
鐘が上がると誰もおらず、少し遅れて鐘の中から後シテが現れる演出。一瞬、消えたのかと驚いた。僧たちに調伏され、泣きながら引っ込むのは、蛇身に変わった我が身を恥じているようにも見えた。

アフタートークによると、野口兼資の型付けを参考にしたそう。中の段で乱拍子を繰り返し、最後に杖を投げて泣いて帰るのは十八世、鐘を引き上げた時に姿がないのは五世の演出?で500年前の伝書にある。鐘の中にぶら下がった状態で引き上げるため、通常よりも鐘後見を増やしたのだとか。宗家の体格(160cm台、52kg)と体力あってこその演出。乱拍子は申合せ1回のみ。相手の呼吸で変えていくのだそう。

2024年6月22日土曜日

6月22日 文楽若手会


「源平布引滝」

九郎助住家の段の中を碩・清允。
のびやかな声。全体的に音程が高く、九郎助女房などは上品すぎる感じ。

次は小住・錦吾。小住は大きな声はいいが、もう少しコントロールされるとなお良いと思う。

前は靖・寛太郎。義太夫節らしい語り。低音部には苦戦していたが、女性の語り分けもしっかり。寛太郎の三味線が引き締める。

後は希・清丈。単調な感じがしてしまう。

人形は簑紫郎の瀬尾の身振り手振りが雄弁で、語りを補っているかのよう。玉勢の実盛の動きが悪く、瀬尾と並ぶと見劣りした。
小まんは頭巾をしていて分からなかったが、簑悠。腕が付いて気がつく前に目が開いていたような…。

「菅原伝授手習鑑」

寺入りを薫・燕二郎。
3年目とは思えない、しっかりとした語りぶり。語り分けなどまだまだなところは沢山あるが、正解に向かう途上にある感じがする。燕二郎の三味線はキッパリしていていい。 

人形は寺子たちがちとふざけすぎ。

寺子屋の前を芳穂・友之助。この座組では抜群の安定感。
後は亘・清公。

人形は玉翔の松王丸、簑太郎の源蔵、玉誉の戸浪、紋吉の千代。  



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2024年6月17日月曜日

6月17日 文楽鑑賞教室 Dプロ

 「二人三番叟」

希、亘、聖、織栄に清丈、寛太郎、燕二郎、藤之亮。

リズムが崩れることなく、安心して聞けたのはシンの力量か。

人形は和馬と玉誉。


「菅原伝授手習鑑」

寺入りは碩・清公。

寺子屋の前は呂勢・藤蔵、後は芳穂・錦糸。

呂勢は時代ものらしい重厚な語り。戸波、千代の語りわけはもとより、松王丸、春藤玄蕃のような悪役の低音もいい。学校鑑賞できていた女子高生?は半分近く寝ていたが、「蠅虫めら!」で目が覚めていた様子。藤蔵の三味線も力強く。

後の芳穂も錦糸の三味線で重厚な語り。松王丸の泣き笑いははじめ乾いた笑いで、だんだん泣きが入ってくる感じ。いろは送りも聞かせた。

人形は紋臣の千代のリアクションが細かい。紋吉の戸波、玉勢の源蔵。簑紫郎の松王丸が意外と凡庸。

2024年6月16日日曜日

6月16日 六月大歌舞伎 夜の部

 襲名披露狂言の「山姥」のみ幕見で。

萬寿の山姥は若々しく、梅枝の怪童丸と並んで嬉しそう。梅枝は元気はつらつで、立ち回りの決めポーズもしっかりしてた。

時蔵が白菊役登場し、劇中口上。菊五郎が藤原兼冬で口上役を務めた。(とはいえ萬寿の紹介のみで、後は萬寿に振っていた)セリフはしっかりしていたが、御簾内から座った状態での登場は歩行が難しいからか。

獅童の息子、陽喜と夏幹が初舞台。夏幹はまだ滑舌も辿々しいが、ちっちゃい子が懸命に舞台に立つ姿はほのぼのする。

6月16日 新国立劇場バレエ団「アラジン」

 福田圭吾のアラジン、池田理沙子のプリンセス。

福田は確かなテクニックではつらつとした踊りが心地よい。やんちゃというより優しい印象だったのは少し意外。今期で引退というのは惜しいけれど、主演の舞台が見られたのは嬉しい。

池田のプリンセスは可愛らしい。浴室のシーンではプリンセスのオーラが薄くて、お付きたちに紛れてしまうように感じた。キラキラした装飾品がなくても主役感を醸し出すには経験が必要なのか。

ジーンは渡邉峻郁。シュッとした感じ。マグリブ人の中島駿野は宇宙人ぽい。中家正博がサルタンの守衛で、前日のマグリブ人と打って変わって翻弄される様が面白い。

2024年6月15日土曜日

6月15日 新国立劇場バレエ団「アラジン」

奥村康祐のアラジン。陽気でイタズラっぽい感じが役にあっていて、表情がくるくる変わる。一幕の前半は踊りっぱなしで、友人たちとの絡みも楽しい。ただ、2幕で浴室に忍び込むのはヤバいやつだし、アラジンがプリンセスに惹かれるのはともかく、なんでプリンセスがアラジンに惹かれるのか分からないが、パドドゥからは幸せが溢れているからいいか。 
プリンセスの米沢唯は可憐。複雑なリフトも軽々として見えたが、体調不良で2幕で降板。大事でないといいけれど。
3幕は急遽、福岡雄大&小野絢子ペアに。急な登板にも関わらず観客を惹きつけるのはさすが。アラジン役は奥村の方がニンに合ってると思う。急に大人になってしまったみたい。

ジーンほ井澤駿。上半身に陰影をつけて筋肉を強調していたにせよ、こんなにマッチョ(厚み)だったか。キレのある踊りで魅せた。

6月15日 六月大歌舞伎 昼の部


「上州土産百両首」

獅童の正太郎に菊之助の牙治郎。悪くはないのだが、1時間半は長く感じた。途中、主人公は牙治郎ではないかと思うところも。隼人の三次が今ひとつワルになりきれない感じ。 

堅気になった正太郎が板前として働く上州の店の娘を米吉。正太郎と婿にという話があってイチャイチャするところがあるのだが、明度が明るすぎる感じで、獅童となんか釣り合わない。

「時鳥花有里」

義経千本桜の短い舞踊で花を添える。又五郎の義経と染五郎の鷲尾三郎、この2人の組み合わせは珍しい。
白拍子に児太郎、米吉、左近が並ぶ。かれんな米吉、左近と並ぶと児太郎の体格の良さが目立つ。


「妹背山婦女庭訓」

新時蔵の襲名披露狂言で、三笠山御殿の場のみ。

七之助の橘姫がたおやかな姫の気品があり、おっとりと古風。求女を一途に恋して、邪念のかけらもない感じが素晴らしい。お三輪との絡みも観たかった。改め萬寿の求女は絵に描いたような貴公子で、言っていることはつくづく酷い。橘姫の好意を利用しながら、二世の夫婦とか甘言を並べたりして。

お三輪の時蔵は初めから終わりまで隙のない好演。花道から出てくるところは恋に一途な町娘で、いじめ官女に痛ぶられるのはただぢ哀れ。一旦は家に帰ろうとするも、官女たちの囃し立てる声に煽られて擬着の相に変じるところが凄まじい。単なる嫉妬を超越した凄まじさがあり、これが擬着というものがと思った。

豆腐買いおむらに仁左衛門。娘おひろの梅枝を連れて登場。劇中口上もあり、新時蔵を古風で華のある素敵な女方と紹介。大晴改めて梅枝は、芝居が大好きでいつも袖から見ていると。三代の襲名はめでたく、親戚として柄にもない役で花を添えたと照れた風。花道を引っ込むところで間違えて「播磨屋さん」と言いかけたのはご愛嬌。

いじめ官女は小川家総出で。隼人、歌昇、獅童、又五郎、歌六、錦之助、萬太郎、種之助がそれぞれ張り切っていじめる。獅童で一際笑いが起こって、歌昇も笑いを堪えてた。 

松緑の鱶七が大きく説得力があった。

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2024年6月13日木曜日

6月13日 文楽鑑賞教室 Bプロ

「 二人三番叟」

芳穂、咲寿、聖、織栄に寛太郎、清公、燕二郎、藤之亮。
お囃子とリズムがずれそうになるのを寛太郎が引き締めて崩壊するのをとどめていた感じ。変な緊張感があるのやめてほしい。

人形は勘介と簑太郎。勘介が真面目な方だったが、逆の方がキャラに合ってるかも。


解説は勘次郎。
サラサラと澱みないのだが、聞き流されてしまいそう。


「菅原伝授手習鑑」

寺入りは碩・錦吾。
寺子たちの語り分けもできていて、菅秀才が賢そう。

寺子屋の前は織・清志郎、後は希・清丈。
織の語りは気持ちよさそうに歌っているのだが、義太夫節ではなくなっているような。清志郎の三味線も心なしか切れ味が鈍い。
希は単調。松王丸の泣き笑いの泣きが薄く、急に声を張り上げるのでびっくりする。

人形は玉助の松王丸に大きさがある。簑一郎の戸波、勘彌の千代、源蔵は文昇。

2024年6月9日日曜日

0609 いばらきバレエへの誘いvol.2「白鳥の湖」

 弦楽四重奏の演奏で解説付きでバレエを抜粋で上演する趣向。菘あつこの解説が的確で、初心者にも親しみやすく。舞台との距離が近いので、ダンサーの踊りを間近で感じられる臨場感がいい。演奏の音が小さかったのと、テンポの早いところがもたついた感じがしたのが残念。

地主薫バレエ団の若手キャストも楽しみ。オデットとオディールが別役で、井上裕美のオデットは清楚な感じで、踊りも端正。オディールの山崎優子は妖艶というより健康的な感じながら好演。フェッテの最後回りきれなかったのが惜しい。ジークフリートの宗近匠はノーブル。ロットバルトの松田大輝はスラリとした長身が映えるが、メイクが残念だった。

2024年6月8日土曜日

6月月8日 スーパー歌舞伎「ヤマトタケル」夜の部

団子のヤマトタケルは役の年齢に近いせいか、リアリティが増す。我が道を模索する若者の迷いや苦悩を吐露するセリフが胸に響く。三代目猿之助は映像でしか観たことがないけれど、四代目も、そりゃあ上手いのだが、演じている感が常にある。団子は役になりきっているというか、それだけ必死ということもあるのだろう。大碓命と小碓命の早替わりは鮮やかで、声の使い分けもはっきりしている。大碓が弟橘姫に言いよるところで「男というものは色々な女が欲しいものだ」というようなセリフ(うろ覚え)にドキリとした。最後の宙乗りは長い手足で羽ばたく姿がスラリとして映える。 

兄橘姫と妹橘姫は壱太郎が二役で。意思のある女性像を描いていて、妹橘が海に身を投げるところなどしっかり魅せた。
倭姫の笑三郎はともかく、笑也が尾張の国造の妻だけというのは物足りないが、団子の相手役というのは厳しいのか。

6月8日 文楽鑑賞教室 Aプロ

「二人三番叟」

睦、南都、小住、薫に清馗、友之助、清允、清方。
南都が懸命に声を張り上げていて驚く。三味線とお囃子、足踏みの調子があっていなくて気持ち悪い。何度も思わずじっとシンの清馗を見てしまったので向こうにも気づかれた感じで気まずい。チラチラ舞台?御簾内?を見ていたのはなにか含むところがあるのか…。
人形は玉翔、玉路。

解説は簑太郎、和馬、勘昇。
女方の首を震わせて泣くのが、あまり震えてない。
久しぶりに、観客を舞台に上げて人形体験。学校鑑賞で来ていた中学生?が積極的に手を上げていてよし。


「菅原伝授手習鑑」

寺入りは 亘・団吾。

寺子屋は前が藤・燕三、後が靖・勝平。
藤は軽い感じで、源蔵の深刻さが薄くてサラサラと流れていってしまう一方、寺子の呼び出しのところはフワフワしていて軽妙な面白さがなく、全体的に物足りない。せっかくの燕三の三味線が勿体無い。
靖は盆が回るやフルスロットルの語りで、これぞ義太夫節!という聞き応え。千代の嘆きや松王丸の泣き笑いもしっかり泣かせた。勝平の三味線も大きくてよし。

人形は簑二郎の源蔵が細々と手数が多い。簑紫郎の戸波と似合いの夫婦だ。千代の清十郎の抑制の効いた演技がいい。 松王丸は玉志。


2024年6月1日土曜日

6月1日 大槻文蔵 裕一の会

文蔵と野村萬斎の対談「伝承と継承」

能の演出についてなど。かつて照明能を試みた時、数時間かけて徐々に日が暮れていくように照明を絞るよう演出したところ、照明スタッフから嫌がられたとか。新作能では古典にはないような演出をあえて意図して、鬼滅では暗転を取り入れたとか。

「養老」 

水波之伝の小書。アイがなく、前場が終わると後ツレの楊柳観音が舞う演出は華やかでいい。シテは裕一。前シテの樵翁は若さが前に出てしまい、老人には見えなかったが、後シテの山神は緩急の効いた舞が清々しい。

「蝸牛」

囃子入の小書。ホール公演用に賑やかさを加えるため、20年ほど前に作った演出だそうで、「でんでんむしむし」と囃すところでお囃子が入る。野村萬斎の太郎冠者、裕樹の山伏、中村修一の主。


「葵上」

古演出によるとあり、前シテの六条御息所の登場時に車の作り物を置き、三人の青女房を従える。青女房がいると位の高さが感じられる一方、葵上を攻め立てるところは御息所の思いの激しさが薄まってしまうように思った。前場の終わり、橋掛に向かう途中、囃子座のあたりで奥義を放るのは、先週見た林宗一郎(葵上の着物に向かって投げつける)と違ったが、演出の違いか? 文蔵のシテは気品のある佇まいで、嫉妬に駆られる自身を抑えられない悲しみが満ちる。ツレの照日ノ巫女は裕一で、梓弓を持って登場。ワキは福王茂十郎。

咲くやこの花賞・大阪文化祭奨励賞受賞記念と銘打ち、ロビーには賞状とトロフィーが飾ってあった。