2012年5月21日月曜日

5月20日 五月花形歌舞伎 夜の部

「椿説弓張月」

三島歌舞伎の代表作なのに、上演回数が少ないのが不思議。大がかりなセットや仕掛けも楽しいし、凄惨な殺しのシーンなど、見せ場も多くて面白いのになあ。歌舞伎の様式を踏襲しつつも、新しい演出などあって、見ごたえ十分だった。

主人公の源為朝は染五郎。こういう、正義の人の役ははまっていていい。要所要所で型を決めて、歌舞伎らしい見せ場を作る。声もよく通っていたし。なんか、もっと頭でっかちな感じかと危惧していたのだけど、杞憂だった。

愛之助は第一の家来の高間太郎。立ちまわりなどはそつなく、という感じだが、最期のシーンが!腹を切って血しぶきが飛び散るなか(蜷川か?)、大波に呑まれて消えてしまうという。女房の磯萩役が福助で、油地獄に続いての共演。

七之助が白縫姫。この役は、玉三郎が若いころの当たり役だそうだけど、確かに誰にでもできる役ではなさそう。裏切り者の武藤太(=薪車)をお付きの女たちになぶり殺しにさせるのだが、「すぐに殺さず、時間をかけて苦しめろ」とか、きれいな顔をして凄いこと言うのだ。で、体中にくぎを打たれてのたうちまわる様を、琴を奏でて歌を口ずさみながら、顔色一つ変えずに見ている。

薪者は、白褌一枚になって、体中から血を流しながら惨殺される。ある意味、美味しい役?三島の趣味丸出しという感じもするけど、体格がいいので見栄えがいい。

注目の松屋は鶴亀兄弟の弟役なのだが、後段、夫婦に化けて敵の阿公の宿に潜入するところの女形がよかった。つい、男の地声が出てしまうところと、女の声色ががらりと変わるところとか。

5月19日 五月花形歌舞伎 昼の部

「西郷と豚姫」

仲居お玉をかん雀。不細工なんだけど、いじらしく、かわいい女を好演。女形をすると、藤十郎ににてるなあ…。西郷を一途に想いつつも、妻にはなれない哀しさは分かるのだが、何で死んでしまいたいのだろう。揚屋の舞妓や芸妓には慕われているし、西郷も憎からず思っているようだし。一番の馴染み客と仲居という立場で、西郷を陰でささえるだけでは不満なんだろうか?

獅童の西郷は、薩摩弁と低く太い声音がちょっとコントみたい。お玉と抱き合って涙にくれる、感動のシーンで笑いが起きてしまったのは、多分そのせい。心中しよう、とまで言っておきながら、出世の道が開けたとたん、「なかったことに」ってのはヒドイ。

松也は芸妓の岸野という、普通ならもうちょいベテランがやりそうな役だったのだけど、悪くなかったのでは。何より美人だし(←女形としてこれ大事)酔っ払いも難しそうだし、何年も揚屋勤めをしてこその、年増の悲哀というか、酸いも甘いもかきわけた上で、でも、愚痴らずにいられないのよ、って風情が感じられた。


「紅葉狩」

福助の更科姫&鬼女。踊りはともかく、姫が美しく見えないのはいかがなものか。2列目だったせいか、小じわとかきになっちゃって。

愛之助の山神は、踊り上手くなった?動きが滑らかで、キレイ。


「女殺油地獄」

予想していたより、断然よかった。若手の(これまで見たのは、獅童と海老蔵)のなかでは一番だし、ある意味、仁左衛門さんより、いいかも。
教えてもらったであろう演目は、ともすると愛之助の演技の後ろに仁左衛門さんが透けて見えるような気がするというか、お手本を消化しきれてなくて、差の部分が気になるのだか、この与兵衛に関しては、「愛之助の演技」を楽しめた。まあ、思慮に欠ける若者(ばかもの)が暴走する話だから、若い役者のほうが分があるというのもあるのでしょう。
仲間内で意気がってる様子とか、河内屋でのふてくされた様も、リアリティがあってよかったが、何より殺しの場面が美しかった。あんな、非人道的な行為に美を感じさせる歌舞伎って、奥深いなあ。

福助のお吉も、想像以上。世話焼きの近所のお姉さんぶりに説得力があり、こんなに優しくされたら、追い込まれた与兵衛は頼りにしちゃうよなあ。殺しの場面で「痛い」とか「助けて」とか、しゃべり通しでちょっとうるさい。

油については、「いつもより沢山撒いてます」って感じ?わざと全身まみれにしてるのではないか、ってくらい油の中をのたうちまわって、髪の毛がぐっしょり濡れて滴るくらい油まみれになっていた。最後、与兵衛が花道を引っ込むところで、物音にびくついて振り返りるとき、勢いよく動くので油が客席に飛び散って(結構遠くまで)思わず悲鳴が。シリアスなシーンなので、こういう余計な演出はいらないと思う。楽しい芝居なら、客席が盛り上がるということもあるだろうけど…。

秀太郎のおさわ、歌六の徳兵衛は予想通りの素晴らしい演技。とくにおさわが、大げさでない、何気ないしぐさのなかに心情があふれていて、胸に迫った。