「熊谷陣屋」
仁左衛門の熊谷は重厚にして繊細で見応えたっぷり。数珠を手に花道を出てくるときの表情が全てを物語っている。意を決して数珠を袂にしまう仕草に、一人息子を手にかけた苦しみがひしとつたわる。戦地まで押しかけてきた女房を嗜める言葉の裏、真実を隠しつつ藤の局に敦盛の首を打った模様を語る戦語り、息つく暇もないほどの緊張感。「十六年は一昔」の言葉に込められた思いの深さ。花道で笠を被ってうずくまり、立ち上がって歩き出すも笠で両耳をしっかと覆う。深い悲しみ、無念さが強く伝わった。
孝太郎の相模は階段を上るときぴょこぴょこしたり、座って向きを変える時の裾のあしらいがモタモタしたり。壱太郎の藤の局は芝居がくさい。弥陀六の歌六が手堅い。
「口上」
仁左衛門が取りまとめ。途中、名前を言い淀んだり、「立派な八代目に」というべきところ六代目と言い間違えたりもあったが、不足なく。菊五郎は女方をはじめ、岳父播磨屋の当たり役にも挑む、歌舞伎界を支える存在と。菊之助は芸筋がよく、踊りもしっかりしているとベタ褒め。
扇雀、孝太郎、歌六、鴈治郎、弥十郎、錦之助と続く。菊之助が子どもらしくないとか、しっかりしているとか口々にほめそやし、錦之助に至っては、「いずれ『国宝』に」とまで言っていて、プレッシャーにならないかと心配なくらい。
「土蜘蛛」
音羽屋新古演劇十種の一つだが、菊五郎で観たいのはこれではない感じ。
菊之助が侍女胡蝶で、能がかりの舞をしっかりと。ただ、発声はちょっと辛そう。
保昌の弥十郎は大柄な身体が立派で、映える。頼光の時蔵は気品があり、佇まいが美しい。
番卒太郎、次郎、藤内に鴈治郎、扇雀、彦三郎は珍しい組み合わせ。
一般の子役がとてもうまくてびっくりした。太刀持ちはセリフがしっかり。小姓はもっと小さいが、所作がちゃんとしていた。
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