2025年6月12日木曜日

0612 イキウメ「ずれる」

会社社長の輝(安井順平)と弟の春(大窪人衛)が暮らす家のリビング。療養施設から戻ったばかりの春は精神的に不安定な様子で、ネットで知り合ったというラディカルな環境活動家、佐久間(盛隆二)を家に引き入れ、何やら企む。優秀な家政婦兼秘書の山鳥(浜田信也)は腹に一物ある不穏な感じ。魂魄のずれを直して不調を治すという伝説の整体師(森下創)も怪しい動きを見せる。はじめは捉えどころのない感じだったが、登場人物の事情がわかってくるに連れ、どんどん引き込まれていった。 魂魄を魂=精神と魄=肉体と捉え、整体師が魂を引っ張ると幽体離脱してしまうという設定が面白い。魂は目に見えないものが見え、動物とも通じ合える。幽体離脱した春が関わると、99%遺伝子が同じという犬が狼に変じたり、豚が猪に変わったりし、野生化した動物が野に放たれる。人間に飼われたままの方が長生きできるという輝に対し、わずかでも自由になれる方がいいという佐久間や春。リタイアした両親が暮らすインドネシアの島がパンデミックに見舞われ、助けを求める電話を冷たく突き放す春を、輝は「何不自由なく育ててもらったくせに」と非難するが、「父親は命令ばかり、母親は禁止ばかりで不自由だった」という春。同じ場所にいても見えているものが違い分かり合えない。出来る秘書山鳥は物腰柔らかだが、父親が輝の会社のために自殺に追い込まれた過去があり、復讐のために生きていることが明かされる。浜田の演技が底知れない不気味さ。ソファにもたれた輝を照らすごく絞った照明が効果的。他にも天井を照らす水槽のような光など、灯りの使い方が印象的だった。 牛舎で活動しようとしていたところを警察に見つかり、幽体離脱したままの春を置いて佐久間が逃げてくる。春の魂を肉体に戻そうと、収容された病院を探すが、結局そのままに。ただ一人常識人だった輝が最後、警察の訪問に力無く答えるラストはちょっと未消化な感じもしたが、ざわざわした感じが余韻として残った。

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