2021年10月30日土曜日

10月30日 新国立劇場バレエ団「白鳥の湖」

 小野絢子・奥村康祐ペアは一番の期待を上回る大満足の舞台。今まで見た中では、ダントツの1位をささげたい。

奥村の王子は、1幕はナイーブ、2幕でオデットと出会い惹かれていく様を丁寧に描く。白鳥の王子にキュンとしたのは初めてだ。3幕は、オディールの登場での喜びから、裏切られたと知り絶望に落とされる落差が切ない。テクニック的には、3幕のソロの音楽が他の日よりテンポが速かったり、リフトの安定感がちょっと足りないように見えるところもあったけれど、役を演じるという点ではずば抜けていたと思う。愛おしい王子だ。

小野のオデットは優美。白鳥たちを束ねる王女たる気品を感じさせる。ポスターのビジュアルで、オディールはどうかと懸念していたが、何のその。自信にあふれ、誘惑する様が魅惑的。オデットのマネをしてしおらしくする一方、挑発するような視線を投げるなど、メリハリの利いた演技が良かった。フェッテはシングルで始めてダブルを数回挟む程度で、基本シングルだし、技術的には米沢に譲るが、役を演じるという意味ではとてもよかった。

ポーランド王女の池田理沙子が転倒するハプニング。

2021年10月26日火曜日

10月26日 新国立劇場バレエ団「白鳥の湖」

 柴山紗帆・井澤駿ペア。

柴山のオデットはテクニックに不足はないが、慣れないせいか演じることを楽しむというところまで至らず、やることをこなすだけで手いっぱいという感じ。ところどころ音楽を十分に使い切れていないところもあり、惜しかった。どちらかというと、オディールのほうが、メリハリの利いた踊りで似合うように思った。

井澤の王子は、少し長い髪が獅子のたてがみのよう。情感を感じさせる演技ではあるが、ちょっと物足りない。ソロでは高いジャンプを披露し、テクニックも見せつけた。

クルティザンヌの緑のドレスのほう(広瀬碧?)の音の取り方が気になった。3人で並んで踊るところで一人ちょっと遅れ気味というか、音楽に合っていない感じがした。

2021年10月24日日曜日

10月23日 新国立劇場バレエ団「白鳥の湖」

 初日の米沢唯・福岡雄大を鑑賞。

冒頭、20日に亡くなった牧亜佐美元舞踊芸術監督への追悼が字幕に表示され、ロビーにも写真が飾られていた。

ピーター・ライト版は初見だったが、王子の描き方に特徴がある。プロローグは父王の葬儀の場面で、1場では早く妃を娶って王位を次ぐよう、王妃からプレッシャーを掛けられている様子が描かれる。福岡の王子は、ちょっと感情表現がぎこちない感じもあるのだが、1幕の憂い、2幕でオデットと出会ってからの歓喜、3幕でオディールに幻惑される様などを丁寧に表現していたように思う。

米沢のオデットは、羽のように軽く、折れそうに華奢な感じ。オディールの打ち出しはちょっと弱いようにも思ったが、終始ロットバルトと目くばせし、悪巧みをしている感じがあった。トリプルを連発したフェッテは圧巻。振り付けのせいか、オディールがオデットの振りをしている感じがあまりなく、あっさり騙されてしまった王子が間抜けにみえた。

4幕の冒頭、スモークがたちこめるなかから、白鳥たちが浮かび上がる幕開きに拍手がわいた。

ロットバルトは貝川鐡夫。2幕、3幕、4幕と全然別人のようないでたち。最期、被り物(冠?)を奪われて、禿頭をさらされ、みじめにのたうち回るのだけど、何で王子に敗れたのかよう分からん。

2021年10月22日金曜日

10月21日 外国人のための能楽鑑賞教室

 外国人の、と銘打ってはいるが、客席の9割がたは日本人だったような。解説のリチャード・エマート武蔵野大名誉教授は、能の稽古をしているようで、謡やすり足、舞の型などの実演を交えて。コトバとフシの違いはともかく、強吟と弱吟の違いは日本人でも分かりにくいと思うので、外国人向けの解説で必要なのかどうかは疑問に思った。

狂言「口真似」

大蔵基誠の太郎冠者、吉次郎の主、弥太郎の客。大蔵流らしいおかしみ。弥太郎のちょん髷は外国人の目にどう映ったろうか。

喜多流「高砂」

大村定のシテ、友枝真也のツレ、ワキは御厨誠吾。

もしかして、高砂をちゃんと見るのは初めてだったかも。登場人物は地味ながら、後半の舞が華やかなのが初心者むけなのだろうか。

2021年10月21日木曜日

10月20日 ジュリアス・シーザー

オールフィーメルというのに興味を持ったのだが、女性ならではの良さは特に感じられなかった。トーブのような衣装は、色がついているためドレスのように見えるし、髪型もソバージュや三つ編みなど女性のままで、男性を演じている感じがしない。出てくる役はほとんどが男性なのでことさら男性であることを強調しなくてもいいのかもしれないが…。ただ2人だけの女性の役、シーザーとブルータスの妻が出てくると、彼らの関係性が不明になりどちらも夫婦に見えなかった。

ブルータス役の吉田羊は、中世的な感じながら凛々しく、台詞がいい。感情の起伏に説得力があった。最期、可愛がっていた小姓に自殺の手助けをさせるのは、それまでの態度とのギャップが??だったが。
松本紀保のキャシアスは、意外にセリフがよくない。男の声にしようと作り声にしている感じで、アニメの声優のような不自然さが聞きづらく、前半、キャシアスの長台詞が度々あったので、つい意識を逃してしまった。
シーザー役のシルビア・グラフは貫禄はあるものの、女帝のよう。  
逆の意味で意外だったのは、アントニウスの松井玲奈。低い声が力強く、一番男を感じさせた。中盤の長演説も聞かせた。

2021年10月20日水曜日

10月17日 Noism Company Niigata × 小林十市「A JOUNEY~記憶の中の記憶へ~」

 Noism Featuring 小林十市といった感じ。

「Opening Ⅰ」から「追憶のギリシャ」旅行鞄を手に舞台の上に一人佇む小林のもとに、金森穣、井関佐和子が合流し、3人の踊り。

さらに、椅子を手にしたダンサーらが三々五々集まり、舞台下手に移動した小林の前で「BOLERO 2020」。お馴染みの曲だが、振りは全く違って、それぞれのソロをパッチワークでつなぎ合わせたよう。だが、時々ユニゾンの動きになるのが面白い。最期は円陣になったダンサーの真ん中で小林が踊る、ベジャール版を思わせる演出。

2部の「The 80's Ghosts」はグレーの衣装を着たダンサーたちが、スモークの中舞台後ろから現れ、ゾンビのように舞う。

最後、舞台に1人残った小林が、冒頭と同じようになって幕。まるで、エンドレスでリピートするかのよう。

Noismのダンサーたちは、皆身体能力が高いのだが、群舞になると井関の動きがひときわキレがいいのが分かる。ちょっとした角度やスピードの違いなのだろうけれど。小林もブランクを感じさせない踊り。後で、ケガを押しての出演だったと知って驚いた。

2021年10月17日日曜日

10月17日 文楽巡業公演@神奈川県立青少年ホール 昼の部

 「軍記」

熊谷桜の段は芳穂・寛太郎。なんだか、芳穂の音程がふらふらするというか、細かな抑揚つけすぎというか、新しい師匠の癖みたいなのを感じてしまったのはうがちすぎだろうか。寛太郎がちょっと弾きにくそうに見えた。

熊谷陣屋の段は前が呂勢・清治、後を呂・清志郎。

呂勢の語りに貫禄が出てきたというか、どっしり構えた感じが頼もしい。相模、藤の局の女性陣はもちろん、熊谷や弥陀六やらの低い声もしっかりして、時代物の重厚感が感じられた。何より、義太夫節らしい。

一方の呂は、、、。盛り上がるべき首実検の緊迫感のなさといったら……。気が抜けたソーダのようで、物足りないこと甚だしい。

人形は玉志の熊谷がちょっと役者不足な感じ。玉也の弥陀六に安定感。

2021年10月16日土曜日

10月16日 モーリス・ベジャール・バレエ団「バレエ・フォー・ライフ」

 以前、映像で見たときはピンとこなかったのだが、1曲目の「It's a beauteiful day」から涙があふれた。クイーンのドラマチックな曲と、身体能力の高いダンサーの動き、リズムの取り方の心地よさがあいまって、何とも言えないハーモニーを醸し出していた。国籍も肌の色も異なるダンサーたちが一体となって作り出す美しい舞台は調和という言葉が似つかわしい。ベジャールの作品で一番好きかも。クラシックの基礎と、少し外れた、時にコミカルな動き、リズムと振りの合わせ方がとてもよく、ロックとベジャールの振り付けは相性がいいように思う。やはり、舞台は生で見ないと分からない。

ベルサーチの衣装はスタイリッシュ。白地に様々な黒のラインが入った、スポーツウエアのような衣装に始まり、一見、黒や赤のタイツだが、サイドがすける素材になっていたり、鮮やかな原色が刺し色のように使われたり。冒頭の白いシーツや、花嫁衣裳のヴェールやドレスの裾といった、、ファブリックの遣い方が洒落ていて、眼に楽しい。照明の遣い方も見事だった。

日本公演だからか、日本出身のダンサー(大橋真理、大貫真幹、岸本秀男)にいい役が付いていて、目が行った。「Radio GAGA」でソロを踊ったのも日本人かと思ったら、中国出身のスン・ジャユンだった。正六面体の白い箱の中に、男性ダンサーがぎゅうぎゅうに集まって踊る面白さ。同じ箱の中で男女が白い羽を降る雪のようにまき散らしながら踊る「Winters Tale」も美しかった。

ラスト近く、「Break Free」に合わせてジョルジュ・ドンの映像が流れたのだが、道化のようなメイクのアップが多く、なぜこの映像? どうせなら踊る姿が観たいと思ってしまった。

ラストは藝術監督のジル・ロマンを中央に、ダンサー一人ひとりが舞台袖から出てくる演出。一人ひとりと手を取り合う姿が感動をよぶ。(――と思ったら、初演時にベジャールがやっていた)

2021年10月10日日曜日

10月10日 国立劇場10月歌舞伎公演

 「伊勢音頭恋寝刃」

伊勢街道相の山の場からの通し上演。

梅玉の貢は持ち役だそうだが、思ったとおり華がいまいち。セリフが淀むところもあったりして。

出色だったのは、梅枝のお紺で、愛想尽かしのセリフのよさ、色気と品があって、これぞ立女形という風情。お紺に目を奪われたのって初めてかも。お岸の莟玉も可憐でよかったが、これは期待通り。萬太郎の奴林平は何となく愛之助を連想したが、奴ってこういうものか。お鹿の歌昇はかわいげがなく、ただの不細工。女形は初めてだそうだが、台詞が硬いのがいけないのか、化粧も可愛くしようという気が感じられないというか…。藤浪左膳と料理人喜助の又五郎が面変わりするくらい痩せていて驚いた。

それにしても客入りの悪さにも驚いた。日曜だというのに1階席センターはガラガラ。

2021年10月9日土曜日

10月9日 JACSO特別公演 神仏の心

 聖徳太子1400年紀(遠忌)とのことで、所縁の演目を。

狂言「太子手鉾」

野村萬斎の太郎冠者、高野和憲の主。物部守屋を止める=漏屋を止めるの語呂合わせなのだそうだが、和泉流の狂言って笑えない。

舞楽「萬歳楽」「蘇莫者」

天王寺楽所雅亮会による。萬歳楽は中年男性4人の舞手だったのだが、これが美少年だったら…と思ったり。蘇莫者は猿のような面をつけ、面白い動きをする舞。

創作能舞「太子の心」

辰巳満次郎が善養寺恵介の尺八で舞う。太子の霊が自分の功績を語る内容は凡庸というか、面白みに欠けるのだが、能楽堂に朗々と響く満次郎の声量に感心した。

能「弱法師」

観世銕之丞のシテに宝生流の地謡という異流共演。

銕之丞が少し高い音(テナーって感じ)で謡う声がよく、橋掛かりから出てきてシテ柱に縋り付くところの姿に目を奪われた。

2021年10月5日火曜日

10月3日 金春会定期能

 「小鍛冶 白頭」

中村昌弘のシテ、ワキ野口能弘、ワキツレ野口琢弘、アイ大蔵弥太郎。

はじめ番付にワキツレが書いていなかったので、はじめに出てきた人は誰?と戸惑ってしまった。

古風という金春流の流儀なのか、派手さはないけれど、地に足の着いたような落ち着きを感じた。

「栗燒」

大蔵吉次郎のシテに榎本元のアド。

「浮舟」

辻井八郎のシテ、ワキは高井松男、アイ大蔵基誠。

辻井はビブラートがかかったような美声。舞も優美。

お囃子は高野彰の大鼓、鳥山直也の小鼓、栗林祐輔の笛で、バランスよくばっちりあっている感じがした。

「融」

櫻間右陣のシテ、福王和幸のワキ、大倉教義のアイ。

福王家の人たちは声がいい。