2022年3月27日日曜日

3月27日 OSK日本歌劇団「レビュー春のおどり」

100周年記念という触れ込みなのに、新橋演舞場で3日だけとは寂しい。大阪松竹座の公演がコロナ禍で一部休演になってしまったというから尚更。

1幕は日本もの「光」。山村友五郎、尾上菊之丞、藤間勘十郎の演出・振付という豪華さ。冒頭は友五郎の振付で、三番叟で周年を寿ぐ。これがよかった。専科の浅香櫻子の千歳、桐生麻耶の翁に厳粛さがあり、洋楽に乗せた「とうとうたらり〜」も新鮮。楊の三番叟は機敏な動きが好もしく、日舞の動きを取り入れた速いテンポのステップは「踏んでいる」感があった。動いても体幹がブレないのが見事。ちゃんと日舞も稽古しているのだと感じられた。
…が、その先は今ひとついただけなかった。おそらく勘十郎のパートなのだが、写楽や鼠小僧?、火消しや花魁など様々な登場人物、場面が繰り広げられるのだが、統一感がなく、雑多な印象。写楽のもとに現れた花魁(楊)が燕尾服の男に変じ、ドレス姿の娘役と踊り出すに至るや?しかない。

2幕は洋ものの「INFINITY」(荻田浩一作・演出)。  楊の持ち味は洋舞の方が発揮される。トップスターの風格がついてきて、群舞の先頭に立ってで踊っている時など、率いているという頼もしさがあり、劇場の隅々にまで気を配っている感じがした。 

2022年3月21日月曜日

3月20日 三月大歌舞伎 第二部

「河内山」
休演から復帰した仁左衛門の河内山。花道を使った出入り以外はほとんど座ったままで動きがなく、セリフを楽しむ芝居なのだと改めて実感。勧進帳などは山伏問答の内容を理解していなくても、「富樫か次々と繰り出す難しい問題に、弁慶はすらすら答えているのね」程度のことが分かれば十分に楽しめるのだが、河内山はそうはいかない。七五調の名文句に酔ってつい瞼を閉じてしまってはダメなのだ…orz。
とはいえ仁左衛門。口跡の良い名セリフはもちろん、質店でことの顛末を聞いて腹に何か閃いたふうにふっと表情を変えたり、往生際の悪い松江公(鴈治郎)の様子にスイッチが入って追い込む様など、要所要所で魅せる。
千之助の浪路は所作に硬さがあるものの可憐な娘を好演。他の腰元に比べて顔が白すぎる(赤みがない)ように見えた。

「芝浜の革財布」
菊五郎劇団の手練れによる世話物で、熟練の芸をたっぷり。菊五郎の政五郎、時蔵の女房おたつをはじめ、適材適所の配役で、左團次、彦三郎、橘太郎ら長屋の仲間たちの酒宴の楽しそうなこと! 特に妻自慢で惚気る大工役の左團次の風情がいい。…が、全体としては歌舞伎のこの作品ってあまり好きではないかもと思った。
財布を拾って帰った政五郎が妻と金勘定をするところがなく、湯に行くからと預かった包みをおたつが開いてびっくり!というのはインパクト薄くないか? 最後は酒を飲んでしまうし、財布の金を奉加帳に寄進するのは悪くないけど、落語と違うくだりが気になった。

丁稚に眞秀。芝居好きという設定で、河内山の真似に始まり、弁天小僧や三人吉三の名文句など音羽屋の芸を披露するのはいいが、ちょっと長かった。

2022年3月17日木曜日

3月17日 音楽劇「夜来香ラプソディ」

軍の招聘で上海に渡った服部良一(松下洸平)が、「夜来香」の作曲者黎錦光(白洲迅)、李香蘭(木下春香)らと、1945年6月にコンサートを開催する。物語はこのコンサートの模様として生演奏の歌唱があり。その間に過去のエピソードを混ぜ込む構成。

冒頭、「こんなご時世なのにご来場くださり…」みたいなセリフがあり、もちろん、太平洋戦争の終戦間近の混乱した時期という設定なのだが、ロシアによるウクライナ侵攻という時勢とも重なって見える。

松下が目当てで観に行ったのだが、はしゃぎすぎに感じるくらいのテンションの高さがいただけなかった。服部良一の為人がそうなのかもしれないが、戦時下の日本男性として違和感。座長としては立派につとめ、舞台を引っ張っていたとは思うけれど。

ジャズバーの女主人?マヌエラ役に夢咲ねね、川島芳子役に壮一帆、共産党のスパイ、リュバ・グリーネッツ役に仙名彩世と、宝塚出身者が多く、それぞれに歌を披露する場面があったこともあって、どことなく宝塚風味が漂う。夢咲は、気風のいい女性という役どころなのだろうが、口調や動きが雑な印象。深いスリットのチャイナドレスで踊るところなど、柔らかみにかける直線的な仕草が残念な感じ。壮一帆は元男役だけあって、男装は決まっていたが、女装のチャイナドレス姿で1曲披露したのは?? 観客の混乱を見越してか、歌い終わってから「川島芳子でした」というのもなんだかだ。仙名はミステリアスな雰囲気が役に合ってよかった。途中1曲披露したのは、別役でだよね? リュバは子どものころの李香蘭に声楽の指導をした人物という設定だったけど…。

コンサートを企画した陸軍中将山家亨役の山内圭哉、憲兵隊長役の山西 惇ら、個性的なキャストが脇を固め、全体としてはまとまっていた…のかな。

2022年3月14日月曜日

3月13日 文楽巡業公演 夜の部

「曽根崎心中」

生玉を小住・清丈。柔らかな語りが場面に合う。お初の声にかわいさが出ればなおよかろう。

天満屋を織・燕三。叙情たっぷりの語りに、しっとりとした三味線。

天神森の段は睦、咲寿、碩に錦糸、錦吾、燕二郎。睦は声を出していない時に、顎を上げて天井を仰ぐ姿勢が散見され気になった。

人形は和生のお初が、上品で控えめな風情。徳兵衛は玉男。軒下に潜り込むところで左遣いが戸にぶつかったり、初の着物の裾に頭を入れてしまったりと、要領が悪かった。


2022年3月13日日曜日

3月13日 文楽巡業公演 昼の部 @所沢市民文化センターミューズ

「一谷嫩軍記」

解説は珍しく藤太夫。さすが年の功で、分かりやすくいい解説だった。文楽とは、能、歌舞伎と並ぶ日本の三大劇で、作品は三大義太夫の一番いいところを書いた並木宗輔が最期に書いた作と紹介。陣屋までのあらすじもきちんとまとめ、初めての人も物語に入って行きやすいのでは。

靖・勝平。出だしからちょっと声が上ずっている感じで、最後までそのままだった。端場だから調子を上げていたのかもしれないが、三味線の調子と合っていない気がした。藤の方との語り分けも甘い。

熊谷陣屋の前を千歳・富助。切語りとしての風格を感じさせる堂々とした語り。35分ほどで終わってしまってあれ?と思ったら、前の方が難しいのだそう(織太夫談)。

後は藤・藤蔵。このコンビは久しぶりか。藤の語りは師匠が存命の頃に比べて軽くなったというか、伸び伸びしてるというか…だが、50分ほどを一気に語り切り緊張感が途切れなかった。

人形は玉助の熊谷は、下手に控えている時の足が不恰好に曲がっているなどして決まらない。一輔の藤の方は品がある。玉佳の義経で一際大きな拍手。それほどの役ではないと思うのだが、贔屓がいたのか。

2022年3月12日土曜日

3月12日 三月大歌舞伎 第一部

 「新・三国志」

関羽篇とのサブタイトルで、劉備(笑也)による蜀建国までをフォーカス。関羽篇といいながら、物語の主人公は劉備で、実は男装の麗人だった、というトンデモ設定なのだが、「民が飢えず、売られず、殺されない国をつくる」という劉備の夢が、「女子供のたわごと」と揶揄されたり、流血を好まないのを「男らしくない」と責められるなど、ジェンダー問題を想起させ、今の時代により響く内容になっていた。…が、「夢見る力」って別に女に特有のものでもないのでは? と思うなど、劉備が女であることの必然性があまりないように感じた。表向きは自身を漢王朝の皇帝の末裔だと主張しているものの、実は縁もゆかりもない出自という設定も疑問だ。シンプルに、皇帝の血をひきながら女であるから公式には面に立てなかったとかいう設定のほうが、夢のような理想を掲げる理由になるし、もっともらしいと思うのだが。それと、関羽(猿之助)とのロマンスがちっともロマンチックでなかったのはなぜだろう。1幕の最後に手を握ったり、荊州に赴く関羽との別れで2人きりになって言葉を交わしたりするのだが、なんだか関係性がそっけないというか、気持ちが通っているように見えなかった。2人のロマンスって、この作品の肝じゃないの?

中車が、冒頭、原作者羅貫中の弟子だか子孫だかの羅昆虫を名乗って解説していたかと思ったら、幕が開くと張飛として登場。諸葛孔明は弘太郎改め青虎。襲名披露の口上はなかったが、関羽らが、劉備の軍師に招く際に「青き虎となって…」と入れ事で盛り上げる。

呉軍の軍師、陸遜の猿弥、華佗の寿猿ら、澤瀉屋の面々が頼もしく脇を固めるなか、司馬懿の笑三郎の芸域の広さに感嘆。はじめ出てきたとき、誰だかわかなかったくらい。NARUTOの大蛇丸で影のある敵役ができるのは知っていたが、また違った雰囲気だった。

孫権の福之助がキリっとして、若き盟主を好演。香渓の右近は気の強い娘役がよく似合い、キレイだった。関羽の養子、関平の団子はもう立派な青年。背が高くて頭が小さいので、次世代の子という感じがする。

30分の休憩挟んでトータル2時間40分という制限でいろいろカットしたせいもあるのだろうが、場面の継ぎ接ぎのような感じが否めず、消化不良な感じ。最後に、劉備ら蜀の面々と並んで張飛が花道を歩いてくるので、「え?死んだんじゃなかったの??」と混乱。そのあと呉、魏と、キャスト全員が花道から引っ込んでいくので、フィナーレのパレードの演出だったらしい。最後の最後に、関羽の猿之助が宙乗りし、桃の花びらが舞うのだが、これって物語上の意味あるの? 宙乗りに全くテンションが上がらない性質なので、なんだか…だった。

3月11日 サファリP「透き間」

黒で覆われた空間に、四角い台が4×4個並ぶ舞台。どこからともなく台の下へ潜こんだ俳優たちのてや腕が、暗闇の中に照らし出される印象的なシーンから始まる。彷徨う人々、泣きじゃくる人々の行進、寝たきりの男…断片的なシーンの連続。妻(佐々木ヤス子)と歩く人(達矢)が絡み合うシーンは官能的だが、湿っぽさがなく、カラリとして感じた。セリフはごく少なく、散文詩のような印象的な言葉が語られる。「死を待っているのではない、死に逃げられたのだ」など。
原作の小説を読んでいないので、ストーリーはよく分からなかったが、大切な人を殺された者が殺す側に回り、次には命を狙われる…という無限ループのような立場の転換。殺された者の怨念の集合体のような存在が恐ろしくもあり、悲しかった。最期にはその中心に唯一の女性・佐々木が組み込まれるのは、復讐の連鎖を断ち切ろうとするよう。

2022年3月6日日曜日

3月6日 3月歌舞伎公演

「盛綱陣屋」

菊之助が初役の盛綱。理知的で器の大きい武将らしさがあり、冷静さを保ちながらも、小四郎に腹を切らせるよう話すところなど泣かされた。最後の小四郎を褒めてやれというセリフが切ない。所々、台詞の語尾や両手を挙げる所作などに吉右衛門の面影を感じてじんときた。
女形陣もみなすばらしく、篝火の梅枝は凛々しく武家の妻を好演。最後、小四郎の遺体を抱いて、涙に濡れながらグッと顔を上げる姿が美しい。微妙の吉弥は悪かろうはずもなく、三婆の格式保ちながらしっかりと情を感じさせた。莟玉の早瀬は、片はずしの役はまだ早く、背伸びしている感じが拭えなかったが、健闘していてこれからが楽しみ。
小四郎の丑之助は二度目とあって、大役もしっかり。「心残りは、ち、ち、う、え…」ではしっかり泣かせた。そして、小川大晴の小三郎がかわいいこと。重そうな鎧を着けて、機敏に動くのが愛くるしくて、キュンとした。

2022年3月5日土曜日

3月5日 大槻文蔵裕一の会

「江口」
文蔵のシテ。静かでほとんど動きのない曲で、2時間近く。昼ごはんをたくさん頂いたあとには辛かった。舞もあまり動きがなく、正直、あまりピンとこなかった。
地頭に梅若実。椅子を使うのはもう定番だが、お疲れなのか、しばしば俯いていたのが気になった。

「縄綯」
萬斎の太郎冠者。主人の命へ気のない返事をしたり、変顔をしたりと、いつもより笑わせにかかっているように感じた。主に内藤進、何某に高野和憲。

「小鍛冶」
裕一のシテ。ワキは福王和幸、ワキツレに知登と美声が揃い、耳福。曲の違いなのか、地謡も迫力があるように聞こえた。裕一は謡いが明瞭で、キビキビした動きが好ましく、楽しく観られた。