2021年8月8日日曜日

8月8日 新作能「長崎の聖母」

 被爆地長崎の浦上天主堂を舞台に、子どもを亡くした老婆と聖母マリアが交錯する。

ソプラノによる聖歌のような歌唱が冒頭や合間に挟まれるのは、題材に合っていて違和感はない。花の映像はちょっと安っぽく感じたが。途中、デジタルで時刻が表示され、1945年8月9日11時02分まで遡る。原爆の日が近いこともあり、不思議な時空を感じる演出。ヤコブの井戸よりは作品として成立しているように感じた。

後シテの面は頬にすすけたような黒ずみ。被爆したマリア像の象徴らしいのだが、出てきたときは違和感。だって、配役表には「聖母マリア」としか書いてないから。マリアとマリア像は違うでしょ。

ポストトークで燐光群の坂手洋二と鳥公演の西尾佳織。日本人が原爆や戦争を描くとき、被害者の立場からだけで、戦争や原爆は悪というところで止まってしまいがちだが、加害者としての立場も忘れてはいけないという坂手の主張に激しく同意。「この作品ではあえて描かず、観客に考えさせている」と言うのは??だけど。原爆の被害、悲惨でした、もう二度と繰り返さないでという主張はもっともだけれど、それだけれは再発は防げないと思うから。そういう意味で、この作品はあまり心に響かなかった。

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