2013年1月22日火曜日

1月20日 寿初春大歌舞伎 夜の部

「操り三番叟」

藤十郎の翁、吉太郎の千歳。年の差いくつなんだろう…。お能風の踊りって、うろうろ歩きまわっているだけのように見えて、あまり面白くないなあ。

三番叟に移ってからは、コミカルな動きが楽しい。操り人形に、後見が薪車。後見役って、ほんとの後見さんもそうだけど、キリッとした風情が格好いい。


「小栗栖の長兵衛」

香川照之が歌舞伎役者中車としてどんな演技を見せてくれるのか、楽しみに。世話物の新歌舞伎なので、それほど違和感はなく。セリフ回しなんかも現代劇に近いし。ただ、立ち回りやセリフの間などで、たまに「あれ?」と思う瞬間はあった。歌舞伎のおっとりした間ではなくって、ちょっと前のめりになっているような。まあ、そういう目で見てしまったせいかも知れないけれど。

乱暴者の長兵衛が実は明智光秀を討った手柄物と分かって周囲の目が一変――という、分かりやすい筋立てで、笑いどころも多くて、楽しい芝居。

巫女小鈴の春猿、ピンクの頬紅がちょっと濃すぎるように見えたのだが、そういう演出なのかなあ。ちょっとおてもやん風というか…。笑三郎のおいねも、くっきり白塗りだったので、周りの町人たちと比べてちょっと違和感があった。


「口上」

猿扇が体調不良で休演。初めて舞台で観られるかと期待していたので残念。

藤十郎がお披露目役。今回は懐から巻紙を取り出して、読み上げていたので、スムーズに進行してた。先月の勘九郎の襲名披露では、言葉が出てこなくってハラハラしたけど。

翫雀や扇雀などは、澤瀉屋との共演も少なく、あまりエピソードなどもない様子。秀太郎の口上が、温かみがあってよかったな。

右近、笑也、寿猿、笑三郎、春猿、猿弥という一門の人たちも口上の舞台に。話す内容があっさりと控えめな様子だったのは、立場的なものなのか。

「義経千本桜」

川連法眼館の場。

新・猿之助は身のこなしが軽く、狐の化身らしい。本物の忠信の武士らしい重厚さと、狐忠信の親への情や可愛さの対比もよかった。今まで見た狐忠信のなかで一番かも。飛んだり跳ねたり、早変わりや移動も多くて結構しんどそうな役だと思うのだが、若さゆえか、余裕のある様子。最後の宙乗りもたっぷり楽しませてくれた。幕が下りたあと、舞台袖から登場するというサプライズも。三階から走ってくるのも大変そうだ。

秀太郎の静御前はしっとりとした風情が素晴らしい。何度も共演しているので猿之助との息もあっているし。

2013年1月15日火曜日

1月14日 文楽初春公演 第2部

この日から1部2部の演目が入れ替わり。

「寿式三番叟」

住大夫の復帰公演。やや痩せたようにも見えたけど、ひとまずは元気そうで安心した。
冒頭、声の張りが弱くなったようにも感じたが、8人の太夫がユニゾンで語るところでも、住大夫の声がビーンと響いてきたのはさすが。

演目はおめでたい舞踊劇。人形ならではのコミカルな動きもあって楽しいのだが、踊りは生身の人がやるほうがいいかなあ。


「義経千本桜 すしやの段」

歌舞伎とちがって、権太が二枚目ではなくて、ほんとに悪そうなおっさん。
お里の「びびびびび~」がなかったり、歌舞伎と違うところがいろいろあって興味深い。
若葉の内侍が訪ねてくるところがより丁寧に描かれていたり。歌舞伎だとあまりセリフがなかったように思うのだが、文楽では結構喋る。あと、権太が刺されてからの語りがちょっと短い。役者を見せる歌舞伎ではここぞとばかりに語るのだが、死にそうな人が長く喋る違和感もある。文楽はこの点、より自然だ。周りの人が嘆いたり悲しんだりしている様子も、人形がきちんと見せるし。
ただ、権太と小仙、善太の別れのシーンは、語りで特に触れられず、人形の表情でもあまりわからない(そりゃそうだ)ので、内に秘めた権太の悲しさがわかりにくかったかも。

源大夫。11月の仮名手本忠臣蔵の時にも思ったのだが、声が弱々しくないか?次に出てきた津駒大夫の声の張りが凄かっただけに、余計そう感じた。

「増補大江山」

呂勢大夫の語りはいいなあ。声が美しいので、女性の役が特にいい。

一条戻り橋で鬼女に襲われるという話なのだが、人形の顔が一瞬で鬼の形相になったり、観て楽しい。

1月12日 文楽初春公演 第2部

「団子売」

コミカルな舞踊のような演目。人が演じる場合はおかめのお面をかぶるであろうところで人形が変わってしまうのが文楽らしいというか、別人に見えてちょっと違和感。

「ひらかな盛衰記」

松右衛門内の段の切を語った咲太夫が素晴らしい。

最後、主君の子供を助けるために源氏方に捕えられる樋口兼光。あんなに強いのに何で、という気もするのだが。

「本朝廿四孝」

歌舞伎では何度か見ているのだが、文楽は初見。いろいろ違いもあって興味深い。

十種香の段では、八重垣姫のいじらしさ、かわいらしさ。絵姿でしか見たことのない許婚によくあそこまで入れ込めるよなあ…とは思うが、あれだけ可愛ければ許される気がする。

見ごたえがあったのは奥庭狐火の段。歌舞伎とは違って、狐に憑かれた姫の人形が入れ替わるのだが、幻想的でダイナミックな動きで魅せられた。文楽はどちらかというと太夫の語りが主で、人形は従という感じで観ていたのだが、この場面に関しては、人形の動きで引っ張るという印象だった。

人形であそこまで表現するって凄いなあ。人形遣いは勘十郎。十種香の段は蓑助が八重垣姫、勘十郎は勝頼をやっていたのだが、交代したのは何故だろう。

2013年1月4日金曜日

1月3日 新春浅草歌舞伎第1部

「寿曽我対面」

正月らしく、華やかな舞台。

松也が曽我五郎というので期待していたのだけど、ちょっと子どもっぽいというか、優しい印象だったのは、女方が多いせいか(プログラムによると、本人も五郎よりは十郎と思っていたよう)。声はいいし、見栄も決まっていたのだけど、顔かなぁ、なんか可愛らしく見えた。

十郎の壱太郎は、悪くないのだが、顔が小さいので立役にはあまり向かないと思う。勧進帳で演った片岡八郎も烏天狗みたいだったし。

大磯の虎の米吉が美しい。1年前も可愛いと思ったけど、より綺麗になった(…て男の人への褒め言葉なのだろうか)。化粧坂少将の梅丸も可愛くて、これからが楽しみな役者だ。まだ高校1年生だそうな。

工藤祐経は海老蔵。この座組のなかでは年長格だし、貫禄はあるのだけど、他の人が芝居をしている時に退屈そうな顔に見えるのは、いかがなものか。

「極付幡随長兵衛」

海老蔵が長兵衛。江戸の侠客のダンディズムだそうだが、よく似合ってた。格好つけてる様が、本人に重なるのか、もったいつけたようなセリフ回しや尊大な様子がはまってる。

女房お時の孝太郎は、夫を支えるいい女房っぷり。こういうのは上手いなぁ。

敵役の水野十郎左衛門に愛之助。悪い役もいいのだが、この人、悪人というより、卑劣な奴では…?藤見に、と騙して呼び出した(これは長兵衛も気付いていたが)うえに、和解しようと言って油断させ(これも怪しまれているが)、風呂に入れて丸裸にしてから襲いかかるって…。しかも二人掛かり。「殺すには惜しい」とか言いながら、やっぱり殺しちゃうし。ありがちなパターンとしては、長兵衛の漢気に触れて、水野が態度を改めるとかじゃないの??…と思ったのか、幕が降りてからも、続きがあると思って席を立たない人が多かった。

1月2日 新春浅草歌舞伎第2部

「毛谷村」

 愛之助の六郎、壱太郎のお園は美男美女で目に楽しい。上方の役者どうし、これからもコンビで見せてほしい。

愛之助の六郎は、こういう真面目でいい人の二枚目は無理なくはまる。悪役の亀鶴とのバランスもいいし。

壱太郎のお園は、可愛らしく、一所懸命なのは伝わるが、男勝りに立ち回りを演じて急に女らしくなるところのメリハリがちょっと甘いか。こういう、コミカルな役どころには、余裕のようなものがいるのかも。

斧右衛門の海老蔵はいわゆる〝ご馳走〟だけど、妙に似合ってた。

「口上」

正月から海老蔵の〝にらみ〟を見せてもらった。ご利益があるかは知らないけど。「過去の団十郎には及びませんが」というようなことを言っていたのは、ちょっと殊勝になったのか。けど、勧進帳の説明をするときに、初代からの団十郎が創り上げたものを引き継いだと殊更に言いたてるのはどうなの?血のつながりがあるのは、七代目幸四郎からでしょ。

「勧進帳」

愛之助の富樫は、初役とは思われない安定感。どしりと構えて、弁慶らの演技を受け止める度量が感じられた。声も明瞭で説得力がある。惜しむらくは、相手が海老蔵。この演目は、弁慶と富樫の息詰まるやり取りが魅力なのに、その緊張感があまり感じられなかったのが残念。弁慶と富樫が互角に渡り合う、キャッチボールがうまく噛み合ってないような。

海老蔵の弁慶は、俺が俺が、という感じで、周りと調和せず、一人浮き上がって見えた。羽目板を踏み鳴らすのも、やたら煩いし。海老蔵だけを観たいファンにはこういうやり方もアリなのかもしれないが。

以前、弁慶=仁左衛門、富樫=勘三郎、義経=玉三郎で観た勧進帳があまりに素晴らし過ぎたので、これと比べるのは無理があるのだろうけど。

2013年1月3日木曜日

12月9日十二月大歌舞伎 夜の部

「籠釣瓶花街酔醒」

菊之助の八ツ橋が美しい。この話は八橋の圧倒的な美しさがないと成り立たないので、そういう意味では◎。見染めの微笑みは、謎めいて、思わせぶり。玉三郎の、この世のものとは思われない、吸い寄せられるような怪しい魅力があったのとは一味違うが、これはこれで、惹きつけられる。

良かったのは、愛想尽かし。何の罪もない、お得意様を無下にしなくてはならない辛さが、存分に感じられた。思うに、菊之助の八橋はリアルな女なのだ。きっとどこかの遊廓にいたような、いい意味で俗っぽい。

菊五郎の次郎左衛門は、あっさり。一見物足りなくも感じたが、これもある意味リアルなのだろう。顔が白くて、あばたが浮いて見えたのに、ちょっと違和感を感じた。

七越の松也が美し。


「奴道成寺」

三津五郎はやはり、踊りうまいな〜。