「仮名手本忠臣蔵」
仁左衛門の勘平、時蔵のお軽という、美男美女で、面白くなかろうはずがない。仁左衛門は病み上がりなのが気がかりだったのだか、魅せられた。まあ、ちょっとやつれて声のハリが弱かったような気もするが。
七列目の真ん中という良席ではあったのだが、役者さんがすごく近くに見えて得した気分。南座が小振りの劇場だからか、ついこの間、文楽をみたばかりで、人形の大きさに慣れてたせいか。
5~6段目は何度か観てるけど、今回は文楽との違いも興味深かった。
文楽の斧定九郎はペラペラとよく喋るのだか、歌舞伎は無言で殺して金を奪い、「五十両」と言うだけ。歌舞伎のほうが、得体のしれない恐ろしさがあるし、役者の所作が映えて、格好良くもある。
勘平も、誤って舅を殺してしまった…と葛藤する様が、文楽よりも丁寧に描写されている感じ。文楽の勘平は、何とか誤魔化してしまおうとしているように見えて、同情できないのだが(というか、ちょっとは反省しろ、突っ込みを入れたくなる)、歌舞伎の勘平は、言い出すべきか、黙ってお軽を送り出すべきかという苦悩が伝わってきて(仁左衛門の好演のおかげもあろうが)共感できた。
お軽が籠に乗せられて連れて行かれるところも、文楽はあっさりい行かせてしまうが、歌舞伎の勘平はいったん呼び止め、ひしと抱き合う。美男美女のラブシーンにドキドキ。
ラストは、歌舞伎では勘平が事切れて幕だが、文楽は後に残されたおかやの途方に暮れる様まで描かれる。
比べてどちらが、というのではなく、どちらも面白い。同じ話でも、表現方法が変わると、違う側面が見えてくるということ。
今回は顔見世だけあって、豪華な顔ぶれ。定九郎の橋之助は悪い男の色気があったし、愛之助の千崎弥五郎も安定感があってよし。竹三郎のおかやも上手くて、泣かされた。
「口上」
勘三郎か休演なので、藤十郎が仕切り役だったのだが、なかなか言葉が出てこなくてハラハラ。まさか、襲名する人の名前を忘れてしまったのでは⁈というくらい、沈黙が続いたので、客席に妙な緊張感が走ってた。
内容を覚えているだけでも。
我當「親戚としてうれしい。父親に負けないいい役者になって」
時蔵「勘三郎とは同じ年で子どものころから何度も共演している」
愛之助「公私ともに仲のいい、勘九郎の襲名に出演できて嬉しい」
左団次「襲名の挨拶に自宅を訪ねてくれた時、どういう訳か会えないことが続いた。こんなおじさんは嫌いだと思っていたら襲名公演に呼んでくれなかった」
団十郎「中村屋とは初代団十郎が中村座に出演して以来の縁と聞いている(←誰に?)。前の勘九郎と違って新勘九郎は真面目。だが、一度恵比寿で一人暮らしをしていたと海老蔵に聞いた。詳しいことは割愛するが」
仁左衛門「勘三郎とは兄弟のように仲がいい。勘九郎のことは子どものころからよく知っていて、『ウルトラマンのおじちゃん』と懐いてくれた」
「船弁慶」
踊り上手の勘九郎の襲名らしい演目。後半の知盛の亡霊になってからはいいのだが、前半の静御前はちとキツいか。2月の「土蜘」といい、異形のものの踊りが多いような…。
団十郎の弁慶、藤十郎の義経と、襲名披露ならではの顔ぶれ。舟子浪蔵の七之助が嬉しそうに演じていたのが微笑ましかった。
「関取千両幟」
翫雀の稲川、橋之助の鉄ヶ嶽、女房おとわに孝太郎。気だてのいい女房役はうまいなあ。
ただし、亭主が女郎を身請けする金を工面するために、女房が売られていくっていう話には全く共感できん。
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