2015年2月28日土曜日

2月某日 ボーカロイドオペラ葵上with文楽人形

能などの葵上をボカロにアレンジしたのかと思いきや、登場人物の名を借りての全くの新作。舞台も現代だし。文楽人形のかしらは時代がかっているのに、中途半端な衣装に違和感を覚える。着物ではないけれど、洋服とも言い難い、民族衣装のようなのだが、人形に似合っていない。携帯電話とかPCとか、今っぽいアイテムが出てくるのも変な感じ。

ボカロの歌(?)をちゃんと聞くのは初めてだったので、不思議な感覚。声のような、シンセサイザーのような、独特のグルーブ感は面白い。セリフが歌詞になっているのだが、ところどころ説明的にすぎるのが稚拙に感じた。途中まで、私には合わない世界だなあと思っていたのだけれど、クライマックスの、アオイがミドリに憑依されて、炎に包まれるシーンでは作品の世界に引き込まれた。何なんだろう、あの不思議な感覚は。

パンフレットにもあったように、作りものの歌姫であるボカロと、魂のない人形に命を吹き込む文楽人形というのはたぶん、相性がいいのだろう。ただ、衣装や顔立ち、物語りの設定(現代ではなく、過去にするとか)には改善の余地ありと見た。

2015年2月22日日曜日

2月22日 システィーナ歌舞伎 「ユリシーズ」

ユリシーズで歌舞伎?どんな話になるのかと思ったら、百合若大臣にオデュッセイアの風味をちょこっとまぶした感じで設定に無理はなかったのだが…。

冒頭、海の女神カリュプソの大和悠河と女性ダンサーズの踊り。大和の栗色の巻き毛にブルーのドレスはよく似合って美しいのだけど、なんだかしっくりこない。脚の付け根が見えそうなくらいの深いスリットなのに、セクシーというよりはしたないと感じてしまった。スカートから覗く脚が筋肉質なこととか、足捌きや身のこなしに女性らしいつつましやかさや柔らかさがないせいか。(男役としてなら多分、キビキビした動作になるのだろう)

場面変わって、和の国の朝廷?蒙古討伐を命じられる百合若(愛之助)は、勝利の暁には立花姫(大和)と娶せるとの約束をえる。一目会って恋に落ちる二人。この大和が意外にもよかった。宝塚って基本洋物なので、和物は不得手かと思っていたのだけど、小さい顔に平安風の長い黒髪が似合って、言葉少なに恥じらう様子が可憐なお姫様の風情。対する愛之助は特別良くもないけど、歌舞伎の二枚目らしく、似合いの二人。

戦闘の場面は、キックボードを使ったり、ターレ(!?)を使ったりと工夫してて面白い。蒙古軍大将の海龍王は張春祥。京劇の役者だそうで、日本語がカタコトで少々聞き辛かったけど、まあ、異国の敵なのだし。立ち回りで、長刀を振り回すところなど迫力があった。あと、京劇風の効果音が効いてた。

物語は、百合若を快く思わない家来の別府兄弟が百合若を取り残して帰国。討ち死にしたと嘘をついて、領地を横取りする。

一方、百合若はタコの妖精(愛一郎)に連れられて竜宮城というか、カリュプソの元へ。酒を飲んだり、ダンスをしたりして楽しく過ごす。カリュプソは昔愛したオデュッセイアに似ている百合若を気に入り、ここに留まれば永遠の命と若さを与えるというが、国に残した立花姫が気にかかる百合若は帰るという。カリュプソは意外にもあっさり百合若を解放し、土産に玉手箱を持たせる。(最後まで見てから思うに、このくだり必要か?大和に西洋風のダンスをさせるために作ったのか?)

数年後、百合若の消息を訪ねて秀虎が島にやってくる。百合若には島で出会った鷹姫(吉弥)との間に子までいなしているが、鷹姫は実は鷹の精。国へ帰る百合若と別れるため、鷹の姿に戻る。母と別れたくないと泣く子との別れは、葛の葉風。吉弥の見せ場で泣かせる。

百合若が国に戻ると、立花姫と別府雲足の婚礼の支度で慌ただしい。百合若と見破られないよう、玉手箱を開け、老人の姿になって侵入(…ってこくだり、なくても成立できるよね?)

結婚の祝いの席で、雲足は家来たちに百合若が使っていた弓を引けたら褒美を、というが重くて誰も扱えない。現れた老人(=百合若)にやらせてみると、見事に弓を引き、褒美に立花姫と雲足の首を要求。慌てる雲足らに、百合若は正体を現して立ち回りへ…。とここまではいいのだよ。ヒーローがヒロインを奪還してめでたしというのはよくある話だし、けどこれは…。

雲足に無理やり腕を引かれて現れる立花姫。なぜウエディングドレス?しも超ミニのフリルたっぷり。大和のシャープな容姿には、もっと似あう衣装があるのではない?
と思えば、エンジン音を響かせて、バイクに跨った百合若が革ジャン&ジーンズで登場し、姫を乗せて逃げる。(えええっっっ、、、「卒業」か?)

ラスト、再びバイクに乗って舞台に上がった二人。ハッピーエンドで愛の歌をデュエットするのだけど、二人の愛のレジェンドとか「もう笑うしかなかった。(正直、バイクで出てきたあたりからずっと笑いっぱなしだった。もはやギャグとしか思えない)愛之助の歌声は、低音の響きがよくて、いいなあと思ったけど、曲と歌詞が宝塚調なのが私には無理。踊りも、リフトとか頑張ってたけど、所詮付け焼き刃というか、身長差のせいもあるのか全然素敵じゃない。キメのポーズが、大和が愛之助の肩にもたれかかりながら左足を曲げ、右足を横に流すというワンパターンだったのも興ざめ。足元はワザとらしいくらいのペタンコ靴だし。

ミケランジェロの天井画に囲まれた会場は素敵だし、四方から音に包まれるような音響もよかったのに(波の音など、海の中にいるような気分になった)、最後のシーン、記憶から抹消してしまいたい。

帰宅して三津五郎の訃報を知る。勘三郎が早逝したぶん、三津五郎には長生きしてほしかった。

2015年2月12日木曜日

2月8日 二月大歌舞伎 昼の部

「嫗山姥」

なんだかシュールな話だ。父の敵討ちをし損ねた坂田時行(門之助)が自らの腹を突き、八重桐(扇雀)の腹に宿って生まれ変わり、敵を滅ぼす?⁇八重桐は最後、鬼女になって悪者を蹴散らすとか、ぶっ飛んだ展開にぽかーんとして終わった。

見せ場はその前のしゃべりなのに、もうそれどころじゃないかんじ。


「京人形」

松緑の甚五郎に壱太郎の京人形。京人形がとにかく可愛い。松緑は踊り上手なのだが、イマイチ華やかさが感じられないのはなぜだろう。


「口上」

今月は梅玉が披露役。みなさん卒なく、あまり面白い発言はなかったかな。


「傾城反魂香」

鴈治郎の又平に猿之助のおとく。二人ともはまっていて、とてもよかった。鴈治郎の又平はこれまで観た中で、一番だったかも。どもりが嫌味でなく、情けなさがちょっとユーモラスで。猿之助はこういう世話女房が上手くて、よく似合う。

壱太郎の修理之助は爽やか。

竹三郎の将監北の方。これまで観たものでは印象の薄い役だったけど、又平夫婦への慈愛が感じられてよかった。

2015年2月3日火曜日

2月1日 忠信三変化

能、文楽、落語で佐藤忠信に因んだ物語りを見比べるという企画。同じ人物がここまで変わるとは。講談師の旭堂南による解説もあって分かりやすく、面白かった。

まず、歴史上の忠信というか、「義経記」に描かれる佐藤忠信は、義経が吉野山から逃げのびる際、何もせずに逃げては武士の名折れと志願して1人残り、追手と戦った後、自害したと見せかけて義経一行に合流する。たった一人で何人もの働きをする超人的な人物。

一方、能の「忠信」は、義経の元に付き従っていたいと願っていたのに、周囲に押されて一人残って戦うことになる。追手と戦い、抜け道から逃げのびるという筋。

能楽師の山本章弘が忠信。能の抑えた動きながら、立ち回りが結構派手で面白い。刀を合わせたり、討たれた敵が後ろ向きにばったり倒れたり。

文楽は「義経千本桜」の「河連法眼館 狐忠信の段」の抜粋。忠信の超人性から、これは人間ではなく狐の化けたものという設定で物語りが進む。

上演したのは、狐忠信が本物の忠信ではなく、狐であると露見してから。千歳大夫、宗助の床に、人形は玉佳。能舞台での上演だったので、主遣いが下駄を履けなくて、少々演じづらそう。狐に変化するところも丸見えだったし。途中、仰向けになって手足をバタバタするのはどういう意味だったのだろうか。

落語の「猫の忠信」は、化け猫の話。二親を三味線の皮にされてしまった子猫が親に会いたさに化けて、浄瑠璃のお師匠さんの家に入り込むという。演者は桂宗助。落語なのに、なんだかテンポが悪いというか、繰り返しがくどく感じて、いまいち楽しめず。他の落語家さんだったら楽しめるのか、はてまた、演目自体への相性が悪いのか。