2023年11月19日日曜日

11月19日 文楽公演第3部

 「冥土の飛脚」

淡路町は織・燕三。

忠兵衛ってしょうもない男だなあとしみじみ。

封印切は千歳・富助。

切り語りの風格だが、世話物はもっと柔らかくてもいいのかもと思ったり。歌舞伎と色々設定が違うので、梅川の「嬉しかったはたった半刻」のセリフはなく、封印を切った忠兵衛に金をちゃんと届けるよう懇願したりしていて、忠兵衛の嘘に納得したとは思い難いのだが。

道行相合かごは三輪の梅川、芳穂の忠兵衛、碩、聖に団七、団吾、清公、清允、藤之亮。

黒羽二重でなく、普段着のような着物の梅川忠兵衛。

人形は勘十郎の忠兵衛に勘彌の梅川。禿の簑悠が三味線を弾く動きを繊細に表現。

2023年11月18日土曜日

11月18日 レイディマクベス

天海祐希とアダム・クーバーの共演に期待大だったが、やっぱり日本語のセリフには難あり。無口な設定だけど、途中、英語で独白するところは感情とセリフが一致してよく伝わった。(娘が日本語で大意を繰り返していたようだが、逐語訳というわけではなかったので、意図がよく分からなかった )
アダムは身体表現がよく、度重なる戦闘で疲弊していく様が痛々しい。天海のレイディと見つめ合って手を重ねあうダンスのような場面が美しい。
天海のレイディは凛とした、強い女性像が際立つ。こういう女性(というか天海)が惚れるのは、アダムでないとダメだったのかなと想像した。

レイディや娘の吉川愛、鈴木保奈美のマクダフ、レノックスの宮下今日子と女性の口から色々なことを語らせるのは、時代性の表現か。女性の生きづらさみたいなものを感じた。バンクォーは要潤。

レイディが貧困層の出身だったり、バンクォー王を殺すのではないなど、原作と違う設定が多く、シェイクスピアのマクベスの外伝と思ってみると少し戸惑う。時代設定も違うし。


11月18日 文楽公演 第1部

「双蝶々曲輪日記」

堀江相撲場の段は長五郎の睦、長吉の希に清馗。 
濡髪と放駒のやり取りが単調なのか冗長に感じられ、退屈。

難波裏喧嘩の段は長五郎の津国、郷左衛門の南都、有右衛門の文字栄、吾妻の咲寿、与五郎の亘、長吉の碩に寛太郎。
津国がシンというのは珍しいのでは。味のある声は嫌いではないが、フシの抑揚が小さく、棒読みのように感じてしまった。 

八幡里引窓の段は小住・勝平の中から呂・清介の切へ。
小住は婆の言葉に味があり、濡髪の骨太さもよい。おはやにもうちょっと色気があれば申し分なし。
そして切の呂。若太夫になる人の語りだからいいところがあるはずと頑張って聞いたのだが、意識が飛んでしまったのは言葉が入ってこないから。やはり、ある程度の音量というのは必要なのだと思う。三味線にかき消されるようでは心許ない。

人形は一輔のおはやにしっとりした色気があり、玉男の十次兵衛は情のある男ぶり。玉志の濡髪は少し印象が薄いかも。  

「面売り」

呂勢、靖、亘、薫、織栄に藤蔵、友之助、錦吾、燕二郎、清方。
織栄が一節一人で語るところをもらっていて、のびのびとした素直な語り。

人形は玉佳の案山子に勘彌の面売り。
面売りが次々に面を変えて踊る。最後は案山子も天狗の面をつけて。


2023年11月17日金曜日

11月17日 OSK日本歌劇団 REVUE in Kyoto 午後の部

一幕だけの70分のショー。京都ということで加えられた和物?のシーンは正直よく分からなかったが、洋になってからは申し分なし。全体的にテンポが早く、群舞がよく揃っていたし、チアリーダーの衣装でのロケットなんか涙が出た。このところスピード感が足りないように思っていたが、これぞOSKという勢いがあった。タンゴやフラメンコなど、様々なジャンルの踊りを見せる趣向で、ヒップホップもちゃんとダウンのリズムになっていてちゃんと乗れる。白燕尾のステッキ、黒燕尾のデュエットダンスなど、レビューならではの踊りも充実。惜しむらくは音楽が打ち込みで安っぽいことか。 迷っていたけれど、観に行って良かった。

和物のシーンは、光源氏やら義経やら弁慶やら幸村やらが現れるのが脈絡ない感じで、足元がブーツというのもなんちゃって感が…。坂本龍馬?らしき楊琳が大立ち回りの末、なぜか刀を鞘に収めてから討たれるのとか、展開も?が多い。 

ブギウギ効果で客席の入りがとてもよく、演者も乗っているのがよくわかる。カーテンコールの挨拶で楊琳が「OSKだけでなく歌劇を応援して」と言っていたのは、パワハラ問題で揺れる宝塚を意識してのことなのだろうな。

2023年11月12日日曜日

11月12日 吉例顔見世大歌舞伎 昼の部

「マハーバーラタ戦記」 

金色の煌びやかな神々の場面。那羅延天の菊五郎が声も佇まいも神々しい。紅一点のラクシュミー、芝のぶも眩い美しさで、美声を響かせる。

全編を通して、芝のぶの活躍に胸熱。鶴妖朶王女は初演時に七之助が演じた役なので、大抜擢とは思っていたが、ここまで出ずっぱりだったかしら。大詰めの甲冑姿はちょっと似合わないと思ったが(おっとりした雰囲気が勇ましい形に合わないと思われる)、時に凛々しく、時に妖艶に様々な表情を見せ、無念の死を遂げる最期まで大活躍。
菊之助の迦楼奈は主人公なのに悪の側に肩入れするなど共感しにくい人物だが、大詰めの花道で決意を示すところに痺れた。
納倉王子の鷹之資、沙羽出葉王子の吉太郎は同世代感があって仲の良い兄弟の雰囲気。吉太郎葉戦闘場面での身のこなしがキッパリして目を惹かれた。
我斗風鬼写とガネーシャの二役を演じた丑之助は大人にも引けを取らないくらい堂々として頼もしい。セリフをいう時に顎を引き気味の姿勢はクセなのか気になった。


2023年11月11日土曜日

11月11日 吉例顔見世大歌舞伎 夜の部

「松浦の太鼓」と「鎌倉三代記」のみを幕見で。

仁左衛門の松浦侯のかわいさに尽きる。「バカバカバカ」は3回くらい言っていたか。側で見ているにはチャーミングだが、本当にこんな上司だったら嫌だ。五人衆に猿弥、隼人、鷹之資ら。終始真面目な猿弥というのも珍しいような。隼人は今回も落馬するお殿様を抱き止める役。

鎌倉三代記は梅枝の時姫の古風で可憐なこと。首を傾げる角度や指先まで神経が行き届いていて、これぞお姫様。三浦之助の時蔵は本当はこちらをやりたいのではと思う。けど、三浦之助の仕打ちって酷くないか?散々試した挙句、父を殺せとか、人の所業とも思えん。

佐々木高綱を芝翫。藤三郎に化けていた時は今ひとつだったが、高綱の正体を表してからは堂々とした武人ぶりが板についてる。 

2023年11月6日月曜日

11月6日 文楽公演第2部

 「奥州安達原」

朱雀堤の段は藤・清志郎。なんかあまり盛り上がらない場面だと思うなど。清志郎はじっと前を見つめ、気迫のこもった演奏。

敷妙使者の段は希・清丈。

矢の根の段は芳穂・錦糸。芳穂の語りに的確さというか、確らしさが増しているような。錦糸の導きか。

袖萩祭文は呂勢・清治。とても聞き応えがあったが、袖萩の夫が阿部貞任だと分かって傔仗が奥へ引っ込むところで切と交代。お君の「あんまりお前が寒かろうと思うて」の件が聞けなかったのは残念。なぜ? 清治は後半、じっと下を向いて弾いていて、タブレットを見てる?

貞任物語は錣・宗介。いきなりのクライマックスみたいな語りにもかかわらず、エモーショナルな語りで泣かせる。このコンビは安定感があるなあ。

2023年11月5日日曜日

11月5日 太陽劇団「金夢島」

日本へのオマージュに溢れた約3時間。ごった煮のような舞台で、いろいろ凄いのだか消化し切れない感じもする。幻想や誤解も色々あるし、 日本人役の俳優がベージュのマスクのようなのをしたのも違和感があり、遠目にはアジア人の平坦な顔のように見えるのだが、表情がなくスケキヨのマスクみたいで不気味。 能の謡や仕舞はよく稽古したのだなあという感じだが、摺り足ではなく、真似っこに留まるし、カタコトの日本語のセリフは拙い。歌舞伎の女方のように女装した俳優は、なぜか帯を胸の辺りで締めていて小梅太夫のよう。

日本だけでなく、アラブやブラジル、香港など、さまざまな国の役が入り乱れ、描かれる異文化にへえと思うところもあったり、唐突に挿入される神風特攻隊の件など盛りだくさんな内容なのだが、舞台転換が多く、打つ切れにされてしまう。車の付いた所作台のようなものを縦横無尽に動かして、時に能舞台のように、時に細長い道に、時に銭湯にと舞台転換するのだが、転換が多いので退屈に感じた。

政治風刺が多く、カジノ誘致派に環境のチェルノブイリと批判したり、香港の椅子、民主化運動が弾圧される様子などが織り込まれる。イスラエル人の妻とパレスチナ人の夫の劇団が常に言い争いをしていて、動きが遅いのを「中東和平より遅い」と批判するのは、作品が完成した2021年当時ならともかく、イスラエルによるパレスチナへの攻撃が深刻化している今の状況では笑えない。 

参加が危ぶまれていた人形劇団が、上演時間が長いと敬遠されるのは文楽が置かれている状況そのものだが、それに対する解はなかった。 あと、舞台の後ろの方に大きな炊飯器が置かれていたのだが、芝居に絡むことはなく何だったのだろう。

1970年代のアングラの雰囲気を色濃く残していて、すごいものを見たという感じはあるが、好きか嫌いかで言ったらあまり好きではないのかも。

2023年11月4日土曜日

11月4日 木ノ下歌舞伎「勧進帳」

2015年も観たはずだが、より深く観られて印象が変わったように思う。弁慶と富樫が主役と思っていたが、番卒・四天王の4人が物語の進行を担う部分が大きいと気づいた。勧進帳の読み上げや山伏問答の緊迫感の高い駆け引きはもちろん弁慶と富樫の見せ場なのだが、義経と弁慶の間のボーダーを歌うラップや延年の舞?のダンスなど、彼らが活躍する場面が案外多い印象。

富樫役の坂口涼太郎に存在感がある。個性的なルックスが効いているだけでなく、摺り足での移動や弁慶に詰め寄るところなどで踊りのような動きを見せ身体表現の力も高い。楽しそうな弁慶一行を羨む富樫が、最後に舞台には取り残され、孤独や様々な感情が入り混じった表情が印象的だった。

ボーダーは関所だけでなく、主従の間にも。打擲を詫びる弁慶に顔を上げるよう促す義経の手を弁慶が掴むことはない。味方であるはずの義経と弁慶の間のボーダーとは?と考えた。

2023年11月3日金曜日

11月3日 エイチエムピー・シアターカンパニー「ハムレット 例外と禁忌」

 前半は原作通りのハムレットだが、中盤から大幅に手が加えられている。一番の違いはガートルードで、森に住む種族だったが王妃に迎えられ、戦争で森が破壊されていくのに耐えられず先王を殺害。同じ血を引くハムレットと心を通わせるなど、母としての姿が色濃く、水谷有希が気品ある姿で母の苦悩や王という男に従わざるを得ない女の弱さややるせなさを好演。

高安美帆のハムレットは抑えめの演技。「生きるべきか」や「尼寺へ行け」も淡々としていた。ラストは死なず、けれど王子としての立場を捨て「私はハムレットだった」とハムレットマシーンのセリフに繋がる。

オフィーリアの阿部洋花はセリフがよく、前半の可憐さと後半の狂気の変わりよう、どちらも良かった。旅の一座の座長など複数役を務めた河上由佳が狂言まわしのような役どころで、印象的だった。斬円だったのはクローディアスの延命聡子で、宝塚の老け男役にありがちの役の大きさに体が合っていないような感じで、特に前半が辛かった。

正方形の舞台の後ろに壁があり、2階部分があるシンプルなセットで、時に映像で城壁など背景を写す。衣装は黒のシャツパンツorドレスに織り柄のスカーフを組み合わせ、役ごとにテーマカラーがある感じでキャラクターがわかりやすかった。