2021年9月4日土曜日

9月4日 九月大歌舞伎 第三部

 「東海道四谷怪談」

仁左衛門の伊右衛門がこれぞ色悪という色気と悪の魅力を見せつける。特に、お梅を祝言に迎えるにあたって金が要ると、お岩からなけなしの着物や蚊帳を奪っていくところ(「離すなよ」の凄み!)の残忍さにゾクゾクした。

玉三郎のお岩は気高く、武家の女の気品がある。伊藤家に騙されたと知ったときも、誇りを傷つけられた悔しさや無念さが色濃い。なにより、笑いを起こさない凄みがある。晴の会の千寿の可哀そうなお岩もよかったが、全く別の玉三郎のお岩も説得力がある。こういう演者による違いを楽しめるのも古典の面白さ。柱に刺さった脇差の向きが上過ぎて、お岩の首に刺さらないハプニング。何事もなかったかのように(さも刺さったかのように)進んでいたけれど。

松之助の宅悦も、近年の上演では笑い場になりがちなところ、笑いにならないのはやはり熟年の上手さ。歌女之丞の乳母、萬次郎のお弓、亀蔵の喜兵衛とベテラン勢が手堅く脇を固める一方、若手には物足りなさも。千之助のお梅は、彼女の恋心がすべての発端にも関わらず、伊右衛門への慕情が薄い。娘らしい恥じらいかもしれないが、他人の夫への恋心という無理を通すだけの強い思いが見えないと。小仏小平の橋之助は、すまん。珠城りょうに見えてしまうのよ。あと、小平の髷が妙に太くて不自然に見えた。与茂七はキリリとして格好良かった。松緑の直助は手堅い。

16日、23日に再見。玉三郎お岩は、ただれた顔の右半分だけでなく、素顔の左側も生気をなくし醜く見せているのが凄い。髪から血がしたたるところは衝立の中ほどがスライド式になっていて血糊は使わず。お梅との新枕のときにお岩の亡霊が惑わすところ、切り殺されてのけぞる玉三郎の腰をサポートする腕が。千之助のお梅は娘らしくはなっていたが、伊右衛門好き!という気持ちがもう少しほしい。


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