2023年12月24日日曜日

12月24日 貞松浜田バレエ団「くるみ割り人形と秘密の花園」

昨年初演の新制作。
同タイトルの映画があるが、全くの別物らしい。

幼い頃に両親を亡くし、殻に閉じこもっているマリ。1幕は舞台装置や衣装が全てグレーの濃淡で造形され、マリの目に映る色彩のない世界を表す。色彩を持って現れるのは、ドロッセルマイヤーの役どころとなる叔母のドロシーの髪と、幻の両親だけ。
パーティーが終わり、1人残されたマリを黒い鳥が襲い、守護霊との攻防になるのだが、守護霊は全身ベージュのタイツにフリルで覆われたマスクをつけ、全身に血管のような赤い模様が施されていて、不穏な感じ。人間の大きさになったくるみ割り人形がクララを助ける展開はとてもわかりやすい。雪の精は雷鳥に。群舞の人数は少なめだったが、照明が凝っていてガラス細工のような繊細な空間に見応えがあった。(貞松浜田の名物とも言える雪の踊りが見られないのは残念だが)

従来のくるみよりも物語の筋がしっかりしているのがいいと思っていたのだが、2幕になるとスペインやら中国やらの踊りなど、通常のくるみみたいなデヴェルィスマンが始まるのが唐突というか、脈絡なく感じる。 グランパドゥが両親と言うのも不思議な感じだった。

2023年12月22日金曜日

12月22日 能遊び 能劇「天鼓」

「能劇」と題した上演形態は直面、紋付袴のシテ、ワキ、アイに地謡がついた形で、袴能から囃子方を外したもの。弘道館の廊下を端がかりに見立てる演出で、すぐ横で素顔の能楽師が謡い、舞うのをみられるという贅沢さ。宗一郎は緊張のためか詞章が飛んでプロンプつけてもらってたのまで分かってしまった。鞨鼓台の造り物を舞台奥に向けて置き(奥に帝がいる体で)、シテが見物に背中を見せて演じるのも珍しい。

ワキは有松遼一、アイは茂山逸平、地謡は田茂井廣道、松野浩行、河村浩太郎。


2023年12月16日土曜日

12月16日 noism×鼓童「鬼」

「お菊の結婚」

お菊役の井関佐和子の身体表現力が素晴らしい。人形振りがマリオネットのようで手足が無機物のようにカクカクと、だが踊りとしての優美さを保つ。途中、本物の人形と入れ替わるのだが、違和感がないというか、井関の人形らしさがより印象付けられる。(文楽人形のようと評している人があったが、文楽人形はもっと滑らか。むしろ、悲しみの表現でシオルような手振りをするなど、能楽のエッセンスを感じた)
着物風の白いドレスに角隠しは、同時上演の「鬼」と通じる。遊女たちの黒と小紋柄を組み合わせた袖なしのドレスも、着物の雰囲気がありながら踊りやすそうで、飜る裾にニュアンスがある。
お菊や遊女たちが三つ編みなのは、ストラヴィンスキーの「結婚」の歌詞にあるのだが、白無垢に三つ編みは幼さを感じさせて「結婚」がより惨たらしく見える。
ピエールは仲間たちに殺され、お菊自身も自害するラスト。衝撃的な展開だが、後味が悪い。

「鬼」

鼓童の生演奏との共演は、客席にも振動が伝わって没入勘に飲み込まれ、40分が短く感じた。ダンサーと演奏者の間の緊張感や一体感があるからだろう。舞台上手と下手から現れた清音尼(井関)と役行者(山田勇気)がすれ違うところで、カーンと乾いた大鼓のような音が響き、客席に衝撃が走る。その後は緊張感、躍動感に包まれて一気に駆け抜けたよう。
井関は清音尼実は鬼という役どころで、黒衣の尼僧の姿から、全身レオタードで身体のラインを見せつける鬼に変わってからの怪しさ、恐ろしさ。手指や腕、足を不自然な形に捻じ曲げ、表情も野生的な迫力があり、獣らしいというか妖怪らしいというか、言葉が通じない相手という感じ。修行者らが鬼を取り囲み、5人がかりでリフトするところは、それぞれが均等に力を入れなければバランスを崩してしまいそう。
遊女たちの衣装は「お菊」の遊女のものに透ける赤い袖を付けた? 袖が翻る様が美しく、赤色が鬼の恐ろしさを象徴するようで、視覚的にも印象的だった。
役行者以外は皆、着物を脱ぎ、鬼の正体を表すというラスト。

2023年12月10日日曜日

12月10日 文楽鑑賞教室 Bプロ

「団子売」

南都、聖、織栄に友之助、清公、清方。
なんだかすごく楽しい団子売だった。リズムよく、ウキウキした感じで、ノれる。三味線のリズム感がいいのか、太夫の手慣れた感じいいのか。こういうくだけた曲は色々経験値が必要なのかも。
人形は紋秀のお臼と文哉の杵造。

解説は簑太郎。カシラの説明に始まり、女方の三人違いを実演するのはいつも通りだが、いつもよりウケが悪かったような。泣く時は首を震わせるという割にあまり震えて見えないのはこの人のくせなのか。

「傾城恋飛脚」

口は薫・燕二郎。薫は今日が初日だったが、存外落ち着いていてまずまず。  

前は睦・清馗。

後は藤・燕三。
このコンビは珍しいのでは。語りは今ひとつだったが、三味線の一撥が沁みた。 

玉佳の孫右衛門は抑えた動きに情が滲む。梅川との会話から連れ合いが忠兵衛と気づくくだりではことさら動くことなくそっと目元を拭うなど。箕紫郎の忠兵衛、勘彌の梅川も派手ではないけど、じんとくる。 

12月10日 文楽公演

「源平布引滝」

竹生島遊覧の段は小住・団吾。
団吾の三味線はロックのギタリストのように顔を歪めて弾くのはいつも通りだが、今日はどこか窮屈に感じた。音を外に開くのではなく、内に込めるようというか。小住の広がりのある語りと合わなかったせいかも。

九郎助住家の段の中は亘・清丈。 

次は希・勝平。
汗いっぱいかいて、渾身の語りだろうに、客席との間にフィルターが挟まっているかのように、声がくぐもって聞こえる。勝平の三味線のおおらかさが心地よく、つい意識が…。 

前は織・藤蔵。
揚々と自信に満ちた語りだが、久郎助の嘆きがボリュームオーバーというか、それだけで聞いたらそれなりなとのだろうけど、それまでとの落差が大きすぎて唐突な感じがする。

芳穂・錦糸。
声量もあって迫力ある語り。 錦糸の三味線が引き締めていて、聞いて充実感があった。

人形は玉彦の太郎吉がやんちゃな感じで可愛い。清五郎の小まん、玉助の瀬尾。玉志の実盛は体幹が斜めになってる感じで、映らないと思う。

12月10日 文楽鑑賞教室 Aプロ

「団子売」

咲寿、薫、織栄に寛太郎、錦吾、藤之亮。
若い顔ぶれの中で光る寛太郎の安定感。織栄や藤之亮もソロで演奏するパートをもらっていたが、まだぎこちなさが残る。咲寿は楽しそうに声を張り上げ、薫は上の方を伺うように視線を彷徨わせていたのが気になった。フシを思い出そうとしているのか知らんが、床本なり、正面なりを見据えるのがいいのでは。

人形は蓑一郎のお臼に勘市の杵造というベテランコンビ。

解説は亘と清公。裏門の段の一節を使って、若い町娘や姫、若侍、老人などの語り分けを披露。初めての客が多いのか、ウケが良く、いちいち感心していた。亘の語り分けが上手くなったのもあるのか。ただ、姫と傾城を一緒にしたり、梅川を傾城というのは違うと思う。

「傾城恋飛脚 新口村の段」

碩・清允は御簾内。女房の声がはもう少し低いほうが、田舎の人らしいと思う。

靖・清志郎。 忠三女房がちょうどいい感じ。

呂勢・宗助。
流石の安定感。この段は孫右衛門の物語なのだとしみじみ。 

人形は玉勢の忠兵衛がフレッシュな感じ。簑二郎の梅川。
一輔の孫右衛門は珍しい老人の立役。丁寧な動きはいいのだけれど、梅川との会話からつれあいが忠兵衛だと気づくところのはっとする動きはちょっと余計かも。


2023年12月9日土曜日

12月9日 十二月大歌舞伎 第三部

「猩々」

松緑と勘九郎の猩々。2人とも踊り巧者だが、並ぶと勘九郎のほうが滑らかに感じた。 松緑はきっちりと楷書な感じ。酒売りの種之助は陽気でいい。

「天守物語」

七之助の富姫は姫路の平成中村座以来の再演。玉三郎仕込みの台詞回し、所作で泉鏡花の耽美な世界観を描出。玉三郎の亀姫はご馳走だが、ちゃんと妹分に見えるのがすごい。2人が姉妹のように戯れあう姿はうっとりする美しさ、怪しさ。
吉弥の薄、舌長姥の勘九郎が場を引き締める。
残念なのは虎之介の図書之助で、セリフをもっと歌ったらよかったのか。孤高の姫が一目惚れする魅力が今ひとつ感じられない。 

12月9日 新作歌舞伎「流白波燦星」

ルパン3世の歌舞伎化って…と思いの外面白かった。舞台を石川五右衛門の安土桃山期に移し、真柴久吉を絡めて物語を展開。
愛之助のルパンは登場時の「ルパ〜ンさ〜んせ〜い」とアニメさながらの台詞回しで客を掴み、ふーじこちゃーんやら、とっつぁんやらお馴染みのセリフを散りばめて、歌舞伎版のルパンを上手いこと造形。驚きは次元の笑三郎で、拵えといい、低い声といい男くさい次元そのもの。普段の女方とのギャップ、芸域の広さがすごい。峰不二子の笑也は美しいのは想像通りだが、シャープな化粧が役にはまり、花魁道中も魅せる。五右衛門の松也は初め楼門の拵えだったので誰か分からなかったが、着流しになってからはアニメそのもの。ポスター時より髪が短くなり、少しウエーブがかったビジュアルもよき。「つまらんものを切ってしまった」の決め台詞も。 

三人吉三さながらの喧嘩の場面や籠釣瓶の見初め、だんまりの幕切れや本水の立ち回りなど、歌舞伎らしい見せ場がふんだんに盛り込まれ、最後は白浪五人男ばりの名乗りで幕というてんこ盛り。本水に必然性がないとか、ツッコミどころはあるものの、総じて面白かった。音楽も、尺八や横笛、琴など邦楽器で奏でるお馴染みのテーマ曲で盛り上がる。

2023年12月4日月曜日

12月4日 吉例顔見世興行 夜の部

「仮名手本忠臣蔵 祇園一力茶屋の場」

仁左衛門の由良之助は酔ったふりのときはあんなに愛嬌たっぷりなのに、素にもどったとたんキリッと凛々しくなるギャップが鮮やか。タコを食べさせられた時に一瞬悔しさを滲ませることで、最後に九太夫見せる怒りが唐突にならない。
力弥の莟玉は緊張感を絶やさず、本来の力弥はこうあるべしと感じた。敵に見つかるかもしれない緊迫感ある場面なわけで。
孝太郎のお軽はセリフも言い方に何故か玉三郎を感じるところが時々あった。色気のあるいいお軽。平右衛門の芝翫とのやりとりは、にざ玉とは違って、仲のいい兄妹の風情。
赤垣源蔵の進之介、富森助右衛門の隼人、矢間重太郎の染五郎の並びに、年齢差の不思議を感じる。進之介は相変わらず。染五郎は声の調子が悪そう。
松之助の伴内が出てくるとなんかほっこり。仲居に竹之助やら上片の役者たちが多数出ていて、胸熱。

口上は前列に仁左衛門、梅玉に挟まれる形で団十郎、新之助がならび、後ろ2列になって市川家一門20人ほどが並ぶ。仁左衛門は先代12代目の思い出を述べつつ、当代を「勉強熱心」と。色々新しいことをしたり、歌舞伎十八番の復活に取り組んだりはしているが。梅玉も、先代と同い年、娘と当代も同い年で幼い頃から知っていると。昨年11月の歌舞伎座での襲名披露以来、巡業や博多座など全てに付き合っているのだそうな。
最後に睨みで幕なのだが、舞台の前に緋毛氈を敷いたり、刀や三宝を持ってきたりやと何だか大仰。

「助六由縁江戸桜」

壱太郎の揚巻の前に、並び傾城で廣松、玉太郎とともに吉太郎、芝のぶが舞台を彩っているのが嬉しい。吉太郎はツンとした感じに品格があり、芝のぶと並んでも見劣りしないのが立派。吉太郎の道中で肩を貸す男衆が佑次郎だったのも胸熱。
壱太郎の揚巻は美しく、大役を立派に果たしていたが、セリフまわしは白玉の児太郎の方がしっくりきた。揚巻付きの振袖新造に千次郎が珍しい。
団十郎之助六は、肩の力が抜けた様子がいいのか悪いのか。顔立ちやセリフが12代目に時々重なったのはいいのか?隈取のラインを細くしていて、顔も痩せた感じだったので、優男みたい。