「東海道四谷怪談」
初役の菊之助のお岩が、鬼気迫る演技。伊右衛門や伊藤親子の企みを知って、恨みに堕ちていくところなど、背筋がゾッとした。いままで観た「四谷怪談」のなかで一番怖かった。過去に観たものは、一番怖いはずのシーンで笑いが起きてしまうことがよくあったのだけど、怪談はちゃんと怖がりたい。
血の道の妙薬と偽られた薬を、ありがたがって呑むところ。紙包みを開いて掌に粉薬を載せて口に運び、掌に残った薬を湯呑の中に払い落とし、さらに、包紙に僅かに残った分もはたき落として、湯呑みを回して溶かしてから、押し頂くように飲み干す…という手順は、亡き勘三郎が得意としていたやり方と同じようなのだか、くどいとは思わなかった。手順は同じでも、淡々としていたのがよかったのか。
自分の顔が醜く崩れてしまったことを知るのは、以前観たものは、伊藤家に挨拶に行こうとして、身繕いのために鏡を見て…だったと思うのだか、今回は宅悦に「顔か変わった」と聞かされてから。髪を梳いてごっそり抜けるのはおなじだったが、血が滴ることはないなど、よく見る型とは違うところも。音羽屋の型なんだろうか。
伊右衛門は染五郎。登場時から酷い悪人ぶりで、こんな男に関わったら怨みもするよなあ、と納得。ただ、色悪の「色」の部分はあまり感じられず。お梅がなんであんなに恋い焦がれてしまうのか、よくわからない。
松緑の直助。台詞回しがぎこちなく感じた。テンポが悪いのか、たまに突っかえるようなところもあった気がする。痩せたのか、顔が小さくなっていたのに驚いた。シュッとしすぎていたので、小悪党にそぐわなかったのかも。
お袖の梅枝、与茂七と地獄で思いがけず再開し、文句を言いあったり、仲直りしてジャラジャラしたりするのが可愛らしい。
お梅の右近は、声は可憐でいいのだか、顔つきや所作がたまにゴツくなるのが惜しい。そんなに重たい役ではないと思うのだが、冷静に考えればこの悲劇の大元はこの娘のワガママなんだよな〜と思うと複雑。蜷川幸男の映画で森下愛子が演じたエキセントリックなほどに、とは言わないまでも、もうちょっとこの娘の罪深さにフォーカスしてもいいのでは。
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