2025年3月22日土曜日

3月22日 三月大歌舞伎 夜の部 Bプロ

五・六段目は勘九郎の勘平。セリフ回しや表情など、勘三郎を彷彿とさせる。千崎と不破が訪ねてきたところでは、自分から刀を抜いて身だしなみを整える。七之助のおかるは玉三郎を思わせるところが。梅花のおかやは情のあるおっかさんで、いろいろ分かっている感じがした。
定九郎は隼人。影のある悪人らしさ、声の凄みがあり、役らしい。やることが多くてちょっと段取りめいたところもあったが。
判人源六は松之助で、上方言葉のもっちゃりした感じがよき。一文字屋お才が魁春で、江戸弁だったように思うが、不思議と違和感はなく。

七段目は仁左衛門の由良之助が絶品。先日初役の愛之助を見た時は悪くないと思ったが、やはり役者が違う。酔態の柔らかみ、家老としての器の大きさ。帰る力弥を呼び止めて「祇園町を出てから急げ」というところの間の絶妙さ。おかるとのやりとりの洒脱さ、軽妙さなどなど。これぞ大歌舞伎の由良之助。
七之助のおかるはすでに遊女のあしらいを身につけている感じ。松也の平右衛門とはちょっと恋人っぽい。与一兵衛と勘平が死んだと聞かされたくだりで本当に泣いたようで、終盤は目元の化粧が滲んでいた。松也の平右衛門は足軽にしては軽妙さがないかも。スッキリと格好いい。

十一段目は小林平八郎の萬太郎、竹森喜多八の橋之助が役替わり。萬太郎は松緑に比べると凄みが足りないのは経験値の差。橋之助は若手浪士で最初にセリフを言う場面が多いせいか、声が印象に残った。菊五郎の服部が出てくると一際大きな拍手。仁左衛門の由良之助とのやりとりは、大物同士の大らかさで、これぞ大歌舞伎。

3月22日 三月大歌舞伎 昼の部 Bプロ

大序から三段目。芝翫の師直は重みがあり、嫌味ったらしく憎たらしく、これぞという師直。顔世御前に言い寄るところなど、時蔵のクールビューティぶりと好対照。菊之助の判官は貴公子然としていて、直にいびられても静かな怒りというか、堪忍袋に溜まっていく感じがなくて、刃傷に至るほどのエネルギーが感じられない。抱き止められた幕切れも、無念さが薄い。
若狭之助の右近もなんか違う。型通りに踊っているみたいで、マンガっぽいというか師直への怒りがあまり感じられない。長袴の裾捌きは鮮やかだったが。
伴内は橘太郎。軽妙洒脱でスッキリした三枚目。本蔵からの賄賂を受け取るところのやりとりは、先日の松之助とは違うバージョン。手下らに本蔵を襲わせる合図が咳払いだったり、「何もかも打ち捨てて襲え」と言ったら刀からなにから放り出したり。

四段目は松緑の由良之助の駆けつけるところが、本当に走ってきたみたいだったが、セリフが今ひとつなので緊張感が途切れる。菊之助の判官は意外にも勘平腹切りのほうが良かった。 石堂は弥十郎。扇の要を外した。

道行は愛之助の勘平、萬寿のおかる。愛之助勘平は優男。金と力はなかりけりといった感じ。萬寿は姉さん女房。伴内は亀蔵。滑稽みが薄いか。

2025年3月20日木曜日

3月20日 三月大歌舞伎 Aプロ 夜の部

五段目、六段目は菊之助の勘平。運やら思慮深さやら、色々足りない色男という感じが勘平らしい。不破らが訪ねてきたところで、刀を腰に差す表紙に鍔から出たのを見て身だしなみを整える。腹を切ってからは、なぜか爽やかというか清々しい感じがした。
時蔵のお軽は六段目では腰元の行儀良さ、七段目では女房らしさがある。いざ出発しようとして勘平に呼び止められ抱き合うところは気持ちが高まる。吉弥のおかやは娘可愛い情のある母親。あまり物事を分かっていなくてうろうろする感じ。
一文字屋お才は萬寿、判人は橘太郎。江戸弁のチャキチャキした口調がテンポいい。
斧定九郎は右近。粋で格好良すぎ。浪人で山賊まがいのことをしているやさぐれ感が必要では。「五十両」のセリフも凄みがない。

七段目は愛之助初役の由良之助。キリッとしたところはできる家老らしくてよいが、酔態の柔らかみは今ひとつ。酔っ払っている感じがなくて、作り阿呆のようにふざけているみたい。
左近の力弥は花見を出てくる時全く上体がブレないのがさすが。セリフはもう一つだが、所作の美しさは抜きん出ている。   

おかるは遊女の格好だけれど、女房の心を感じる。かんざしを落とすところは誤って2階の畳に落ちてしまったのを、すかさず舞台袖から投げ込まれた。巳之助の平右衛門とのジャラジャラは楽しそうだが、仲のいい兄妹。

巳之助の平右衛門がとても良き。格好いいし、セリフも良い。十一段目の最後、花道を引っ込むところは三津五郎に似て見えた。
 
十一段目はやはり蛇足だと思うが、今回は最後に菊五郎が出てきて豪華な感じ。馬に乗って鳥屋から出てきたのでびっくりした。袴と足が不自然な感じだったので、本当には跨っていないのかも。
松緑が小林平八郎で竹森喜多八の坂東亀蔵と大立ち回り。



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3月20日 三月大歌舞伎 Aプロ 昼の部

開演10分前から口上人形による配役紹介。菊五郎から始まり、夜の部の役も全て述べる。全部は聞き取れなかったけど、千寿や愛三郎、芝のぶの名前もあったような。仁左衛門の名前で一際大きく長い拍手。

大序は俯いて静止している役者たちが、竹本が名前を挙げるに従って息を吹き込まれたように動き出す。松緑の師直はすでに憎らしげ。ただ、セリフを喋ると軽くなるようで、三段目の鮒侍のくだりなど意地悪なのだが町人ぽいというか、品格が薄いと感じた。 
三段目の伴内は松之助。もっちゃりとした上方の伴内で、進物の場で右足を出したら本蔵を討てと家来らに。

松也の若狭之助は血気あふれる青年らしい。勘九郎の判官はいびり倒されてだんだん怒りを蓄積していく様が鮮やかで、刃傷に及んだところの緊張感もよき。ただ、本蔵らに抱き止められた無念さを示す仕草が、幕が閉まる直前、キュンポーズみたいになっていた。

四段目は通さん場ではないものの、緊張感ある静けさみなぎる。勘九郎の判官は気品を保って最期を迎える。莟玉の力弥は初々しい少年らしさ。仁左衛門の由良助が出るとさすがの貫禄で舞台が一気に引き締まる。梅玉の石堂は扇の要を外さずに判官の遺体の上に置いていた。

城明け渡しは、敵討にと迅る若い家臣らを由良助が止めたり、九太夫(片岡亀蔵)が金欲しさから不忠ぶりを滲ませたりと、色々あり。「ハッタと睨んで」だけの文楽とはだいぶ違う。

道行は隼人の勘平、七之助のおかる、巳之助の伴内。七之助おかるはアイメイクがシャープなせいか、クールに見える。隼人は優柔不断な色男。巳之助の伴内が滑稽みといい、身のこなしといい、とても良い。

2025年3月18日火曜日

3月17日 三月花形歌舞伎 松プロ

 口上は虎之助。ペラペラとよく喋り、落語家のよう。遅れて入ってきた客をいじるなど、感じ良くない。

「妹背山婦女庭訓」三笠山御殿

お三輪を米吉。娘らしい可愛らしさで、官女らにいじめられるところは消え入りそうな声で哀れ。疑着の相の迫力は薄かったか。鱶七の福之助はやや線が細い感じもあるが、堂々としていて良い。橘姫の吉太朗はもはや安定感さえある。いじめ官女に千次郎、翫政ら。壱太郎が豆腐買いで盛り上げる。

「於染久松色讀賣」

壱太郎が5役を早替わり。そつなくこなしていたが、今一つ響かないのは何故だろう。


2025年3月16日日曜日

3月16日 文楽京都公演 Aプロ

解説は睦太夫。テンション低く、あらすじを読み上げるようでやる気を感じられないのだが。 

「二人三番叟」

靖、碩に団吾、友之助、燕二郎、藤之亮。
三味線、人形、鳴り物のリズムがバラバラで、気持ち悪い。辛うじて2枚目が繋ぎ止めていたように感じた。 人形は紋吉と玉誉。 

「絵本太功記」

夕顔棚を睦・団七。
時代もののせいか、ちゃんと聞けた。

尼崎の前半を千歳・富助。
なぜだか初菊と十次郎が互いを思いやるやり取りが耳に留まった。さつきもいい。切語りが前半なのはいいが、30分ほどで交代したのはいかに?

後を靖・勝平。
45分ほどのクライマックスを熱演。錦糸と素浄瑠璃で語った時より力が入っているように感じた。見台に乗り出すような姿勢も含め。現れ出でたる武智光秀のところで、「靖太夫、勝平、玉男」の掛け声があったが、キレが悪く間も悪い。

人形は簑二郎の操が簑助を彷彿とさせる細やかな動き。だがこの役にはうるさいかも。一輔の十次郎は爽やかな若武者ぶりがいいが、手負になって戦況を語るところは活発に動きすぎではと思った。

3月16日 文楽公演 Bプロ

解説は織太夫。
人形浄瑠璃の発祥は京都とか、ご当地ネタはよいけれどちょっと説明不足では。文楽の発祥は大阪とも言っているので、義太夫節以前の古浄瑠璃があったことを知らない観客は混乱する。

「近頃河原の達引」

四条河原の段は睦、咲寿、織栄、碩に清丈。
伝兵衛の睦は掠れ声が辛い。男性キャラでこれではしんどい。咲寿は官左衛門にしてはりっぱすぎ。織栄は若手らしく元気良い語りでいいのだが、全体としてうーん…。碩が出てきて聞きやすさにホッとする。

堀川猿回しの前は織・藤蔵に友之助のツレ。
稽古娘と与次郎母の浄瑠璃稽古の場面もはっきり語り分けていた。娘がちょっと子ども過ぎという感じがしなくもないが。織自身が基本格好いい人なので、与次郎が猿回しにしては男前な口調。

後は呂勢・燕三に燕二郎のツレ。 
浄瑠璃の楽しさを堪能。与次郎に3枚目のおかしみがあり、チャリ場がちゃんと面白いからこそ、悲劇が引き立つ。与次郎、おしゅん、伝兵衛、母との四者四様の引き細々。三味線も鮮やか。ツレに燕二郎の師弟共演も嬉しい。

人形は紋秀の官左衛門の形の良さが目を引いた。伝兵衛に金を要求する時に右手を差し出す様や、立ち回りの極まりの姿勢が良い。 和生のおしゅん、伝兵衛の玉佳、玉也の与次郎と配役もよく、充実の舞台だった。

3月15日 新国立劇場バレエ団「バレエ・コフレ」ソワレ

「火の鳥」

小野絢子の火の鳥は野生味と気高さを併せ持ち、神秘的な存在。イワン王子の奥村康祐は少年らしい好奇心で火の鳥を捕らえた感じ。逃げようとする火の鳥と王子の間に通じ合うものがあるようで、パドドゥがどこか官能的。魔王カスチャイの小柴富久修は背中の曲がった老人のようで、あまり強そうではない。
魔物たちが未知の民族舞踊のような衣装、踊り。卵を割ったら魔王が死ぬとか、シュール。

「精確さによる目眩くスリル」

米沢唯、直塚美穂、根岸祐衣、速水渉吾、渡邊峻郁によるパドサンク。早いテンポで踊れる人たちがこれでもかと踊りまくるスリリングさよ。そして、同じ振りをしていても米沢のしなやかさが際立つ。直塚は力強さ、根岸は端正な印象。男性陣は力強い跳躍で、速水のポーズの美しさ、渡邊のスピード感が圧巻。
拍手が鳴り止まず、幕が降りた後も再度カーテンコールした。

「エチュード」

プリンシパルが揃うとこうも変わるのか。プリマの木村優里に華があり、ステージを支配するような威厳も感じる。福岡雄大、井澤駿の風格は言わずもがな。

5月15日 新国立劇場バレエ団「バレエ・コフレ」マチネ

「火の鳥」 
池田理沙子の火の鳥はテクニックに不足はないが、人外のものの感じは出ていたがどこか小動物のようで、少し物足りない。
魔王カスチュイの中家正博は不気味さあふれる怪演。カーテンコールで火の鳥にちょっかいを出してやり込められる一芝居も。

「精確さによる目眩くスリル」
花形悠月、山本涼杏、東真帆、森本亮介、上中佑樹。
速く、精確に高度なテクニックが次々と繰り広げられ、息つく暇もないほど。スリリング。

「エチュード」
基本のバーレッスンから始まり、流石日本のトッププロなのでよく揃っていて美しいのだが、凝ったことをしているわけではないのでだんだん退屈になってきた。
プリマの柴山沙穂に華がないのも辛い。プリンシパル役の若手2人、永井駿介、山田悠貴は頑張っていたが。

2025年3月8日土曜日

3月8日 素浄瑠璃の会

 芳穂・錦糸で「奥州安達原」の袖萩祭文。

芳穂は語りわけもしっかり。情感もよく、1時間あまりの長い段だが、意識が途切れることなく集中して聞けた。お君がちょっと可愛くなかったが。錦糸の三味線は的確。

2025年3月1日土曜日

3月1日 フェニーチェ文楽「魂がゆくえ」

第一部
鼎談は木ノ下雄一を聞き手に、錣、勘十郎。「合邦」について、錣は、玉手はずっと本心。俊徳丸への恋も、継母としての思いも、我が身を犠牲にして病を治すのも。我をだしてはだめ。全て床本に書いてあるので、そのまま演じるだけと。手負いになると力を抜ける(=楽)と先輩方は言っていたとか。 勘十郎は俊徳丸がいるかどうか分からないまま庵室を訪れる。父母との会話の中で気づく瞬間がある。恋か母心か、日によってバランスが変わると。
床と手摺りで玉手の捉え方が違うようだけど、上演して齟齬はないのだろうかと思うなど。

「摂州合邦辻」
合邦庵室の弾を錣・宗助。情感あふれる語り。
人形は勘十郎の玉手、玉志の合邦、簑一郎の女房。
紋臣の俊徳丸はニンでないのか、今一つ。紋吉の浅香姫、簑太郎の入平。


第二部の鼎談は木ノ下、勘十郎に呂勢。
語る時はどのくらい感情移入するかとの問いに、「人によって異なる」とはぐらかす呂勢。「嫗山姥」はストーリーがなくいい曲なので語っていても楽しいと。

「嫗山姥」
呂勢・藤蔵に清允のツレ。
人形は勘十郎の八重桐、勘次郎の澤瀉姫、簑紫郎の時行。紋秀の藤浪、勘介の太田太郎。
時蔵襲名の時が面白かったので期待していたのだが、それほどでもなく。