ユリシーズで歌舞伎?どんな話になるのかと思ったら、百合若大臣にオデュッセイアの風味をちょこっとまぶした感じで設定に無理はなかったのだが…。
冒頭、海の女神カリュプソの大和悠河と女性ダンサーズの踊り。大和の栗色の巻き毛にブルーのドレスはよく似合って美しいのだけど、なんだかしっくりこない。脚の付け根が見えそうなくらいの深いスリットなのに、セクシーというよりはしたないと感じてしまった。スカートから覗く脚が筋肉質なこととか、足捌きや身のこなしに女性らしいつつましやかさや柔らかさがないせいか。(男役としてなら多分、キビキビした動作になるのだろう)
場面変わって、和の国の朝廷?蒙古討伐を命じられる百合若(愛之助)は、勝利の暁には立花姫(大和)と娶せるとの約束をえる。一目会って恋に落ちる二人。この大和が意外にもよかった。宝塚って基本洋物なので、和物は不得手かと思っていたのだけど、小さい顔に平安風の長い黒髪が似合って、言葉少なに恥じらう様子が可憐なお姫様の風情。対する愛之助は特別良くもないけど、歌舞伎の二枚目らしく、似合いの二人。
戦闘の場面は、キックボードを使ったり、ターレ(!?)を使ったりと工夫してて面白い。蒙古軍大将の海龍王は張春祥。京劇の役者だそうで、日本語がカタコトで少々聞き辛かったけど、まあ、異国の敵なのだし。立ち回りで、長刀を振り回すところなど迫力があった。あと、京劇風の効果音が効いてた。
物語は、百合若を快く思わない家来の別府兄弟が百合若を取り残して帰国。討ち死にしたと嘘をついて、領地を横取りする。
一方、百合若はタコの妖精(愛一郎)に連れられて竜宮城というか、カリュプソの元へ。酒を飲んだり、ダンスをしたりして楽しく過ごす。カリュプソは昔愛したオデュッセイアに似ている百合若を気に入り、ここに留まれば永遠の命と若さを与えるというが、国に残した立花姫が気にかかる百合若は帰るという。カリュプソは意外にもあっさり百合若を解放し、土産に玉手箱を持たせる。(最後まで見てから思うに、このくだり必要か?大和に西洋風のダンスをさせるために作ったのか?)
数年後、百合若の消息を訪ねて秀虎が島にやってくる。百合若には島で出会った鷹姫(吉弥)との間に子までいなしているが、鷹姫は実は鷹の精。国へ帰る百合若と別れるため、鷹の姿に戻る。母と別れたくないと泣く子との別れは、葛の葉風。吉弥の見せ場で泣かせる。
百合若が国に戻ると、立花姫と別府雲足の婚礼の支度で慌ただしい。百合若と見破られないよう、玉手箱を開け、老人の姿になって侵入(…ってこくだり、なくても成立できるよね?)
結婚の祝いの席で、雲足は家来たちに百合若が使っていた弓を引けたら褒美を、というが重くて誰も扱えない。現れた老人(=百合若)にやらせてみると、見事に弓を引き、褒美に立花姫と雲足の首を要求。慌てる雲足らに、百合若は正体を現して立ち回りへ…。とここまではいいのだよ。ヒーローがヒロインを奪還してめでたしというのはよくある話だし、けどこれは…。
雲足に無理やり腕を引かれて現れる立花姫。なぜウエディングドレス?しも超ミニのフリルたっぷり。大和のシャープな容姿には、もっと似あう衣装があるのではない?
と思えば、エンジン音を響かせて、バイクに跨った百合若が革ジャン&ジーンズで登場し、姫を乗せて逃げる。(えええっっっ、、、「卒業」か?)
ラスト、再びバイクに乗って舞台に上がった二人。ハッピーエンドで愛の歌をデュエットするのだけど、二人の愛のレジェンドとか「もう笑うしかなかった。(正直、バイクで出てきたあたりからずっと笑いっぱなしだった。もはやギャグとしか思えない)愛之助の歌声は、低音の響きがよくて、いいなあと思ったけど、曲と歌詞が宝塚調なのが私には無理。踊りも、リフトとか頑張ってたけど、所詮付け焼き刃というか、身長差のせいもあるのか全然素敵じゃない。キメのポーズが、大和が愛之助の肩にもたれかかりながら左足を曲げ、右足を横に流すというワンパターンだったのも興ざめ。足元はワザとらしいくらいのペタンコ靴だし。
ミケランジェロの天井画に囲まれた会場は素敵だし、四方から音に包まれるような音響もよかったのに(波の音など、海の中にいるような気分になった)、最後のシーン、記憶から抹消してしまいたい。
帰宅して三津五郎の訃報を知る。勘三郎が早逝したぶん、三津五郎には長生きしてほしかった。