2013年8月11日日曜日

8月10日 三谷文楽「其礼成心中」

映像では一度見ていたので、ストーリーは知っていたのだが、生で見聞きするとより面白い。

いつもの文楽より、人形がフィーチャーされている感じ。出語り床はなくて、大夫&三味線さんは舞台正面の高いところにいるので、一歩引いたように見える。映像でみたよりは低く感じたけど、いつもより裏方さんぽいというか。

呂勢大夫、千歳大夫という、美声の二人なので、聞き応え十分。二人でほとんどの場を語るので、大変そう。冒頭、呂勢大夫の声がかすれ気味(それはそれで味があって良かったのだが)にかんじたのは、疲れから?

人形がコミカルな動きで笑わせる。特に、娘役。お前みたいな不器量な娘に惚れる男がいるのか、とか、心中は美男美女がするもんだと言われて悶絶するところなんて、可愛らしくて可笑しくて。

カーテンコールで、大夫さんや三味線さんたちが手を振ってくれた。普段の文楽じゃあ見られない光景で得した気分。呂勢大夫の照れたような笑顔が素敵。

8月10日 ABKAI

「蛇柳」
歌舞伎十八番の一つとのことだが、過去に途絶えてしまっているので実質的には新作。松羽目物の舞踊仕立てで、土蜘蛛や船弁慶を彷彿とさせる構成。

ユニークなのは、背景が松ではなくて柳になっていて、途中、蛇に化身するところで木の幹が蛇に変わるところ。蛇の手下どもの動きがショッカーぽいというが、変な手つき。動きがややぎこちなく、学芸会みたいに練れていない感じ。

海老蔵は、登場したときの優男のときからクネクネしてて、キモチワルイ。蛇を意識しての演技なのかどうかはしらないが、私には体の芯が通ってなくて、踊りの基本がなってないように見えた。声も、海老蔵が高貴な二枚目を演るときにする、浮ついたぼんやりした喋り方。バカにされているようでイラっとする。
蛇に変じてからは、カーッと目を剥いたり、見栄をしたり、荒事らしい動きを連発。結構早い段階で、お面を被った代役に替わったので、どうするのかと思っていたら、最後、客席から、荒武者のような格好で登場し(暫?)、蛇退治に参加。あまりに唐突なので、この人は何?と呆気にとられたまま幕。普通、愛之助演じるところの高僧に成敗されて終わると思うのだが、突然現れた、誰ともわからない人にいいところを持っていかれた感じで、印象が散漫になった。ヒーローも悪役も、全部一人でやらないと気が済まないのだろうか。ゲストの扱いがあまりにぞんざい。

「はなさかじいさん」

本題は「疾風如白狗怒涛之花咲翁物語。」 (はやてのごときしろいぬ どとうのはなさきおきなのものがたり)というそうな。長くてとても覚えられない。タイトルに「。」がついているのが、正式らしい。どんな意図で?

新作なのはいいとして、なぜ花咲じいさん?演者はみな若手なのに、あえて老け役をやる意味がわかんない。花咲じいさんをモチーフにしたとしても、主人公を若くしてしまうという手もあったのでは。愛之助は人のいい老人を好演していたけど、海老蔵のは髪が白いだけで、老人らしさはなかったし。

海老蔵はこの演目でも、悪い爺さん(得松)、犬、殿様と三役をこなしていたが、一番よかったのは、悪い爺さん。爺さんというよりは、昔やんちゃした中年のスケベ親父といった感じだけど。動物を虐待するところとか、いい婆(セツ)の吉弥を口説くところとか、しょうもない悪党ぶりが板に付いている。

話は全体的に子ども向けの感じ。いきなり童謡を歌い出したり、意味もなく一寸法師が出てきたり、子どもに見せようとして作ったものならいいが、主に大人の観客に見せるには幼稚すぎないか?人が自然に手を加えて灌漑を行ったために川が氾濫して田畑が流されてしまっただの、かけがえのない綺麗な水を守ろうだの、妙に説教くさいのも、私としてはマイナス。

いい爺さん、正造の愛之助と吉弥は仲睦まじい老夫婦を好演。でも、この役が老人である必要かあるのか? 中年夫婦とか、もっと若い設定でも問題はなさそう。

子役の市川福太郎が狂言回し・悪い爺さんを刺す虫の役で、可愛らしく、達者な演技。団十郎の部屋子だそうだが、海老蔵のもとで、ちゃんと育ててもらえるのかしら。

8月10日 坂東竹三郎の会

傘寿記念というが、まだまだお元気で若々しい。文楽劇場がこれまで見たことないような人の入りで、熱気があった。

「夏姿女団七」

「夏祭浪花鑑」のパロディーで、主人公お梶を猿之助。義平次婆おとらは舅ではなくて継母になっていて、竹三郎 。琴浦(千寿)を大名の姫君と偽って連れ去ろうとしたのがバレて開き直るところとか、お梶をいびるところとか、ノリノリで演じている感じで、見ているこちらの気分も盛り上がる。
居直って打ち掛けを捲り上げたり、啖呵を切るところなど、弁天小僧のパロディーと思わせるところがあったり。

殺しの場は、「夏祭」と同じ展開なのだが、おとらが殺されるほど憎らしくは見えなかったのは女だからなのか。お梶が刀を抜いてつい切ってしまうというのも、ちょっと不自然というか。

琴浦&清七(隼人)の出番が多かったのと、三婦(男女蔵)の出番が少なかったのが、元の夏祭と違うところ。男女蔵の三婦ははまり役、もうちっとみたかったな。

一寸お辰の壱太郎、芸者の役で年増っぽいメイクのためか顔色悪そうに見えて、猿之助よりも不細工に見えてしまった。赤っぽいお姫様のほうが似合うのね。


「東海道四谷怪談」

仁左衛門の伊右衛門が素晴らしい。低く凄みのある声、悪いのにゾクゾクするような色気があって、目が離せない。女を川に蹴り落とす姿も格好いいなんて。頑張ってチケットとった甲斐がありました(涙)

お梅の隼人と並んでも、ちゃんとカップルに見えるのがすごい。孫のような年齢差なのに。

伊藤家で、お梅と夫婦になるように説得されるとき、最初はきっぱりと断って、お岩への愛情があることを感じさせる。面体変わる薬を盛られて、後戻りできないことが分かってから、気持ちが変わるのでないと、はじめっからなんでお岩を呼び戻したのかわからなくなってしまう。

竹三郎のお岩は、過剰なところのない、淡々とした演技だけど、それだけに、健気さとか、哀しさが伝わる。髪梳きも、伊右衛門を怨んで怖いというより、可哀想な感じ。菊之助のときのように、背筋がゾーっとというのではなかったけど、じわじわくる怖さ。

お梅の母、お弓の千寿。琴浦のときの初々しさと打って変わって、落ち着いた後家ぶりで好演。
千寿のほか、伊藤喜兵衛の松之介(女団七では大鳥佐賀右衛門)など、松島屋一門の人たちが活躍してたのもうれしかった。

2013年8月5日月曜日

8月4日 夏休み文楽特別講演 第2部

「妹背山婦女庭訓」

道行恋苧環はお三輪の呂勢大夫、求馬の咲甫太夫、橘姫の芳穂太夫…と大人数。だが、呂勢大夫の声はビン、と響く。ユニゾンでも一人の声が一歩前に出ているように感じられた。で、勘十郎のお三輪がいじらしくて、かわいらしくて。

前段がなくてよく解らないのだが、求馬はどう思ってお三輪に手をだしたのか。追っかけちゃうくらいだから、橘姫には気があるのだろうけど、お三輪は最初っから血のためだったとしたら、かわいそうすぎる。

鱶七上使の段、津駒大夫の熱演はよかったのだが、三味線の鶴沢寛治がちょっと、力弱く感じた。冒頭からちょっとテンポが遅いというか、音程がぼんやりしているというか、座っている姿から気力が感じられなくてちょっと心配。夏バテ?

最後、金殿の段の切を咲太夫。官女にいじめられ、復讐に身を焦がしたり、あげくは殺されちゃったりと、お三輪の感情の変化が巧みで聴きごたえ十分。

2013年8月4日日曜日

7月28日 夏休み文楽特別公演 第3部

「夏祭浪花鑑」

間か開いてしまったので、大分記憶が曖昧だが。

釣船三婦内の段の切を住太夫。特にどこというのではないが、以前のような迫力がなかったような…。この暑さの中、毎日舞台に上がってくれているだけで、ありがたいのだけど。

お辰が顔に傷を付けてから「ウチの人が惚れたのはここ(顔)じゃありません」ってセリフ、楽しみにしていたのになくて拍子抜け。歌舞伎では見せ場なのだけど、独自の演出だったのね。

アトの希太夫、すっごい大きな声でびっくり。

長町裏の段は千歳太夫の団七。松香太夫の義平次、憎々しげでよかった。冒頭、咳き込んでしまって、急遽千歳太夫が代わりに語るなんてシーンがあって、びっくり。2人で舞台に上がってたからよかったものの、1人だったらどうするのだろう。

三婦を遣った文壽、形が生きているように自然な動きで驚いた。