2021年6月6日日曜日

6月5日 NODA・MAP「フェイクスピア」

恐山のイタコ見習いの皆来アタイ(白石佳代子)の元を訪れた口寄せの依頼人2人。若い男(高橋一生)は記憶を無くした様子で、誰を呼んで欲しいのかわからず、初老の男(楽=たの、橋爪功)の話はシェイクスピアの悲劇をなぞる。リア王やマクベスを演じる橋爪に対し、娘や妻で応じる高橋が見事。可憐だったり、強かだったり。
若い男は気を失うたびに記憶を取り戻し、名前がmonoであること、神から言葉を盗んだプロメテウスの従兄弟であること、息子に渡すために言の葉の入った箱を奪ったことが明らかになっていく。
一方の楽は、自殺を図ろうとしたところ、最後に幼い頃に亡くした父の声を聞くために恐山ならやってきたことが明かされる。楽の父はパイロットで、墜落事故(日航ジャンボ?)の直前の言葉がボイスレコーダに収められていた。「顔を上げろ」という言葉が、生きろというメッセージになり、「楽、し(死)んで、楽生きる」という最後のセリフが力強く響いた。
言ったもん勝ち、書いたもん勝ちという、SNSがはびこる現代の危うさを指摘し、フィクションの大家シェイクスピアはノンフィクションを恐れる。コロスがカラスで、言葉とともにダンスのような身体表現でもみせる。

野田秀樹がシェイクスピアとその息子でラッパーのフェイクスピアで舞台をかき混ぜ、前田敦子はアタイの母で伝説のイタコや、星の王子様、白いカラスの3役で彩を添えた。アブラハムの川平慈英と三日坊主の伊原剛志はちょっと存在感が薄かったか。
ブレヒト幕が右へ左へと舞台を横切るたびに場面がぱっと切り替わる。休憩なしで2時間5分。濃密な時間だった。  


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